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第2部_3章_178話_甦れドラゴンズ 1

ドラゴンの巣へやってきました。


といってもまだ洞窟にはいったばかり。

暗くてジメジメしているイメージの洞窟だけど、ここは洞窟というより……山陰っていうのかな? ただ陽が遮られてるだけで、たぶん空間の高さは100メートル以上あるし、広々としてて風もよく通る。


外はいい天気だし、トゲトゲの山のせいか洞窟の天井部分はところどころ大きな穴が空いていて、光の筋が真っ直ぐに下に伸びている。そこには木なんかも生えちゃってる。

うん、洞窟というよりちょっと日当たりの悪いビオトープみたいな?


押しかけ(つがい)候補を主張するドラゴンっ子は、肩甲骨から大きく横に広がった翼で器用に滞空しながらゆっくりと飛んでいる。


地面はでこぼこで、歩くのは苦労しそう。

トリューほんと便利。

でもここまで広くなかったら、ちょっと洞窟にトリューで入るのは遠慮したいよね。


「ここから他のドラゴンがいるとこまで、どれくらいある?」

「んーと、もっと下。どんどんさがる。この穴はねー、先代の地竜のじいさんが掘ったんだってー。ねぐらまであと……うーん、10ぷんくらい? 飛ぶ……かな?」


この子の時間感覚はアテになんなそー。


しかしたしかに、自然にできた穴ではなく掘られた穴というなら納得だ。

どらくらい時間が経ってるかわからないけど、穴はキレイにドーム型を保ったままゆったりとした下り坂になっている。迷う要素なんてなさそう。


……と、思ってた。


坂を下り始めると、どんどん暗くなってくる。

俺たちのトリュー編隊は魔法で光を灯しながら進むが、ドーム状の通路はだんだん鍾乳石や巨大な岩、そして同じくらい広くて深い横道が見え始めた。


「点呼。全員、はぐれていませんね?」


定期的なペシュティーノの呼びかけに、全員が応じる。

ゆっくり進んでるから今のところ大丈夫みたい。


下り始めて30分くらい経っても、まだ先が見えない。


「……ねえ、迷ったりしてないよね?」

「オレ、ここ何千年も行き来してる! まよったりしない! ……ちょっととおまわりしたかもしんないけど、けっきょくつながってるから大丈夫!」


迷ってんじゃねーか!

でも結局行き着くところは同じってこと? なぜ分岐させた?

まあ地竜のじいさんは先代って言われてたから、もういないんだろう。

竜って何年くらい生きるんだろうな。


まて、この子で何千年?

……聞くのが怖くなってきた。


そしてさらに飛ぶこと30分。


真っ暗だった洞窟の先から、ぼんやり光が見えた。


「え……なにあれ、街?」


俺の言葉に、ペシュティーノが息を呑んだ。


広大なドーム状の通路の先に、うすらぼんやり明るい街が現れた。

この光景って……。


「クモミさんやヘビヨさんがいた街に似てる……」

「……このような場所で過ごされたのですか?」


「ん、過ごしたのは一瞬だけだったよ。そこで竜脈とちょっと話した。なんか、建物がどれもこれも大きくて、ぼんやり光ってて……あ、でも建築様式はちょっとちがうかも?」


これもとんでもない遺跡なんだろうなー。

そして未発見なんだろうなー。


「ミェス、こういうのって組合(ギルド)に報告すべき?」


魔導騎士隊(ミセリコルディア)のトリューでついてきているミェスに通信すると、少しの沈黙のあとに声が聞こえた。たぶん驚いてたんだと思う。


『……報告しても、ここまで安全に到達できるのはトリューがないと無理。ってことは……あー、どうしようかな……ちょっとこれほどの規模の遺跡は……前例がなさすぎて大混乱になっちゃいそー……』


俺が見た同じようななんとか遺跡はなかったことになってる。

というか、国家機密。なにせ古代兵器であるクモミさんとヘビヨさんが、稼働可能な状態で何千マン単位で眠ってるからね。


「ここも、神の怒りに触れたのかなあ」

『ケイトリヒ様が訪れた遺跡は、神の怒りに触れて滅ぼされた街だという話でしたね』


シャルルの声。


「シャルルは世界記憶(アカシック・レコード)にアクセスできるんでしょ? なにか情報ないの? 僕が竜脈と話したみたいにさ」


『肉体を持つハイエルフは人間と精神的な乖離が進みすぎないように、旧い存在や滅したものは忘れるようにできているんです。ここまで旧い都市は……さすがに私の記憶にはありません。少し世界記憶(アカシック・レコード)を調べてみますね』


先日のハイエルフ講座でも聞いた話だが、ハイエルフは本当に生物というよりも世界の機構の一部に近い存在。

例えとして、地球の大気圏が宇宙の細かな塵を焼き消すことや、海流や気流と同じ……と言われたけどスケールがでかすぎてよくわかんない。


……まあその話はいいや。それよりこの薄暗い街よ。

ドラゴンって、街に棲んでるの?


「ねえ、仲間の竜はどこにいるの?」

「もっとおく。街はね、オレたちをあがめるヒトがすんでる」


「えっ!? ヒトがいるの!?」

「いるよ? いまもいるよ」


ドラゴンっ子が指差したほうを見ると、謎の人影がヌボーッと突っ立ったままこちらを見ている……ような気がした。薄暗くてよく見えないけど、なんだか顔から身体から、ミイラ男みたいに布でぐるぐる巻きになってるような……? なので人相なんてわからないし、前を向いているのか後ろを向いているのかもわからない。


そんな人影は、薄暗い街なかにもポツポツといた。


「こんな地下深くで、どうやって生きてるの?」

「いきてるっていうか、しなないだけ? アンデッドだから」


えっ。


「……アンデッドの、街?」

「うん」


よく見ると、街のなかにいる人影はなにか目的があって動いてる様子がない。

ぼんやりと突っ立って、ときどきゆらゆらと歩く。建物の中に入ったり、出てきたりもしているけれど何をしているようにも見えない。


「ケイトリヒ様……ど、どうなさいますか」

「ま……まずはドラゴンに会おう。街のことは……ち、ちょっとまって」


「ねえあるじ、神なら、このまちほろぼせる? このまちのヒトはね、竜を神とあがめてほんとの神にのろわれたの。オレたちのいちぞくはね、こいつらがかわいそうだから、いっしょにいるの。でもね、もうこいつら話すこともできないけど、ずっと、ずーっと、死にたいみたい。できれば死なせてあげたいんだけど、オレたちにはムリなんだー」


ここもまた、かつての神に呪われた街なのか。


『アンデッドなのに、融合しないのか?』


ジュンの声。たしかに、これほど数がいれば融合して巨大化してもいいはずなのにな。


『……お待たせしました。世界記憶(アカシック・レコード)から情報を得られました。この街の名は【ロムア】、7億年前に地底人として栄え、竜を神と崇めたことで神の怒りに触れて滅びた国の残骸のようです』


な、ななおくねん!?

地球なら恐竜とかそういう時代じゃない!?


「じゃあ……この下にいるひとたちは、7億年ものあいだ、アンデッドとして?」


『……そのようですね』


シャルルもさすがに絶句してしまった。

ドラゴンっ子の言っていた、「ずっと、ずーっと死にたいみたい」という言葉が頭の中でわんわんと鳴り響いて気分が悪い。


「罰だったとしても、ひどすぎる。融合する様子がないのなら、もしかしたら普通のアンデッドとは違うのかな。神の権能で治してあげたりできるかな」


俺の言葉には、誰も返事をしなかった。

ようやく重々しい声を返してくれたのは、シャルルだった。


『永き時をアンデッドとして過ごした彼らは、もうヒトとはかけ離れた存在になってしまっています。慈悲を与えたいと仰るならば、その呪いの枷から解き放ってやることでしょう。……通常の、アンデッドと同じように』


トリューから下をのぞくと、布でぐるぐる巻きになったヒトの姿をした彼らが、ぼんやりと首を反らせて上を見上げているように見える。


『主、慈悲を与えるのはしばしお待ち下さい。特殊なアンデッドである彼らの【命】属性を吸収した場合、主にどのような影響が出るかを想定したく。まずは彼らの対応は保留しておき、主が仰るとおり竜との会話を済ませましょう』


魔導騎士隊(ミセリコルディア)の斥候が高度を下げて近づいても、街の彼らは襲ってくる様子もない。

認識できていないと思えるほど、無反応だ。

アンデッドは生命と見れば問答無用で襲ってくるのが当たり前で、とにかく生き物を殺すのが本能。生き物の【死】に触れることで、ほんのわずかに【死】属性を得ることができる。それでアンバランスに偏りすぎた【命】属性との天秤の角度を、わずかに和らげる。

それがアンデッドにとっての渇望なのか、快感なのか、あるいは食事にあたるのか。

さすがにそこまではわからないが、とにかく目的は生物の死。


シャルルの世界記憶(アカシック・レコード)からの情報だ。


「あるじ、こっちこっち! ちょーろーたちはね、こいつらとちがって、いちおうまだ生きてるから! はんぶんくらいアンデッドだけど、のこりはんぶんはちゃんと生きてる」


ドラゴンッ子が重苦しい空気のなか、無邪気に言う。


「……うん、じゃあ、あんないしてくれる?」

「うん! こっち!」


薄ぼんやり光る街の上空をゆっくり飛ぶと、その先にはほぼ壁と見紛うほど垂直に切り立った森。

街を覆うドーム状の地殻の端には神殿のような巨大な建物があり、その後ろにはみっしりと枝も見えないほどに生い茂った葉っぱの壁。

葉っぱだとわかったのは、近づいて魔導騎士隊(ミセリコルディア)の斥候がそばを飛んだときの風圧で葉擦れが聞こえたからだ。


「こんな地底に、植物がはえてる」

「……ケイトリヒ様、この森の向こうは危険です。とんでもない魔力を感じます……おそらくこの植物は魔力で育つものでしょう、封印を兼ねているのかもしれません」


え、俺はぜんぜん魔力とか感じませんが!?


「僕、ぜんぜんわかんない」

『それは主が神だからですよ。我々ハイエルフでさえ、この圧倒的な魔力には息苦しささえ覚えます。おそらく、側近や……ペシュティーノさえも、この森の中に入るのは危険でしょう』


「えっ! じゃあ僕ひとりで行くしかないの?」

「それはどうかおやめください! ケイトリヒ様、また私と側近たちの寿命を縮めるおつもりですか」


「う」


ペシュティーノが泣き出しそうな顔で振り向いて俺の手を取る。

さすがに寿命縮めるとわかってることに飛び込むのはなあ……。


『私が同行します。私の身には、ケイトリヒ様の権能が宿っています。ケイトリヒ様と同様に、魔力による影響を全く感じません』


スタンリーの声。


「ケイトリヒ様とスタンリーの2人だけで!? ……そ、それは……」

「だいじょぶだよペシュ! 精霊もいるし!」


「そーだね、僕たちも主の一部だから影響ないよ!」

「相手は竜です。主に危害を加えるようなマネはしないでしょう」


ジオールとウィオラがおにぎりサイズで現れて、ふわふわと天蓋(キャノピー)のガラスを通過してポワンと煙に包まれたかと思ったら、ヒト型になった。

あ、そんな感じで出現するんだ!? ふぁんしー!


戦闘機型トリューの両翼に立ってる姿はちょっとかっこいい。


「あのね、ペシュ、この大陸もうアンデッドに染まりそうなんだって。ここで竜のアンデッド化をどうにかしておかないと、平定してもアンデッド大陸になっちゃったら使い物になんないでしょ? ……いってくるね?」


断腸の思い、というのはこういう表情なんだろう。ペシュティーノは顔を歪ませ、奥歯を噛み締めながら俺を撫で回す。


「……わかりました。ケイトリヒ様の覇道のためです」


いやべつに覇道を敷くつもりはありませんけどね!?

でもドラッケリュッヘン平定はまあ、覇道の一環といえるか……。


ペシュティーノは俺のY字シートベルトを外し、抱き上げて胸に抱え込む。


「精霊様たちが守ってくださると信じております。ケイトリヒ様、くれぐれも危険を感じたらすぐに戻ってください。ケガなんてしたら承知しませんよ」

「はあい」


俺は震えるペシュティーノの手に気づかないフリをして、首にギュッとしがみついてほとんど骨のほっぺにブチュブチュとキス。

トリューの天蓋(キャノピー)が開き、ジオールが俺を抱き上げる。


「え、どうやって降りるの」

「はいはーい! あーしが安全に、飛ばしてあげるー!」


「えっ! 飛ぶの!?」

「えー? ヤダ?」


「ううん、たのしみ!」

「あはは! さっすが主―! いくよー?」


俺を抱っこしたジオールがその場でふわりと浮いて、スイーッと進む。

その後ろからウィオラが同じ感じでついてくる。精霊たちはね、もういつもふやふや飛んでるからあんまり感動ないんだろうけども!!


ウワー、飛んでる、飛んでる!!

今までもさんざんトリューで飛んでたけど、生身で飛ぶのってなんかすごい!!

と、テンションブチアゲな俺と対象的に、トリューに残されたペシュティーノは泣きそうな顔してる。


はしゃいでごめんなさい。


「すぐもどるね!」


手を振ると、少しだけ手を上げて応えてくれた。



葉っぱの壁から突き出した石の上に立っているドラゴンっ子が、「こっちから入るよ!」と手招きしている。通路があるようには見えないけど、まあ信じるしかない。


石の上に着地すると、すぐそばにスタッ、と身軽な音を立ててスタンリーが着地した。


「にいに」

「ご一緒します」


ジオールから降ろされて、スタンリーと手を繋ぐ。


「はー、おまえ、眷属? おもしろい、ちからつよいな! 主とおなじちからある!」


ドラゴンっ子はスタンリーに興味津々だけど、スタンリーは「眷属です」とテキトーな事を言ってやりすごしてる。

もう、ドラゴン相手だからって適当なコミュニケーションよくないぞ!


ドラゴンっ子は葉っぱに手を突っ込んで、ブチブチと枝を引き剥がしている。


「えっ、そんなチカラワザで入るの? 通路とかないの?」

「つうろ、ここにあるの! でもすぐえだがのびて、通れなくなる……おい眷属、てつだえ! 魔力じゃムリだぞ、てでちぎらないと!」


えぇ……。突然の庭仕事的な……。


「魔力だめなの? やってみていい?」

「……あっ、もしかしたら主ならだいじょうぶかも? やってみてみて!」


魔力じゃなくて神の権能のほうがいいのかな?

わかんないけど、まずはちょっと葉っぱの様子を調べてみて……。


手を伸ばしたら、ニュルン、と枝が俺の手を避けて動いた。


「うわ、うごいた」

「……特に何もする必要なさそうですね」

「エー! あるじ、すごーい! さっすがオレのつがいー!」


「まだ番じゃないから」

「ちぇー」


ずい、と思い切って枝に身体を近づけると、ザワザワと音を立てて枝が分かれて小さなアーチができた。ちょっとスタンリーには小さすぎる?

振り向くと、スタンリーが「……抱っこしましょう」と言ってきた。

俺の抱っこ卒業は、まだまだ先になりそうだな。


スタンリーに抱っこされて、ちょっと頭の位置が高くなった俺に合わせて枝のアーチがメキメキと広がって枝のトンネルになる。

足元はいつのまにか石から石畳になっていた。建物の中に入っていってるみたい。


「あ、後ろふさがっちゃった」

「あるじなら出るときもかんたんー」

「まあ、大丈夫でしょう」


スタンリーはわざと右に左に蛇行しながら歩くが、それに合わせて枝たちはザワザワと避けてくれる。確かに俺たちが通る分は大丈夫そうだ。


体感2、3分ほど歩くと枝が途切れた。


その先には、広大な空間が広がり、上下に枝と根を伸ばした巨大な樹……と、その中央に埋まるように城ほどの大きさの黒いドラゴン。長い首をうなだらせ、翼は枝の一部のように大きく広がって、身体は四足歩行の肉食動物に近い作り。

鱗は一枚一枚が尖っていて、とてもじゃないけど撫でたり愛でたりする感じの生き物ではない。


そして……枝と根が、ドラゴンの身体を侵食するように一体化している。


「竜が……樹になっちゃうの?」

「んーん、これはなんかね、ふういん? だかけっかい?のためにいったいかしてるんだってー。だからあえて? あえてのやつ!」


ドラゴンっ子はバサリと背中の翼を羽ばたかせて樹と一体化した竜に近づく。

この子が喋ると重苦しい空気が和らぐなー。というか、軽いなー。


「じーちゃん! じーちゃん、おきて! ねえ、神つれてきたよ! あたらしい神だよ」


あの、まだ神じゃないんですけど……といいたかったけど、スタンリーにギュッて手を握られて止められた。


「ねーーじーちゃん、おきてってば! ねえ!」


まさか……?


「もー! おきろー!」


ドラゴンっ子は、カッと口を大きく開けたかと思うと巨大な火を吐いた。


「あぢー!!」

「あ、じいちゃんおきた! ね、神つれてきたよ!」


「くぉらっ、なんちゅー起こし方するんじゃ! わしゃいま神樹になっとるんじゃぞ! 燃え広がったらどーする!」

「だってぜんぜんおきねーんだもん、ねえ、神つれてきたって!」


「なにを寝ぼけたことを。神がヒトに殺されて何年経ったと思っとる。……いや、何年経ったかなんぞ知らんが、もうこの世界は終わりじゃ。わしゃゆっくりアンデッドになる」


なんかすっごいイメージ崩れる感じのただの爺さんっぽい喋りの黒い竜は、はぁ〜、と人間っぽいため息をちょっと火の粉まじりで吐いた。

もぞもぞと身体を動かすせいで、周囲の枝や根がバキバキと音を立てている。

声は巨大な竜が発してるとは思えないほどボリュームも発音もほぼヒトと大差ない。

ってことは多分魔法で喋ってるタイプね。


「おいこのロクデナシ! あきらめるな! 神つれてきたってゆってるだろー!」

「だーれがロクデナシじゃこの悪ガキが! まったく、どこでそんな言葉を覚えて……」


そこでようやく黒竜……ことじいちゃんが、俺に気づいた。


「おお、妖精か? こんな竜脈の乱れた土地で、まさか生き残りがこんな地底までやってくるとは……ん?」


じいちゃんの動きがピタリと止まった。


「んん〜?」


長い首を俺のほうに向ける。

何ていう? 神です、って? どうしよう。うーん。


悩んでいる間に頭からフワッとなにかが飛び出して、シュタッと俺の眼の前に立ちはだかった。バジラットと、カルだ。


「おい、大地の竜! 寝ぼけてんじゃねーぞ、新たな神に挨拶しろ!」

「しろ!」


「んあ……精霊か? にしちゃあ、でかいな? んん、んんん、んん〜?」


「あのー、僕、ケイトリヒっていいます。えと、はじめまして、こんにちは」


色々考えた結果のこれ。


「な……」


じいさん、俺を見てフリーズ。


「なんちゅう可愛らしい生き物じゃあ! こりゃ妖精じゃなく、ニンゲンだな? しかも子ども? しかしこの魔力……んんん?」


もう、わかりがわるいな!

おじいちゃんってヒトでも竜でもだいたいこんな感じなんだね!

ちょっと学びを得たよ!


「主、この結界の中の【命】属性を吸収しちゃってよ。もうこのモーロクじじいには見せたほうが早いと思うんだー」

「今までのアンデッド討伐で得たものよりも遥かに膨大ですが、それでもまだ主にとっては微々たるものでしょう」


後ろにいるヒト型のジオールとウィオラが提案してくる。

いや、そんなのやったことないけど?


「え〜、やりかたわかんない。どうやるの?」

「……やはりペシュティーノがいないと難しいですね」

「スタンリーでは代わりになんないかなー?」


スタンリーを見上げると、2柱の言葉にちょっとムッとしてる。


「私もやり方は存じませんが、やってみせます」


ギュッと握った手のなかには俺の手。痛い。


「じゃあ最初はちょっと補助するね?」

「媒介しながら、調整をおねがいできますか。おそらく主は全て吸収すると思いますが……あまりにも急激だとお体に害が出るかもしれません」


「えっ、危ないことはちょっと……ペシュティーノがしんじゃう」

「大丈夫です、そんなことはさせません。よくわかりませんが、ケイトができないことは私が掌握してみせます」


えっ……カッコイイ……!


「にいに……!」


感動してギュッと抱きつくと、ジオールが「そのまま!」と叫ぶ。

え、なに?


「ではやりましょう」

「ジッとしててね」


ウィオラとジオールが、スタンリーの後ろに回ってその背中に手を置く。


「ゆっくり……ゆっくりやるよ」

「スタンリー、どうですか。感じますか」


「……? 何をしてるんですか? 私には、何も感じませんが……」


「あれ、意外とイケるかも」

「もう少し増やしましょうか」


そのやりとりを3回くらい繰り返してようやく、スタンリーが「ウッ!」と声を上げた。


「に、にいにだいじょうぶ!? 痛い? 苦しいの?」

「いえ、大丈夫です。ちょっと……なんだか気持ち悪い感覚があるだけで」


「ね、ウィオラ、ジオール、いま何してるの?」


「竜が作ったこの結界の中に充満している【命】属性を、スタンリーを介して主に吸収してもらっています。アンデッドは【命】属性の結晶のようなものだと、以前お聞きになりましたでしょう?」

「あ……結界内だけであれば、もう片付きそう」


スタンリーが俺を抱きしめる力がちょっと強くなったかと思ったら、急に力が抜けた。


「にいに、だいじょうぶ?」

「ふう……気持ちいいような、悪いような……奇妙な感覚でしたが、問題ありません」


「あ……」


聞き慣れない声がしたとおもったら、黒竜じいちゃんだ。


「な、なんということだ!? アンデッド化が……アンデッド化が、消えておる!」

「だーかーらー! 神つれてきたって、ゆったじゃん!」


「結界の中の過剰な【命】属性は吸収したはずだよ〜。それよりびっくりだね、これだけの【命】属性をとりこんだのに、主ってば全然変化なし。どんだけ【死】属性に偏ってるんだろうねえ〜、ちょっと怖くなってきちゃった」

「……使徒(アポートル)の言う通り、結界の外のほうが問題でしょう」


ジオールとウィオラの会話も気になるけど、一番気になるのは黒竜じいちゃん。


「ほ、本当に次世代の神がご降臨めされたのか! その、その妖精みたいなヒトの子がそうなのか!? なんとまあ、かわゆい! かわゆいのお! なんということじゃ、次なる神はかわゆい子じゃあ!」


国会議事堂くらいデカい竜がめっちゃ俺を褒めてくる。

竜の価値観ってどうなの? ヒトの見分けつくのかな?


「結界内の【命】属性が消えたとあらば、アカとアオ、ミドリにキーロも起きとることじゃろう! ほれ、チビ! 呼んでこい!」

「むっかー! チビってよぶな、じじい!」


「はよう行けチビ! おお〜主よ、慈悲を賜りありがとうござ……ゲッホゲホッ」


まじで黒竜がおじいちゃんすぎてドラゴンとの邂逅が台無しの気分なんですけど。

あと、ネーミングセンスが俺以下。

ワイバーン王のバーンのほうがどちらかというと荘厳だった気がする。

ドラゴンっ子あらため、チビドラゴンは不承不承にどこかへ飛び去った。


「おじいちゃんだいじょうぶ?」

「ふぉああ、儂のことをおじいちゃんと呼んでくれるのか? んんん、かわゆいのお!」


身体を動かすたびにメリメリバキバキブチブチと、枝と根がちぎれていく。

これ大丈夫なやつ?


ちょっと周囲を気にして見回して、もう一度黒竜を見るといなくなってた。


「あれ! きえたっ!?」

「あそこにいますよ。やはり竜もヒト型になれるんですね……まあ、ゲーレもなれたくらいですから予想はしてましたけど」


大きくくぼんだ樹の穴から、背中に大きな飛翼を広げてサッと近づいてきたのは……。


え、さっきのおじいちゃん!?

って疑いたくなるほど精悍でクールな顔立ちと、ボリューミーな長い黒髪をたなびかせた超絶美青年。いや年齢的には美老人なのかな? でも見た目は30台前後ってかんじ!

あと……聖獣ではじめての男性だ! ゲーレもハルプドゥッツェントも女の子だったもんね。


身体はドラゴンアーマーみたいな鱗の鎧で、小さな頭にはでかすぎる角、肘下と膝下の手足だけがドラゴンの名残を残すその姿は、まさに。


「ケイトリヒ様、言い伝えの『魔人』ってこんな外見じゃなかったですか?」


スタンリーの言葉に、俺も頷いた。


「えっと、さっきの黒竜のおじいちゃん……だよね?」


俺の言葉に、精悍な青年の表情がとろけた。ちょっと疑ってたけど、間違いない。


「なんと、声もかわゆいのお! まるで鈴のようじゃ! それ、抱っこさせておくれ!」


「やだー!」


またなんかキャラの濃い、保護者ヅラの部下ができちゃった!

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人だけでなく、精霊も聖獣もたらす 可愛いは正義正にこれなり
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