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ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
3月

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第44話:増える味方_3


 「もうシオちゃんが探偵じゃん」

「今なら尾行もできちゃうかも」

「ドラマや映画だとシレっとやってるけどさ、あれって難易度高いよね?」

「高い! あ、でも、こっちは顔知ってるけど、相手はこっちの顔知らないならいけるかも? ホラ、今の砂苗ちゃんみたいに」

「それはそうだね。じゃあ私、尾行できる確率高いってことじゃん。……そのときが来たら、絶対頑張るからね!?」

「あははっ、ありがと!」


 これが冗談だったとしても、嬉しくて思わず笑ってしまう。……相手が激高する可能性を考えたら、尾行なんてするもんじゃない。怒った相手になにをされるかわかったものではないから。ただ少し、五百蔵さんの見せてくれた調査結果のことを考えたら、不謹慎なのは理解していても興味と好奇心が勝ってしまいそうだった。


「……今日はランチ誘ってくれてありがとね。話してスッキリしたうえに、ちょっと心が癒された気がしてる」

「それなら誘ってよかった! やっぱり、仕事が夫婦で休みなら、出かけたりもするかな? って思ってたから。邪魔しちゃ悪いなって」

「一ミリも邪魔じゃないよ! もうね、本当に家にいないの! 勝手にどっか行っちゃって、連絡もなしにふらっと知らないうちに帰ってきて」

「私がそれやったらめちゃくちゃ夫に詰められちゃうよ……」

「私も怒られると思うよ? 『社会人なら報連相ちゃんとしろ!』とか『質問にはキチンと返すのが当たり前』とか。自分は絶対しないのにね。ナニサマなの!? って感じ」

「うちもそうだよう……」

「お互い大変だよねほんと……」

「今の話聞いてたら、私もちゃんとしなきゃって思っちゃった……。仕事、やっぱり前向きに考える!」

「それが良いよ! お金は必要だし、この先のことを考えたら、なにかしら稼ぐ手段はあったほうが良いって」

「そうだよね! もし補助がもらえなくなったら、今の夫の給与で生活って厳しい以外なにものでもないし、動けるときに動いておかないと、だよね」

「なんならさ、前の職場に『離婚考えているので、パートから職場復帰したいんです』って言ったら、即復帰させてくれそうじゃない? 私、砂苗ちゃんの仕事のこと良くわかってないけど、人手足りないなら経験者ってすごくありがたいと思うし。しかもそれが元社員なんでしょ? お互い勝手もわかってるし、心配も少ないよね」

「……よし! 私、明日になったら会社の人に連絡入れてみる! ……実は、上層部でひとり、身内がいるんだよね」

「力強い!」

「縁故って言われそうだから、お互い道だってことは黙ってるけどさ。……って言っても、私は入社してから知ったんだけどね。その人がその会社で働いてるの。とくにホームページとか名前もなかったし、面接行ったときも会わなかったし」

「入社していきなり知ってる人出てきたらビックリするよね」

「もうめちゃくちゃビックリしたよ! 向こうは事前に知ってたみたいで、なんでもない顔して『久し振り!』って言ってたけどさ。一瞬頭がもうパニック」

「私もパニックになっちゃいそう……。でも、すごい味方じゃない?」

「そうなんだよね。なんならその人結婚式も来てたし。普段関係はなくても、会社では全然その人が立場上だから、今思えばこびへつらってたなぁ、夫」

「非常にわかりやすい反応だね」

「わかりやすすぎて逆に笑えないもん。でも、私もいつまでも悩んでるだけじゃ前に進めないし。話し合いするにしろケンカするにしろ、自分がちゃんとしていないとね」

「応援してる」

「ありがとう! 私も、応援してるからね?」

「うん、ありがとね」


 もはや砂苗ちゃんはただの友人ではなく戦友と呼ぶべきだろう。ジャンルは多少ズレるものの、同じく戦いを挑む者。こっちは完全な不倫。そしてモラハラ。生活できてはいるから、経済DVは難しいかもしれない。砂苗ちゃんは完全なモラハラ。叩けばまだ埃は出てくるのではなかろうか。砂苗ちゃんがどう思っているのかはわからないが。思いっきり叩いてみたら良いと思う。……少なくとも、私は。


 ここからは、お互いの夫の話も交えながら、将来の話をした。長く話し込んだのは子どもについてと老後の話で『お互い子どもはほしいと思っているが、今の夫とのあいだには作りたくない』し『今の夫と老後何年も何十年も一緒に暮らしていくのには、不安しかないし無理だと思っている』だった。

 とくに私はもう離婚確定だし、妊娠したら浮気し放題で相変わらず家へは帰ってこないに決まっている。今家事もしないのに。子どもが産まれてからするようになるとは思えないし、あの態度じゃあ子どもの面倒も見ないだろう。男性のほうが平均寿命も短いし、夫は私よりも年上だ。介護なんてしたくない。周囲よりもらっているとはいえ、浮気や家事育児の放棄に目を瞑れるほどの額でもないし、現状貯金もない。こんな相手ではとても子どもを作りたいとは思えないと、あの人本人以外はわかってくれるだろう。……あの人と同じ考えてない限り。

 砂苗ちゃんは砂苗ちゃんで、今自分にしている態度を、子どもにもとられたら嫌だと言っていた。子どもに対してモラハラは虐待だと思っている。それに、もし子どもが夫の真似をしたら……とも言っていた。配偶者にそんな態度をとることが、当たり前だと認識して育ったら。自分もやって良いと思ったら。想像に難くない。


 砂苗ちゃんは言う。『私はそれを当たり前だと思っていたし、おかしいとはちっとも思わなかった。だって、それが目の前で起こる当たり前だったから。これを洗脳というのか、共依存と言うのかはわからないけど、自分にとっても相手にとっても良くないことだというのはもうわかった』と。『気が付かないほうが幸せだったかもしれないけど、気が付かなくても幸せにはなれなかった』と言って自嘲気味に笑う彼女は、私が聞いた話よりももっと思うところがあって、ひとりで悩んでいたのかもしれない。


「はぁぁ、ほんっっっとうに今日は楽しかった! 砂苗ちゃんまた来ようね?」

「全然喋り足りなかったよ、もっと喋ってたかった」

「え、夜旦那さんいる?」

「ん? 今日はいないよ?」

「夜ご飯一緒に食べない?」

「いいの?」

「どうせうちの夫は帰ってこないし、私の両親がいるけど、気にしないんだったらどうかなと思って。みんなでピザ食べたいねって言ってたんだけど、人数多いほうが味増やして楽しめそうだし」

「お邪魔させてもらう!」

「一応、十六時半にお店へ取りに行く予定なの、父がね。父が帰ってきてから砂苗ちゃん呼んだら、ちょうど良さそう」

「今日は早めにお風呂入っちゃおうかな。遊びに行ってて、今日はもう日付変わるころまで夫は帰ってこないの。明日仕事だって言うのに、元気だよね」

「遊ぶことと自分のことに対しては、体力あるよね」

「そうなの」


 お互い笑って、うっかりカフェに居座ってしまいそうだったが、なんとか話を切り上げて家へ帰った。リビングでは父と母がジュース片手に海外ドラマを見ていて、有言実行だったことにまた笑う。あられを食べている姿がまるで映画館のようで、追加のおやつ、カフェでお土産に買ってきたクッキーをふたりの前に置いた。


「終わった? お帰り」

「あらシオ、お帰りなさい。これお土産?」

「うん。お陰様ですごく楽しく喋って帰ってきた。夜のピザパーティーに呼んだんだけど、良かった?」

「向こうさんは良いのか?」

「うん、いいって」

「賑やかになるわね。いいじゃない」

「好きなピザ聞いておいたから、予約始めるね」

「あぁ、よろしく」

「お母さん、グラタンも美味しいって聞いたんだけど。頼んでも良いかしら?」

「みてみるね」


 母の言う通り、最寄りのピザ屋のメニューを見て見ると、グラタンが記載してあった。美味しいと聞いたと言われてしまっては、試してみるほかない。私は両親の意見と砂苗ちゃんの好みを踏まえながら注文した。


 急遽人数の増えたピザパーティーは大盛り上がりで、父も母も砂苗ちゃんも、楽しそうにピザやグラタンを頬張りながらお喋りしていたことに、私は大袈裟ながら安堵した。と同時に『これが本来なら、砂苗ちゃんではなく夫だっただろうに』と、ふと考えてしまい、なんとも言えない気持ちになった。

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