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第2部_3章_179話_甦れドラゴンズ 2

「え〜ッ、この子が私たちの新しい主〜ッ!? やだあ、かわいい、かぁわいい〜!」

「デケえ妖精……じゃねえよな……?」

「魔力の匂いが……どうにも魂と見た目と一致せんな? まだ神になりきっていないのではないか?」

「んはあ、んは、主の魔力、いい匂い〜、もうなんだっていいよぉ」


アカ、アオ、ミドリ、キーロと呼ばれた竜たちは名前とは全く違う色をした、それぞれ生態が異なりそうなくらい身体のつくりがちがう竜だった。


アカはいわゆる地球で言うところの西洋ドラゴンの典型みたいな見た目で、長い首と太い後ろ足、頭からまっすぐ伸びた太い角、そして長いシッポ。そしてコウモリのような大きな翼。

でも色は赤ではなく茶色っぽい。そして女性みたいな喋り方をするが、声がものっすごい野太い。日本でいうところの「オネエ」っぽくはあるけど、竜は性別を好きに変えられるのでなんと呼んでいいかはわからん。


アオは典型的な東洋竜。ヘビのように長い身体に足が4対、つまり8本生えている。長い身体を器用に折りたたんでとぐろを巻き、頭は立派なタテガミと口元にはフサフサのヒゲと長い触手のようなヒゲ。そして枝分かれした角。

色はギリギリ青と見えなくもない青緑っぽい色合いで、口調は完全にヤカラ。


ミドリ、と呼ばれた竜は、これって竜と呼んでいいの?というくらい完全に鳥。身体は鱗と羽毛の混合で、翼は鳥と同じ。始祖鳥みたいな? でも顔はちゃんと竜。

そして色は鮮やかな紫。なんでやねん。なんでミドリやねん。すごく問い詰めたい気分。

口調はなんだか聞き慣れた感じのエラソーな感じ。


キーロはもっとひどい。コイツに至っては鱗すらない毛玉。そして蛍光ピンク色。

どこが? どこがキーロ? 名前として? 黄色とは無関係なの?

なんかオウサマペンギンのヒナがこんな感じだったよね? 毛むくじゃらに短い手足があって、つぶらな瞳……アホっぽい喋りをするけど、この見た目ならいいかなと思える不思議。うん、名前にはちょっと物申したいが一番かわいい。


「おお〜、皆が目覚めて騒がしいのぅ。この感じ……久しく忘れておったわ」


そして黒竜じいちゃん。

一応じいちゃんの名にふさわしく最年長らしい。


「ちっちゃくなれるのすごいねー」


黒竜は完全なヒト型になったけど、あとの4体はヒト型になるのがあんまり好きじゃないらしく、全員中型犬サイズに縮んでもらった。かわいい。


「キミはなんて名前なの?」

「オレ? 名前ないよ。アカとかアオも、ホントはね、名前じゃないんだ。じーちゃんは昔、名前があったらしいけど……神が死んでからは名前もなくなっちゃったんだって」


ドラゴンっ子、あるいはチビと呼ばれた黒髪金眼の少年……いや性別はないのか。

とにかくその子だけ通称みたいな名前すらないらしい。強いていうならチビ?

膝の上に乗ったモッフモフの蛍光ピンクのオウサマペンギンのヒナみたいな竜をモフりながら、うーん、と考える。


「とりあえずね、外に僕のホゴシャがいるから出たいんだ。そこにはいろいろ物知りなハイエルフもいるし、僕がキミたちに名前をつけても問題ないか確認しながら進めたいんだけどどうかなあ?」


「む? まて、まてまて。もしや主は我々全員に名を与えるつもりかえ?」


「え? そのつもりだったけど。なんかダメ?」


「すごーい! あるじすごぉい、みんな眷属にできる? そうなったらアタシたちホントのホントに竜神になれるかもー!」

「いやいや、今までの神でも2体が限度だったんだぜ、5体全部なんて……」

「むっ! オレも数にいれてよ! オレが一番最初にあるじに会ったんだぞー!」

「お前はさすがに竜としては未熟すぎるだろう……しかし、全員となると……世界の均衡はどうなるのだ? 特に我とアオなどは、権能が相反している」

「あるじがそうするっていうんなら、従う〜! んはあ、もっと撫でてぇ」


……勢いで名付けなくてよかった。

竜の名付けについてはなんだか制約がありそうだ。


「儂らのアンデッド化が消えた故、すでに結界に意味はない。じゃが外にはアンデッドの街があったであろ? あれはどうなるのじゃ」


「それもねー、ちょっと考える。とにかく外の眷属と合流したいんだけど、このみっちりした植物、消してもいい? これって結界の媒介だよね」


「そのとおり。うむ、今の儂らであれば、あの街の濃厚な【命】属性に触れても大丈夫じゃろ。構わんよ」


「おっけ、じゃあ消すね。せいれい!」


俺が叫ぶと、ふわふわ頭からバジラットとジオールとキュアがシュポン、と飛び出て俺の前に並んだ。


「できそう?」


「ん、ヨユー。こーゆーの、俺らの専門だから」

「わあ、すっごい年季の入った術式。でも世界記憶(アカシック・レコード)と繋がってる僕らにとっては大したことじゃないよ」

「御意のままに」


3柱はシュッと飛んで、壁状になっている植物にズムンとめりこむ。

2〜30メートルはあったであろう厚みの、絡み合った植物の枝がしゅるしゅるとほどけて消えていく。見ててなんか気持ちがいい。


しばらく見ていたけど時間がかかりそうなので、地面に座ろうとしたらふわりと抱っこされた。黒竜じいちゃんだ。

鱗がガントレットみたいで攻撃的な手足だけど、触り方はすごく優しい。

さすがにスタンリーのお膝に座るのは少し心もとないので、じいちゃんが椅子になってくれてよかった。


どっかりと地面にあぐらをかいた黒竜じいちゃんの膝の上にチョコンと座り、蛍光ピンクのペンギンのヒナを撫で回しながら、ほかの3体のミニチュア竜にと黒髪金眼の子に群がられながら待つこと体感4分。


枝でできた壁に大きな穴があき、向こう側が見えた。


同時に、魔導騎士隊(ミセリコルディア)の数人と戦闘機型トリューが器用に枝を避けて入り込み、すぐそばに着地する。


「ケイトリヒ様」


駆け寄ってきたペシュティーノが、群がられる俺を見て数メートル前で立ち止まった。


「ペシュ、このヒトはね、うーん……黒竜じいちゃん。あとの子はねえ、うーん、竜」


雑な紹介をするが、ペシュティーノには充分だったようだ。


よいしょ、とペンギンのヒナを横において、じいちゃんの膝から立ち上がりペシュティーノに抱っこされに行く。だって抱っこしたいでしょ?

当然のように抱き上げられ、頬ずりされてギュッと強く抱きしめられた。


「怖い思いはされませんでしたか」

「うん、竜ってワイバーンより……ユルイ、っていうか、ふれんどりーな感じ」


「ほう、その者が主のホゴシャか。ヒトのようなエルフのような……妙な気配じゃの?」


「ペシュはヒトだよ! ……たぶん」

「断言してくださって結構です。ハイエルフの血統ではありますが、ヒトです」


「おや、随分と姿が替わりましたね、黒竜」


シャルルだ。知り合い?


「おお? おー……おお、おお! 守護者(ベスキャーレン)か?」

「いえ、私は使徒(アポートル)です。あなたの膝の上におわした御方はまだ神候補なので守護者(ベスキャーレン)はまだ覚醒していないのですよ」


「んん〜? 候補じゃと? いやいや、それはなかろうて! こんなにかわゆいのに、力は紛れもなく神そのものじゃ! のう、主〜?」


久しぶりに孫に会って(おもね)るじいちゃんさながらに、俺の顔を覗き込んでくる黒竜。


「んん、僕まだ候補だよ」

「……なんと? 本当か? 世には、このような力を持つ神候補がまだ多くいるというのかえ?」


「いえ、このような神さながらの力を持つ御方はケイトリヒ様ただおひとりです。が、今はまだ、玉座にお就きでない。ただそれだけです」


それだけなの?

もうラスボスを倒す実力は充分あるのに、全クリしてゲームを終わらせるのを渋ってる感じのプレイヤー? 決定的なトリガーを引いてないだけの神?


「それだけなの……?」

「まあ、今はもうほぼそれだけと言っていいです。『白き玉座』のことはお聞きになってますね?」


「シャルル」

「白き玉座とは……はい、なんです?」


「その話はあとでいいから、この竜たちに名前つけていい?」

「ええ、では主が神としてこの世界をどのように統治したいかをよく考え、そのうえで最も理想に近いとされる竜を1体だけ選んでください。その竜を眷属とし、それ以外はその配下に置かれます」


あ、そういうシステム?


「儂は『秩序』じゃな」

「アタシは『自由』ね」

「俺なら『武力』」

「私の権能は『平安』です」

「ボクはぁ〜『技芸』」

「……」


ドラゴンっ子ことチビが黙ってる。キミはなんなんだい。


「そうじゃな、チビはまだ若輩ゆえ、権能が覚醒しておらぬ。じゃが儂の見立てでは……そうじゃのう、『未知』か『混沌』といったところか? 過去に存在し、今は(つい)えておる権能じゃ」


「なにそれパラメーター成長傾向システムみたいな?」

「ぱら……なんじゃ?」


「ううん。ひとりごと。というか、だれか1つしか選べないってこと? 選んだあとはその他の権能はその世界に育まれないってことじゃないよね?」

「もちろん。別に『武力』のドラゴンを選んでも、世界から『平安』の全てがなくなるわけではない。なにが強く世界を支配するか……といったところか」


『平安』の竜、ミドリがいう。色は紫ですけどね!


「そういうのは竜まかせじゃなくてその時代時代で変わるべきだと思うんだけど」

「もちろん世界には竜の権能の全てが存在はし続けますよ。世界の在り方というよりも、ケイトリヒ様がどのような神に成りたいか、に近いかもしれません。結果的にはそれが世界の在り方にはなるのですが……」


秩序の神になるか、自由の神になるか、武力の神になるか……ってこと?

えー、そんなの主神につけていいの? 俺ってギリシャ神話でいうところのゼウスみたいな立ち位置じゃないの? 天地創造……はしてないけど。


「権能でお悩みでしたら……新たな理想たる権能を持つ竜を神自ら生み出す、という手もございますよ」


「僕が竜を生むの?」

「ええ。生き残った竜たちは過去の神の支配の残滓でもあります。全て潰して、新しい竜を作り出しても構いません」


「えぇ!?」


「別に構わんぞい。そういった神は、過去にも何度かおったぞい」

「私たち、潰されても別に死ぬわけじゃないのよぉ」

「『武力』を潰して『支配』を生み出した神もいたぜ。代替わりと同時に潰えたけどな」

「我々の権能は世界を支配する神からするとほんのわずかな『傾向』を具現化しただけに過ぎん。お望みとあらば、一度この肉体と権能を棄て去り、新たな眷属として生まれ変わろう」

「ボクらもハイエルフとおなじ、神が世界を支配するための機構の一部なんだぁ〜。別に神がそう決めたのなら、受け入れるよぉ〜?」

「……あるじ、オレらのこと……きにいらない?」


「いや、理由はどうあれ今ちゃんと生きて喋れる相手を潰そうだなんておもわないよ!」


俺が正直な胸の内を叫ぶと、竜たちは嬉しそうにスリスリとすり寄ってきた。

あっ、黒竜おじいちゃんはちょっと、ご遠慮ください!

デカい角とトゲトゲした鱗が痛そうなので!


「シャルル……6人とも、ぜんいん眷属にするってのはナシ?」

「……はあ、どうしてそう名をつけたがるのですか……」


「だって!」


「儂も名前ほしいんじゃもーん!」

「私もほっしーい!」「俺も」「私だって」「ボクも欲しいよぉ」「お、オレだってー!」


6人?の竜がワイワイ叫ぶ。


「だいたい誰なんじゃ、1体しか選べぬと決めたのは?」

「そーよ、不公平じゃない! アタシ、眷属の眷属とかすっごいテンション下がるわ」

「だいたい権能とか無くたって俺の『武力』……とか『戦争』とかは、世界から消えたことなんてねえ。だったら別に俺、いらなくねえか?」

「それは『平安』とて同じことです。……このようなそもそもの話をしたことは、いままでありませんでしたね」

「ボクらあるがままを受け入れてたものねぇ〜」

「じゃあさ、じゃあさ! オレらぜんいん、あるじの眷属になったって、いいよね? あるじがそう望めば!」


世界の指針として竜を選ぶ、という機能はもうすでにあまり機能として作用してないのならば。正直、生き物として自由に生きて欲しいと思う。


「そうだな……すでに権能を持ってるのなら、神に作用するんじゃなくてさ……世界の人々に恩恵を与える存在になって、これからもたくさんの竜が生まれるといいんじゃないかな。今はいなくなっちゃった竜は、他にもいろいろな権能をもってたんでしょ?」


為政者は『秩序の竜』を崇めて、武人は『武力の竜』をあがめる。

もう少し一般的なものだと、需要としては『恋愛の竜』もいたほうがいいだろう。

『家内安全』に『学業成就』、それに……『交通安全』とか?


……あ、これ神社だわ。


「まあとにかくね、僕の前世の日本という国では、『八百万(やおよろず)の神』っていう考え方があってね、神は唯一だけのもの、ってわけじゃないんだ。もしも、もしもね? 僕が神になったら、その考え方も導入したいなあ。だっていくら神でも、一人じゃ限界があるでしょ? もっと機能的にさあ……竜には個別の信仰対象になってもらってさ、僕は統括というか社長みたいな立場でさ、企業みたいな? うーん、言葉にすると安っぽいな」


(神となる条件の第四段階が解放されました。これより、世界記憶(アカシック・レコード)の編集が可能となります)


「えええ! きゅうになに! これ何段階まであるの!?」

「な、なんと。まだ神の権能を全て解放していないのに、世界記憶(アカシック・レコード)への完全関与権を与えられるとは……これはもう」


神なんでしょ! わかったわかった! でも違いますから!

竜脈の声が聞こえていないペシュティーノたちがポカンとしている。


「しかし、世界記憶(アカシック・レコード)の書き換え権限を得たということは、ドラゴンたちの権能を主の言う通り、神の権能の一部として扱うような定義変更が可能になりましたね」


……そうか、神になるんだったら世界を自分の思う通りに運営できるってことか。

これって会社組織に置き換えて考えられないかな?


社員はこの世界の全ての生命体。

社長は神。(ちょっとこの言葉だけ抜粋すると誤解が出そうだけど……)

精霊やハイエルフ、ドラゴンは……ちょっと強引だけど社則だったり、制度だったり、システムの具現化、と考えるとどうだろう。


会社は社員の労働に対して対価を払う存在だけど、この場合は労働と対価ってなんだろ。


「生きることそのものが労働だとして……うーん対価は、恩寵? それだとちょっと恩寵の価値が下がっちゃうかな……生きることじゃなくて信仰にする? いや、それはなんかちょっとなあ」


「ケイトリヒ様、なにをブツブツ仰っているのですか。ドラゴンに名をつけるのでは?」


「うん、つけちゃおう! 運用方法はあとで考える! いいよね、シャルル?」

「……そんな軽く……しかし第四段階、3分の1まで解放されてしまったのなら半神と呼ぶにも神すぎます。まあ、ケイトリヒ様が神になることに前向きになったというのならそれでいいでしょう……私は竜の全てを眷属にすることを容認します」


あ、第四段階で3分の1ってことは全部で12段階あるってこと?

まだけっこうあるね。


「この竜たちについてはね……はじめて僕が名前をつけ直したいっておもった」

「なんと!? 名付け自体は軽々しくなさるくせに、センス云々を気にするケイトリヒ様が!?」


シャルル、言い方?


「だってね、見て。正式な名前じゃないそうだけど、この子はアカで、こっちがアオで」


全員の通り名を紹介すると、シャルルもペシュティーノも、その後ろにいたジュンやガノに魔導騎士隊(ミセリコルディア)たちも「そりゃ名前をつけ直したくなるだろうな」という顔になった。


「レオは……」

城馬車(ホッホブルク)に置いてきましたよ」


名付けの相談役、レオと相談できない……。


両方向通信(ハイサー・ドラート)は」

「距離と障害物がありすぎます」


そう、両方向通信(ハイサー・ドラート)って意外と制限距離が短いんだよね。

半径3、4キロメートルが限界らしい。この世界では十分みたいだけど。


魔導騎士隊(ミセリコルディア)の通信で」

「ケイトリヒ様、これまでカメオやバーンという良い名を与えた実績があるのですから、今回も御自らつけてはいかがです? 竜たちもそのほうが歓びましょう」


「うっ……そうだけどさあ」


6人もいっきに名付けるなんて、精霊以来だからたいへん。

それに、色で名前をつけるのも精霊と被っちゃいそうでやだ。精霊の名前って、実は全部色にちなんでるし……。そ、そういえばギンコたちも色だっけ。

色からは離れよう。色じゃなくて形……。


「キーロは……命名、ハットゥラッカ」


フィンランド語に明るいわけじゃないが、旅行に行ったときに聞いて響きがかわいいな、と覚えた「わたあめ」の意味だ。

あといちばん仮の名前と姿が違いすぎて名をつけたかったナンバーワンは最初に思い浮かんだ。


「ボク、ハットゥラッカ……あるじからの、名前……うれしい! うれしいー!」


ハットゥラッカはクルクルと回ってそのまま浮いてふわふわと漂った。

その瞬間、俺の身体の中にズズッ、となにかが注ぎ込まれるような感覚。

不快な気もするけど、初めての感覚なのでどう表現していいかわからない。


「んっ、なにこれ……シャルル、わかる?」

「竜たちの存在は過去の神の力の残滓と申したでしょう。名付けて自分のものにしてしまえば、その力がケイトリヒ様のものになります。おそらくそれが御身に注がれた……その感覚でしょう」


「わるいものじゃない?」

「それは……ケイトリヒ様次第、ですね」


俺の考え方次第ってこと?

有効なものは再利用しないともったいないよね!

これエコの基本! かつての神が遺したもの、それが竜。シャルルは残滓、と呼んでるけど考え方によっちゃ「遺産」でもあるってことだ。


よし、バンバン名付けて全部もらっちゃお。


「アカはね、命名! シュペック!」


背中が焼いたベーコンみたい、と思ってつけた。ドイツ語でベーコン。ごめん。


「ああん、素敵! 嬉しいわ、主! 素敵な名前をありがとう!」


またズズズッ、と身体に何かが注ぎ込まれる。

改めて考えると魔力っぽい。


「アオは……命名、フディーア!」


「フディーア。気に入ったぜ。俺の名はフディーア! 武力を司る竜なり!」


……語源が「いんげん豆」なのは黙っておこう。


「ミドリは、命名メリザナ」


「ほう……落ち着いた、素晴らしい名だ。語源は……そう、ナス……か。ツヤのある美しい果実だ、気に入ったぞ!」


あれ、ナスってバレちゃった。紫といえばナスだよね! ちなみにギリシャ語だ。

もしかしてシュペック(ベーコン)もフディーア(いんげん豆)もわかったうえで喜んでるのかな? 主の名付けに文句を言わない、いい子だなー!

身体にどんどん何かが注ぎ込まれてる気がするけど、もう気にならなくなっちゃった。


「主、儂は! 儂もはよう、名をくれ!」

「じゅんばんだから〜……でも、黒かあ。黒竜……ミラボ……」


いかんいかん、これ以上言ってはいけない気がする。

でもちょっとあやかるくらいなら大丈夫かな?


「ミラ……ミラ……ミラネーロ! おじいちゃんの名前はミラネーロ!」


「ほっほーう! 久方ぶりの名じゃ! 力が湧いてくるぞい!」


今まで以上に大きな力が俺に流れ込んだ。

でもぜんぜん不快じゃないし、すっごく大きい力だけどまあどうにかなるっしょ、みたいな楽観的に受け入れている。


「あるじ……オレにも、名前くれる?」


寂しそうにしていたヒト型のチビドラゴンは、少しおどおどしながら聞いてきた。


「もちろんだよ。実はね、会ったときから名前をつけることになるんじゃないかな〜と思って考えたんだ。だから、最後じゃなくてホントは最初かもね」


なにせアイスラー公国にドラッケリュッヘンと、渡り歩いた先々で名をつけることになってたからね。なんとなくこの子はドラゴンなんじゃないかなと思ったあたりから、名をねだられることを想像してた。


「キミの名前は、ドラカリス! 神となった僕の補佐をしてくれる存在になってほしい。権能は『均衡』で!」


今までと違い、流れ込んできた大きな力が一気に引き出されてドラカリスの方へ流れ込んでいくのがわかる。……これ大丈夫かな!?


「オレ……俺、の名はドラカリス。神たる主の傍に侍り、均衡を司る者」


名付けの瞬間に言葉が変わったバーンと同じように、子どもの無邪気な言葉遣いから急に大人っぽい喋りになった。


「おお……覚醒するか!」

「だいぶ遅かったけど、ようやく竜の姿になれるのねえ」

「しかも神直々の権能指定だ。こりゃ俺たち以上に強くなるぜ……!」

「実質、ドラカリスが我らの主になるな。だが我々も主から直々に名を賜った。我らの権能とて負けてはおらん」

「よかったねえ、ドラカリス〜!」


ドラカリスの背がメキメキと盛り上がると、あっという間に白い鱗に黒い模様が入った巨大なドラゴンに変身した。ワイバーンにも似た二足歩行タイプだけど、腕はちゃんと残っていて、背中には2対の翼がある。

ヒト型になった黒竜とおなじく、鱗がアーマーのように尖っていて触ったら刺さりそう。

海外のゲームや映画で見るカッコイイドラゴン、その2だ。

その1はアカことシュペック。しかし白黒って、ちょっとエッジィなデザインだね!

だが、根っこから日本人のオレが白黒で連想するものといえば……!


「わ、白黒だ。かわいいね」

「かわいい……かわいい!? 主、オレ、かわいい?」


「あれ、なんか口調がもどった?」

「主がかわいいオレをご所望なら、かわいくなる! もう主になっちゃったからツガイにはなれないけど、ずっと主のそばにいるよ」


シュルシュルと身体が縮んでいくと、さっきまで少年っぽかった身体が……!


「お、女の子になってる!」

「そのほうがいいかなとおもって」


マリアンネとフランツィスカよりも少し年下くらいの少女の姿になっていた。

はっきり言って第二次性徴を経ていない年代なので、どこがどう少女っぽいかというのはよくわからないけど。服はちゃんと胸元を隠してるし、仕草も女の子っぽい。


「こ、こまるよ! 僕には婚約者がいるっていったじゃん!」

「オレ、眷属だからケッコンの邪魔はしないよ? 主の眷属なら、もうゲーレもいるじゃん。ゲーレってみんなメスでしょ? じゃあオレも女になっていーじゃん! ……ダメだった? オレ、この姿じゃ主のそばにいちゃダメ……?」


悲しそうに眉を下げる少女。ううっ、負けない、負けないんだから!


「い、今から男の子になれない?」

「……やだ。それには、名前を変える必要がある。オレ、この名前気に入ったし!」


ああ……。

もう1ヶ月後に迫っている、マリアンネとフランツィスカとの合流。

そのときにどう説明したものか……いや、きっとドラゴンだってわかれば納得してくれる……よね? 2人にはなるべく隠し事はしたくない。


「そういえば、竜たちはこれからどうする? 僕、ドラッケリュッヘンを回って聖教国をどうにかして、それから暗黒大陸をちょっと覗いてこようと思うんだけど」


「ケイトリヒ様、とんでもない計画をサラリと仰らないでください」

「暗黒大陸を覗くのは初耳ですよ! なぜそんな流れに!」


ペシュティーノとシャルルが反応。

そういえばシャルルには暗黒大陸の話、してなかったっけ。

ドラッケリュッヘン到着前の船の上で精霊たちにおすすめされたんだよね、という話をするとシャルルも閉口。


竜たちは全員、「ついていく」という結論で一致したようだ。

なんでも、俺が正式に神になるところまで見守りたいそうで。


ミラネーロじいちゃんとドラカリスだけはヒト型で、あとはミニドラゴンサイズで過ごすってさ。なんか一気にペットが増え……いや、眷属が増えてにぎやか。


「……さて、主。儂らの今後も決まったところで、外の街について相談したいのじゃが」

「うん、そうね」


アンデッドの街。


かつての神が与えた、残酷な罰。


「出ようか」


俺は、その街を解放してみせる。

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