表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/186

第2部_3章_181話_大陸事情 1

「ケイトリヒ様、確認したところ大変な事実がわかりましたよ」


大変というわりにとっても悠長なかんじのシャルルの発言に、完全に油断してた。

組合(ギルド)からの呼び出しにいつ応えようかな〜なんてぼんやり考えておりましたよ。


「神の権限解放について調べると申しておりましたが、それを調べるうちに権能についていくつか新情報が。ケイトリヒ様が今お持ちの権能は3つであることはご存知ですよね」


神の話だった。

右手でハットゥラッカ、左手でギンコをモフるのをやめて身体を向けてしっかり聞く。


「うん。それで?」


「神の権能は全部で5つ。あっ、それとは別に、神になるための段階についてですが、飛び石でいくつか解放されているようです。そしてこちらが本題なのですが」


シャルルは微妙に興奮しているのか、話題の順番が飛び飛び。

なんかすごい重要なこと軽く流された気がするけど俺もあえてスルー。


一応まとめると、俺の身体に宿る「神の権能」は全部で5つあって、そのうち3つが既に覚醒している。

そしてそれとは別に「神になるための段階」という、竜脈からチョクに解放状況がアナウンスされるものがあって、それは12段階。

現在は第4段階まで解放されたはずだ。

そしてどうやらその12段階の残り8つだったはずの段階は、既に解放されているものがあるらしい……が、それよりも重要なことを俺に伝えたくてたまらないようだ。


「残りの権能の2つが、すでに他の神候補に宿っているようです」


「え」


しーん。


しー……ん?


「ええ?」

「ケイトリヒ様に宿る権能は、『全知』『破壊』そして『言霊』……残る2つ『予見』と『創造』が……あっ、神になるための段階で、既に解放されているものはどうやら第8段階と第11段階で」


「いやまって、そこもまあ気になるけど、他の神候補に宿ってるってどういうこと? 僕の神候補代理計画が実は僕のしらないところで進行してたってこと!?」

「そのようですね。それで、その段階の内容は……」


「まってまって!! じゃあ、僕と同じように神の権能を持った、神候補がこの世界にいるってことだよね!? 2つも持った、有力な神候補が!」

「いえ、2つの権能は別々の者に宿っているようです。つまり神の権能を持つ神候補はケイトリヒ様を入れて3人です」


ええええええええ!!!


「すごいしょうげきてきなニュースじゃん!」

「ええ、私もどうしてこれまで調べなかったのかと後悔するばかりでしたよ。そして、もっと衝撃的なことがわかりました。ケイトリヒ様以外の2人の神候補のうち、1人がクロイビガー聖教法国で御神体として祀られている人物です」


「え……じゃあ法国って……」


シャルルが少し困ったように頷く。


「……ええ、邪神信仰などではなく、正当な信仰ということになりますね」

「ほろぼせないじゃん!!」


「そうとも言い難いのですよ」

シャルルは目をつぶってこめかみに指先をあて、まぶたの裏の何かを読み上げるようにブツブツと呟くと「執行者(アンクィジター)の中間報告によると」と続ける。


「……その候補者は聖教の組織によって幽閉されて傀儡(かいらい)となっています。実際に組織を運営している人物が別にいて、神候補は祭り上げられているだけのようです」

「……」


「そしてその組織は想像通り、外部から少し調べただけでも、ろくでもないことばかりしているとんでもない組織です。壊滅させるべき組織なのは間違いありません」

「だいぶボカしたね?」


「まあとにかく非人道的なことしかしてません。悪の枢軸です。ケイトリヒ様のお耳を汚すばかりで不愉快極まりない組織であることはお約束いたします」

「……裏がとれたんだね?」


ちょっと複雑な話になってきたなあ?

クロイビガー聖教法国が御神体として祀っている神候補は紛れもなく本物だけど、周囲の組織が腐りすぎててヤバイ。雑にまとめるとこういうことなんだけど……。


「で、その悪事しかしてない組織を主導している人物はまだわからないわけね」

「左様でございます。面目ない」


でもつい最近あきらめそうになった、「神の代理人計画」が現実味をおびてまいりましたよ! 俺が神にならない、って選択肢もでてきた!


「神の権能って、誰かに宿ったら他の候補者には同じものは宿らないってことなの?」

「そうですね。ケイトリヒ様が完全なる神になる場合は、すでに権能を宿した2人の命を奪う必要があります」


「ぜったいしないよ?」

「円満に受け渡しということもできるかも知れませんが、いかんせん前例がないもので……あともう一つの手段としては、自然死を待つ、ですかね」


「気の長い話だね」

「ケイトリヒ様はすでにこの世界に魂が召喚された時点で、神になるための第11段階である『不死』の権能を宿しておりますので、放っておけば他の2人は長くとも100年以内には死ぬでしょう。ああ、『神になるための段階』は、どうやら2人とも最初の第1段階以外を解放していないようです。ちなみに第1段階は『異世界から来る』なので異世界人は全員解放されているはずですね」


……え?


「ちょっとまって、知らないうちに解放されてた段階2つのうちの1つが、『不死』?」

「はい。これは当然ですがアンデッドになるわけでも、おそらくケイトリヒ様が認識されているものとも異なります。これはいわば【命】と【死】の属性を操る力、と解釈すればよろしいかと。御身が斬られても死なない、とか風邪ひかないとかそういうことではないです。正確に言うと、『不老』かもしれませんね。ひとまず自然死はしません」


え、それなら「不死」って権能、名前のわりにショボくない!?

なんで「不老」にしないの!? サギじゃん! けっこう簡単に死ぬじゃん! 迷子になった時おぼれて死にかけた件、竜脈からもガチめに心配されたけどホントに危なかったんだね!?


ただ、俺自身が【死】属性に満ちていてバランスが悪くても生きていられた理由というのがそのおかげらしい。つまりこの世界でケイトリヒとして死の淵から蘇ったあたりに身についた権能ということだろう。


「ケイトリヒ様は脆弱な子どもの身体ですので、攻撃されたり溺れたり病気になれば普通に死にます。そこは本当に脆弱ですので、今まで通りお気をつけください。神候補がこれほど死にやすい御身をお持ちであることが私には大変脅威ですが、まあ仕方ないです」

「あ、うん」


脆弱なのは知ってるけどさ……そんな強調しなくてよくない? スネるぞ?


「で、僕の知らないもう1つの段階は?」

「ちょっとうっすらしていて分かりづらいのですが……おそらく『永浄(えいじょう)』か、『美相(びそう)』のどちらかではないかと」


永浄(えいじょう)は普通の生物のようにウンチしたり垢がたまったりすることがなくなる状態なんだそうだ。

美相(びそう)は、誰が見てもその姿を美しいと感じること。


え……神になるための段階にしては……どっちもショボくない……?

いや、まあ神っぽいけどさ……。


「僕、ウンチするよ?」

「しかし髪は伸びませんし、肌が垢じみたこともありませんよね」


それはほら、お坊ちゃんだから。

ちょっと前まで沐浴するにもお洗濯用のタライで事足りるほど身体も小さいですし。

今はちょっと成長して、大きめのタライになりました。しかしタライはタライ。


「神のチカラなんてなくても、誰が見ても僕はかわいいよね?」

「それは確かに」


たしかにうっすらしてんなー。まあその2つなら害がなさそうだからどっちでもいっか。

いや、俺のかわいがられっぷりが神のなにがしかのチカラのせいだったとしたらなんかガッカリだ。子ども特権だとおもってたのに。


まあそこはいいや。

あまり能力としては関係なさそうだし。


「ともかく、執行者(アンクィジター)の中間報告だけ聞いても聖教法国を相手取ることは一筋縄ではいかなそうだとよくわかりました。正規のルートからも情報収集を始めましょう」


衝撃的な報告内容ではあったけど結局、聖教法国をどうにかするっていう予定には変わりないし、そのためにとる行動もさほど変わらない。

ただ、聖教法国の中枢にどでかい隕石とか落としてぜんぶ滅ぼすみたいな選択肢はとりあえずなくなった。いや、もともとあまり考えてはいなかったけども!


いや、シャルルとしてはそういうのもアリらしい。

なにせ他の神候補は殺してもいいみたいな物騒なこと言ってるし。


父上としては、あんまり法国制圧に手間どる場合は、そういう感じで壊滅させてもいいって言ってたから選択肢のひとつにあっただけでね。

いやー、為政者の冷酷さを見たよね。やっかいならば滅ぼしちまえっていうね。

正直、できるとおもうけど、やりませんからー。


この世界のヒトって俺の価値観からするとたまにけっこうサイコパス。こわいよ。

でもまあ社会の成熟度合いと考えると、妥当なのかな。


この世界は歴史だけは長いがそれぞれが繋がっていないせいか、どうも未熟だ。

魔法という便利な現象が存在して、技術革新だってやろうとおもえばできるはずのに帝国が建国されて500年たってもさほど文明が大きく変わっていないのは何故だろう。

やっぱりアンデッドという人類の敵がいるせい?


地球で言う西暦500年から西暦1000年、と考えると……日本は古墳時代から平安時代くらい? うーん、たしかに文明がものすごく進んだとは言えないか……。

地球での近代100年くらいがちょっと異常だっただけか。

その異常な文明の進化ってコンピューターの登場のせいだよね。


この世界にも、高度な魔道具にはコンピューターに近い機能を持つものもある。

文明が進化してないんじゃなく、現存する文明そのものにムラがあるってことかな。


「ケイトリヒ様……法国の扱いを、どうすべきか悩んでらっしゃるのですか」


お風呂で洗われながら考え込んでいた俺を見て、ペシュティーノが問いかけてくる。


「んん、ぜんぜんちがうこと考えてた」

「そうでしたか。てっきり幽閉されている異世界人を心配しているのかと……そういえばその人物は、ミズキたちの脱出劇には参加しなかったのですよね。厚遇されていたのでしょうか」


言われてハッとなった。


「……そういえば情報表示インフォメーション・オープンでは……その「御神体」の異世界人はひょうじされてなかったよね?」


慌てて「情報表示インフォメーション・オープン」と唱えると、聖教法国のあるドラッケリュッヘン大陸東側には3つの赤い点がある。


「あれっ……僕がミズキたちと接触したときには、たしか反応が11で、全員が脱出したはずだよね。2人が道中で離脱して、帝国にいるのは9人……」

「……また、ドラッケリュッヘンに異世界召喚勇者が?」


温かい湯のなかで、俺は鳥肌がたった。

そうだ。

まだいる、のではない。また。


「また、召喚したんだ……」


どうして、ミズキたちと一緒に脱出しなかったのだろうと考えた俺はバカだ。

「御神体」とされている異世界人が、ミズキたちより前にいたのかどうかなんてわからないのに……? いや、そういえばその点ははっきり聞いてなかった。


「ペシュ、クロイビガー聖教法国に『御神体』が現れたのがいつのことか聞いてる?」

「シャルルが言うには、法国が『御神体が降臨された』と公表したのは20年以上も前。ただ、それが祭り上げられている異世界召喚勇者を意味するかどうかはまだ調査中ということです」


そうだ。

もしも御神体として厚遇されていて、ミズキたちがその存在を知らなかったら。

俺の存在が赤い点としてマップに現れなかったように、神の権能を得たその異世界人も同じだったら。


情報表示インフォメーション・オープンの情報だけでは不確実な要素が多すぎる。


「やっぱりシャルルの情報筋がまとまるのをまつしかないかあ」

「ときには待つことも必要ですよ」


ペシュティーノが俺の足の指の間をスポンジでモニョモニョ。くすぐったい。

俺の使う情報表示インフォメーション・オープンは特別製で、異世界人の精神状態や健康状態までわかるのだが。なんとなく私生活を覗き見しているみたいで気が引けたという理由で今は非表示にしてある。


ドラッケリュッヘンの3人が、死にかけていたらどうしよう。


おそるおそる3つの点に触れて、ネットのウィンドウでよくある「さらに表示」みたいなボタンに触れる。


・時任 祐大(ときとう ゆうだい)11歳

 健康状態:良好  精神状態:混乱


・三井 デクスター(みつい でくすたー)10歳

 健康状態:疲労  精神状態:不安定


・新巻 流星(あらまき りゅうせい)8歳

 健康状態:空腹  精神状態:安定


……召喚されて間もないのだろう。やや精神状態に不安はあるが、とりあえずミズキたちのときのように「瀕死」とか「絶望」が並んでいないだけホッとした。


しかし、全員年齢が低い。


「異世界召喚勇者の召喚時の年齢ってだいたい10歳から16歳くらいなんだっけ?」

「それは王国の平均です。帝国ではたしか、16歳から20歳くらいだったはずです」


そうだ。

召喚魔法陣の違いか、各国でやや召喚される異世界人にはそれぞれに傾向がある。

帝国も王国も、今となっては異世界召喚計画は凍結されている。

かつて帝国は召喚前に召喚してもいいか了承を得てから召喚しているという話だったし、王国では魔力不足によって異世界召喚勇者が若年化していたそうだ。

共和国ではもともと人道的な対応をしてたとレオから聞いている。

ただ、外交の情報筋……まあシャルルなんだけど、彼によるとやはり共和国でも異世界召喚計画はどんどん縮小傾向にあるらしい。


理由は共和国にある聖教からの明確な反対意志の表明だ。


シャルルが手を打ったのか何なのかわからないが、共和国の聖教が急に異世界召喚に対して反対しだした。そしてこちらも急に、帝国との宥和路線をとりはじめた。

このへんは共和国の新聞からの情報だ。


「……共和国の聖教は、今やほとんどハイエルフが牛耳っているとシャルルが豪語していました。同じ聖教といっても、共和国のほうは問題なさそうです。しかし法国は……」


俺の情報表示インフォメーション・オープンは誰にでも見れるように改造できた。

その画面を見ながら、ペシュティーノがフム、と考え込む。


「11人の異世界召喚勇者の抵抗にあって逃げられたっていうのに、まだ召喚するんだね……それほど法国には異世界人の需要があるってことなのかな」


んー。

例の「御神体」の存在が少しでも分かればいいと思ったんだが……。


むむむ、と空中に浮かんだ半透明の画面をにらみつけていると、もやもやと何かが浮かんできた。


赤い点ではなく、青くて境界線がぼんやりしたモヤのようなもの。

クリスタロス大陸のほぼ全域からドラッケリュッヘン大陸の西側いっぱいに広がる一番大きなものと、ドラッケリュッヘン東側にぽつんとある小さなモヤ。

そして大陸の境界線すら曖昧な暗黒大陸の中央付近に、同じく小さなモヤ。

ちなみに暗黒大陸にある2つの赤い点もまた、その青いモヤの周辺に固まっている。


「ん、なんだこれ」

「……今、現れたのですか? なにを考えられました?」


「シャルルから聞いた『御神体』なる異世界人の情報がわかればいいのに……と、思ったんだけど……あ、これって」

「もしかすると、3人の『神候補』の勢力図ではないですか」


クリスタロス大陸の青いモヤは、ラウプフォーゲル周辺を中心に色が濃くなっていて北にいくほど薄い。そして北西部の共和国よりも北東部の王国のほうが濃い。


「この一番大きいのが僕で、こっちが御神体? ちっちゃくない?」

「御神体の存在は公表されていますが、詳しい情報は一切出ていません。一般人も含めた認知度……という指標で色が広がっているならば、妥当とは思えませんか」


あっ、たしかに。

俺は受勲式典のナマハイシンや、公共放送(エフ)で流れる毎日のニュースでも有名だ。

この世界ではこれまで考えられないほどの早さと広さで高まった知名度だろう。


実は俺の冒険者修行の情報はけっこうリアルタイムで帝国の一般市民にまで共有されている。

さすがにアイスラーの湿地帯の精霊やワイバーンを従魔化したことなんかはオフレコだけど、アイスラー平定や新種のワイバーン発見の話題にすり替えてお届けしているというわけ。


そして公共放送(エフ)で放送された内容は、王国でも共和国でもすぐに新聞の記事となって駆け巡る。ワンクッション置くという手間はあっても、拡散力は今までと比にならないくらいの速度だ。

ちなみに王国への公共放送(エフ)設置は、近いうちに議会で解禁時期を決めるそうだ。

またもやフォーゲル商会の機材が売れまくりですね!

まあそれはよしとして。


公共放送(エフ)公営情報番組(ナーハリヒト)での俺に関する内容は人気なんだそうだ。

最初は帝国領マリーネシュタットでの領主との交流の様子を微笑ましいかんじの日常的な題材だったのに、最近はアイスラー平定に新種のワイバーン発見と大々的に活躍が報道されている。


最近はガノが広告塔になって映像までお届けしちゃってるのでほんとぐんぐん英雄っぽく扱われている。公共放送(エフ)の番組制作はフォーゲル商会が担っているので、何度か「あんまもてはやすのやめて」って言ったんだけどどうやら皇帝陛下が完全に「いいぞもっとやれ」と助長してるっぽい。


まじやめてほしい。


皇帝陛下は俺が16歳になったら帝位ゆずる気マンマンなので、俺が英雄になるの大歓迎なワケだ。


まあそういうわけで俺は知名度も支持率も、他の2人に比べたら間違いなく段違い。

神の力が人々の信仰によって強弱が決まるというのなら、帝国は世界で最も人口が多いと言われてるので、はっきりいって6年後に皇帝になった時点で残り2人は「詰み」だ。

ある意味俺にとっても、もう誰にも神の座を譲ることができない「詰み」でもある。


今現在すでに詰んでるって? それはまだ言わないお約束ですよ!

まだね! 皇帝じゃないし! ドラッケリュッヘンを平定して、その功績者が実は俺じゃなくてこの人でした〜!みたいに大々的に異世界人を表に出せば、もしかしたらワンチャンある! と、信じてる。多分シャルルは「ムリある」って言いそうだけど。

信じさせておくれよ!


「法国の神候補は、教団によって傀儡にされているという話ですのでさほど実力があるわけでもないのでしょう」

「神の実力ってなんだろ」


俺のふわふわ髪の毛をホイップ泡でモシャモシャ洗う蜘蛛のような長い指が、俺の疑問の言葉にピタリと止まった。


「……集められる崇拝者の数、ですかね?」

「うぇぇ、やめて」


俺がめっちゃゲンナリして言うと、ペシュティーノはフフ、と笑った。


「崇拝はそれを望んだものに与えられるわけではありませんからね。それに、神になるうえでは一定数の信仰を集める必要があるのでしょう?」

「信仰と崇拝ってちがうでしょ」


とはいえ、確かに神になる条件のひとつとして「信者を集める」というものがあるのは、かつて竜脈から聞いた話だ。そして帝国には聖教が根付いてないため、宗教的な信者ではなく皇帝の支持者としてすり替えるほうが簡単だ、という話になった。

まあそれで俺が皇帝になる路線が浮上してきたわけだけど。


「共和国の聖教がケイトリヒ様に歩み寄りを見せています。どうやらシャルルの、というよりハイエルフの思惑が動いているようですが」

「うん、共和国の聖教は敵対勢力だと思ってたけど、想定よりだいぶ軟化したよね」


「……しかし法国の傀儡となっている異世界人もまた、シャルルの見立てではハイエルフが介入している可能性が高いという話でしたね」

「ハイエルフはキングメイカーならぬ、ゴッドメイカーみたいだからね。精霊と違ってヒトに近いっていうなら、思想の違いとかもでてくるんでしょ……どう動くにしても、シャルルの調査結果まち、だね」


法国の悪行については、ハイエルフが関わっている可能性が濃厚だ。

それを確認するためにシャルルをはじめとした「こちら側の」ハイエルフたちが動いているのだが、結論が出るまでにはまだ時間がかかるという。


「ではその件は一旦忘れるとして……冒険者組合(ギルド)へは、いつ頃まいりましょうか」

「とりあえずあと2、3件依頼をこなしたら報酬やりとりも一緒にやっちゃいたい」


組合(ギルド)から呼び出されている件、色々あったけど忘れておりませんよ。

トリューで飛べば一瞬なんだけど、どうせ行くならあれこれ済ませたいもんね。

それに、組合(ギルド)からの呼び出しに応じれば遺跡の件で大陸東側の大物と接触できるかも知れないと聞けばちょっと作戦練らないと。

ま、急いで応じる必要はないってミェスの話なんで、ちょっと焦らす。


というわけで、今日もエルフの里での冒険者稼業。


少し離れた場所にある森の調査に、食用となる鳥型魔獣の生態調査、それに近くの川の水質調査。

ムカデは一瞬で絶滅寸前まで減ったし、存在さえ定かでなかったドラゴンはユル〜く現れちゃったのでエルフの皆さんから出る依頼はとっても地味なものになった。


でもこれもまたお仕事!


今までなかなか足を伸ばせなかった地域にもトリューがあれば行けちゃいます!ってことで結構需要があるみたい。


ミェスはずっと調合学の授業を担当してもらっていたけど、今日は冒険者としての「調査のお仕事」の授業だ。調査の目的に応じて、着目すべき点、情報の取捨選択、何をどのように報告すべきかをたっぷり教えてもらった。


ときどきバルドルも加わって、贅沢なトレーナーつきのお仕事になりましたとさ。


と、いうわけでいいかんじに調査依頼もこなし、達成した依頼がたまってきたのでオルビの街の冒険者組合(ギルド)へおもむくことになった。


初めてエルフの里の|セーブル・ド・サフィール《サファイアの砂》に来てから、だいたい2週間くらいが経ったかな?

今の実績があれば、俺は冒険者ランクB級への昇格は確定だろうという話。

ジュン、ペシュティーノ、スタンリーも公爵令息付き、というちょっとしたオマケもあっておそらく昇格するだろうという話。

魔導騎士隊(ミセリコルディア)のなかにも何人か冒険者資格を持つ者がいるので、彼らもまとめてミェスがいい感じに報告しているので、ごっそり昇格するんじゃないかな。


なにせ、トリューで飛びまわれる人材はさっさとランクを上げて請け負える仕事の幅を増やしたい、というのが組合(ギルド)の意向。

魔導騎士隊(ミセリコルディア)には1人1台トリューが与えられ、申請すれば任務以外でも使用していいことにしているから、割とお小遣い稼ぎに冒険者をやる隊員は多いそうだ。


前世の感覚でいうと航空自衛隊が戦闘機を自由に使ってるってイメージ。

戦闘機が1人1機とかありえないよね。

軍事機密なんかも含まれてるから私用で使うなんてありえない、とラウプフォーゲル議会からは言われたらしいけど。


魔導騎士隊(ミセリコルディア)のトリューには解析も複製も略奪もできない、ガッチガチの魔法がかかってるんでそういう点では大丈夫。

それに隊員には存分に自慢してもらって、魔導騎士隊(ミセリコルディア)の名を高めてもらいたいからね。


シュティーリさんちのぼんくら息子、ヒルデベルトさんが作った帝国魔導士隊(ヴァルキュリア)と違って自慢できることが多いですからー。おほほー。


なんてペシュティーノと話していたら、あっという間にオルビの街にとうちゃく。

トリューはやっぱり早い。



「こんにちわー! 依頼たっせいのほうこくにきましたー」


もう家みたいなかんじでユルく冒険者組合(ギルド)のドアをくぐると、なんか受付でワイワイしてるヒトがいる。


甲高い子どもの声に、その場にいた全員が俺に視線を向けてきた。


……ん、なんか雰囲気が……?


おや、と思って目だけでキョロリと周囲を見渡すと、ヒトの良さそうな冒険者さんたちはちょっとアワアワしてる感じだ。なんかヤバイとこに入っちゃった?


「アンタねっ!? 遺跡を発掘したっていうどっかの王子は!!」


俺に負けないくらいの甲高い声が組合(ギルド)に響く。


受付にたむろしていた大人たちをかきわけて、ズンズンという効果音がすごく似合う感じで近づいてきたのは……。


紫の髪をでっかいリボンでツインテールにして、ふんわりした膝丈のドレスに凝った刺繍がほどこされたボレロ、磨き上げられたピンクの靴……。


うわあ、マンガかアニメに出てきそうな、わかりやすい……ワガママ令嬢っぽい!!


「遅いのよ! はやく遺跡について報告しなさい!」


……デザインだけじゃなく、どうやらホントにワガママ令嬢らしいぞ……?


め、めんどくさっ!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ