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第2部_4章_189話_半神_3

「えっ! カブールが、逃げた!?」


クロイビガー聖教法国の首都、トリビュネクス。


あらため、帝国領デオスレア聖教国、首都の名はグラディアーク要塞都市に改名。

そして俺が作ったモダンな塔は市民から密かに「神の塔」と呼ばれていたので、慌てて名称決定、その名も「ルーメン・ヘリカ」。


法国が解体してからこの2週間は、ほぼ名付けに時間を費やしていた気がする……。

父上や皇帝陛下と直通通信を開設して、毎日毎日報告と相談。


そんななかガノが都市の経済活動を把握し、シャルルが政治体制を掌握、オリンピオが軍事・防衛面を統括し、グルシエルが宗教面での掌握を担い、それら全てをペシュティーノがまとめる。

だんだんと法国のヤベー事実がいろいろと明らかになってきて、その改革・改善案とか。

さらにヤベー資金の存在が発覚したりして、ガノが頭を悩ませたり。


とにかく聖教法国、信じられないくらい中央が好き放題やってたってことが判明。

もはや国としての体裁を成してないレベルで好き放題してた。

盲目的に服従する国民なので法律も司法もろくに機能しておらず、聖職者の一声で功罪が決まるという、なんとも恐ろしい制度だったのを変えたり。

ヤベーことばっかりしていた聖職者は全員、精霊様の厳正な審査のもと、全員都市から追放してやった。


「もう2週間も経ったの!?」というくらい、本当にあっという間だった。


そんな中、過去の悪行を吐かせる目的で地下牢に拘束していた仲裁者(ポンティフェクス)このブノワ・カブールがこのたび脱獄して逃走したという報告が。

ちなみにリク・マツモトも同様に拘束中。

でもそんなにひどい環境じゃないよ?

内装はシンプルではあるけど清潔だし気温も快適だし、ちゃんと柔らかい寝具もある。

拷問なんてしないし、忙しすぎて多少、放置はしてたけど暇つぶし用の本とかも与えてあったのに。


「……リクは?」

「彼は全く関知してなかったようです。逃亡の事実を知って動揺しておりました」


ペシュティーノが淡々と報告する。


「逃げるって言ったって……どこに?」

「シャルルいわく、ハイエルフ独自の関知魔法?とやらで、探そうと思えば探せるそうですが……いかがいたしましょう?」


追うべきか?という質問なんだろう。

共和国の枢機卿グルシエルが提案してくれた「名を奪う」というハイエルフにとって最も重い罰を課すとしたらとしたら、しょーじき場所は関係ない。

ハイエルフにとっては人間とはちょっと様相の異なる「処刑」についても、追手をかけて処するだけならおそらく一両日中に完了するはずだ。


書類にハンコを押すだけの簡単な作業なのに、右手も左手も目も割と限界。

俺は目を通していた書類をポイと机に投げ出して、俺専用に設計された椅子の背もたれに身を預ける。


引き継ぎと呼べるほどのものはなかったが、隠されたあれこれは既にハイエルフの流儀で情報のすべてを引き出しているそうだ。

ハイエルフ同士は「交感」という方法で記憶や感情を共有することができるんだって。

あまりやりすぎると人格が混濁するから本人たちはやりたがらないそうだけど、今回ばかりはコトがコトだけに複数人のハイエルフが分割して「交感」し、カブールのが行ったこと、知っていることをすべて抽出した。


なので、連れ戻す理由もないのだ。


「……名を奪われることが、こわかったのかな」

「どうなのでしょう……ハイエルフにとっては死よりも恐ろしいことだとグルシエルは言っていましたが。彼の心情を推し量る理由も、ありません」


ペシュティーノは徹底的にブノワ・カブールを冷遇する。

まあ彼の悪行を全部知ったらそうなるのもわかる。


大人たちがあまり俺に聞かせたがらないので俺もあえて詳しくは聞かないでいるが、悪行と呼べることは全てやってるくらいの勢い。

人身売買、人体実験はもとより、法国の支配に反対した集落を焼き討ちしたり、思想統制したり、強制連行したり、奴隷労働させたり、妊娠・出産まで管理化においたり。

当時のカブールにとっては国民を国民とさえ思っていなかっただろう。ヒトを家畜として見ているような所業は、確かに子どもに聞かせていい内容じゃない。

いや、中身は大人ですけどね。俺は。


現行通りにしておくことは少なく、改革すべき点は多かったけど役に立ってくれたのはザフィケルを筆頭とした反カブール派の聖職者たち。

彼らはもともと問題意識を持っていたし、俺が決定した改革に対してとても従順にコトを進めてくれる。


俺の神成者(ディフィカトゥス)の立場が活きる活きる。

側近たちが話し合いで決めた改革案にはちょっと難色を示しても、その後に「俺が承認した」という話をすれば手のひら返しで喜んで従うそうだから信仰ってやっぱりこわい。


こんな最悪の国だけど、いい部分もわずかにあった。

それは教育水準の高さ。


法国の集落には必ず聖殿があることが必須で、さらに6歳以上の者には文字と簡単な計算を教え込まれている。

聖教の教義が書かれた聖典を読ませるためのものではあったけど、これは素晴らしいことだ。


原始人なみの文明しか持っていなかったアイスラー公国と違って、こちらでは支配者が変わり、国の法律が変わったことを紙媒体……掲示板、あるいはチラシや張り紙などで知らせしめることができるからだ。


アイスラー公国、もといガードナー自治領の識字率は脅威の1%以下という水準。

そのため今でも「伝達人」という職業が必須で、国民に広く公示する内容を伝えるためには彼らを頼るほかない。

職務に忠実ではないズボラな伝達人がいた場合、その人物が担当した地域には不確実な公示が届いてしまい税収などにも影響が出るとぼやいていたのはスタンリー。

スタンリーも統治に苦心してるみたいね。

ウンウン、俺と同じ。


俺の場合は手足以上に動いてくれる側近に、父上と皇帝陛下という強力な支援があるからほとんど何もしてないんですけどね!

いや、うそ! してるしてる! 名前つけたり!


「放っておこうか」


俺が言うと、ペシュティーノは書類を書く手を止めて俺を見て、片眉を上げた。


「カブールが逃げて何をするのか、ちょっと興味ある」

「……泳がせるということですか」


そう言うとすごいエラソーなことしてるみたいに聞こえるけど、まあいいや。


「どのみち逃げ切れるとはあっちも思ってないはずだし、マズいことになったら名を奪えばいいだけだから」


何を思って逃げたのかわからないが、すでにカブールは俺のちっちゃな手の中。

活かすも殺すも、逃がすも連れ戻すも自由となると……正直そっちに構ってられないというのが本音。


そう、カブールの逃亡なんかに構っちゃいられないんだよ!


「それよりマリアンネとフランツィスカはなんて!?」

「一週間以内に受け入れ態勢を整えなければ公爵閣下と皇帝陛下に『婚約者の権利』を履行すると宣言が」


「のおおおお」


実は、カブールの逃走よりも前に俺を悩ませていたのは婚約者の2人が「今すぐ合流したい!」と再三お手紙をくれていた件だった。

どうやら俺が聖教法国を制圧した話はあっという間に帝国に広がり、アイスラー公国以上にセンセーショナルなニュースとして話題なんだそーだ。

公共放送(エフ)情報。


まあ、そういうわけでマリアンネとフランツィスカがその聖教法国を見たくて見たくてしょーがなかったようで、ものすごくお手紙で圧をかけてきていた。俺、タジタジ。

受け入れ態勢が整ってないという理由で先延ばしていたけれど、まさか最終奥義の「婚約者の権利」まで振りかざしてくるとは思っていなかった。


その「婚約者の権利」とは、女性側からしか使えない最強の権利。

婚約者は、好きな時に婚約相手に会うことができる、という権利を帝国ではなんと法律が保証しているのだ。

たとえ徴兵されても、政治犯として投獄されていても、そして俺のように他国に派兵されていても婚約者の女性が「会いたい!」と言ったら男は女性の元へ駆けつけるか、女性を招待するか2つに一つしか選択肢はないのだ。


そして俺の派兵については皇帝命令。

それでも婚約者が「会いたい!」というならば、皇帝陛下はその申し出を無碍にできないというわけ。

女性優先の帝国ならではだよね。

女性のワガママが皇帝命令の上を行く可能性があるとゆー。


でもまあさすがに皇帝命令の上を行った例は今までない。

しかし! 俺の婚約者が前例を作ろうとしている!


「塔内で2人がすごせる場所はある?」

城馬車(ホッホブルク)と連結した空間を利用しておりますので、特に問題はありません」


「護衛は」

「自前で何人か連れて来るでしょうが、トリビュ……いえ、グラディアークは治安についてはラウプフォーゲル首都に迫るほど安定しています。何しろ選ばれた者しかおりませんし、戸籍もしっかりしていますからね。犯罪を犯そうというほど生活に困窮している者もおりません」


たしかにそうなんだけど、トリビュネクスことグラディアークの都市はこれまで居住が許されていなかった、街の外に仮住まいしている人々を受け入れるつもりだ。

荘厳な要塞都市に反して、塀の外の居住区はさながらスラム。

前世の基準で言うと紛争地域の避難地区みたいな様相で、法律やマナーなんてものは皆無の無法地帯だ。


婚約者ふたりを呼び寄せるならもうすこし受け入れを慎重にすべきか……。


この地域は「外殻地」と呼ばれていて、そこに住む人たちは「外殻民」と呼ばれていた。

恐ろしいことにこの地域は、魔獣が来ようがアンデッドが来ようが要塞都市内の僧兵たちは一切ノータッチ。そのため、この地域は何度も全滅してるんだそーだ。


地獄すぎてヘコむ。


それでもすごいところが、こんなスラム街みたいな場所にも住みたがるヒトがいて、そして一定年齢以上であれば99%字が読める。

この街に住んでいれば、いつの日か運が良ければ要塞都市に移住できるかもしれないからなんだって。

そしてかつての要塞都市側からしても、彼ら予備の住民扱いだったようで教育は怠らなかったみたい。

教育するなら守ってあげればいいのに、って思うよね。俺は思った。


「戸籍の準備はどうなってる?」

「ケイトリヒ様の考案された自動高速化の魔法陣をディングフェルガーが調整中です。おそらくこの設計が終わったら2、3日倒れるかと」


「え、大丈夫なの」

「止めてもやるので好きにさせてます」


まあ先生なら止めてもやるよね。

馬車馬のように働かせてるのはこっちじゃないのに、勝手に馬車馬になって力尽きて3日も穴開けるのやめてほしいと思ってるんだけど、なかなかうまく行かない。

猪突猛進のタイプってこまっちゃう。


「じゃあ……マリアンネとフランツィスカにおてがみかこう」

「お待ち下さい。この書類までは防衛に必要な部分ですので、先に承認を」


ペシュティーノが山になっていた書類の束からひとつかみをドサリと俺の前に置いた。


よし決めた。

神の力でハンコ自動ペッタン魔法を作ろう。

呪文は【捺印(ペッタン)】だ。よし。



そして3日後、マリアンネとフランツィスカがやってきた。


爆速である。貴族社会ではお出かけするのも訪問するのもややこしいルールとマナーがあって謎に時間がかかりまくる……と聞いた気がするけど、ウソだったのかな?


マントというよりヴェールみたいなヒラヒラを背中にはためかせ、2人とも長い髪をキレイに結い上げたパンツスタイル。女性騎士みたいですごくかっこいい。

そして2人とも、背が高くなって体つきも女性らしくなってる。

二次性徴がいちじるしい……。俺はようやく最近背が伸び始めた段階だというのに。


「マリアンネ嬢、フランツィスカ嬢。ようこそデオスレア聖教国へ」


この2週間で急ごしらえで作った謁見室……聖職者たちは「神聖議堂(コンシストリー)」と呼んでるんだけどあんまり俺の中で定着してないから謁見室で通す。

その謁見室には立派な玉座があって……これもまた聖職者たちは「神戴玉座(カテドラ・デオス)」と呼んでいる。

ややこしいからあまり名前変えないでほしいんだけど、まあ宗教国家だから王制や帝制とは違うんだろうね。


まあとにかく謁見室の玉座に座った俺を見て、マリアンネとフランツィスカは優雅に膝を折ってカーテシー。


「ケイトリヒ様、成長されたお姿を拝見できて嬉しゅうございます」

「ケイトリヒ様! 聖教法国の国主となられたこと、お喜び申し上げますわ!」


2人は横にズラリと聖職者と僧兵、そして父上から借りたラウプフォーゲル兵士と魔導騎士隊(ミセリコルディア)が並ぶ広間で堂々としている。


「ふたりとも、こちらへ」


俺が両手を差し出すと、スッと立ち上がって少し高くなった玉座への段差に躊躇なく足をかけて側へやってきた。俺が差し出した両手を2人がそれぞれ取ると、くるりと俺と同じ方向を向いてそっと跪く。


「皆、2人は私の婚約者であり、魂の伴侶である。私と同等に扱うように」


俺の言葉に、主に聖職者と僧兵たちが深々と肯定を示すお辞儀をした。

よし、これで聖教国内での2人の扱いは問題ないだろう。


次は護衛の面だ。


マリアンネとフランツィスカのお披露目的な会を終えて、俺の執務室についてきた2人はそこでようやくリラックスしたようだ。


「帝位継承順位が2位になったと思ったら、こんどはアイスラーを併合してドラッケリュッヘンを半分平定だなんて。もう、わたくしの婚約者は出世が過ぎますわ!」

「ほんとほんと! クロイビガー聖教法国なんて初めて聞く名前でしたけれど、まさかドラッケリュッヘン大陸の半分の国だなんて。これからこの国をどうなさるおつもり?」


2人は可愛くキッと睨んでくる。

ちなみに大陸の半分ではなく、3分の1です。盛るのやめて。


「僕としてもこんなに早く聖教法国を……あ、今はもうデオスレア聖教国ですけど、手に入れるとは思ってなかったんですよ。それがちょっと、誘拐されて予定が変わって」


「「え?」」


2人が鋭い目でジロリと睨んでくる。こわい。


「誘拐?」

「殿下が?」


あ、これ俺が危ないことしたときにペシュティーノが問い詰めるのと同じ感じ。


「精霊がまもってくれたし、なによりジュンが足先を失ってでもついてきてくれたからぜんぜん問題なかったよ」


誘拐されたときにジュンの足先がバッサリ切れていたのは、なんと転移魔法陣の「キワ」つまり陣と陣の外の境界線に巻き込まれたかららしい。

俺とジュンが消えた元の場所には、ジュンの足のつま先だけが残されていたそうな……。


こわっ! 転移魔法陣こわ! とおもった一件でした。


にしてもジュンの瞬発力はすごい、と側近内でも話題になりました。

俺を誘拐した転移魔法陣をディングフェルガー先生が解析したところ、魔法陣の展開から小さな俺の身体を取り込んで、魔法陣収束までの時間は約2秒。

その僅かな時間に、異常を検知して魔法陣に身体をねじ込ませる、という対応までやり遂げたジュンはすごい。ってことになった。俺もそう思う。


「そうでしたの……無事で本当に良かったですわ」

「ケイトリヒ様を拐かした不届き者は処罰なさったの?」


いや、いろいろあって大半が残ってるんだけど……でも誘拐された瞬間にジュンが3分の1の人数を減らしたから、まあそれで処罰ってことにしたんだよね。


「きちんと思い知らせてはやりましたよ」


俺が言うと、2人はニッコリ笑った。

こわい。


……それより、なんだか2人が俺に対する態度がちょっと……堅い?

今までよりもかしこまってるというか、なんというか。


「おふたりは、おかわりなかったですか」

「ありましたわよ、とても。なにせ婚約者がどんどん出世して、その偉業が公共放送(エフ)でもてはやされるものですから」

「そうですわ。わたくしたち、周囲からいつも質問攻めで大変だったのですよ」


あ、ちょっと怒ってた?

合流予定だった時期よりだいぶ遅くなったもんね。


「それは……ごめんね。でもちゃんと安全が確保できてから合流したかったから、時間がかかったの」


俺が上目遣いで言うと、2人はプリッとしていた表情を和らげた。


「それは承知しておりますのよ。それにしても……この3ヶ月で、ずいぶんと背が伸びましたわね」

「キュロットを履くような年齢になったら人前でキスするのは破廉恥と言われますけれど……ケイトリヒ様は可愛らしいから、いいわよね」


そう言うとフランツィスカは座っていた椅子から立ち上がり、俺を抱き上げて膝に乗せてほっぺにチューしてきた。あ、年齢……というか男子の格好として、今まで通りのベタベタは良くなかったんだ?


「キュロットになるとダメなの?」

「まあ普通は……非難されて然るべき、となりますわね」

「女子も10歳前後でスカートの丈を膝丈から足元全てを覆う長丈にするんですの。キュロット男子と長丈女子はもう扱いとしてはほぼ大人ですのよ」


実際に大人として認められるのは16歳の成人式ではあるんだけど、大人予備軍として扱われるのは服装が変わってから。ちなみに年齢が「10歳から」と固定されていない理由は、やっぱり体格にあるらしい。

女子も男子も、年齢に関係なく十分に体が大きくなったら服装が変わる。


「そうそう、ケイトリヒ様。ステキなお部屋をありがとうございます」

「ええ、とっても理想的なお部屋ですわ! 侍女たちも感激しておりました」


満足してもらえたようで良かった。


「それで、冒険者修行にはいつ戻られますの?」


「へ?」


マリアンネの言葉にフリーズ。

あ、そっか。国獲りが落ち着いたらまた再開するよね、冒険者修行。

いや、再開するの? なんか修行中に国主になっちゃいましたけど?


なんにしても……もうこのデオスレア聖教国での扱いに、冒険者修行にも同行となると、2人はそろそろ大事な壁を超える必要がある。

いや、2人にとって壁かどうかはわからないんだけど……。


「マリアンネ、フランツィスカ。あのね、改まってお話があります」


「はい」

「どうされましたの、改まって……」


「もしも、もしも僕のこれからの話を聞いて、婚約を解消したいという気持ちになったのなら、父上とかけあっておふたりの希望が叶うようにいくらでも動きます」


2人は顔を見合わせて、コクリと頷いた。


……緊張する。


「あの……あのね、僕……僕、実は……異世界召喚勇者とおなじ、異世界からきた魂なんだ。それでね、えっと……年齢が……実は10歳じゃなくて……ええと、この身体で目覚めたときがにじゅう……ご? 25歳くらいだったの」


2人はキョトンとしている。


「だからね、あの、僕、こうみえて魂はオッサンなの」


「……なるほど?」

「続けてくださいまし」


あれ、そこはノーリアクション?


「でね、いろいろあって……僕、たぶんもうこの世界の神になるしかなさそうなの」


「か……神、というのは、かつてヒトに殺されてしまった、あの神、ですか?」

「精霊を統べ、竜脈を統べ、世界を創造する、あの神ですか?」


「そうそれ。もうほとんど神になっててね、いろいろとヒトと違うところがあるの」


「それは以前から」

「そうですわね」


「まあそうなんだけど。今後はもっと違ってくるとおもう。だから、えっと……」


「そんなケイトリヒ様に嫌気がさしてしまわないか、というご心配なのですか? わたくしたちが?」

「それともケイトリヒ様が、わたくしたちとは夫婦になれないお気持ちである、というお話ですの?」


「あ、うーん、僕は大丈夫。でも2人は……」


「それなら何も問題ありませんわ」

「そうです、神の妻になるなんて皇后よりも高みではありませんこと?」


「え、あ、うんそうかも? でも神だよ?」


「もちろん分かっております。この世界にはかつて神が存在して、ヒトがそれを殺めてしまった。新たなる神としてわたくしたちの婚約者が選ばれた……ということでしょう?」

「何かわたくしたちが制限されることがございますの? 子を成せない、とか、ともに並び立つことができない、とか……?」


「うんっ? そういうことはない……と、おもう……たぶん? 子どもはちょっと、まだわかんないけど」


なにせまだ身長120センチちょい。2人はもう160は軽く越えているだろうという身長差。性徴のことを考えても、俺はまだまだ子どもなのでわからない。


「神になったら、皇帝の座はどうされるおつもりですの?」


「いやあ、あんまり考えてない」


「神の業務を誰かに分業することは可能なのかしら。もし可能ならわたくしも携わってみたいものですわ」


「え、ほんき?」


2人の肝が座りすぎてて俺が引くわ。

なんだか今まで神になりたくないないないない言ってた自分が恥ずかしくなってきた。


「か、神って世界を支配するんだよ」


「存じておりますわよ。でも、帝国を支配するのと大差ないのではございませんこと?」

「少々領地が広がるだけでしょう。本来ならばトリューがある今、帝国が世界中を支配してもおかしくありませんわ。世界の支配に、皇帝という名目だけでなく神という力を得られるというのなら、願ったりかなったりではありませんか!」


肝が座ってるどころか、自ら取りに行く姿勢!

なにこのオトコマエ女子たち! かっけえ! 好きかも!


「ええ……じ、じゃあ2人は、僕が神でもお嫁さんになってくれる?」


「もちろんですわ!」

「なんていじらしいのかしら! わたくしたちがその程度で引くと思われたんですの? 舐められたものですわね! ウフフッ」


神になることを「その程度」で済ます婚約者を得られた俺ってすごくラッキーじゃない?


「というか、中身がオッサンなのは気にならないの?」


「若い身体と分別を備えた魂。最高ではございませんこと?」

「そうですわ。どおりで、と思いましたけれど。わたくしたちの同年代よりも賢く落ち着いていて、それでいて可憐なケイトリヒ様に不満はなくってよ」


フランツィスカが俺のほっぺに自分のほっぺを押し付けてウリウリしてくる。

俺もおもわず嬉しくてウリウリ。


「しょうじき、若い2人を騙してるみたいでちょっと気が引けてたんだ」


「何をおっしゃいますの。20歳くらいの年の差結婚など、貴族の間では特に珍しくもありませんし、貴族院の女子たちなど粗暴で愚鈍な同年代よりも落ち着いた大人の殿方を好む方も多くいらしたわ」

「そう考えるとわたくしたち、とっても稀有な相手と結ばれたのね!」


粗暴で愚鈍……わ、若い男性をそう称するのはなんだか気まずいけど、まあラウプフォーゲル男子の代表と言われるジュンを見ていれば……。

仕事の真面目さを知らなかったらそう思われても仕方ないとも思う。


「なんだか、心配してソンした」


「これからはわたくしたちもケイトリヒ様と一心同体、一蓮托生、ともに人生を歩んでゆきますのよ。打ち明けてくださってありがとう存じますわ」

「そうですわね。ほかにも知っておくべきことはあるかしら?」


肝の座った婚約者2人に、これまで言えなかった話をするとものすごく興味深そうに聞いてくれた。

精霊のこと、権能のこと、神獣のこと、そして竜。さらにフォーゲル商会で扱うアイデア商品のほとんどが実は俺の発案だったり設計だったりすること。

異世界召喚勇者には一部情報を開示していて、つながりがあること。


2人があまりにもすんなり受け入れてくれるものだからすっかり興が乗って3人でいつまでもお喋りし続けた。


夕食の席、その後にまた談話室、さらに話し足りないからと3人でフランツィスカの自室に集まって眠くなるまで喋った。

眠くなったので3人で同じベッドに寝た。


こんなステキな協力者がいてくれるのなら、神になるのも悪くないかもしれない。

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