第2部_5章_200話_ミラ爺の突撃お国訪問 2
「え、あれってクレーン? 台地の下へ伸びてますが何をするものなんでしょう」
「見てください王子! あれはきっと観覧車ですよね!」
「あそこに見えるのはロケットでは? 宇宙開発まで手掛けているということか!?」
俺といっしょに浮馬車に乗って暗黒大陸の「エリンギ台地」にある魔人の街「ムッシュラ」までやってきたのは護衛のための側近とハイエルフ、そしてレオとルキア。
ルキアは文官としてまだまだ勉強が必要ということで魔導学院の一部の授業と、そして王国で売り出す暖房器具のプロデュースのためフォーゲル商会と、そしてさらに文官修行の一環のためシャルルの弟子として3足のわらじってやつで駆け回っててなかなか俺のところにいなかったんだけど。
今回暗黒大陸の街、さらに魔人の街で異様に近代的な文明を持っている、と聞いて居ても立っても居られない感じでやってきた。名目としてはシャルルの付き人だ。
父上と、皇帝陛下……つまり中央に出す報告書のために選ばれたというわけ。
まあほとんど公共放送用の記録カメラで撮影して映像を持ち帰るので、報告書はかなり限定的な情報になるはずだけど、そういう部分こそ大事だ。
初めての公務で緊張しているかな、とおもったけど顔色が悪いのはレオのほうだ。
「レオ、だいじょうぶ?」
「ああ、はい。……いいえ、あまり大丈夫じゃないかもしれません。これだけのアンデッドを目にしてしまうと、王子の仰る通り、この世界は崩壊が間近だったんだなと」
「たしかに先程の光景は……ちょっと、軽く絶望するしかないものですよね。こんな大陸に街があったことは考えてみればおかしいとも思います。なにかきっと重大な秘密が隠されているのでは」
レオの言葉に、ルキアも同意する。
確かに、属性崩壊は生命体全てにとって命取りとなる事態なのに、どうしてムッシュラだけ存在を許されたのだろう。
そういうところも含めて調査するための、暗黒大陸上陸である。
「いくら僕の御護りで守られてるとはいえ、下に落ちたら即死とゆーか即アンデッドだからね。注意してね」
「王子に頼まれても台地のヘリには近づかないですよ」
「さすがにね」
レオとルキアはいいかんじにビビリでよかった。
まあ戦闘職じゃないっていうのもね。
そして、今回の暗黒大陸上陸に、皇帝陛下側からどうしても同行させたいとねじ込まれた人物、それが……。
「いやあ、壮観、壮観……確かにあの街のシルエットは、京浜東北線から見た工業地帯みたいに見えるよねえ。ちょっと規模は違うけど」
「アリヒロさん、それ北海道出身の僕には通じないっす」
「俺も北関東出身なんでー」
「あれっ、レオ君は横浜くらい行ったことあるでしょー?」
「いや、あんまり……てかそんなこと報告書に書いても、通じるの異世界人だけじゃないですか」
「いや! ところが、ケイトリヒ様の考案された空想出力装置で異世界の風景は割と中央では共有されているんだよ! 公共放送のおかげで事実を映像に落とし込む、という概念もこの世界では認知されつつあるしね! あっ、そういえばケイトリヒ様は東京出身だったんじゃないっけ!? 世田谷区?」
帝国で召喚された、4人の異世界召喚勇者のうちの1人。
中央で皇帝陛下の文官として働くこと15年になる、ミト・アリヒロ。
たしかに日本人、いわゆるアジア顔なのにファンタジーっぽい衣装がしっくり似合う風体はさすが15年の年季、と言える。まあ、帝国の異世界召喚勇者は皆こちらにきて10年以上経つベテランなので落ち着いたものだ。
「や、目黒区……だったと思う。母の里帰り出産のおかげで産院は八王子……ってそういうことは覚えてるんだけどな〜、名前が思い出せないんだよな〜」
というわけで、今回の暗黒大陸上陸のメンバーは異世界人3人も一緒。俺を含めると4人かな? でも俺は異世界人というか異世界転生人なので、どうにも皆とちょっと扱いが違う。まあ見た目からしてね。仕方ないけどね。
「この……ムッシュラにも、異世界人がいるんだよね」
「うん、もうイーロたちは会ってるそうなんだけど、イマイチ話がよくわからないんだよね。もしかすると異世界人側があまりコミュ力が高くないのかもしれない」
「うんうん、俺たちからするとアリヒロさんやルキア君はちょっと別格だよね。コミュ力もそうだけど、地頭がいいっていうか。俺は料理ができることだけが取り柄だけど、もしその特技がなかったら上手くやれてたかどうか、それが割と普通な方だと思う」
「いやいや、レオさんも自覚がないだけで賢い方ですよ。ケイトリヒ王子の周囲に我々が集まったのは、必然と言えるでしょうね。もしもイツロウのように子供嫌いでコミュ力のない人物は、王子のもとには来ないでしょう」
「まあイツロウは……中央にいたほうがいいよね。能力的にも」
俺が言うと、アリヒロさんはあら、とおばちゃんのように手を口で押さえた。
「やっぱり王子にはイツロウの能力、バレてましたか〜。まあ、王子ほどのチートがいたら確かにイツロウくらいは中央にいてくれたほうがいいですよね。彼が王国や共和国で召喚されてなくて本当に良かったと思いますよ。誰に対しても態度悪いですから……」
アリヒロさんはおおらかにワハハと笑ってくれた。
ついでに、異世界人の「異能」については情報表示の魔法で俺だけは全てが見えるということをルキアにもネタバラシしておいた。
まあ、ルキアもレオも自分から明かしてくれたし、アリヒロさんは何の異能も持ってないからここでは問題なかったけど。
さすがに他の異世界召喚勇者の異能が見えるというのは、アリヒロさんにとってもチート中のチートだったみたい。
会話している間に、浮馬車はエリンギ台地の街、ムッシュラの直ぐ側に着陸した。台地の上には草も木も生えてるし、川も流れている。
ムッシュラの街の入口にある大きな門の外には、俺たちを迎えるための人々が20人ほどゾロゾロといる。その中に、ミラネーロとイーロが見えた。
「お出迎えだ」
浮馬車を降りると、おもむろにペシュティーノに抱き上げられた。
ドラッケリュッヘン大陸上陸前に聞いた「地帯属性偏向」は「大陸全体がある属性に偏っている」という話。だが暗黒大陸に至っては「大陸全体がある属性に完全に支配されている」という状態だ。いわば「単一属性支配地帯」。
【命】属性の単一支配となるが大陸としての形が残っている以上、他の属性もゼロではない。【命】が100としたら火水風土光闇は5くらいは残ってるんだそーだ。
ただ、【死】はゼロ。
上陸前にデーフェクトスから言われた言葉は「この大陸ではワシを呼ばんほうがいい」だそうで。もしもデーフェクトスが顕現してしまえば、飽和状態になっているこの大陸のアンデッドの全てがデーフェクトスの【死】属性を求めて集まるだろうって。
おそろしすぎん?
俺はそれに対処できない。
なぜならまだヒトだから……もどかしいけど、暗黒大陸の属性を正しくするには神になるしかないってことだ。
とりあえずどういうことかというと、俺はこの大陸の【命】属性をゆるやか〜に吸収するためペシュティーノにくっついてたほうがいい、ということ。つまりペシュティーノの抱っこがデフォルトなわけです!
決して歩くのがダルいからとかそういうことではないですんで!
ご理解たまわりたい!
という話をイーロから現地の方々にしてもらったそうなので今日はずっとペシュティーノの腕の中です!
「なんと……なんと、神々しい御姿か。あれが、我らの求めた神の、真なる御姿」
イーロの隣の巨大な女性?が膝から崩れ落ちて涙を流しながら俺をひたと見つめている。
「わああ、かっわいいな〜! 本当にあれ、中身が異世界人なの?」
さらにその隣にいたのは、黒髪黒目の青年。彼がおそらくこの地の異世界人……
「真っ白! なんだかこの世界に来て白いもの久しぶりに見た気がする!」
「え、姿が子どもとはいえ中身は成人男性ならあの状況アリ?」
さらにその隣にも、黒髪黒目の2人の少年。
「あれ……えっと」
俺が戸惑っていると、青年が慌てて自己紹介する。
「あっ、自己紹介しますね! いちおう、僕がこの街を支配する「創造」の権能を持ってる川口七音です! んで、この2人は僕のサポート的なことをしてくれてる……」
「あ、えーと僕は小林俊行です!」
「僕は澤部秀麿! ねえねえ、魔法が使えるって本当!? 魔獣もエルフも獣人も、ドワーフも本当にいるの!?」
ナナトはヒョロリとしていて細身で、柔和な顔立ちをした育ちの良さそうな坊っちゃん風だ。トシユキは目が細くて鼻が横に広がった愛嬌のある顔立ちに、少しずんぐりした体型で、イメージは野球部のキャッチャーか柔道部って感じ。
そしてヒデマロは大きな目とサラサラの長い髪をしたアイドル少女って感じの見た目。
「男の娘」を自称するアランとは気が合いそうな気がする。
「僕、ケイトリヒだよ。前世の名前はわからないから、ケイトリヒって呼んでね。彼はレオ、茨城県出身の料理人。こっちはルキア、北海道出身で暖房の開発と文官修行中。彼はアリヒロ、帝国の文官として15年務めるベテラン異世界人……そういえばアリヒロの出身ってどこ?」
「ええと、千葉です……チーバ君のお腹あたり」
わかんないよ。でもそうなんだ。
「あっ、彼が料理人!? ま、まさか日本のメニューの再現は……」
ムッシュラの異世界人3人が急に色めき立つ。
「最近ノリも再現できたし、日本食はほぼ完璧に再現可能ですよ。もちろんお持ちしてます! 異世界の日本人と仲良くなるには、やっぱメシっすよね!」
レオがグッとサムズアップで答えると、3人が「やったー!」と飛び上がった。
周囲にいた魔人たちは驚いたようだけど、微笑ましい感じで見守られてる。
住民たちとの関係は良好のようだ。
「ま、とにかくまずはこの街について考えよ。ねえ、この街……というか、台地はどうやって維持されてるの? ここ以外は大陸全体が完全に【命】属性に支配されてるよね?」
「え、【命】属性?」
「なにそれ、そんな属性あるの?」
「初耳なんだけど……」
「え」
そこからかー。
俺が酸っぱいもの食べたような顔になっていると、ヒデマロがくすくす笑う。
「ほんとかわいい! 口調もなんか舌足らずで……ねえ、街の中案内するから、そこでお話しながらすり合わせしよ! 再現料理も気になるし……中央塔に行けばこの街の全体が見れるよ」
「……それもそうだね。ケイトリヒ……王子、と呼んだほうがいいのかな。僕たちは真なる神になる貴方を歓迎するよ。たとえ王子の存在が僕を殺すことになっても、それはとても幸せなことだ。理由はすぐにわかる」
ナナトが少し悲しげにニコリと笑う。
イーロからの報告にあった『時間軸を別に設定』という言葉が頭をよぎった。
「うん、わかった。じゃあ案内おねがいね」
俺の言葉を聞いて、出迎えの一団は街へと入る。それに俺と俺の側近、レオとルキアとアリヒロ、そしてハイエルフと続く。
街の門には開閉するような扉はなく、アーチがあるだけ。
そのアーチを超えると、街はまるで新宿の雑居ビルの狭い通りに入ったような圧迫感があった。
「たてもの高いね」
「土地が限られてるからね〜、なんかちょっと日本っぽさあるよね?」
ケラケラとナナトが笑う。
「アスファルトは再現できなかったからブロックだけど」
「おかげでちょっと商店街っぽさもあるかな」
トシユキとヒデマロが会話に絡んでくる。
「俺の地元にあった商店街とちょっと似てるかも? アーケードとかさ」
「あのシャッターとかちょっと日本っぽいですね」
レオとルキア。
「……子どもがいないね」
「ああ、そういえば王子……子どもを見るのはいつぶりかな。いや、召喚前以来かも? 小柄な魔人もいるけど、やっぱり子どもってフォルムが違うね」
ナナトが笑った。うん、多分彼ら、説明下手だわ。
でもなんかもう察した。
「ナナト。ムッシュラがこの状態になって、どれくらい経つ?」
「あ〜……ええと……」
ナナトは何かを指差すように数えている。
「えーと、2億8千……6百と、73万……2千9百……年、くらいだね。まだ3億年はたってなかったか」
「え?」
「……どういうこと?」
「……『別の時間軸』……そうか、そういう……ループさせてるんですね、わざと」
ルキアは耳を疑い、レオは理解できず、アリヒロはもう理解した。
「うん、そう。みんなと僕たちの心を守るためにね。1年経ったら、僕たちキレイに記憶を失うようにできてる。でも、記憶だけなんだ。記録は残る。そうやって街は少しずつ発展していった。でも、人口は僕がこの街に来たときが800万人くらいで、今はもう10万人を切ってる。みんな、やっぱりループする世界には耐えられないみたい。異世界人も、あと3、4人いたような気がするんだけど……もう覚えてないや」
振り返って笑うナナトがすこし歪んで見える。
「範囲は……街?」
「うん、僕が『時間軸支配』できているのはこの街の防壁の内側。ここには敵はいないから、あの防壁はただ『結界』の位置を示すだけのものなんだ。外からヒトが来た記録はないけど、この街の住人じゃないあなたたちには僕の支配は効果がない。それは間違いないよ」
「あなたは『創造』の権能で……この街の時間軸を『造った』というのですか」
「そういうこと」
シャルルの問いに、ナナトはピッと指さして答えた。
「でもね、この街の住人は生きてる。アンデッドにはまだなってない。死なないけど、アンデッドじゃない。いつかこの世界から解放されると信じて、飛ばずに耐えた人々なんだ。だからね、王子。僕は彼らの移住先を紹介してもらいたいと思ってる」
「飛ばずに」のところで街からせり出したクレーンをほうをクイッと顔で示す。
「あの、クレーンみたいなのは」
「あれね、僕が召喚されたばかりの頃はまだ『下』にはアンデッドがちらほらいるだけだったんだ。『下』の資源を運ぶためのクレーンだったんだけど……いつ頃からか、もう吊り下げるワイヤーも切り落とした。油断すると、アンデッドが登ってくるようになったんだよ。だから、あれは『飛び降り用』。前世の感覚だと飛び降り自殺、といいたいところだけど、飛び降りても死ねるわけじゃないんだよねえ」
アハハ、と軽く笑うナナトとトシユキ。ヒデマロは困ったように苦笑いするだけだ。
アンデッドになれば、人格も記憶もすべて失って無我でいられるんだろうか。
リンスコット伯爵の子息、エーミールを考えるとそうとも言えない気がする。
肉体がグズグズに腐っていても、エーミールは自我をしっかり持っていたし音を聞いて風を感じていた。クレーンの先から飛んだ人々が、下でどうなったかはわからない。
エリンギ台地の高さはだいたい100メートルくらいだろうか。
そのくらいの高さから落ちれば、普通は死ぬ。
でも、偏属性のせいで死ねないとしたら……想像もしたくないけれど、飛んだ人々は今でも下で彷徨っているかもしれない。
意識は失われていることを願いたいけど……。
「ループしていることは、街のヒトはみんな知ってるんだね」
「うん。1年経てば記憶は失われるけど、記録は残る、って言ったでしょ? 2億8千年前のある日から、この街の人々の記憶は止まってる。1年が経ったら、また1年前の自分に戻る。僕の創造した『時間軸』は生物にしか作用しないんだ。あのクレーンも、この街も、2億8千万年の間に何度も作り直してるよ。それくらいの仕事がないと、食事も睡眠も必要としない人々がやることなんてほとんどないからね」
ロムアの民とはまた違った業苦を背負った彼らに、俺は言葉を失くしていた。
……だが、ナナトの造った「独自の時間軸」のおかげで、この国の人々は先行きの見えないアンデッド地獄の中でもどうやら明るく生きてこれたようだ。
ナナトたち異世界人を取り囲むように一緒に歩いている魔人たちは、別に護衛というわけでもこの街の高官というわけでもなく、ただの野次馬だったようだ。
魔人たちの姿は角が生えている者、腕が4本ある者、翼を持つ者、その生態はあまり一貫しておらずほとんど獣のような姿もいる。しかし、そのような違いは本人たちは全く気にしてない。
「記憶を失うことが……この街が『絶望せずに』生き続けられた理由なんだね」
「そうとも言えるかもね。いくら全てを忘れるとはいえ、記録は残るってことは、ある程度の時間経過はわかる。その気になれば個人で記録をつければ自分が一体何年間、同じ時間を生きているのかわかる。そうやって事実を目の当たりにした結果、結局絶望に飲まれて飛んだ人たちも少なくない。そう考えると、今生き残っている連中は底抜けにノーテンキで明るいヤツらばかりってことも言えるかもしれないよ」
ナナトがカラカラと笑う。
それに、魔人たちも同調して笑った。
笑えるんだ。
笑って暮らしている。
周囲はすべてアンデッドという地獄の中でも、小さな面白さやわずかな明かりを共に分かち合って笑う。
彼らは、まさにこの世界の「崩壊」の最中に取り残された難破船の遭難者だったんだ。
死ねないことは、逆に生存のための争いをせずに済んで逆に良かったのかもしれない。
「ナナト」
「うん?」
「僕が、ぜったい解放してあげる。移住したいっていう魔人がいたら、今ならデオスレア聖教国っていう僕の国もできたし。ラウプフォーゲルはちょっと段階踏まないと難しいけど、デオスレアなら僕の一言でみんな言うこと聞くから。1年くらい時間があれば、10万人の魔人を受け入れることだって不可能じゃないよ」
俺の言葉に、ナナトもトシユキもヒデマロも、魔人たちもポカンとしている。
「移住……そうか、移住……可能なんだね」
「ヤバいじゃん。マジで夢見てたことが叶っちゃうかも! このアンデッドの海を超えてここまで来てくれたことも奇跡だけど、移住も可能だなんてさ! もう奇跡だよね! これが僕たちの夢見てたハッピーエンドだよね!!」
「この大陸のアンデッドを消し去るのは? いくら神になっても難しいかな」
「それは……神になってみないとわからない」
俺の歯切れの悪い返事にも、3人は目を輝かせた。
「それは……なんとかできる可能性も残されてるってこと!?」
「う、うん。一応ね」
トシユキとヒデマロは色めき立ったが、ナナトだけは「うー!」と言いながら顔をしかめて笑った。
どした?
「うーん! 『創造』の権能を明け渡すために、僕が死ぬことは別に構わないって思ってたんだよ。だって3億年近くも生きてきたんだ、そろそろ死んでもいいかなって。王子が僕を死なせてくれるなら、受け入れようって。でもさすがに、予想もしてなかった未来が見えてしまうと、それを見てみたいって気持ちになっちゃうなあ〜……って」
「そうだよ! 僕はナナトを殺したくない。本当は、死にたいって思ってほしくもない。だってそれが生命として当たり前の本能でしょ! 死ぬことでしか『創造』の権能を譲り受けられないなら、僕はその権能が無くても神になってみせるよ!」
俺の言葉に、その場がシーンとなった。
「ケイトリヒ様……!」
震える声を上げたのはシャルルだった。
しまった、コイツを喜ばせるつもりはなかったのにな。
「この大陸ね、外からは『暗黒大陸』って呼ばれてるんだ。誰も近づけないし、近づいたら誰も戻ってこないから。人々にとってはその程度の存在だけど、世界にとってはやっぱり大陸そのものがこの世界全体の『歪みの集結地点』なんだ。だから、この大陸はどうにかしたい」
せっかく俺の国になったデオスレア聖教国も、暗黒大陸というアンデッドの権化みたいなものがすぐ近くにあったら発展しようにも発展できない。
聖教法国がラウプフォーゲルにとって「ヤベー国だからどうにかしたい」国だったのと同様に、やっぱり「ヤベー大陸だからどうにかしたい」んだよね。
簡単な理由だ。
それができる可能性があるっていうなら、神にだってなってやろうじゃないの。
「どうにか、って言うけど……それって、一応確認なんだけど、つまりアンデッドを消し去るってことだよね?」
「そうだよ?」
俺がキョトン、と言うとその場にいる魔人たちは顔を見合わせる。
「あ……アンデッドに、自分たちが含まれてるか心配? んー、そのへんは調整できると思う……多分。ってか、キミたちも一緒にどうにかしちゃうような手段だったらそれはダメなやつ」
3人と魔人たちは、やや間を置いてドッと笑った。
え、今の発言で笑うトコあった!?
「うわー、すごいいい神様キタ~」
「いやー3億年生きた甲斐あったわー! まあ1年しか覚えてないけど!」
「そうなるとアレだよね、また……子どもが生まれるようになるのかな」
ヒデマロの言葉に、魔人たちがハッとなった。
異世界人はともかく、魔人たちはこの世界の住人。【命】と【死】の属性バランスが崩れた状態ではどんな生命体でも繁殖が不可能だということは、デーフェクトスから聞いていた。
「魔人たちはかつて普通に子どもを産んでたんだよね?」
「うん……でも3億年の間に、いつの間にかいなくなっちゃった」
「俺たちは別にさ、子どもなんて欲しいとは思ってないけど。魔人たちは種として生き残って欲しいというか、そういう」
どうなのデーフェクトス……と聞きたいところだけど、今は呼べないので。
どうなのエンブリュオン?
「わっ」
周囲の魔人とナナトたちが俺の背後を見て驚く。
振り向くと、5メートルはある天使の羽を背負った真っ黒の石像がぷかぷか浮いてる。
あっ……ブリから天使って進化の過程すっ飛ばしすぎじゃない? 哺乳類とかサルとかナシ? っていうか人間って進化すると天使になるの? 知らなかったよ。
「えっと、エンブリュオン?」
「あい」
「え、その姿で喋り方は進化しないの!?」
「しない」
「ええ……いやまあそれはいいや、どうなの魔人の繁殖について」
「だいじょぶ」
「まってもうちょっと詳しく」
「属性バランスただしくなれば子どもできる」
「おけ、じゃいいや」
「ばい」
シュルリと煙になって消えるエンブリュオン。
マジで俺の精霊神って個性強すぎんか!?
「……大丈夫みたい」
「い、いまのなに?」
「召喚獣!? いや、天使召喚みたいな!?」
「黒い石膏像みたいな……でもこの大陸では見慣れてるっていうか」
大陸全体が【命】属性に満ちているから、一時的にデーフェクトスと同等の姿をとれたんだと思う。きっとドラッケリュッヘンに戻ったらブリだよ。いいとこマグロ。
といってもその説明が面倒なので、俺の守護精霊ってことにしておく。
【命】属性どころか、基本4属性の話すら怪しい彼らなのでちょっとこの件は後回しね。
「というわけで、エルシ。キミに、『創造』の権能をナナトを死なせることなく僕に移譲することができないか、方法を相談したい!」
融合ハイエルフのエルシは、恭しく腰を折って俺の言葉に頭を下げた。
「さすが世界を統べる世界が認めた主にございます……教導者にして救済者たる私めが、必ずやお望み叶う方法を見つけ出してご覧入れます」
「ふん……大仰なことを言ってますが、『創造』の権能が宿るのは左手。異世界人から左手を切り落としたところで死にはしないでしょう。解決ではありませんか」
シャルルがドヤ顔でペロッと言うと、エルシがすごい不愉快そうな目で睨んだ。
そゆとこやぞシャルル。
2026年初めての更新です。
本年もよろしくお願い申し上げます!
2026-01-14修正 『創造』の権能が宿るのは右手 → 左手 でした。




