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ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
3月

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第42話:増える味方_1


 ようやく休めたのは、土曜日だった。休みの日なので父と母が泊ってくれた。やっぱりあの人は帰ってこなかったが、もはやいない生活が快適過ぎて帰ってこなくても良いと日に日に思う気持ちが強くなっている。


 『たまには息抜きしてきなさい』という両親の言葉をありがたく受け取って、私は久し振りに砂苗ちゃんとカフェへ行くことにした。そういう両親は、我が家で海外ドラマを一気見すると張り切っている。タイミングよく砂苗ちゃんから連絡が来たから、私は嬉々として出かけて行った。


「引っ越してきた日以来だよね、こうやって出かけるの」


 先に私が口を開く。今日は抹茶のケーキにアイスカフェラテを頼んだ。砂苗ちゃんの前には、チーズケーキとアイスティーが置かれている。


「ホント! シオちゃん忙しそうだったし、たまに会ってあいさつしたとき、疲れた顔してたから」

「あはは、ごめんね、酷い顔だったかも」

「あんまり突っ込まないほうが良いのかな? と思って。……大丈夫?」

「ありがとね。一応は大丈夫……かな。まだ目処はついてないんだけど、指針はできたって言うか、進んでるって言うか……」

「じゃあ、今のシオちゃんの悩み? は、無事に解消されそうなんだ?」

「んんんー……無事に……って言われると怪しいかも……」


 私は決めあぐねていた。砂苗ちゃんに夫の浮気のことを話すか否か。父からは簡単に浮気の話をしないほうが良いと言われたが、実際私の心の防波堤は決壊寸前で、話せる相手なら話をしてしまいたかった。kiccaでは割と連絡を取り合っていたが、こうやって対面で話すほうがやはり相手の顔も見られて嬉しい。


「そうなの? 早く楽になると良いよね……。ずっと同じこと考えっぱなしなのもしんどいし」

「そうなんだよね。堂々巡りになるときもあるからさ」

「わかる! グルグル結果の出ないこと考えて、また同じ結論になって先に進めなくなったりして」

「他人様に代わってほしい」

「あははっ。じゃあ、シオちゃんの悩みはよっぽどのことだ」


 砂苗ちゃんの言う通り、私の悩みは私にとってよっぽどのことだった。


「……そうだね。ちょっと他人様に話すには重たい話だし、でも自分で抱えてるのも結構限界だし。笑い話にしてくれる人がいたら、正直全部話しちゃいたいくらい」


 これは私の本音だ。誰かに話して楽になりたい。父も母もいて、弁護士に探偵へも私は話をしたあとだというのに、まだ足りなかった。共感して、ハッキリとズタボロに相手を罵ってくれる人にいてほしかった。


「笑い話にすればいいの? オッケー、どんな話?」


 ワクワク、という音が似合いそうな笑顔と、キラキラ、という音が似合いそうな瞳で砂苗ちゃんは私を見ていた。


「ふっ、ふふっ。良いの? 激重だよ?」

「どんとこい!」

「……そういえば、砂苗ちゃんってウチの夫に会ったんだっけ?」

「会えてないよ? 一回くらいエレベーターホールとか廊下で会うかと思ったけど、全然会わなかった」

「じゃあ全然知らない人も同然だよね。……いっか。あのね、ウチの夫、浮気してるの」

「マジ!?」


 目を見開いて口をぎゅっと閉じると、少しだけ砂苗ちゃんは後ろに身体を引いた。全身で『私は今驚いています』と表現しているようで面白い。


「あの玄関に会った写真の感じ、結婚してそこまで時間経ってないよね……?」

「まだ三年には満たないかな。それがさ、なんと」

「なんと?」

「結婚して半年も経たないうちから浮気していたっぽくて」

「早くない!? え、あ、そういう問題じゃないかもしれないけど……」

「早いよね? 早過ぎて、なんで結婚なんかしたの? って思っちゃった」

「それは思うよ……。相手のこと、もう判ってるの?」

「まぁ、一応。でもね、まだ三人目は判ってないの」

「三人目!? 三人!? え、複数!?」

「そうだよ。三人いたの。信じられなくない? うちふたりは判明したんだけどね、三人目は、まだどこの誰なのか全然判ってなくて」

「うわぁ、そりゃ大変だ……」

「でしょ? まさか、こんなことになるなんて思ってもみなかったよ……」

「それ最近わかったの? 旦那さんが浮気してるの」

「去年の年末くらいかな? 後半だったよ。たまたま、友達からのタレコミ? ってヤツ? で」

「はぁぁぁ……それまで全然わからなかったってこと? 三人は多いよね?」

「わかんなかった! 浮気してるなんて思わなかった。……確かに、ちょっと私に対する態度があんまりよくないな……とか、今まで暮れてた連絡が少なくなってきたな……とは思っていたけど。もともとかなり仕事も忙しい人だったし、あんまり疑うことはしなかったよ」

「じゃあ、私が越してきた日にはもうわかってたんだ」

「うん。初対面の、しかも隣人にする話じゃないよなって思って、あのときは言わなかったの」

「そうだったんだね。……それはなんというか……本当に大変だったんだね」


 砂苗ちゃんは、私に優しい言葉をかけてくれた。まさか、隣人が複数人と浮気しているだなんて誰も思うまい。私が砂苗ちゃんの立場だったとしても、微塵も考えなかっただろう。そんなことを考えながら生活なんてしない。


「三人目はわかってないけど、残りのふたりは尻尾掴んだってこと?」

「うん。一人目はもう話をして、慰謝料ももらったよ。なにかあったら証言してもらうって約束も取り付けた。ここは即決」

「すぐに認めたんだ?」

「家に乗り込んだしね」

「強い」

「相手の子も……うちらよりも年下だったんだけど、全然反抗も言い訳もしないし、スムーズに終わったんだよね。後日呼び出されて、経緯とか聞いて慰謝料もらってちょっと話して終了」

「へぇ、もっとなんか、暴れたりバチバチバトルでもするもんだと思ってた、私」

「私もそう思ってたんだけどね。二人目は、W不倫だったよ」

「相手も結婚してた……ってこと?」

「うん。でね、そのご主人がうちに来たの」

「来たの!?」

「来た来た。でも、ちょっと話して終わったかな、殺伐としてたとは思うけど、穏やかなほうだったんじゃないかな? お互い離婚に向けて頑張る感じ。持ってる証拠は分け合ったし、ここからも共闘することになると思ってる」

「ドラマみたい」

「すごいよね。二人目の相手はまだ小さい子どもいるから、一筋縄ではいかないんじゃないかな……」

「親権とか、養育費とかそういう話出てくるよね。夫婦だけじゃないから……」


 この調子で、私は事の次第をわかっている範囲内で砂苗ちゃんにベラベラと喋っていた。サトコにもまだ話せていないぶん、一度話し始めると止まらなかった。


「でも、なんでわかったの? 浮気してるって」

「それがね、私の友達……結婚式にも来たんだけど、その友達から連絡がきて。誰かわかるかって写真が添付されてたんだけど、女性と写ってる夫の写真だったんだよね。ちなみに、その女性は一人目にわかった女性」

「すごい、そのお友達、探偵みたい」

「ね、ビックリっしちゃった。そこからかな、調べ始めたのは。それまでは、本当にまったく疑ってなかったし」

「急にそんな写真届いたら、心臓に悪そう」

「心臓に悪かったよ! 何事かと思ったもん!」

「だよね。……これから大変だ、シオちゃん」

「うん。……離婚するつもりだから、私は引っ越すと思うんだよね」

「あ……そっか、そうだよね……。せっかくお隣になれたのに残念」

「でも、たまにはこうして会おうよ! 一応、次の引っ越し先ももう考えてるから。ここからは離れるけど、仕事のこともあるから遠くには行かないし。……気持ち的には行きたいけどね、会いたくないから」

「私もシオちゃんの味方だから! いつでも頼って!」

「砂苗ちゃんありがと。砂苗ちゃんも、困ったことがあったら言ってね?」

「うん!」


 味方が増えるのは嬉しい。私はこの流れで、夫の居場所を突き止めるためにGPSを購入したこと、弁護士や探偵にも依頼したことを伝えた。砂苗ちゃんは相槌を打ちながら興味深そうに私の話を聞いてくれて、ただひたすら私は愚痴を話していた。

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