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ねぇ、これ誰かわかる?  作者: 三嶋トウカ
2月

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第17話:ひとり作戦会議_2


 「……もったいないなぁ」


 それが私の第一声だった。もっと悲しい気持ちになるかと思ったのに。まだ使えるのに捨ててしまうのがもったいないという気持ちと、捨てるくらいなら誰かにあげるかフリマアプリで売ってしまえば良いのにという気持ちが先に来る。……きっと、これで良いのだ。


「ま、私が売っちゃえばいいかな? 捨てるつもりなら別に良いよね。あ、でも、一応捨てる確認はとらないといけないか……」


 そんなことを口走りながら、縛られていたゴミ袋の口を開けて中の鞄を取り出した。やっぱり、外側はまだ綺麗だ。ファスナーを開けて見てみると、中も問題ない。目立った汚れや傷もないし、壊れた箇所もない。どうしてゴミ袋に入っているのか不思議に思えるくらいだ。


「で、肝心のなにか痕跡は……?」


 ひとつひとつファスナーを開け、ポケットとなり得る場所すべてに手を入れた。


「……お?」


 鞄の底部分に敷いてあった柔らかい板のようなものを外すと、数枚紙が出てきた。レシートに見える。……これは……。


「思いっきりテーマパークなんですけど?」


 私の大好きなテーマパークのレシート。見間違えるはずがない。特有のロゴが入っているし、記載されている住所は間違いなくその場所だった。印字は色あせているが、まだまだ書いてある文字は読むことができる。


「わー、これは立派な証拠ですね!」


 肝心の日付は一昨年のクリスマス付近。あの出張と言って二泊三日外泊していた日付だ。ご丁寧に、ふたりぶんであろう飲食の記録が二日ぶんある。最初の二日にパークへ入り、最終日に帰宅したというわけか。二日目にあたる日の時間は夜である。


「……私もここのコースなんか食べたことないんですけど……?」


 私がずっと行ってみたかったパーク内のお店の、しかも一番いいコース料理、クリスマス期間限定だなんて、到底許せるものではない。彼がこのレシートを持っていたということは支払いは彼だろうし、私が一緒に行ったときは『高いから』と、とても食べられる雰囲気ではなかったのに。

 一年前の時点で、私よりもこのテーマパークへ一緒に行った人のほうが、ずっと大事だったのだろうか。それとも、カッコつけたいと思う相手になっていたのだろうか。ペアになり得るアイテムを持っていたから、そんなことはわかっていたはずなのに。もういいやと思ったはずなのに。いざ目の前にその事実の追撃がやってくると、胸の奥につかえたものがせり上がってくるような感覚がした。気持ちが悪くて、苦しくて。どうしようもなくて。


「写真、写真」


 一昨年の誕生日の誕生日プレゼント。これを持って出張に彼は行った記憶がある。行った場所は、出張先ではなくてテーマパークだった。ホテルやロッカーで持ち替えたかもしれないが、今こうして浮気の証拠を消すためのゴミ袋と変わらない扱いを受けている。この鞄自体がゴミ袋なのだ。ネガティブ過ぎる考えだろうか。だが、これくらいの気持ちでやっていかないと、浮気を問い詰めることはできないと思っている。私に対しての情がないというならば、私の彼に対する情も捨て去るべきだ。残っていたら情けをかけてしまう。非情にならねばと思うくらいがきっとちょうど良い。私は再構築を望んでいないのだから。


 出てきたレシートを、鞄の上に置いて写真を撮る。このレシートと前回見つけたメタルチャームとトップスを合わせると、やはり女性と行ったのだろう。偏見かもしれないが、男性同士……男性の友達同士でこんなことをするイメージが湧かないのだ。男性同士でも、カップルなら別なのかもしれない。妻に出張と偽って二泊三日の旅行に出かけ、旅行先のテーマパークで値段の張るお店にコース料理を彼の奢りで食し、アトラクションに乗ってグリーティングに参加し食べ歩きをしながら、その思い出にとパーク内期間限定のアイテムをお揃いとなるように購入する。相手が男性なら諦めがつくのかと聞かれても、そもそももう諦めはついている。ただ、点と点が繋がらず線にならないから、イマイチ納得もできないし腑に落ちないのが実のところだ。よって、私はこの相手が男性である線は消す。 ちなみに『男性同士だから浮気ではない』と言われたら、ずっと世間では難しいだろう同性の恋愛を軽んじたとして、それはそれで文句のひとつでも言ってやりたいと思っている。


「この鞄捨てるつもりなら、中身のレシートももらって良いよね?」


 私はレシートを回収して、ノートへ貼るべく重しに分厚い本を載せて伸ばした。


「……あ。こんなところにもポケットあるじゃん」


 鞄の底部分に、ファスナーが付いていることに気が付いた。おそらくパスケースでも入れで、ICカードを鞄から取り出さずに使えるようにの配慮だろう。


「手帳じゃん……」


 スリムタイプの手帳。前年度のモノだ。彼は好んで紙の手長を使っていたが、これは見たことがなかった。『もう捨てる物なら、所有権放棄してるよね……?』都合の良いことを考えながら、私は恐る恐る一枚目からその中身をめくっていく。


「あぁぁ……」


 ――彼はこういうところはマメなタイプなようだ。何年も一緒にいて気が付かなかった。知らなかった。


「宝庫じゃん」


 手帳はマンスリータイプで、まず一年のカレンダーが見開きで印刷されていた。そしてそこから月のカレンダーページ、そのあとに月をさらに週でわけたメモページが付いていて、見開きで一週間分の日付だった。それが月ごとに順に印刷されている。説明が下手だから誰かに言って伝わるかはわからないが、とにかく日記や予定を書くには便利な部類に入るだろう。私が今持っている手帳とだいたい同じタイプで、彼はこの月のページに出勤時間と退勤時間を、週のページの各日の部分にその日の予定を書いているようだった。

 念のためなのか、誰と会うかは書いていない。が、どこへ行くかは書いてある日もある。名前を書かなくったって、この手帳に書いてある内容がバレたら、自分の申告した退勤時間と異なっているのだから、そこで問い詰められるとは思わなかったのだろうか。誤魔化すか逆切れするかのつもりだったのかもしれないが。


 こんなにイイモノがあっては、やることはひとつしかない。


「証拠の確保ー!!」


 妙なテンションになってきた。一枚ずつ中身をチェックしながら、プリンタでその内容をスキャンしていく。見開きで印刷できることが地味にありがたい。これはあとで私がまとめておいた、彼からの帰宅連絡の内容と照らし合わせるのだ。それから、今までの彼の予定と。万が一手帳を持っていることが彼にバレたら、捨てられてしまうかもしれない。そうなっても良いように、今コピーを取っている。まずはデータとしてパソコンに残し、もちろん印刷もする。


 一番気になっていた、一昨年のクリスマスの予定を先に見て見ると、見事に十二月二十一日から十二月二十三日にかけて線が引いてあり、ご丁寧に【二泊三日旅行】と十二月のカレンダー部分に書いてあった。そうですよねと思いながら、該当の日付部分を開いてみると、私の大好きなテーマパークの名前が目に留まった。ご丁寧にホテルの名前――オフィシャルホテルだから、時期によっては予約も取れないしかなり値の張る――も書いてある。見間違えるわけがない。やはり、間違いなくここへ旅行に行っていたのだ。私に嘘を吐いて。


 ……これに関しては単純に羨ましい。クリスマスイベント真っただ中だ。間違いなく混むし値段も高い。よく予約取れたなという気持ちと、そんなお金どこにあったんだという気持ちと、自分だって行きたかったのにという気持ちがひしめきあっている。複雑だ。


 他のページもパラパラと見てみると、確かに出張へ行っている日もあったが、行っていない日もあるようだった。だが、メモを見ると出張先の大きな駅まではやはり行っているようで、そこに対して旅行と書いてある。先ほどのようにテーマパークの名前は書いていないが、ホテルの名前と思しき名称は書いてあった。


 すごく良いモノがあった。お宝を見つけた気分だ。もしかしたら、他にも探せばなにかあるかもしれない。

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