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ショートショート7月〜3回目

帰り道

作者: たかさば

 …ああ、疲れた、早く家に帰ろう。


 賑わう駅前を足早に抜け、若者がうろつくコンビニの前を通って、信号待ちをし、豪勢なマンション、普通のマンション、昔ながらのアパート、最近はやりのメゾネットタイプ集合住宅の横を無言で歩く。


 大きなイチョウの木と手入れの雑な生垣が交互に続く歩道を黙々と歩いていくと、緩やかな右カーブのスタート地点にある中華料理屋の換気扇から、高火力で鉄鍋を振るにおいがした。……今日は、餃子だ。

 うまそうなにおいだとは思うが、食欲は…ない。立ち止まることなく、緩やかな傾斜の続く歩道を、ただただ…歩く。


 この辺りはマンションやアパート、コーポなどの集合住宅が多く立ち並んでいるが、所々に昔ながらの一軒家もある。空き家になったまま放置されていると思われる建物もちらほら見かける。 明らかに住むことのできない状態の建物がいくつかあって、横を通るたびに少しばかり気になるが…どうしようもない。


 通い慣れた、自宅までの帰り道は…およそ20分の距離。


 毎日、毎日…この道を、歩く。


 たまに誰かと、すれ違い。

 たまに小石を、蹴飛ばし。

 たまに信号で、立ち止まり。


 たまに傘を、さしながら。

 たまに汗を、拭いながら。

 たまに自転車を、よけながら。


 ……ああ、派手なネオンが、見えてきた。

 大通りに面した大きなパチンコ屋が見えたら、僕の住むアパートはすぐそこだ。


 ……今日も、変わり映えのない一日だった。


 また、明日…頑張ろう。




 …ああ、疲れた、早く家に帰りたい。


 老若男女が(せわ)しく行き交う駅前を足早に抜け、トラックが出入りするコンビニの前を通って、青信号を渡り、豪勢なマンション、普通のマンション、昔ながらのアパート、最近見なくなったメゾネットタイプ集合住宅の横を無言で歩く。


 大きなイチョウの木とスズメガの飛び交う生垣がある歩道を黙々と歩いていくと、緩やかな右カーブのスタート地点にある中華料理屋の換気扇から、高火力で鉄鍋を振るにおいがした。……今日は、チャーハンだ。

 香ばしくて美味そうなにおいだとは思うが、食欲は…ない。立ち止まることなく、緩やかな傾斜の続く歩道を、ただただ…歩く。


 最近つぶされた家屋の横を通りかかった時、少し強い風が吹いたのを感じた。

 この辺りはマンションやアパート、コーポなどの集合住宅が多く立ち並んでいるが、所々に空き地がある。放置されていた空き家がつぶされると、こんなにも風通しが良くなるのかと思った。


 いつも通る、自宅までの帰り道…およそ20分間。


 毎日、毎日…このコースを、歩いている。


 たまに誰かを、追い越し。

 たまに段差で、足を取られ。

 たまに信号を、無視して。


 たまに荷物を、持ちながら。

 たまにぼんやりと、よろけながら。

 たまに自転車に、ベルを鳴らされながら。


 ……ああ、派手なネオンが、見えてきた。

 大通りに面した大きなパチンコ屋の向こう側にある、僕の住むアパート。


 ……今日も、変わり映えのない一日だった。


 また、明日…頑張ろう。





 …ああ、疲れた、早く家に帰らねば。


 賑わう駅前を抜け、ひっきりなしに客が出入りするコンビニの前を通って、信号待ちをし、豪勢なマンション、普通のマンション、昔ながらのアパート、最近人気らしいメゾネットタイプ集合住宅の横を無言で歩く。


 大きなイチョウの木と雑草が伸び放題になっている生垣がある葉っぱだらけの歩道を黙々と歩いていくと、緩やかな右カーブのスタート地点にある中華料理屋の換気扇から、高火力で鉄鍋を煽るにおいがしない。……どうやら、店じまいをしたようだ。

 うまそうなにおいをかぎ続けてきたが、結局一度も食べる事は…なかった。一度くらい食べておけばよかった、そんなことを思いながら、緩やかな傾斜の続く歩道を、ただただ…歩く。


 この辺りはマンションやアパート、コーポなどの集合住宅が多く立ち並んでいるが、空き地も目立つ。 雑草が伸び放題になっている状態の更地がいくつかあって、横を通るたびに少しばかり気になるが…どうしようもない。


 通い慣れた、自宅までの帰り道…およそ20分ほど。


 毎日、毎日…この道を、歩く。


 たまに誰とも、すれ違わず。

 たまに通り雨に、出くわし。

 たまに信号で、ルールを知らない車を見送り。


 たまに顔を、あげながら。

 たまに周りを、確認しながら。

 たまに自転車を、忌々しく思いながら。


 ……ああ、派手なネオンが、見えてきた。

 大通りに面した大きなパチンコ屋が見えたら、僕の住むアパートはすぐそこだ。


 ……今日も、変わり映えのない一日だった。


 また、明日…頑張ろう。







 …ああ、疲れた、早く家に……帰ろう。


 賑わう駅前をぼんやりと抜け、寂れたコンビニの前を通って、押しボタン式の信号を渡り、古臭いマンション、すすけたマンション、寂れたアパート、手入れの行き届いていない集合住宅の横を無言で歩く。


 大きなイチョウの木や生垣が取り払われて広々とした歩道を黙々と歩いていくと、緩やかな右カーブのスタート地点にある空き地から、高火力で鉄鍋を煽るにおいがしたような気がした。……今日は、少しばかり…ノスタルジックな気分だ。

 うまそうなにおいをかいだ日々を、思い出す。立ち止まることなく、緩やかな傾斜の続く歩道を、ただただ…歩く。


 この辺りはマンションやアパート、コーポなどの集合住宅が多く立ち並んでいたが、駅前の土地開発計画が発表されて、空き地が目立つようになった。どんな建物が並ぶようになるのか、横を通るたびに少しばかり気になるが……わざわざ調べる気には、ならない。


 通い慣れた、自宅までの帰り道。

 およそ…20分の道程。


 毎日、毎日…この道を、歩いてきた。


 いつも誰かを、うらやましく思い。

 いつも小石を、蹴飛ばしたくなり。

 いつも信号を、にらみつけ。


 いつも傘も、ささずに。

 いつも汗ひとつ、かかずに。

 いつも自転車一台、よけずに。


 ……ああ、派手なネオンが、見えてきた。

 大通りに面した大きなパチンコ屋が見えたら、僕の住むアパートはすぐそこだ。


 ……今日も、変わり映えのない一日だった。

 また、明日…頑張ろう。



 ……そう、思ったのに。



 パチンコ屋の景品交換所を曲がると、そこには…赤土とがれきの散らばっている、更地しかなかった。



 いきなり、住んでいた家が、なくなってしまった。




 もう、何年も何年も……何十年も、歩いてきた、帰り道。



 僕の、帰り道は……、ここまでのようだ。




 ……僕の、帰る家は、なくなってしまったのだから。




 僕は……もう、帰り道を、歩かなくてよくなったのだ。




 もう……、帰らなくても、良いんだな。




 僕は、 煌びやかな街に……、消えて、ゆく……


さて、主人公はどのタイミングでこの世界からずれたところに行ってしまったのでしょう?


1,『…ああ、疲れた、早く家に帰りたい』のあたり

2,『…ああ、疲れた、早く家に帰らねば』のあたり

3,実は初めからこの世にいなかった

4,実は現実を見ないだけでまだ世界にしぶとく残っている

5,その他(意味深)


考察しながらお楽しみいただけましたら、幸いです。

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