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第2部_3章_182話_大陸事情 2

残酷表現があります。

苦手な方はご注意ください。

俺から数メートル離れたところで仁王立ちし、腕を組んでエラソーに俺を見下ろしている少女は俺をジッと見て、眉をしかめた。


「なにボーッと突っ立ってるのよ、ご挨拶しなさいよ、この私に!」


……ほっほお、なるほど。こういう女の子……うーん、どう扱うべきか。

下手にへりくだると俺も俺で困ったことになっちゃうので、ちょっと考える。


「跪けって言ってるのよ、チビ!」


おっ、お言葉もなってらっしゃらないですねー。

彼女の立場がそれなりだったとして、俺が従う理由は全く無い。

たとえこの大陸に調査漏れの王国みたいなものがあったとして、その国の姫、あるいは女王だったとしても、だ。


「これって貴族? 名乗りもしないみたいだけど、ドラッケリュッヘンあるあるなの?」


俺が少女の向こうにいる冒険者組合(ギルド)の職員に向かって聞く。

受付の女性職員たちは俺の質問に応えようにも、少女の護衛である兵士のほうが近いので微妙にビビってるみたいだ。


「ちょっと、何無視して……」

「いますぐ答えて。じゃないと組合(ギルド)にも説明責任がはっせいするよ」


バタバタと2階から慌ただしく階段を降りてきたのは、ワイルド受付嬢のアイリさんと小柄な姉御肌ミリアムさん。そして初めて見る男性だ。

ミリアムさんもアイリさんも2階にいたのか。


「ケイトリヒ殿下、私が代わりにお答えします。そちらの若いレディはドラッケリュッヘン東部のリンメル男爵令嬢です。リンスコット伯爵の庇護のもと、遺跡研究をおこなうダニエラ女史の弟子として組合(ギルド)へいらしたようです」


初めて見る男性が丁寧に()()跪いて答える。

それを見て、目の前の少女はさらに顔を歪ませた。


「ちょっと、組合(ギルド)マスター。このガキ何者なわけ? 私には跪かなかったくせに、どうして」

「その理由も説明しないとわからないのは、お連れになった方々の教育が悪いせいでしょうか? これ以上こちらの御方を貶めるような発言をされるならば、組合(ギルド)マスターとしても容赦できません」


組合(ギルド)マスターが手厳しく言い放ったところでようやくお付きの大人たちが慌てだし、「お嬢様、ここは穏便にまいりましょう」なんて言いながら少女をたしなめ始める。

……うーん、この場合、責任はオトナにある気がしてきた。

可哀想なのはこの少女だ。


「冗談じゃないわよ! アンタたち、このガキを跪かせなさい!」


少女が顎でしゃくると、やれやれみたいなカンジで甲冑の騎士が前に出てきた。

え、言うこと聞いちゃうんだ。


ビビるとか以前にそっちのほうが驚いてキョトンとしていると、前に出てきた騎士のほうがちょっと気後れしている。もたもたと迷いながら腰にある剣に手をかけようとしているけど……。


「いちおう忠告するけど、剣を抜いたらキミ、しぬよ?」


もう、後ろからビンビンに感じ取れる殺気。

少し離れた後ろにいるジュンだけじゃない、横にいるスタンリーに、斜め後ろにいるペシュティーノまで「ゴゴゴ……」みたいな擬音がつきそうなぐらい不穏な空気出してる。


でも目の前の騎士は全く察知できてないっぽい。


「は?」


明らかにイラッとしたカンジを出したその騎士は、ようやく俺の後ろにいるオトナたちに目を向けた。だが。


「……ハッ、もしかしてこの痩せた少年たちに守ってもらえるとでも思っているのか?」


え、少年って……そのなかにペシュティーノも入ってる? オリンピオもいてくれたらよかったのかなあ? この場には俺含めてその4人しかいないから、ちょっとナメられた?

いろいろと疑問が浮かんできたけど、それどころじゃなかったの思い出した。


「まあ、忠告はしたから。何か手を出すつもりなら、どうぞ?」


俺がニッコリ笑うと、騎士もさすがに警戒したようで、少し後ずさる。


「……組合(ギルド)マスターは不干渉なんだ?」


俺がチラリと目線を向けて言うと、荒くれ者をまとめる役職としてはスリムなおじさんがため息をついた。


「個人間の諍いには組合(ギルド)は不干渉ですよ。しかし、力量の差もわからない人物は冒険者だろうが騎士だろうが、とっとと淘汰されたほうが世の中のためになります。とくにドラッケリュッヘンでは」


手厳しいね!


「まあでも、一応礼儀だし、名乗っとこうかな?」


ちらりとスタンリーを見ると、サッと俺の前にはだかり淡々と述べる。


「こちらにおわす御方はギフトゥエールデ帝国の帝位継承第2位にしてラウプフォーゲル公爵令息、そしてユヴァフローテツ小領主であるケイトリヒ・アルブレヒト・ファッシュ殿下である。リンメル男爵令嬢の礼儀はしかと確認できた。疾く道を開けるがいい。ここで引き下がるなら、不問にいたすと殿下からの恩情だ」


少女の付き人も、護衛らしき騎士もキョトーンだ。

別に跪いてほしいわけじゃないので構わないけど、とりあえずどいてほしいかな?


「とりあえず僕、組合(ギルド)に用があってきたの。どいてくれる?」


きわめて感情の乗らない、フラットな声色で言ってみたけどやっぱりリンメル男爵令嬢にはお気に召さなかったようだ。


「帝国がなによ! 何順かしらないけど1位でもなく2位なんでしょ? 私は! 貴族なのよ! 礼儀をわきまえない子どもに教えてあげなさい、スコット! その子を跪かせなさい!」


知らない順位でも1位だったらちがったのかな? 自分が知らないことは大した事ないことなんだね。それにあの〜、貴族の順位ってごぞんじ? と言いたいけどもう遅い。

おそらくそういう教育は、まったく施されていない子なんだろう。

スコットと呼ばれた騎士はさすがに俺を跪かせるだけに剣を抜く必要はないと思ったのか、のそりと近づいてきた。


「血はちょっとかんべん……」


俺のつぶやきに頷いたのはスタンリーだった。


サッと杖を抜き、俺に向かって伸ばされた腕を一瞬で凍らせる。

そして、次の瞬間にはその凍った腕がボトリと両方、床に落ちた。


「え? あ……えっ?」


腕を落とされた騎士は、状況がわからず切り落とされた肘上を何度も見直す。


「愚かな主君に仕えた不幸だな」


騎士の後ろで、ジュンがカチン、と刀を鞘におさめた。

俺、ホントのホントになんにも見えませんでした。

ジュンの太刀筋も、移動した気配も、まったく! すごいなー。


「道理のわからねえガキをしつけ直すのに、さあどれだけ命が散るかな。今後、殿下を貶す言葉を発するたびに騎士から付き人の順番で1人ずつ殺す」


俺の方に背中を向けているジュンは、男爵令嬢の後ろに並んでいる付き人に視線を向けたようだ。何人かが「ヒッ」と小さな声をあげる。

付き人は5人中4人が女性だけど、ジュン……斬れるのかな。


「あ、ああっ、うわあっ!」


状況を理解した騎士が叫びだしたので、スタンリーが別の杖を取り出してサッと振ると、声が消えた。


「ま……魔術師……!?」


男爵令嬢は急に顔色を青ざめさせて、両脇に立つ騎士を見る。

騎士たちはようやく圧倒的な戦力差に気づいたのか、腰が引けてるみたい。

遅いよ。


「ちょっとアンタたち、命令よ! できないっていうの!?」

「お、お嬢様、ムリです! 我々にはできません!」

「いやだ、殺されたくない!」


「……今のは貶す言葉にはならないか。でも、王子がどけって言ってるのにどかねえっていうのは、要は貶してるのと同様だよな」


ジュンがゆらりと再び刀にてをかけるて足先を向けると、甲冑の騎士たちは一瞬でそのばから飛び退いた。残されたのは男爵令嬢だ。


「帝国からきたガキが、調子にのらないでよっ!」


「よし、まず1人」


ジュンは無慈悲に声を失ってもがいていた騎士にサッと刀を振った。

抜いた瞬間も、鞘に納めた瞬間も全く見えなかった……は、早すぎ。

これ察知できるヒトいるの?


ごとり、と床に変な方向に曲がって落ちた首が転がる。

斬る直前にスタンリーが凍らせたようで、血はでない……出ないけど……。


「あー、もういいよ。わかりのわるい子どものために死ぬひとがかわいそう! ほら、はやくどいて!」


ぽてぽてと歩み寄ってパッと乱暴に払う仕草をすると、少女は軽く吹っ飛んで付き人たちの列に受け止められた。何が起こったかわからない少女は、目と口を開けっ放しにしているだけだ。


「その死体もちゃんと持ち帰ってよ? 可哀想な騎士。主君がバカだっただけで命を奪われるなんて……ああ、かわいそう! あ、ところでアイリさん、いろいろと依頼達成のてつづきしたいんですが、今だいじょうぶですか?」


急に名を呼ばれたワイルド姉さん、アイリさんが我に返った。

「は、はい。大丈夫ですよ。に……2階で伺います。ミリアムさん、この場は……」

「あっ、うん任せて。対応よろしくね!」


「いや〜、ラッキーラッキー! ねえミリアム聞いて! 砂赤豆が6シルバーで売って……って、あれ? なにこの雰囲気? え、なんか死んでるヒトいる。えっ、え?」


空気を読まずにめっちゃ明るい声色で組合(ギルド)に入ってきたのは、ミェス。

なんかここに来る途中で「急用ができました!」っつって離れたんだけど、その砂赤豆ってやつを買ってたんだね?


もしかしたらミェスがいたら、転がっている騎士は死んでなかったかもね。


「ミェス……最初からアンタがいてくれたらこんな大事にはならなかったかもしれないね。まあ仕方ないよ、これも運だ」

「えーっ、なにー? あ、これイズモ傭兵団の甲冑じゃん……何があったの?」


「君主選びに失敗しただけだ」


ジュンが答えると、ミェスはそれだけでサッと周囲を見回して簡単に状況を把握したようだ。わざとらしく大きなため息をつく。

ミリアムさんも俺と同意見だったらしい。だよね……。


「あ〜あ。不運だねえ。でも主君をいさめるもの貴族に従う使用人のお仕事だよ? まあどうやらそちらのお嬢さんには貴族の常識がないみたいだから、出直しておいで。この状況からもわかると思うけど、遺跡の件はここでの件が解決しない限り、こちらの御方は一切、協力しないと思っておいてね」


ミェスがよく通る声で言うと、アイリさんが俺を2階へ促す。


「さっ! 王子、まいりましょう! どれくらいランク上がるかな〜!」

「僕、別に上がらなくてもいいよ。じっせきだけ付けば」


組合(ギルド)が上げたがりますよ、きっと!」

「ええ……やだな」


俺とミェスが軽口で会話しながら階段をのぼる姿を、1階のひとたちが見守る視線がよくわかる。あの男爵令嬢もしかり。


男爵令嬢のひとりが「S級冒険者を従えているなんて、別格の貴族です。お父様に連絡しましょう」と令嬢に諭している。

ちょっと遅かったね〜。


騎士じゃなくて傭兵だったというならあの態度と無謀な命令に従ったことにも納得だ。

亡くなったヒトを悪く言うのも気が引けるが、単純に彼自身が無知だったということ。

貴族のしきたりや常識などを知らなかったのだろう。


言い換えればあの男爵令嬢は、()()()()()()()しか付けられていなかったということだ。

男爵家の規模と品位、そして彼女の扱いがなんだか透けて見えた気がする。


組合(ギルド)の応接室に案内され、大きなソファによじ登……あっ、ふつうにちょっとジャンプすれば座れそう! 俺、成長してる!!


「冒険者ケイトリヒ、少し見ない間に……なんだかすごく大きくなりましたね?」


ぼむん、と座った俺を見てアイリさんが不思議そうに言う。

ですよね、大きくなったよね!


「男子3日会わざれば刮目(かつもく)して見よ、という言葉があってですね」

「はあ、そうですか。では、まず簡単な依頼から精算からして参りましょうか」


ねえもうちょっと聞いて!?

アイリさん、クールなんだから!


「……ケイトリヒ様、大丈夫ですか」


横に座ったスタンリーがいたわしげに俺の背中を撫でてくる。

寝ちゃうからやめてほしい。


「ん、なにが?」

「……いえ、大丈夫ならよいのです」


スタンリーはぽむぽむと俺の髪を撫でて、すぐに離れていった。

あ、離れるとなんか寂しいな。


「にいに、横にいて」

「はい」


ちょっとうれしそうに戻ってきたスタンリーにちょっと寄りかかると、また髪をぽむぽむされる。


「……年相応に甘えることもあるのですね?」


アイリさんがまた不思議そうに言う。そんな不思議がるところ?


「僕、かわいがられてそだった末っ子なので!」


ねっ、みたいにペシュティーノを見ると、すごく微妙な顔してる。なんで?

俺と目が合うと、ふわりと笑った。まあいっか。


ミェスがバタバタと書類を用意し、組合(ギルド)側の事務官みたいなひともやってきてその場は仕事モードに切り替わった。


ミェスの作成した書類は完璧だったようで、簡単な確認が終わるとすぐに報酬の支払いに入る。組合(ギルド)の事務官が「他のS級の方もこれくらい書類が整ってるとありがたいのですが……」とため息をついていた。ミェス、優秀なんだ〜。


「今回冒険者ケイトリヒにお支払いする額は、帝国通貨で103万FR(フロー)となります」


通算8件の合計額なのに、ワイバーン3匹の捕獲より安い。ふーん、そうなんだ。

ワイバーン捕獲が破格だったのかな?


「……ワイバーンの捕獲と比べて安く感じられるかもしれませんが、通常の依頼はこれくらいが相場です。あと、1件の極秘案件については今回の報酬には含まれておりません」


「ごくひあんけん?」


そんなのあったっけ? と首をかしげていたら横でスタンリーが横からボソッと「ミラネーロたちのことかと」と教えてくれた。アッそうでしたね。


ドラゴンの件は、エルフの里から出されるはずだった調査依頼だけ達成、という形で処理している。本来の調査依頼の内容は、エルフたちが狩り場にしている地域の近くに痕跡がないかどうかを探すだけの内容だった。

なので達成金額は1日の調査依頼の相場でだいたい帝国通貨8千FR(フロー)+諸経費の実費くらい。


さらにこれはペシュティーノとスタンリーとジュンと俺、そして魔導騎士隊(ミセリコルディア)の冒険者資格者4名を含む8人パーティへの支払いなので一人あたりの報酬は約1000FR(フロー)ってことだ。

日本円にすると約10万円。安いのか高いのかよくわからない。


ただドラゴンについては、これまで伝説だった生き物がヌルリと6体も発見されちゃったうえに俺がその個体を全て所持する、という形になってしまった。そのため、追って生態調査などの報告が必要になる。こちらはおそらく報酬でいうと天文学的な報酬金額になるだろうという話。ドラゴンの情報はどの国でも、どの貴族も高く買取るはずだ。


だが、価値が高すぎると、もうお金で解決できなくなる。

そうなると俺の公爵令息の立場が活きてくるんだなー。


ふっふっふ、これがいわゆる政治力というやつだ。

前世でも学術的価値が高すぎる大発見は、もう個人間で売り買いするものじゃなくなっちゃって博物館とか研究機関に接収されるのが常だ。

俺は、この伝説のドラゴンに関する需要に対してしっかり商業的に活用するあらゆる準備が整っているというわけ。これもいわゆる公爵令息チートかもね。


とにかくドラゴンの件は皇帝陛下や父上とも相談したうえで、取扱は極秘案件だ。

公開する際には最も価値がつき、最も影響を与える方法を国レベルで考えたうえで決定されるだろう。俺はある意味、待ってるだけでいいのでラク。

当のドラゴンたちはユルユルでペット感覚だし。


というわけで、ちゃんと報酬の内訳を確認してみると達成した依頼8件のうち、7件の調査依頼はどれもこれも5千〜2万FR(フロー)が相場。

一番の高額を叩き出したのは……トビムカデの駆除だ。


これだけで100万FR(フロー)に近い金額が支払われていた。

日本円にして1億円近く。

ワイバーン捕獲の報酬は依頼者が太っ腹だったので例外だったとして、この報酬はC級冒険者への支払いとしては異常な額だということをアイリさんが念入りに説明してくれた。


まず、実際に駆除の作業をしたのが俺1人だったこと。

そして本来ならば、組合(ギルド)全体で大掛かりな作戦を展開して取り組む依頼内容だそうで、「むしろこの値段でいいのか」と言われるくらいの内容だったらしい。


俺がやったことといえば焼け落ちるトビムカデを気持ち悪がりながら見てただけなんだけど……。


「なるほど……ケイトリヒ殿は魔導が強力であるがゆえに、細かな調整が必要な依頼よりもこういった殲滅や駆除といった大掛かりな依頼のほうがお得意ということですね。これはペシュティーノ殿がNランクを考えた理由もよくわかります。特例すぎる特性です」


加えて、魔導が強力すぎてヒトの集落が多いクリスタロス大陸では使い所が難しいことや対象の魔物がどういったものならば同様の成果が出せるかなどを話し合った。

主にペシュティーノとアイリさん、たまにウィオラとジオールが。


俺の話なんだけど、俺はふむふむ聞いてただけ。

あれっ? おかしいな?


しかし、1時間近くに及ぶ話し合いの結果、ペシュティーノとジュンとスタンリーは順当に冒険者ランクを上げ、俺はCランク据え置きのまま追加でNランク認定を受けることになってしまった。


「なぜ!!!」

「……話し合いを聞いていらっしゃらなかったのですか? これが一番、冒険者組合(ギルド)で真っ当にケイトリヒ様の『できること』を上手く活用できるランク付けだという結論になったではありませんか」


とちゅうから上の空でした! すみません!


俺の冒証(ボーショー)を預かっていたアイリさんが、何かを指さしながら返してくれる。


ランクを示す「C」の文字の横に、デカデカと「限定N」という文字。


「なにこれ」

「特定の依頼内容や条件下によって、C以上、あるいはC以下の働きとなる方にはこのような表記がされます」


あ、「以下」のほうも含まれるんだ……。


たしかに、俺個人で調査依頼となると微妙にCランクのレベルを維持するのは難しいかも。今回達成した7件の調査依頼も、ミェスの指導あってのことだし。


「一応ランクはCで据え置きとなっていますが、依頼内容によっては振れ幅が出るという扱いですね。ケイトリヒ様は公爵令息ですし、それくらいの認定が妥当でしょう」


通常のランク+Nランク認定というのは、そう珍しいものでもないんだそうだ。

ある程度の戦闘能力は持ちつつ、それ以外の特殊能力を持っている冒険者は多い。

まあ、ほとんどが種族に付随する能力であることが多いそうだが……。


帝国で有名なところだとマーマン族の冒険者には水中行動のNランクがつくし、トビアスのようなマグニートの特性を持つ冒険者は高温地帯での行動可能というNランクが存在するそう。

普通のニンゲンにつくものといえば、ドラッケリュッヘン大陸の冒険者組合(ギルド)では、天気予報や特定の鉱石をみつけるだけの能力者に与えているらしい。

これは異世界召喚勇者のキミタカとオビが冒険者組合(ギルド)から打診されたことでもよく知っている。


そして俺は……。

「大規模・広範囲・高火力の魔導」……という文字がNランクの下のところにちっちゃく書いてある。


まあ……合ってる。


このNランクについては、ドラッケリュッヘンで認定されればクリスタロス大陸の全ての冒険者組合(ギルド)にもその情報が共有されるというわけ。


「異常発生した魔物を殲滅するには大掛かりな人員招集と準備、作戦が必要なので、普通ならば100万FR(フロー)では済むはずがありません。それがたった1人の冒険者で事足りるとなれば……もしかすると、このNランク認定で、王国や共和国からも依頼が舞い込んでくるかもしれませんよ」


アイリさんとペシュティーノが口を揃えて言うけど、それってどうなの。

嬉しいこと? めんどくさくない?


「僕はお金じゃうごかないよ?」

「しかし市民の命と生活に多大な被害が出ることが想定されれば、動くでしょう?」


まあたしかに。

災害級の魔物被害を俺の魔導が食い止められるというなら、動くしかない。

ただ、もしすでになんらかの集落が襲撃されている場合、俺の魔導は使い所が難しい。

集落の市民の命を見捨ててまで魔物を殲滅させたいという状況に限る。

そしてそんな状況、俺はきっと動けない。

市民を巻き添えにしてまで魔物を殲滅させるなんてトラウマにしかならないもんね。

屈強な騎士でさえ流民のこれまでの「対処」に心を痛めていたんだもん。

子どもにそんなことさせない……よね?


「どうでしょう。冒険者組合(ギルド)は徹底した実力主義ですから、子どもが相手でも対処できる能力があると判断すれば依頼を出してくると思いますよ」


報酬の受け渡しが終わり、部屋を出る前に俺の懸念を伝えたらペシュティーノが少し困ったように言う。俺たちを案内するためにドアを開けているアイリさんも、その言葉を肯定するように顔を曇らせた。


組合(ギルド)としても解決策がそれしかないと判断すれば、おそらく出します。ケイトリヒ殿には難しい判断になるかもしれませんが、冒険者はS級にでもならない限り強制依頼はありません。そういう意味でも、Nランク追加は妥当なのですよ」


アイリさんはいたわしげに俺に笑いかけた。

なるほど。ランクを上げないことがむしろ子ども冒険者への思いやりになってるのね。

帝国は子どものイヤイヤに対して寛容な国だけど、冒険者組合(ギルド)は商業組織だ。

子どもの心情なんていちいち構っていられない、というのもあるっちゃーあるよね。


もしかするとこの認定で、俺は苦渋の決断を迫られるときが来るかもしれない。


ちょっと憂鬱になりながら階段を降りると、1階には土下座スタイルで平伏した集団。

もー、なにこれ。


前を歩いていたアイリさんが、振り向いて小声。

「先ほどの男爵令嬢の保護者が現れたようです」


土下座の中に紫色のツインテールが見える。

ムカついているのか、肩が震えている。慣れない姿勢なだけかな?


「えーっと、冒険者ケイトリヒ? もしかしたら見えてるかもしれないんだが……キミとお話したいという人物が組合(ギルド)に来ていてね」


階下からミリアムさんがちょっと困った顔で笑いながら声をかけてきた。


「へーそうなんですか。じゃあ、代理を残していくので彼に話してもらうよう伝えてください」


俺がチラリと見ると、ジュンが頷く。


「あっ、王子。僕も残るよ! 帰りはジュンに乗せてもらうから!」


何か思惑があるのか、ミェスも立候補。

別に断る理由もないので「いいよ」と言うと、途端に腹黒い笑顔で土下座するヒトたちを見つめた。なんかする気だな? まあでもミェスに任せちゃう。

なにせフラグ回収だ。ガノとミェスと、ついでにバルドルも口を揃えて言った「とんでもないことを平気で要求するような奇想天外な人物」と先ほどまさに出会ったばかりだし。


そんな相手に俺ができることは、「相手にするつもりはありませんアピール」だけ。

礼儀を教える道理はないし、今後の付き合いもあやしいので抗議もしない。

歩み寄るのは俺じゃなくてあちらでないといけないのだ。


「あんたねえ! 私に怒ってるのは仕方ないけど、せめて師匠は……」


女の子の声がしたおと思ったら、「ゴッ」と鈍い音がした。

隣りにいた女性が、紫色の小さな頭を押さえつけて床に打ち付けた音。


そ……そこまでするのはちょっと……引いちゃうんですけど……。

でも何度言葉で教えても学習できない子に、思わず手が出ちゃう気持ちはわからんでもない。もちろん日本では、そんな気持ちになっても絶対に行動にしないのが正しい。

日本じゃあ無礼で殺される心配はないからね。

でもこの世界じゃ死活問題。


師匠と呼ばれた女性……たしか、ダニエラ女史は、俺にアピールする必要があるんだ。

「この子の無礼は自分の責任であり、今後は改善するので許してほしい」という姿勢を。


「じゃあ、たのんだよ」


俺はそれだけ言って、組合(ギルド)を出る。


はぁ〜、身の丈にあわないくらい偉くなるって、タイヘンだなー。

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