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DIVE(7)

耳元で鳴り響く、轟音。


「うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


錐揉みする身体。

コバルトブルーと、オレンジ色の雲が回り、目がチカチカする。


『おい、深里!!力を抜け』


耳元から聞こえる、お兄ちゃんの声。

力を抜けと言われても、無理だ。

心は完全に強ばり、無意識に手足が暴れる。

私は、遙か上空で溺れていた。


「ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…ハッ…」


自分の、浅い呼吸音すら風の音に消されて、今、ちゃんと呼吸できているかすら、分からなくなる。


回転する、視界の中で、必死の形相で手を伸ばし、こちらを見つめるお兄ちゃんを発見する。


その姿が、何故かママと重なり、懐かしさを覚えた。


あれは確か、物心の着いた頃、ママの飼っていた魔獣に頬を叩かれ、湖に落ちたんだったかな。


あの時、溺れてもがき苦しむなか、水中に飛び込んで来たママに抱えられ……っ!!


『…………え…!息を吸え深里!!』


「ぶはぁ!!フーッ!!フーッ!!」


空気が肺を満たし、幾ばくか冷静になる。


『そうだ、深里。息を吸え!』


思いっきり、腕を鼻に当て、空気を吸い込む。

花のような匂いを吸入し、完全に理性が戻った。


「もう……大丈夫!!」


『おっけぇ……!そのまま力を抜いてリラックスしろ手足は大の字だ』


言われた通り、四肢を広げ力を抜くと徐々に落下速度が落ちる。落ちた気がする。体感でしかないが。


日の沈みかけたコバルトブルーの空をぼんやり、見下ろすと先程まで乗っていた飛行機を見つけた。


もう、ゴマ粒ほどの大きさにしか見えない。


「紅に 長く尾を引く 飛行機雲 みさと」


決まった……。

最後は少し、字余りしてしまったが、ほぼほぼ完璧に近いと言ってもいいだろう。

余は満足じゃ。


『余裕だ……なっと!!捕まえたぁ!!』


と、上空から飛んで来たお兄ちゃんの腕が、私の腹部の引っかかり、私はくの字に折れ曲がる。


『お兄ちゃん!痛い!』


『ごめんて』


お兄ちゃんは、私の腹部から、両手へと持ち変える。


両手を繋いだまま、お兄ちゃんと私は向かい合って落下してゆく。


『お兄ちゃん、あのね。私、昔、湖で溺れたことがあったの。その湖の名前は─────支笏湖』


『深里……、思い出したよ!私の本当の名は……シコシ────』


『姥堂!遊んでないでサッサと深里さんをこっちに!!』


『へーい』


気の抜けた返事をし、私に状態を反る様に指示をだす。


『深里、今の状態から、こう、手足を反らせて!そうそう、いい子だ。ほいっ!回転!』


言われた通りに手足を反らせると、上空を向いていた身体はグルンと、地上向きになった。


『お嬢!今から深里をそっちに蹴りあげる!ちゃんと捕まえろよ!』


「え?え?え?うそ、うそうそ!!ちょっとお兄ちゃん?蹴らないよね?冗談だよね?」


お兄ちゃんは、無言のまま器用に私の腹部に両足を添えて私と目を合わせる。


『んじゃ、おっ先ー』


「くぼぉほぉっ!!!」


重い、衝撃。

これでもいくらかは、バトルローブのおかげで軽くなっているのだろうが。


落下していた私の身体は、思いっきり上に打ち上げられ、緩く、スピードを落としてゆく。運動エネルギーの消失と共に、一瞬だけ空中で停止し、再び落下が開始される。


『キャッチ!ですわ!』


お兄ちゃんの時とは異なり、ふわりとした捕縛。

瞬間、アイリスさんの匂いが広がる。


『あの……、そんなに抱きしめられても、困りますわ……。って!脇の匂いを嗅がないでくださいまし!!』


ここが1番匂いが濃くてすこ。

私を抱きかかえたまま、顔だけを離すことの出来ないアイリスさんは、恥ずかしそうに私のされるままになっている。


うへへ、耳、赤いね。

顔はパイオツの所為で見えないが、羞恥に悶える顔をしているのだろう。

美少女の恥ずかしそうな顔。たまらんね。

自分でも、とてつもなく顔が緩んでいることは自覚できている。

幸いにも、デカパイのせいでアイリスさんから、私の顔はまともに見えないだろうから好き勝手できるのだ。


『あの……、深里さん?下、下見てくださいまし……』


アイリスさんは、恥ずかしそうに今にも消えてしまいそうな程小さい声を発した。

下……


「アイリスさんって、お尻もいい形してますよね」


『そっちじゃありませんわ!!』


「太もも?」


『違いますわ!!今更ながらに、何故、姥堂があなたをバディに選んだのか理解に苦しみますわね』


そんな、失礼な。

でも、太ももでも尻でもないとなると?


『あなた、今落下中ということをお忘れになってません?』


「あぁ!そうだった!」


『さっきから、モゾモゾあちこち吸ったり揉んだりしている所為で下が見えずらいのですわよ!!』


「おっと、こりゃ失礼。じゃあ私どうすればいいの?」


『失礼いたしますわ!』


そう、言いながらアイリスさんは私を小脇に抱える。


『これなら!ギリギリ見えますわ!!』


よくよく見ると、アイリスさんは1.5メートル程の杖の上に足を置き、直立の体勢で落下していた。


そして私たちは、暴風を浴びながら雲へ突入。

しばらく薄暗い雲の中を、重力に従って突き進む。


雲を抜け、今まで見えていなかった山肌が顕になる。

その中に、一際異彩を放つ立方体の人工建造物。

コンクリート製だろうか、ほとんど窓がなく、白い壁で覆われている。


あの中に、ママへの手がかりが……、何か掴めるといいな……。


そんな事を考えている間にも、建物はどんどん近くなってくる。


「そういやアイリスさん。パラシュートってどうやってだすんですか?もちろんこの、バトルローブに仕込まれてるんですよね?」


『パラシュート?そんなものありませんことよ?』


ゑ?マジで?

じゃあどうやって着陸するの?

血の気が引き、とうに消え去っていた恐怖心がまた、戻ってくる。


「お、おぉぉぉ落るぅぅぅ!!!!」


『13……、12……、11……、』


「アイリスさんアイリスさんアイリスさん!!どうしようどうしようどうしよう!!」


私はパニクって、アイリスさんの胸を上下左右に揺らしまくる。

冷静さを保つ為なのか、アイリスさんは何やら、独り言をブツブツ呟いていた。


『7……、6……、5……』


「落ちる落ちる落ちる落ちる!!!」


『ラ・アゼリア流 参式!!ブースト!!』


地面まで落ちる寸前……

アイリスさんは、杖越しに魔法陣を構築。

足元から炎が射出され、グングンと速度が落ちる。


『0……、1……、2』


カウントが終わると同時に、魔法陣を削除、そして……、


「お、お、落ちなかった……。ギリギリで、止まった……、アイリスさん、まじパネェっす……」


『ふぅ……、ふぅ……、ジャストタイミングってやつですわね』


私たちは、無事に生きたまま、再び地球に立つことが出来たのだった。

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