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DIVE(5)

コト、コトとチェスの駒を動かす音が静寂の中に鳴り響く。


アイリスが呆れたように口を開いた。


「作戦も何も、姥堂がストップをかけなければ、明日の朝までには決着が着きましたのよ」


「じゃあ勝手に出発したら良かっただろ?」



アイリスの額にはくっきりと血管が浮き出ていた。


「貴方が!美玲さんに連絡したからでしょう!?」


テーブルを叩きながら、洋に見せた端末の画面には、アイリスのバディである美玲からのメッセージが表示されていた。


『ヒロシ君、来てくれるの!?ちゃんと連れて来てね(*´∀`)ノ。

約束反故にしたらバディ解散で«٩(*´ ꒳ `*)۶»ワクワク』


それを見た洋は鼻で笑う。


「笑い事じゃありませんわ!!間に合う筈だからと言うから待っててみれば!まさかの2時間の遅刻!!どうしますの?空港に降りたら、転移魔法も使えないから、車で8時間、徒歩で山道を8時間歩かないと行けませんことよ!?あぁ、もう間に合いませんわぁ!!」


「まぁ、落ち着けって。明日の朝には優雅に朝食食えるどころか、自分のベッドでグースカ鼻ちょうちん作ってかもしれねーんだぜ?」


「何か考えがおありで?」


洋は、ソファーの下から紙袋を取り出し、中から書類を取り出す。


「どこから入手して、いつの間に仕込んでたんですの……」


「ミレに頼んだらコピーくれた。それを今朝に執事のおっちゃんに渡して置いたんだ」


「全く…、抜け目がありませんわね。もう今更何も言いませんわ」


「ま、おさらいがてら、見ていこうぜ」


そう言いながら、ガラス張りの机の上に書類を広げていく。


「まず、なんで今回に限って転移魔法も移動魔法も使わずに山の中をハイキングすることになったか、だけど」


洋は顔写真の着いた2人分の上に、アイリスから取ったチェスの駒、ポーンを乗せる。


「コイツらが索敵魔法を使い、常に半径20キロに渡って監視しているんだよな」


「えぇ、ですから移動系や身体強化の魔法は愚か、も足元を照らすライトでさえも電池式のものを用意しましたのよ」


そう言いながらアイリスは、洋の目に向かって超高光度の懐中電灯の明かりを高速でONとOFFを繰り返す。


「や、やめろぅ!!まぶしっ!くっそ!!」


アイリスから懐中電灯を取り上げた洋は、それを手で弄びながら、話を戻す。


「結局、リストに乗ってる人間で、まともな索敵が使えんのはコイツら2人だけみたいだ。で、コイツらは唯一の出入口の前で、見張り番をしていると」


「よくよく考えれば、この規模の組織にしては見張りも少ないですわね。お風呂はどうしているのかしら。交代シフト制?」


「シフトも何も、そもそもの頭数が少ないんだ。連中なんて風呂にもはいらねー不潔集団だし気にしないんだろ。今日の現場は牛乳を拭き取った後に、トイレ掃除にまで使った雑巾を湿気の多い部屋で三日三晩干した様な匂いだろうな……」


「想像しただけで吐きそうですわ。チェック」


チェスの盤上ではアイリスの駒が、洋の陣営を追い詰めていた。

しかし、洋は顔色も変えずに駒を動かし続ける。


「で、どうしますの?もとより移動手段が限られていましたのに、今更プラン変更などできるのです?チェック」


「プランつっても、索敵持ちをどうにかした後はいつも通りゲリラ戦か乱戦だろ?ミレがまともな作戦練れる訳もなし」


「まぁ、仰る通りですけども。チェックメイト」


「じゃ、簡単だ」


洋は、アイリスの手元にある、取られた駒を掠め取り、盤の上に持っていく。

そして、それらを手から離した。


手から離れた駒は、重力に従い盤上へと落下。

落ちたポーンの1つが、アイリスの2つのナイトをなぎ倒し、他の2つが盤上の駒を盤面を荒らす。


「空から攻める」


「空から?」


「都合のいいことに、僕らは今、空の上を飛んでるだろ?ちょいとスカイダイビングを楽しんでからでも、余裕で間に合うだろうさ」


「……なるほど。着地時の魔法展開時間は?」


「2秒だ。それ以上だと無線とかで呼ばれた敵の兵力が入口に一気に集まってくる。が、それ以下だと、地面に叩きつけられて死ぬ」


「分かりましたわ。それなら、余裕で間に合いますわね。2人の索敵はどうしますの?」


「お嬢達が降りてくるまでの間に、僕とミレで何とかするよ」


洋が、「何とかする」と言った以上、アイリスは特に疑問を抱くことはなく、納得したように頷くだけだった。


ふと、アイリスはコーヒーを飲みながら呟いた。


「姥堂、あなた。負けそうだからって、盤上めちゃくちゃにする癖治したらどうですの?弱いクセに格好つけて『チェスでも打ちながら作戦立てようぜ』なんて言った割には10分も持ちませんでしたわね」


「お?バレてた?」


「バレバレのバレ、ですわ」


「ま、ともかく。目的地上空を通過するのは、あと15分後だ。しっかり準備しとけよ」


「言われなくても」


アイリスと洋はチェスの駒を片付けながら、軽口を叩き合う。

深里が、空中に放り出される約15分前の出来事であった。

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