表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
2月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/68

第22話:確認の末に


 一気に意識がクリアになる。彼は生活費を入れてなどいなかったのだ。――正確には、途中までは入れていた。だが、この口座を使うようになって一年ほど経ったころから、彼の黒字で明記された入金がなくなっていた。そして、振込入金を自分の口座あてにしたのだろう。この時点で残っていた残高は、全額彼の口座に移された形跡があった。そこからはもう、私のぶんの入金しか記載されていない。何度見直しても。私が入れた額から、財布の中から消えていく生活費ぶんだけ抜いて、私に手渡していたのだ。それ以外は……彼の手の中だ。私の口座から落ちたときだけ、この口座の中身が増える。そこから、生活費が抜かれて余剰分が記載される。出費が多ければここから使っていくが、なければ貯蓄される。貯蓄されれば彼が自分のモノにする。結果、入力がめんどくさかったのか、口座の中身をゼロ円にするのが怖かったのかはわからないが、僅かな小銭だけが残る。そんな履歴が最終的には残されていた。遡れるぶんだけ遡ってみた。一番最初へ行きついても、今見た結果と同じだった。

 つまり彼は、浮気をしているだけでなく、生活費の使い込みを行っていたのだ。もっと早く見ればよかったと後悔する。追加で自分がもらっていないから、ふたりで入れているから、てっきり少しは貯まっているものだと思っていた。だって彼も『将来のために頑張ろうね』と言って、私よりもずっと多い額を入れる約束をしていたからだ。最初は確かに入金されていた。でも、最初だけだった。私の思い違いだったのだ。私も、自分のお小遣いよりも優先してこちらへ入れていたというのに。通帳の中身を見ればわかるはずだ。私のお金は、生活費以外どこへ行ったのだろう。家計簿の通りなら、数か月入金しなくても生活費をまかなえるくらいは残っていたはずなのに。私の入金分だけでも。


 そしてよく考えたら、この口座から家賃や水道光熱費、ネットの代金や駐車場代も引き落としがされるはずだったのに、されていない。その辺りの契約は、すべて彼に任せていた。単純な私の余剰分をお小遣いとして懐に入れるべく、そうしていたのだろうか。それとも、単純にすっかり忘れていただけとでもいうつもりなのだろうか。


「さすがにもう、許せないよ……」


 沸々と怒りがこみあげてくる。そのお金はいったいなにに使ったのか。今浮かぶのは、浮気相手へ貢いだという答えしかない。信じられないが、他にどんな理由があるというんだろうか。怒りと同時に、自分に対する情けなさもこみ上げていた。なぜ気が付かなかったのか。一度でも口座を確認しなかったのか。後悔したって遅いに決まっている。だが、後悔せずにはいられなかった。


 ――今日明日が休みで良かった。でなければ、また会社を休んでいたところだろう。それに、彼が帰ってこなくて良かったと、今日ほど思った日はない。


 無意識のうちに、貴重品をまとめて新婚旅行へ持って行ったキャリーケースへ詰めた。数日ぶんの服にスマホの充電器、今まで集めた浮気の証拠も。いつでも、この家を出られるように。共同口座の中身は印刷しておく。これだってなにかの証拠になるかもしれない。


 見て良かったと思う反面、見なければよかったという気持ちも正直なところある。だって、自分の中の彼はそんなことするはずないと思っていたから。


「……短期決戦! お金がもったいない! なにに使われるかもわからないのに、こんなところにお金入れられないよ……」


 浮気調査は、漏れのないようにじっくりと時間をかけて行っても良いと思っていた。そのほうが、言い逃れされても何度だって違う証拠を突き付けられると思ったからだ。完膚なきまでに叩きのめしたかった。彼の、相手の女性の、悔しがる顔が、青ざめる顔が見たかった。

 でも、期間を延ばせば延ばすほど、私の収入が彼の懐を潤すことがわかった。彼と浮気相手の関係も。そんなことのために、私は仕事をしているわけじゃない。


「私もあのホテルに泊まって、美味しいディナー食べたかったな……」


 彼は年齢からみて世間の平均よりも給与をもらっている。その中から家賃等払ったとしても、十分に自分で使えるお金は手元に残るはずだ。そこに追加で、私の生活費の残りが合わさるのだから、そりゃあ高い時期のテーマパークもいけるだろう。そのお金を使っていいなら、私だって行けたと思う。せめて自分のお金を使って行ってくれ……と思ったが、なにより妻である私ではなく、浮気相手を連れて行ったことが悔しかった。何度だって、彼の中の優先順位を知らしめられる。


 手始めに、今月受け取る給与は、全額自分の口座に入れっぱなしにすべく、引き落としの契約を解除することにした。そうすれば、私が主導で入れない限り、あの口座にお金が入ることはない。彼がお金をおろして持ってくるのは、彼の名義で作成して彼がキャッシュカードを持っているからだ。なくなったぶんはもうとっくに使われて戻ってこないのかと思うと、もったいないし腹が立つ。だが、今後の被害を食い止めることはできるのだ。

 一回振り込まなくても、あの口座にはお金が残っているはずなので――実際には入っていないが――『保険の支払いを年払いにしたから、今月来月は余剰分から出すつもりだ』とでも言って入金しない。あるはずの生活費を出さなかったら、絶対に怪しまれると彼は思うはずだから、そこで少しは回収できることを祈ろう。


「つ、疲れた……」


 次から次へと予想外のことが怒るから、ここにきて疲れがまたどっと出てきた気がする。この気持ちを抱えたまま彼と接することができるのか考えると不安がよぎったが、顔を合わせる回数はどうせ少ない。それを胸に過ごすしかないと私は思った。


「……もえのさんの家知りたいよね?」


 私が次にしたのは、何でも揃う大手通販サイトでの検索だった。……GPSだ。そこまでしなくても……とは思ったが、ここまできたならそこまでしてやる。値段はそこそこで、良さげなものをよっつ購入した。ひとつは車に仕込んで、もうひとつは会社の鞄に仕込む予定だ。ものとしてはできるだけ薄いものを選んだ。GPSというと発信機のような箱を想像していたが、今はカード型なんてものもあるのかと感心する。物を失くさないために仕込むことが多いのだろう。それなら、嵩張らないほうが良い。

 ……みっつめは、念のための予備だった。なにかの拍子に使えなくなるかもしれないし、仕込みたくなる場所が増えたときにすぐ対応できるようにだ。今日注文すれば、明日にはもう届く。明日も彼がいないのなら、その隙に仕込めばいい。そうすれば、月曜日に帰ってこなければ、どこにいるのか追うことができる。その履歴を溜めていけば、彼がいつもどこへ行っているのかがわかる。もえのさんと一緒にいるなら、きっと、もえのさんの家も。よっつめは、精度の確認のために自分の財布へ入れることにした。


 これで家がわかったら、いったいどうしてくれようか。すぐさま家へ突撃するべきか、あとをつけて部屋への出入りを写真に収めるべきか。証拠にするなら後者が良いだろうし、勢いに任せて問い詰めるなが前者だろう。我慢して我慢して、突撃したうえで証拠を突き付けてもいいかもしれない。こっちのほうがきっと、言い逃れは難しい。


 最悪なことを考えているが、気持ち的には探偵になったような気分でなんだかワクワクしてきた。ちょっとだけ、楽しいかもしれない。


 この二か月半で良かったなと思えることは、夜の営みがなくなったことだった。……回数自体、結婚してから今にかけて減ってきているとは思っていたが、お互い忙しいし特に気にしてはいなかった。子どもは欲しかったが、今となってはいなくて良かったと切に思う。このゴタゴタに、子どもを巻き込みたくない。それに、子どもがいたら歯根に踏み切れたかと聞かれると、正直微妙だった。だから、世の中の子どもを連れて離婚をしようとしている、離婚をしたお母さんとお父さんにすごいと思う。


 私はそわそわしながら翌日GPSが届くのを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ