第2部_5章_201話_ミラ爺の突撃お国訪問 3
ムッシュラの街は真上から見ると、南北に伸びたいびつなヒョウタンみたいな形をしているようだ。中央のくびれ部分に向かってゆったりとした丘になっていて、頂上には立派な建物が立っている。
なかなかの急勾配を登りきり、丘の上に到着。
防衛と俺の心の健康のためペシュティーノに抱っこされながらだから、全然俺は疲れてないけど。
「けっこう勾配があるね」
「ええ、いい見晴らしです」
「『下』が見えなきゃね」
俺とペシュティーノの言葉に、ナナトがチクリと皮肉。
たしかに「下」にいるアンデッドが見えるとどんなに風光明媚でも台無し。
「あの観覧車はなに用?」
「見ての通り、前世の観覧車と用途は同じだよ。まあ……遠くが見えてもあまり楽しくないから不人気だけど、一日中ぼんやり乗ってるって市民もいるみたい」
食べなくても死なない、寝なくても死なないというのは思った以上にヒマみたいだ。
たしかにそうなると主に働かなくていい、ってことになるからね。
みんなのんびりすごして、建物の建て替えや増築があるときだけ頑張るらしい。
ときどきイベントのように、新しい建物を設計して建てよう! となって出来上がったのが観覧車や、クレーン2号機などといった文明的なものたち。
1年で建設が終わらず記憶がリフレッシュしてしまっても、計画書を残しておけば翌年以降も作業ができる。
記憶がなくても街に見慣れない建物が建設中になっていれば、誰かが「続きをやろう」と言い出す。
そうやってこの街は大きくなっていった。
住人たちは数を減らしても、街は成長している。
「はい、ここが展望室! 一応、ムッシュラの……都庁? 都ってほどの規模じゃないから市庁舎とかかな。みんな勝手に呼び名を付けて呼んでるから一貫してないけど、一応議会を開くような場所もあって、街の中心ってことにしてるよ」
丘の上に建っている建物は、背の高いウエディングケーキみたいに段々になった円筒。
展望室の上のてっぺんには新郎新婦の人形……じゃなくて滑空機の射出機。
ひととおり案内をしてもらって、俺たちは大広間のような部屋に通された。
「じゃあ、『創造』の権能を譲渡する前にひとつお願いがあるんだけど……いいかな」
おもむろにナナトが言う。
「じょうと可能なの?」
「試したわけじゃないけど、神候補のあいだ権能は『肉体』に宿る。可能だと思うよ。僕の『創造』なら左手。右手は……『破壊』だっけ? ケイトリヒさん、持ってるの?」
「もってるよ。泣くと発動しちゃって困ったから『言霊』で発動定義したの」
ナナトはそれを聞いてちょっと考え込んでふふっと笑った。
「僕よりずっとちゃんと制御できてそうだね……安心した。でも、1点だけ権能の譲渡に条件をつけたいんだけど……」
「時間軸をそのままにすること?」
「あ、よくわかったね。でも、もしもムッシュラの住人が全員移住していなくなるか全員がそれを望まなくなったら解除してOK。それと、大陸の……属性偏向、でしたっけ? それが改善されて、ムッシュラの住人が普通の生命と同じように生きられるようになったなら、そのときも解除してOK。僕の要望としてはこれくらいかな」
要は、ナナトはムッシュラの人々のために個別の時間軸を「創造」したのだ。
それが中途半端に解除されなければ、権能そのものにはあまり執着はないんだそうだ。
「ナナトが創った時間軸を維持するだけならたぶん僕もきっとできるとおもう……でも問題は、方法じゃない? まさか本当に左手をきりおとすとか言わないよね?」
エルシがスッと歩み出る。
「ナナト様は、真なる神が降臨されたときのために譲渡のことは想定していらっしゃいました。この大陸では、ヒトも魔人も肉体にケガを負った場合、とてもゆっくりと治癒します。擦り傷でも、骨折でも、欠損でも」
最後の「欠損」と聞いてギョッとする。
腕を切り落としても時間をかければまた生えてくるってこと!?
それ、ハイエルフと同じじゃん!
「そ……そうなの。でも、だからって……」
「真なる神成者様。権能は、本来ならば譲渡するようなものではないのです」
「でも権能あるってことは僕もナナトもほとんど神なんだしさあ。ちょっとやってみようよ。試す価値はあるとおもうんだ」
俺はペシュティーノの腕の中から降りてパッとナナトに左手を差し出すと、もたもたと左手を差し出す。
握手するようにギュッと握って「権能うつれ〜権能いただき〜」と念仏のように唱えると、ナナトが噴き出した。
「ふふふっ……なにそれ呪文?」
「ナナトも呪文つくって! きっと僕とナナトの意思がぴったり合えば、権能は移ると思うんだよね! そう信じて、やるの!」
「うーん、そっか。曲がりなりにも僕たち、神の候補者だもんね。やってできないことはないってこと? じゃあ……権能うつれ〜! 権能さしあげ〜!」
互いの左手を握りあったその手を見つめながら、2人でブツブツと適当な呪文を唱えていると、ナナトが一瞬ピクリと動いた。
「……あ、いけそう。なんか……こう、ちょっとずつ、はがれてきてる感覚」
「ほんと? じゃあ受け取り! 権能うけとり〜!」
俺の方は、逆に左手の甲にゆっっっくりシールが貼られてってるような感覚がする。
なんか面白い。権能ってシールみたいな? そう考えるとちょっとマヌケだなあ。
「イテッ」
「あっ……だいじょうぶ?」
ぺたん、とシールが貼られた感覚。
「僕が『はがれてきてる』って言ったせいか、頭の中でシールを思い描いてたらほんとにシールを勢いよくはがされたようなカンジがした。ケガはないみたい」
「よかった。僕もシールを想像したからペタッて貼られた感覚がしたよ」
ナナトと俺は互いを見てアハハと笑いあう。
「神の権能シールとか、最強すぎるね!」
「なんだかちょっとイゲンが薄れそうだよね」
「な……ナナト様、権能が……?」
「うん。無事、移行できたみたい」
エルシは複雑そうな表情でナナトに寄り添うと、左手をとって撫でる。
「ナナト様がお創りになられた時間軸も維持されているようです」
シャルルが近づいて俺を覗き込む。
「ケイトリヒ様、『創造』の権能を……手に入れられたのですね」
「うん、そーみたい」
左手の甲を見つめるけど、これといって変化はない。
「『創造』ってどう使うんだろ。……ここに魔人10万人を乗せられる超巨大浮馬車を作ることとかできるのかな?」
「それはムリ」
空中から短い声が聞こえた。
あ、エンブリュオン?
「ムリなの?」
「この大陸、属性足りなすぎ」
「え……じゃあ帝国に帰ったら、できる?」
「できるっちゃできる」
「ほんとに」
「でも主が干からびる。オススメしない」
「どういうこと!」
エルシが俺と目線を合わせるように大きな身体を折って膝をついて左手をとる。
「『無』から何かを『創造』するにはとてつもない魔力と体力と思案が必要……基本的にヒトの身である限りは物体は創造できない、と考えておいたほうが安全です。その代わりナナト様が作ったような『概念』であれば安全に創造が可能かもしれません」
なるほど、物体は難しいと。
不可能ではないけど、効率が悪い。というか、俺が疲弊する。
「まあ……つくりたいものは精霊がつくってくれるし。目的は権能を得ることそのものだったからべつにいいんだけど。なんとなく得たからには使ってみたいよね」
「まあ……制御を学ぶという意味では一度経験してみても良いかもしれません。では、ケイトリヒ様の指先程度の何か宝石……石でも構いません、『創造』してみてください」
シャルルからお題を出されて、ふと頭に浮かんだのはブリリアントカットのダイヤモンドだ。炭素というありふれた素材でありながら、小さくても価値がある。
俺の指先ほどの大きさでもとんでもない値段になるだろう。
イメージを固めて、「創造のひだりてー!」とマヌケな掛け声をかけると、左手の甲に1メートル四方のおおきな魔法陣が浮かび上がる。その瞬間、クラッとめまいがして尻もちをつきそうになったところを、シャルルに抱き上げられた。
「おっと……一体なにをお創りになったのです?」
ふわふわする頭だけど、左手にしっかり硬いものがあるのがわかった。
ひらいてみると、想像してたより大きい見事なダイヤモンドが輝いている。カットも完璧。
「これは……! なんと、見事な」
「……ケイトリヒ様、こちらもう一つ創れませんか?」
側近たちがどよめく中、いつも俺に甘いペシュティーノだけがサクッとひどいこと言ってくる。
「けっこう大変だったんだけど!?」
「いえ、ケイトリヒ様の婚約者はお2人でしょう?」
……そういうことね。
「小さな宝石を作るだけでも相当な集中力を要したことがわかったはずです。乱発すべきでないことはご理解いただけたかと……それではケイトリヒ様」
シャルルが何かを確信するように俺をまっすぐと見つめる。
俺も言いたいことがわかったので頷く。
「うん……行こう。メディウム・ステラへ」
「!!」
俺の言葉に息を呑んだのは、エルシだ。
「あの空駆ける魔道具で、向かうのですか。たしかに進入方法としては理想的ですが」
「上陸するかどうかの判断は行ってみてからとなりますが、今あの地がどうなっているかだけでも神成者様にご確認いただかないことには、『白き玉座』にたどり着けませんから」
シャルルが言うと、エルシは再び目を潤ませて俺の手をとる。
「このような小さい御身体に、なんというご覚悟……私も随行したいところですが、今まで庇護してきたナナト様たちを置いていくのはあまりに心が痛みます」
「うん、エルシはナナトたちをおねがい。神になったあと大陸をどうするかも考えないといけないし……アンデッド問題を解決したら、そのあと考えよ?」
エルシは俺の言葉に感動したのか、大きな涙をポタポタとこぼしながら「深い御慈悲に感謝申し上げます」と何度も何度もくりかえした。
暗黒大陸の現状は、破滅まったなしってほど緊迫してる状態でもないんだけど。
ないんだけど、ほとんど破滅してる。
ムッシュラの人々はそれが当たり前になりすぎてわかってないけど、ハッキリいってここは地獄だ。特に責め苦はなくてもただただ日常が永遠に繰り返される、無限地獄。
魔人という種がどういうものなのかまだ定義がわからないが、この大陸にいるかぎり死ぬことはなく、繁殖もできないというのなら生命体とはいえない。
メディウム・ステラへ急ぐ理由は、それもある。
ナナトたち3人の異世界人と、魔人を暗黒大陸から解放してあげたい。
俺の国となったデオスレア聖教国の隣をキレイにしたいという目標とは別にもう一つ追加された願いだ。
俺たちはムッシュラでの滞在をそこそこに、ミラネーロを連れてメディウム・ステラに向かうことにした。
イーロとセヴェリ、グルシエルのハイエルフ3人と、アリヒロは本人たちの希望でムッシュラに残ることになった。俺がメディウム・ステラに行っている間、転移魔法陣を設置する役割も担っている。
アリヒロはもともと皇帝陛下の勅命で来ているので、もう少しムッシュラの調査をしたいということになった。
転移魔法陣が設置できれば、帰還もかんたんだ。
もしも設置ができなかった場合でも、通信は1ヶ月くらい保持できる。迎えに来ることも難しくないだろう。
レオが持ってきた異世界メニューは一緒に食べることが叶わなかったけれど、味噌汁とおにぎりとおかずたくさんを置いて出発することに。
ナナトたちが喜ぶ姿を見れなかったのは残念だけど、きっと美味しく食べてくれることだろう。
「0号機、離陸します」
ペシュティーノの声と共に、フワリと浮かぶ感覚。
ムッシュラの中央、市庁舎の屋上にある滑空機の離陸場が離れていく。
「その御力に不足があるとは思えませんが……それでもどうか、ご無事で。心よりお祈り申し上げます」
エルシの涙ながらの見送りの言葉をあとにして、暗黒大陸を飛び立った。
暗黒大陸のムッシュラがある地点から、世界地図上の「パンドラ島」……メディウム・ステラがあるといわれる島までは約2万キロメートル。地球半周だ。
時速4000キロメートルで飛行しても5時間かかる。
なので、一度デオスレア聖教国に戻って少し準備することにした。
というのも、さすがにレオやルキアは置いていったほうがいいと思ったからね。
あと、竜たちも全員つれていきたい。魔導騎士隊も。
危険な訪問になることがわかっている。
万一のことがあったらルキアとレオには俺の「予備」になってもらわないといけない。
レオはその提案を頑なに固辞したけど、ルキアは受け入れてくれた。
デオスレア聖教国に戻ると、ザフィケルが出迎えてくれた。
若い司教だけど、今や彼は俺の聖教国における右腕。というか聖教国の特に聖教関係のことはザフィケルにまかせている。なにせ上層部がほとんど腐ってて全部追放したから、若い彼がトップになっても名実ともなっているんだなこれが。
「神成者様、おかえりなさいませ。あの、報告したいことが」
「またすぐ出発しちゃうからてみじかにおねがい」
「あ、では……ええと、近隣領から宣戦布告がございまして」
「えっ」
「ドラカリス様が単身で赴き、半刻ほどで戦勝しました」
「ええっ」
「つきましては講和条約の書類に目を通していただきたく」
「展開がはやい!」
怒ったわけじゃないんだけど、びっくりして大声になったものだからザフィケルがビビってる。おこってないよ!
「近隣領って?」
「大陸中央に位置する、かつて法国とは敵対していた領地ですね。本気で侵攻してきたというよりも、こちらの出方というか戦力を測っていたような気配があります」
「で、ドラカリスが蹴散らしたんだよね?」
「強烈なブレスを無人地帯にぶちかましたそうで。交戦することなく降伏宣言しました」
ドラゴンらしい戦い方だとおもう。殺す前にちゃんと力を見せてえらいぞ!
あとで撫でてあげよう。
「じゃあ死者はいないんだね」
「ええ、戦死者という意味ではいないかと。それで、代表団が既にルーメン・ヘリカに出頭しているのですが……」
「ちょっと急いでるから、2、3日待たせておいてもらえる?」
「よろしいのですか?」
「え? うん、あ、ひどいことはしないで、ちゃんとおもてなししてあげてね」
「は……はい……」
「いじめちゃダメだよ?」
「それは、はい」
なんか心配な受け答えだな。
「僕が行ったほうがいい?」
「あの、できれば……その、方針だけでも僧兵たちに与えて頂けると」
ん? 方針に迷うくらい扱いが難しい相手なのかな?
「どういうこと?」
「その……周辺領を焚き付けた、主犯ともいえる領の将軍が出頭しているのですが、その人物が、その……自らを『竜人』と名乗っておりまして」
竜人!?
これまた初めて聞くワード。
横で聞いていたシャルルを見ると、彼も眉をひそめていた。
「シャルル、竜人ってなに?」
「さあ……初めて聞く種族ですね」
「ミラネーロ、しってる?」
「いやあ、竜がヒトになったまま、子孫を残したということも考えられるが……あれはかなり稀有な例だったはずじゃし、とんでもなく昔の話じゃ。しかもこの城の中からそういう気配はせんのう。この城におるのじゃろう?」
ミラネーロはスンスンと鼻を鳴らしながらキョロキョロしてる。そゆとこ犬っぽい。
「ギンコ、ゲーレは何か知ってる?」
出迎えに来てくれたギンコたちに聞いても、「聞いたことがない」だってさ。
「それで、ザフィケル。その……えーと、自称竜人だから、なんだって?」
「ええ、要約すると……まあ竜人の祖たる竜を従える神成者様にお仕えしたい、というのが要望です」
なんだ、結果的には入社希望者じゃん。
宣戦布告からの入軍志願。振れ幅が大きすぎんか。
「間に合ってるって返しといて。ギンコ、ジオールをつけるから軽くチェックして、ほんとに竜人か、何か近い種族がないか見ておいてくれる?」
「御意」
「ザフィケル、もしも特殊な種族だったらギンコを連れていけばたぶん黙ると思うから、入軍とかは拒否しといて。領地の所属については条約次第で支配下に置いてもいいよ。ちょうどセヴェリもいないから、ルキアを同席させてくれるかな。練習相手にはちょうどいいんじゃない?」
「し、承知しました」
文官修行中のルキアなら国と領地……要は小国との講和条約締結のいい勉強になると思うんだ。
「準備ができたらすぐ出発するから」
「あっ、それともう1点、ご報告というか、お伝えすべきことが!」
「なに?」
「伴侶のおふたりが、ルーメン・ヘリカの自室でお待ちです」
ぐふっ。
これは無視できない。
「わ、わかった……伝えてくれてありがとう」
「いえ」
ルーメン・ヘリカの20階くらいにある2人の自室に行くと、ジオールとアウロラ、そしてドラカリスを交えてお喋り中だった。
……どういう組み合わせ?
あ、お喋り好き?
「マリー、フラン、ただいま」
「まあっ! おかえりなさいまし、お待ちしてましたわ!」
「暗黒大陸はどうでしたの?」
「うん……」
どうと言われるとまとめようがないけど、アンデッドだらけの光景は怖気が走るものだったのでいい旅とは言えなかった。
答えあぐねていると、フランが続ける。
「私たち、冒険のためにやってきたはずなのにずうっとこの塔に閉じ込められて退屈しておりますの。次のご出発には、必ずついてまいりますわ」
「ええ、そうフランと話しておりましたのよ。私たちこれでも強いのですよ?」
「ええ!? い、いや、さすがにメディウム・ステラには……今回の外遊が終わって、その後から一緒に行こうよ。今回のお出かけは、暗黒大陸と同様に未知の大陸なんだよ」
「まあ、それはまさにぴったりの冒険ではございませんか!」
「初めて見る光景を、ケイトといっしょに過ごしたいわ! ねえ、いいでしょう?」
「あぶないからだめ! 過去の神が封じた危険なあれこれがいるって、普通の大陸よりもずっと危険だって聞いてるから……」
「……だからこそ同行したいのですわ」
「未知は冒険にうってつけではありませんか! 神が封じたあれこれというなら、神を夫に持つ私たちにぴったりですわ!」
まだ婚約者だからね?
とはいえ……暗黒大陸の光景を思い出すと、期待に胸を膨らませている2人を意気消沈させること間違いなしだ。
アンデッドで埋め尽くされた土地、わずかにその支配から逃れた台地で暮らす魔人と異世界人は同じ1年を繰り返しながら3億年近くを生き延びた時の漂流者……。
今すべてを語ることはできないが、アンデッド大陸での「冒険」は素敵なものではなかった。悲しい絶望と焦燥感に駆られるばかりのツライ旅だったとも言える。
「……ごめん、さすがに連れていけない。ドラゴンを全員つれて行くけど、それでも僕の安全すら守れるか心配なくらいなんだ。魔導騎士隊も厳選しようと思ってる。これから向かう場所は、何の情報もない、常識が通用しない場所なんだ」
「……危険だからこそご一緒したいという気持ちはわかっていただける?」
「ケイトが神になるために向かう場所なのでしょう? 見届けたいと思っておりますわ」
「……ほんとうにごめん。戻ってきたら、3人でドラッケリュッヘンを見て回ろう。護衛もつけずに冒険しよう。ね? それでいいでしょ?」
2人はぴたりと黙って俺を睨みつける。
さすがにここは折れるわけには行かない。
俺も黙って睨み返す。負けないんだから!
「……だめです。一緒に行きます! ねえ、ドラカリス! もしも予想外のことがあっても、ケイトのことも私たちのことも、守ってくれるわよね!」
「もちろんだ! まかせろ!」
「ちょ、ドラカリス。パンドラ島の話は聞いてるでしょ!? 歴代の神が扱いに困ったアレコレが封印されてるって……」
「そのアレコレが見たいのですわ! ケイト、格言にあるでしょう? 『ラウプフォーゲル女を黙らせる方法は2つだけ、願いを叶えるか、息の根を止めるか』ですわ。私たちの願いを聞き入れないというのなら、黙らせてごらんなさい」
マリーが俺に挑発的な視線を向ける。
……んもー! これだからお嬢様は!
「主、伴侶はきっと主の邪魔にはならないとおもうよ」
「お荷物にもならないとおもうよー?」
ジオールとアウロラがポムン、と音を立ててヒト型からおにぎりサイズに変身して、俺にまとわりつく。
「邪魔ともお荷物とも思ってないって! 危険だから心配なの! ヤバい魔術師とかヤバい魔獣がいるって言ってたじゃん!」
「でも彼女たちは主の伴侶なんでしょ。きっと、これから一緒に長い時間を過ごすことになるよ? 共通の思い出があれば、きっと主の神としての時間は豊かになるはず!」
「そうそう。主、伴侶は大事。神にとって伴侶は、長い時を豊かに生きるため、ヒトとしての心をわすれないための大事な存在だよ!」
「え」
……待って。
マリーとフランも味方を得たことに満足そうに笑ってるけど、ちょっと待って。
「もしかして、僕が神になったら……マリーとフランも、その……不老不死的な存在になる……ってことなの? そんなことができるの?」
「それは主次第だと思うけど……まさか自分だけ永劫を生きるつもり!?」
「ぜったい、絶対それはやめたほうがいいって! これは精霊のなかでも常識。『孤独な精霊は悪霊になり、孤独な神は邪神になる』って、これジョーシキ!」
ヒトが社会を持つ性質である以上、それはある意味真理なのかもしれない。
孤独を好むヒトもいると思うけど……社会的な孤独と、絶対的な孤独は別なのかもしれない。
「ほら、ほら! 精霊たちもこう言っていますわよ」
「私たちは、ケイトの何? さあ、仰ってごらんなさい」
俺がブスッとしていると、マリーが懐柔にまわった。
「もしも今回の同行を許可してくれたら……第三、第四夫人を許可してもいいわよ。神になる過程を見た私たちに、並び立つものはもういないもの」
それはべつにいらない。
プイ、とそっぽを向くと、今度はフランのターンだ。
「ケイト。世界地図の中央にある島がもしも帝国領地になったらと考えてみて。世界の中心。ケイトのデオスレア聖教国に、暗黒大陸が解放されたら交易の中心はどこが理想的だと思う?」
あっ。まさかの商業路線で攻めてくるとは!
「かつての神が扱えなかったアレコレがどういうものか知りませんけど、他に類を見ないものなら観光地にしてしまえばよいではありませんか」
フランの目が……ガノと同じ光を宿しているッ!
「私たちの夫となるケイトが、そんじょそこらの神と同等程度でおさまるとは思っておりませんわよ」
「ええ、歴代最高にして最強の神になることでしょう。そうなれば、パンドラ島のアレコレなどひとひねり。そうでしょう、ケイト?」
俺の……俺の婚約者が強すぎる!
あとそんじょそこらの神ってどれ!
比較対象がわかんないけど言いたいことは伝わった!
「はあ……わかったよぉ」
ラウプフォーゲル男は子どもと女性に弱い。
そして子どもである俺もラウプフォーゲル男子。
女性には弱いのであった。




