第2部_4章_188話_半神_2
クロイビガー聖教法国の首都トリビュネクス。
だだっ広いのに寸分の凸凹もない石造りの道、整然と整えられた街路樹、何らかの商業施設っぽい建物。全体的に建物が低いのでさすがに日本と見間違えることはないけど、日本だと言われても信じそうなくらい整然とした街並みだ。
ミラネーロに抱っこされた状態で、カブールに案内されながら街を進む。
道行く一般市民はカブールのことも御神体であるリクのことも知らないようだけど、俺の後ろにぞろぞろついてくる聖職者たちの行列のせいでサッと道を開けて頭を下げる。
「ねえザフィケルー! 街の人って、おもにどういうお仕事してるの?」
俺が声を張って後ろの行列に混じって歩いているザフィケルに声を掛けると慌てて走って近づいてきた。
「お召しに応じて参じました、説明させていただきます。この区域は主に司祭や司教の家族が住まう地区ですので、仕事を持っているものはほとんどおりません。労働者をご覧になりたいようでしたら下層部になります」
「一般市民のあいだで、貴族や平民といった身分制度はあるの?」
「いいえ、法国では身分制度は存在しません。あえていうならば聖職者こそが唯一にして無二の権力者。他国では豪商や政治家といった職業が権力を持つこともあるようですが、法国ではいち労働者にすぎません。恐れながら、帝国の公爵令息……とだけ仰られてもこの国ではあまり畏まった対応をされることはないかと」
そうなのか。べつに畏まって欲しいわけじゃないけど、なんとなく新鮮。
というか、そういう価値観ならあのナントカ男爵の娘が横暴だったのも納得……はできないか、彼女は貴族であることを振りかざしてたから別だ。
「法国の支配地域には爵位を持つ領主もいるみたいだけど?」
「ああ、はい。それらはその昔、この地が『ゴア帝国』だった頃の名残でしょう。450年ほど前に滅亡しましたが、その名残は今でも色濃く残っております。自称のようなもので法国が認めているものではございません」
まあ、法国が実効支配してるわけではない地域にもそれなりにルールが必要だからね。
おそらく便宜上残したほうがスムーズだったんだろう。
ゴア帝国といえば、歴史の授業で習った暴君ゴア25世のやったことがヤバすぎてドン引きした記憶。ちなみにゴア帝国の皇帝は全員、名前がゴアなのだ。
カブールはもしかしてそのゴア帝国の暴君の名残を引き継いでるんじゃ……?
寿命のないハイエルフならありえる。
その件については、今はいいや。
「主、迎えが来たようだ」
「え?」
俺たちが歩く大通りの前方から、巨大な神輿のような人力車?がゆっくりとやってくる。
荘厳な塔のようなそれは、大きな車輪がついていてその周囲で沢山の人が押していた。
街の人々は、その塔に向かって一様に跪いて祈るような姿勢をする。
「なにあれ」
「あの乗り物はよくわかりませんが、中にはペシュティーノがおるようじゃぞ」
え! もう来たの!? ってかなんであんな乗り物に乗ってるの!?
俺たちからだいぶ離れた位置で塔の人力車が停まり、中から多くの聖職者らしきヒトたちがワラワラと出てくる。
その中に、ひときわ背の高いペシュティーノもいた。
何故か法衣をまとっている。
そして、全員が恭しくこちらに向かって跪いている。
「……なんで?」
「わからんが近づいてみるかの」
ミラネーロが近づくと、法衣をまとった出迎えみたいな人々はほとんど俺の側近だということがわかった。ペシュティーノにシャルル、ガノ、パトリック、スタンリー、サミュエル。そしてミェスやセヴェリ、イーロ。何故かイルメリまでいる。
ハイエルフつながりかな?
オリンピオはいない。たぶん別行動で魔導騎士隊を率いてるんだろう。
それに見たことないヒトも何人か。
俺に向かって頭を下げる多くのヒトの中から、初めて見る青い髪の背の高い、ちょっとニヤけた顔の男性がふと顔を上げて俺に笑いかける。
「真なる次世代の神たるケイトリヒ様。コレクト共和国に籍をおきますオラーケル聖殿より、厳正で神聖なる選挙を以て選ばれた代41代枢機卿、グルシエルがその御身をお迎えにあがりました」
だれ?
でもなんか後ろでペシュティーノもシャルルもそれに従うように跪いて頭を下げている。
塔のような人力車の後ろには、多くの聖職者も参列している。
法国を黙らせるための芝居……かな?
「真なる次世代の神たるケイトリヒ様。どうぞ、神輿へおあがりください」
あ、神輿。ホントの意味での神の乗り物って意味ね。
ミラネーロがズンズン歩いて、なんの気負いもなく神輿にズカズカ乗り込む。
当然、竜たちも精霊たちも俺についてくる。
聖職者たちが、なんかちょっとざわついた。
まあそうだよね、彼らからしたら誰あれ、だよね。
「我が名はミラネーロ! 真なる神たる主より名を賜りし黒き竜なり! この国の民の、主を受け入れる姿を見届けた。その敬虔なる信仰に、主に代わって恩寵を授けよう!」
ものすごくよく通る声が拡声器みたいに響いた。
ミラネーロがバッと手を空にかざすと、シュペックがピューッと飛び上がっていきなり本来の姿に変貌した。
トリビュネクスの街を覆うほどに巨大な竜の出現に、聖職者も街の人も驚いたようだけど悲鳴は上がらない。竜は神の眷属だから、存在そのものが神の恩寵なんだって。
あとから聞いた。
シュペックがグオオ、と巨大な雄叫びを上げるとキラキラしたなにかが広がって街にふりそそぐ。なんだろう?
「なにしたの?」
「主の魔力を少しもらって、この地に不足していた【死】属性を満たしたのじゃ。これでこの街で死んだ者は、アンデッドにならんで済む」
「じ、地味な恩寵だねえ」
「何を仰いますか! この地には、何にも替えがたい最大の恩寵にございます!」
驚いて声を上げたのは精霊たちのさらに後ろに控えていたザフィケルだ。
なんか流れで神輿に乗ってる。
「あ、ザフィケル。このお神輿、なに?」
「本来の御神体様……真なる神成者様がお乗りになる乗り物です」
「リクもこれに乗ったの?」
「いえ、あの方は御神体と呼ばれてはおりましたがそれらしいことは一度も。それに、民衆の前に出たこともありません。御神体様が存在するという話は噂程度で広まっておりましたので、民衆からしたらようやくお姿を拝観できたと喜ぶことでしょう」
うーん、御神体をリクから俺にすげかえる、というどころか完全にすり替える感じにするわけか。
そうすると女性に無体をしたのも一緒に引き継いじゃわない?
と、心配したけどどうやらそれは大丈夫らしい。
リクが無体を働いた女性たちは、彼が御神体だと知らされていないのだとか。
カブールが言うのできっと本当なんだろう。
それもどうかと思うけど……とにかく傷ついたヒトがいるのなら女性に限らず、全て詳らかにして解決していかないと。
ゆっっっくりしか進まない神輿の、玉座みたいなところに座らせられて両サイドにペシュティーノ、そしてニヤケ男の枢機卿グルシエル。
その外側にはザフィケルとスタンリー。
玉座みたいな椅子の後ろにはミラネーロが立っている。
空には相変わらずシュペックが飛び回り、キラキラを振りまいてる。
「はあ〜。ホントに御神体になっちゃったのかあ。ペシュ、どうするこの国?」
「まだ仕事は色々と残っておりますよ。今回は先んじてやや強引に主権を奪いましたが、この国にはどうやら出すべき膿が山ほどあるようです」
ペシュティーノはジロリと神輿に乗らずに歩いているカブールとリクに視線を向けた。
当の2人は気づいてないみたいで、うなだれている。
「仲裁者がシコシコと作り上げた負の遺産など、すっぱり切り落とせばよろしいのですよ。主、諾々と不正と犠牲を許した政治家などに主の慈悲を受ける資格はございません。首を切り落としましょう〜♪」
ニヤケ男のグルシエルが楽しげに言う。
「ってかキミだれ?」
「ええっ。さっき自己紹介しましたよね? 共和国の枢機卿、グルシエルでーす! 主の御学友、ラファエルくんのおじいちゃんの枢機卿が不信任決議で解任されたんで、その後任でーす」
「かるっ! なにこの軽いヒト、ハイエルフだよね? シャルル! シャルル〜!?」
「シャルルはちょっとこの国の政治基盤を整えにかかってるみたいなので、少し放っておきましょうねえ。確かに私はハイエルフです! 権能は預言者! 本来であれば使徒と一緒に神候補を導く者なのですが……まあワケあって私は神の『受け入れ先』を整える方向でうごいていたのですよ」
「ケイトリヒ様、シャルルの申していた共和国側の協力者が彼です。喋りは軽いですが、能力と忠誠は確かなようですよ」
「ほんと〜? まあでもペシュがそういうなら信じる」
「わあお、本当に私たちよりもペシュティーノのほうを信じるんですね? 一応、私たちには神と繋がる眷属としての絆みたいなものがあるはずなんですけど……」
「しらなーい。すくなくともシャルルには感じないし、キミにも感じない」
「え〜、寂しいなあ……でもいいです! まだ出会って数分ですものね! ハイエルフは神と深く権能で結びついておりますから、いずれは御心を許してくださると信じております! ところで、仲裁者のことどうされたい、とか考えてらっしゃいます?」
いきなり本題に入るスタイル。
許すつもりはないけれど、どうするかまではまだ考えていなかった。
「ハイエルフにとって最も厳しい罰って、何? 死刑じゃないよね」
「そうですね、死刑……斬首や絞首刑にしてもハイエルフにはさほど効果はありません。単に『容れ物』である肉体が損壊するだけで。まあ復活にはそれなりに時間がかかりますので謹慎期間とするにはいいかもしれませんね。しかし、我らハイエルフの主たる神だからこそできる、最も重い罰というものがございます」
「あ、『呪い』はやりたくない。かつての神がワイバーンにかけたような……」
「ああ、それはかなり軽い罰ですね。もっと重いものがございます」
ニヤけた顔がスッと真顔になる。笑わないとイケメンだね、このヒト。
「……それは、名を奪うことにございます」
「名……? 名前のこと?」
「はい。私であればグルシエル……ああ、昔はもうちょっとマシな名前があったのですがまあ必要ないので忘れました。アレならば『ブノワ・カブール』という名ですね。ハイエルフにとって名は、個たる存在を固定させる証明のようなものです。主が精霊に名をつけて、個性を与えたことに同じ。私のグルシエルという名は、共和国の聖教の中で聖職者として生きた人物の記憶と個性と人格が詰まっているのです」
つまり、ブノワ・カブールという名にはクロイビガー聖教法国で人命を犠牲にすることも国を蝕むことも厭わず、神を作ろうとした意思そのものが詰まっているということ。
「仲裁者の名を奪い、つけなおすことで新たな魂となるわけです。ハイエルフにとっては、記録者のように名を使い分けるというのはとても難しいことなんですよ。あれは権能のおかげで使い分けられるようですが」
セヴェリことオラクル・ベンベはハイエルフの中でも異質の存在らしい。
「え! 僕、まえにセヴェリに『名前つけて欲しい?』って軽く聞いちゃった。セヴェリは喜んでくれたみたいだけど、それって人格を否定するようなものになるってこと?」
「ははは、いいえ、そのようなことは思いませんよ! 主のお言葉の解釈としては、名を奪うというより『改名』でしょう。それは記録者の言うように、ハイエルフにとって一番の名誉です。主に名付けてもらうということは存在そのものが主に帰属するということですから。今、主が従える竜や精霊と同じ存在になれるということですね」
……確かに、感覚として精霊や竜は「俺の従者!」って感じがする。
自身で名付けたからなのかな?
ふ、と思わずスタンリーを見る。
目があったスタンリーは、にこりと笑う。
竜の巣穴についてきてくれたスタンリーは、側近の中でも特別な存在なのだとペシュティーノも言ってた。それは俺が名付けたからなんだろうか。
「さあ、主。着きましたよ。聖教法国の、悪の巣窟です」
グルシエルが楽しげに言う。
目の前には、空撮で見た巨大な塔。宗教施設というより軍事施設のような、刺々しい外観の城だ。城とよぶにはあまり優雅さがない。砦とか要塞といった見た目。
「そんなこと言っていいの?」
「主、異世界召喚に必要な犠牲が、リク・マツモトの圧政が、仲裁者ひとりで成し得たことだとお思いですか?」
ペシュティーノの言葉に、俺はハッとなった。
たしかに、主導者はカブールだっただろう。
俺を誘拐……もとい、彼らの言葉でいうと召喚するような反対派が大多数であれば、カブールだって国民を犠牲にするような政策を取り続けることはできなかったはず。
ザフィケルも、ようやく最近勢力が半数に迫ってきた、と言っていた。
つまりカブールに賛同する人間は、この国では多かったということだ。
そして、まだいるようだ。
要塞のような城からゾロゾロと僧兵たちが現れて整列する。
全員、鋭い目でこちらを見ているのでたぶん敵対勢力だと思う。総勢50人ほど。
「オラーケル聖殿から来たりし枢機卿グルシエル。我々は貴方が擁立する人物、ケイトリヒ殿下を神成者とは承認しない!」
跪いていた市民がざわついている。
そりゃそうだ、いきなり聖教の内部分裂を目撃しているわけだからね。
グルシエルが面倒そうに一歩前に出て、呆れたように手のひらを上に向けて肩を竦める「やれやれ」のジェスチャーをして高笑い。
……このハイエルフ、シャルルよりもずっと演者だな。
「ははは! 戯言を。真なる神成者様に、お前たちの承認など必要ない」
グルシエルはそう言うと、コソッと俺に向かって「主、なんかスゴいことしてください」と小声で言ってきた。
ムチャブリが過ぎんか?
体長5メートルのSSR精霊が神輿の上に浮遊しつつ、原寸大のドラゴンが空を飛び回ってるのに納得しないなら何してもムダだと思うけど。
……思うけど、ちょっとやってみたいことはある。
「カブール。この塔の上層部はどうなってる?」
俺が声を張ると、カブールがビクリと肩を震わせて跪いた。
「御覧頂いております塔の中層より上は、ほぼすべてかつての神成者様のためのものです」
「ヒト、いる?」
「……? はい、身の回りの世話をするものや護衛の僧兵などが」
「そっか。じゃ」
なんかさっき、天の声?とやらが使えるようになったって言ってたよね。
ボンジョー? いきなりフランス語っぽい響きでどういう意味かよくわからないけど今が使い時。
使い方はよくわからんけど、拡声みたいなもんでしょ。
「理の言霊」で発動条件を定義して、早速使ってみる。
「あー、あー。こちら真の神成者です。塔のなかにいる者、全てに告ぐー」
俺が呟くけど、効果が出ているかわからない。
「えっと、聞こえてたら塔の……南? 南側から外に向かって、大きく手を振ってください」
しばらくすると塔のバルコニーや大きな窓に人々が集まり、大きく手を振ってきた。
けっこうな数がいるみたい。
「ちゃんと聞こえてた」
「何をなさるおつもりですか」
ペシュティーノが心配そうに見てくる。
「なんかグルシエルがすごいことしてって言うから」
コホン、と空咳をして再び梵声を発動。
「いまからこの塔は消失します。みなさん、おちついて、押したり、走ったり、喋ったりせずに、すみやかに外にでてください。くりかえします、いまからこの塔は……」
念の為3回ほど同じ文言を繰り返している間に、塔からはゾロゾロと人が出てきた。
さっき「承認しない」とかなんとか宣言してたヒトたちも、塔から出てきたヒトたちに紛れてわちゃわちゃしてる。
「ジオール、どうかな。塔の中にヒト、いる?」
「ん〜……中層部より上にはもういないみたい! 中層部のすぐ下あたりにいる2、3人のニンゲンも、ゆっくり階段を降りてるよ。もう少し待てば全員出てくるんじゃないかな」
「バジラット、相談してないけどできる?」
「任せろよ。全部理解してるぜ」
塔は全て石造り。それならバジラットの管轄だ。
「あーしも手伝うよ!」
「カルも」
「我々全員、総出でやるほうが効率的でしょう」
アウロラ、カル、キュアもやる気。
精霊と意思疎通がほぼ並列思考って怖いようで便利。
「ケイトリヒ様、まさか」
「うん、この塔はカブールが作り上げた法国の権威の象徴でしょ? それならもう、僕のものってことでいいよね。精霊たち、中身はおいおいでいいから、外側だけこう、いいかんじに荘厳に」
「任せとけって!」
「アイスラー……いえ、ガードナー自治区の城も本来は一瞬で構築可能だったのですよ」
「主の趣味に合わせてカッコいくて荘厳なかんじね! うんうん、おっけ!」
「主のため! カル、がんばる!」
俺はぼんやり、目の前にそびえ立つ砲台が突き出たようにトゲトゲしたシルエットの攻撃的な塔をしげしげと見つめた。
戦艦の艦橋のようなその砲台は、下に広がる市民たちに向けられているようにも見える。
そもそも砲台ではないんだけど、とにかく市民たちを押さえつけるようなビジュアルだ。
カブールは市民を徹底して管理下におさめ、思い通りに操作していた。
厳格な宗教国家の在り方としてはまあ……そういう国もあっていいとは思うけど、俺はそんな面倒なことしたくない。
管理されてきた人々は最初は戸惑うだろうけど、俺は人類の伸びやかな可能性を管理という名のもとに潰したくないと思う。
「主、城を作る呪文とか考えたら? そしたら僕たちアイスラーや今回と同じように動けるよ」
「え、壮大すぎん?」
ジオールの提案だけど、もうこれ以上城やら建物やら作るつもりありませんが……いや、アイスラーのときだって今だって、結構おもいつきでやってるな。
今後もあるかも。
「んー、んー、じゃあ今回は塔だから……主塔創造!」
俺が叫ぶと、艦橋のような塔のシルエットがユラッと揺らいで、細かな砂のように散ってサラサラと風に乗る。
「うわ、すご」
足元でジュンがあんぐり口を開けて呟いた。
そう言いたくなる気持ちもわかる。
やがて完全に灰色の砂嵐となった塔は、徐々に下から形が形成されていく。
真っ白な外壁と、モダンで凹凸の少ないデザイン。高く登るにつれて少しだけ角がスパイラルして、だんだんと細くなって……。
……これ、ユヴァフローテツのオベリスクとほぼ同じだわ。
ちょっとねじってる、っていう違いはあるけど、ほぼオベリスク。いや、中に人が入る想定だから比率は全然ちがうか。あれだ、ドバイにあるカヤン・タワーだ。
俺の考える「荘厳」ってだいたい似通っちゃうのね。
と思ったら、俺の感想が精霊に伝わったのか途中から塔をとりまく土星の輪みたいなものが創造されはじめた。それもまたね! 俺の貧困な想像力の限界というか!
輪っか浮かしときゃファンタジーっしょ、みたいなね! しょうがないか。
もうこれでいいや。
だいたい、デザインはともかくほぼ一瞬で作り変えた時点で俺の「力」を誇示する役目は終えてるわけだし。
やがて砂嵐がおさまると、白く輝く輪っかつきのスパイラルタワーが現れた。
荘厳……かどうかはわからないけど、まあモダン。モダンですね、はい。
その場にいる全ての人が口を開けて仰いでいるところに、シュペックがひらりと塔の頂上に降り立った。あ、竜が付随すると、とたんにファンタジータワー!
シュペックは王道の竜の姿だし。
「おお〜、映えるねえ」
なんて言ってると、他の竜たちも我も我もと騒ぎ出す。6体も竜がくっついたらちょっと暑苦しいからやめてほしい。
シュペックがグォーンと高くいななくと、空にブワッとなにかの波動が広がって消えた。
「あれなに?」
「むっ、シュペックめ、塔を自分のものだと主張しおったぞ! 今の遠吠えはこの地の守護を知らしめるものじゃ。まあアヤツは『自由』の竜じゃからの、主のこれからの国づくりには役立つじゃろうが……」
竜ってのは塔とか山とかに棲むものだもんね。
シュペックが気に入っちゃって、巣宣言しちゃったってわけか。
「たしかにシュペックの『自由』はこれからこの街に広がってほしいことだからいいかもね。ラウプフォーゲルだったら『武力』のフディーアかなあ。あ、王国もあとちょっとしたら帝国になるから、旧王国の地域には『平安』のメリザナが居てほしいかも」
共和国は平定する予定ないけど、聖教が俺に牛耳られてるあたり将来的には平定したほうがいいかもしれない。そうしたら共和国は……『秩序』のミラネーロはちょっと違うし、『均衡』のドラカリスも微妙なので消去法で『技芸』のハットゥラッカかな。
王国と同様に寒冷地で産業の少ない土地だし、自由競争の基盤があるから芸能関係を強化すれば伸びるかもしれない。あ、帝都にも竜をおいたほうがいいのかな? だとしたらミラネーロかドラカリス……?
ハッ! 意図せず大陸統一を考えてしまった!
あぶないあぶない、父上と皇帝陛下に洗脳させられるところだった!
「主、塔の中は広間と玉座の間だけ軽く整えといたぜ!」
「私室や水回りは少し手を入れる必要があるので、しばしお時間をいただきたく」
「風通しは完璧! 部屋割を変えたいときは相談してね〜!」
「熱の循環も、カンペキ! カルのは部屋割関係、ナイ。あと、主の塔ができたことでこの街の『要楔』が変わった」
精霊いわく、今まで滞っていた竜脈が俺の作った塔を中心にしながら活性化しているとのこと。どういうことかというと……。
「農業、豊作!」
「魔物増える」
「アンデッドも増える」
「命、まわる」
「土が生まれ変わってる」
よくわからんけど農業も狩猟もしやすくなって、アンデッドが増えるとあれば早急に街のシステムを整えないと。
「首都、トリビュネクス……街の名前も変えようか」
「そうですね。国の名前も検討しましょう」
「ユヴァフローテツとは規模が違いますからね……しかし主に小領主の経験があるおかげで、我々側近も勝手知ったる手順。この国も帝国領地としてつつがなく改革できるでしょう。まずは、現状把握から」
ガノがすっごいウキウキしてる。
俺はちょっとゲンナリしてる。
ユヴァフローテツは無限魔力を持つ俺のことをスキスキ〜な技術者ばっかりだったからなんとなくユルく統治できたけど。
ここは法国。かつての宗教国家。カブールによる独裁政権が支配していた地。
改革することは多そうだ。
「まあ、できるとこから手を付けていくしかないか」
俺が言うと、後ろの側近たちが頷く。
俺のことを「承認しない!」と声高に宣言していたヒトたちは、いつのまにか人混みに紛れてどっかいってた。
俺が神輿を降りてペシュティーノに抱っこされて塔へと進むと、その歩みに合わせて周囲の人々が跪き「真なる神成者様のご降臨に全ての寿ぎの言葉を捧げます」と言いながら天を仰いで、そしてやや演技めいた動きで手を上げてから地にひれ伏す。
うん、キモい。
この風習ぜったい消してやる。
200話記念のSSを書くとしたら主人公は誰がいいですか?
よろしければコメントでご意見ください!
①ペシュティーノ・ヒメネス
②スタンリー・ガードナー
③ガノ・バルフォア
④ジュン・クロスリー
⑤元魔導学院魔法陣学科教師 ヴィルヘルム・ディングフェルガー
⑥共和国首相子息 ダニエル・ウォークリー
⑦異世界召喚勇者 ルキア・タムラ
⑧パトリック・セイラー
⑨オリンピオ・ブリッドモア
⑩元大臣 シャルル・エモニエ




