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ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
3月

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第43話:増える味方_2


 「……なんか、この二か月半くらい? は、本当に怒涛の日々だったんだね……」

「うん……。まだ終わってないけど、ようやくクライマックスに向けて進んでいけそう」


 私はカフェラテをかき混ぜながら、大きな溜息を吐いた。目の前にあった抹茶のケーキはとっくに食べ終えていて、今は氷のほうが多いカフェラテ片手に話している。


「そういえば、私もまだ砂苗ちゃんのご主人に、ちゃんとあいさつできてないや」

「最近忙しくなってきて、なかなか定時では帰ってこれてないよ」

「たまに朝会うんだけどね。おはようございまーす、で、終わり。いつもにこやかに返してくれるよね、旦那さん」

「外面は良いんだよ、うちの夫。……このあいだ、初めてシオちゃんと話して、帰ってからいろいろ考えてみてさ。あ、日記つけてるよ!」

「日記大事だからね。私も今回役に立ってるし」

「内弁慶っていうの? うちでは俺様なんだけど、外に出ると急に良い人になるんだよね……」


 以前砂苗ちゃんと話をしたとき、私は砂苗ちゃんの旦那さんの態度が気になっていた。モラハラなんじゃないかと思ったし、他人様の家に口出しするものじゃないと思いつつも、砂苗ちゃんの態度に違和感があってずっと気にはなっていた。

 今こうして話をしてくれているということは、砂苗ちゃん自身なにか変わる部分があったのだろう。


「ちょっとさ、私も冷静になったと思うんだ。全然周りが見えてなかったけど、日記書いて、シオちゃんと話して、ちょっとネットで調べてみたりもしたんだけど。SNSとか、便利だよね。いろんな人がいろんなこと書いていて、それに対する意見もいっぱいあって。私、周りが見えなくなってたみたい」

「……見えるようになって、どう変わった?」

「うーん。夫の言うことに対して『あれ?』って思うことが増えたかな。自分勝手じゃない? とか、それは違うんじゃない? っていうのも増えた」

「それ旦那さんに言ったりするの?」

「……まだ言えない。そのときはそう思って言おうとするんだけど、どうしても頭の中でブレーキがかかっちゃって……」

「なんて返ってくるかわかんないし、怖いよね」

「そうなの。怖いの」

「あ、ウチの夫も、酷いのゲットしたけど聞いてみる?」

「え? なにそれ」

「たまたま録音できたんだけどね。実は共同口座のお金が……」


 ここまで来たら、もはや私の持ちネタになっているあの録音。これを聞いたら、砂苗ちゃんもおかしいと思い当たる節が増えるかもしれない。


「……と、こんな感じ」

「……浮気だけじゃないんだ……」


 大きな音では流せないから、砂苗ちゃんにはイヤフォンをはめて聞いてもらった。砂苗ちゃんの表情はコロコロ変わって、最後まで聞いたのかイヤフォンを外してこちらを見たときには疲れた顔をしていた。


「夫は多分もう私のことを好きでもなんでもないし、お金しか見えてないんじゃないかなって思う。でも私はまだ彼のことが好きで、離婚と口にはしたものの、実際はしないと思ってるはずだよ」

「浮気相手の家に乗り込んでいったのに?」

「だって、そのあと別の……二人目の浮気相手とホテルに行ってるもん。舐めてるでしょ、絶対」

「……はぁ、神経がすごい。あ、ごめん。人の旦那さんなのに……」

「いいのいいの。私だって共感してもらえる人がほしかったんだよね。『シオちゃん浮気されて可哀想だね、辛かったね』って言われるよりも『なにその旦那最悪! 埋めてやろうか?』って言われたほうが百倍ぐらい嬉しい」

「重機持ってく?」

「どこの山が良いかな?」

「高層ビルとかマンションの工事現場だとリアル」

「確かに」


 もちろん冗談に過ぎない。ネットでよく見るやりとりだ。自分がそんなこと言うとは思っていなかったが、言いたくなる人の気持ちがよくわかった。


「私もシオちゃんの旦那さん見かけたら、写真撮ろうかな?」

「隣に女の人いるかもしれないもんね?」

「探偵になる!」

「私もなにか調べたいことあったら、砂苗ちゃんのお手伝いするからね? 必要になったら弁護士の紹介とか」

「ありがと! まだね、離婚とかは考えてないんだけどね。私専業主婦だし」

「砂苗ちゃん、職場復帰したら?」

「え、でも、復帰して夫になんて言われるか……」

「それか、前パート出るつもり、って言ってたじゃん? アレ早めても良いんじゃない? まだ落ち着かないかもしれないけど……」

「それはちょっと考えてる。前の職場には『いつでも戻ってきてね』って言われてて、今も連絡とってる人何人かいるんだよね」

「バッチリじゃん!」

「でも音と同じ会社なのが……仕事してる場所は違うんだけどさ」

「それならもう根回しして復帰しちゃいなよ。私思ったんだけど、最終的にモノを言うのはお金だし、お金は裏切らない」

「シオちゃんなんだか悟ったっていう目してる」

「勉強になった三か月弱だったよ……」


 こんな経験しないほうがきっと良い。でもおかげで強くなれたし、多少立ち回りも上手くなって、いろんなことを多方面から考えることができるようになった気がする。感謝したくないしするつもりもないが、人によってはできない経験をしたことは、今後の人生においてある意味プラスになったのかもしれない。と、私はポジティブに考えてみた。


「もしシオちゃんが別れても、旦那さんあそこに住んでたらちょっと気まずい」

「あはは、案外浮気相手と一緒に住んだりしてね?」

「えぇぇ、なんかちょっと、シオちゃんの話聞いてたらあり得そうで怖いよ……」

「私がお隣さんにこんな話してるなんて思ってもみないだろうしね? あの部屋はひとりで住むには広いと思うし、誰かと一緒じゃなきゃ住まないんじゃないかなと思うけど」


 萌乃さんの線はもうなくて、有り得るなら五百蔵さんか三人目の女性だと思っていた。五百蔵さんが離婚して親権を取るなら、奥さんはフリーになる。専業主婦になってもらったと言っていたし、離婚に対してはゴネるだろう。……だが、次の相手がいるとなると話は別なのではないだろうか。あの人は同年代の人と比べて稼いでいるし、配偶者が専業主婦でも問題ない。家事をするタイプではない、ということはよくわかったから、あの人にとっても専業主婦でいてもらったほうが都合も良いだろう。

 三人目が既婚か未婚かはわからないが、その人を選ぶことも考えられる。今私は安易にあの人が浮気相手と再婚することまで考えたが、誰と再婚したってまた浮気するんじゃないかと思っている。浮気相手もひとりじゃ飽き足らず、三人作るような男だ。簡単に変わるとは思えない。


「……ねぇ、旦那さんの写ってる写真、もう一回見せてくれない?」

「あの人の写真?」

「うん。見かけてもし女性といたら、絶対に写真撮れるように」


 意気込んだ口調で砂苗ちゃんは言った。


「じゃあ……この写真あげるよ」


 私は以前砂苗ちゃんに見せた写真と、サトコが送ってくれた萌乃さんと一緒に写っている写真をkiccaで送った。このときに着ているコートは、よほど気にっているのか家のクローゼットにはおいていない。ずっと着て出かけている。高いコートというのもあるかもしれないが、もしかして五百蔵さんの奥さんか三人目の浮気相手にもらったのでは? という結論に今ふといたった。


「このコート、お気に入りみたいなんだよね」


 そう言いながら私は、萌乃さんにメッセージを送った。『萌乃さんの家へ行った日に、あの人が着ていたコートは萌乃さんがプレゼントした物か』と。返事はすぐに返ってきて、そこには『私がプレゼントした物ではありません。ですが、彼はプレゼントでもらったと言っていました。私はあのブランドは値が張る、と思っていたので、奥様がプレゼントしたと思っていました』と書かれていた。


 私は萌乃さんの言いたいことがわかったし、それは私が考えていることと恐らく一緒だと感じた。妻の私がプレゼントしていなくて、でもあの人はプレゼントでもらっていて、値が張る物をポンと買って渡せる人物。


「……三人目だな」

「え?」

「あ、誰がコートプレゼントしたか気になってたんだけど。多分三人目の女性だなって」

「どうしてわかるの?」

「一人目は否定して……多分、金額的に高い物だから、彼女ではないと思ってたし。で、二人目は専業主婦であまりお金を出すとは思えないし、なにより着始めた時期が二人目と浮気始めるよりも前なんだよね。そうすると、自動的に三人目になるわけで。おそらく、正社員の独身……かな」


 少し、三人目の姿に近付けた気がして私は誇らしくなった。

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