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第2部_3章_174話_これぞ冒険の道 3

「ありがとうございます、あなたは救世主です!」


なんて言葉を期待していたわけではないったらないんだけど、うすぼんやり、そういう雰囲気を求めてたんだろうな、と気付いた今。


魔獣の群れに襲われた集落を救ったんだからこれって普通の想像だよね、だよね?


魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員が、魔獣にバキバキに壊された森の外から村の状況を尋ねるけれど返事がない。人影が見えるけど、こちらを警戒しているっぽい。


まずこのときから「あ、俺たち歓迎されてないな」と気付いた。


そして今。


黒いオアシスのほとりの少し開けた場所。

集落ではおそらく憩いの場となってたであろう、広場的な場所に俺とペシュティーノ、そして魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員が数名着陸したんだけど。


ひょろひょろと頼りない棒の先に石の槍穂をつけただけの粗末な武器をもった住民に取り囲まれております。

攻撃されるというより、怯えてしまって武器が手放せないといった雰囲気。


ペシュティーノは判断を俺に任せると言ったこともあり、会話については何もフォローしてくれない。


見た感じ20代〜40代くらいの年齢感の男性で構成された、村の「戦闘要員」であるだろう集団は、俺達を前にして武器を構えつつもどうしたものかと考えあぐねてはや3分。


俺もどうしたものかと考えているもんだから、シーンとした空気がはや4分。


うーん、妙にかしこまらないほうがいいかな?

だって王子じゃなくて冒険者として対応したってことにすればいいもんね。


「こんにちわ! 僕、ケイトリヒっていいます!」


俺がペシュ抱っこから降りてちょっと歩み出てそう言うと、住民たちの困惑はさらに大きくなった。


「こ、子ども……?」

「いや、あんなに破壊的な魔導を使ったんだ、見た目は子どもでも長命種……ハイエルフか何かと考えたほうが良い」

「おい、なんで武器を降ろさないんだ、礼を言ったほうがいいんじゃないか?」


困惑している住民たちは子どもの登場にすこし警戒感を和らげた気がするが、相変わらず方向性がまとまらない。

ってか魔導ぶっ放したの見られてたか。そりゃ怯えられてもしゃーなし。すまん。


そこでようやく、蜘蛛馬に乗った少年少女たちが登場!


「ぴゃっ」


俺はペシュの腕の中に退避―!


「こ、このヒトたちは俺らが助けを求めたヒトたちです!」

「声をかけたらすぐに駆けつけてくれて……」

「空を飛ぶ乗り物に乗ってたので追いつけなかったんです。まさかこんなに早く助けてくださるなんて……」


少年少女たちが叫ぶと、武器を構えていた住民たちがようやく安堵したようだ。


「そ、そうだ、俺たちは助けてもらったんだよ」

「いやしかしあの破壊的な魔導は……下手したら洞窟のある岩山全てを消し飛ばしていたぞ!?」

「それでも事実、俺たちは助かった」

「待てよ。聖教の関係者かもしれないぞ!?」

「冷静になれ、まずは対話だ。こちらも代表者を立てて、話をしよう」


なるほど、聖教と対立している集落か。

警戒する理由もわかる。


「僕たち聖教じゃないよ! 帝国の、ラウプフォーゲルから来ました! 冒険者でーす」


俺がでっかい蜘蛛を視界に入れないように手で目を覆ったまま叫ぶと、微妙な空気が吹っ飛んだ。


「えっ! 帝国!? ……いや、冒険者? どういうことだ?」

「まさか! 帝国が、せっ……攻めてきた……のか? 」

「おい言葉を選べ! 帝国みたいな大国が、ドラッケリュッヘンの小さな村を狙うわけないだろう!」

「噂で聞いた空飛ぶ乗り物ってこれか!」

「ラウプフォーゲルといえば帝国の剣だぞ!」

「……でも子どもだよ?」


やっぱりまとまんないね。


「えーと、聞きたいことと言いたいことがいっぱいあるから、だいひょうしゃ、だしてもらってもいい? 1人じゃなくていいから。そうだな……3人!」


まとまんないときは、まとまりを促す誰かが現れないとね。


「誰が行く?」

「ここは……」

「いやアイツが……」


一応、まずは代表者を出す方向で会話が進んでる……かな?


やがて村からも様子を見に来た人物なども含めて話がまとまったようだ。

年嵩の男性と妙齢の女性、そして若い男性の3人が代表として名乗りを上げた。


俺の魔導をマトモに見たのは最前衛で防衛に当たっていたごく少数だったようで、その人たちは代表に入らなかった。ちょっと興奮して会話が進まなかったからだろうな。


まあとにかく話が進められそうでよかった。


こちらの状況……帝国ラウプフォーゲルの公爵家子息であることや、冒険者修行をしていること、たまたま助けをもとめる少年少女を見かけて救ったことなどを軽く説明。


そしてあちらからは、村の住民がいわゆる「はぐれ獣人」で構成されていること。「はぐれ獣人」は獣人の間でも低く見られ、差別されること。辺境で暮らす理由やその苦労などを聞いたうえで、今回の魔獣襲来について経緯を説明してくれた。


……が。


どうもおかしい。


「魔獣が集まった理由が、まったくわからないんですか?」

「ええ、本当に我々には見当もつかないのです。突然襲ってきたとしか……」


「ゴブリンとオークは、他の魔獣の興奮に触発されて凶暴化する例はあります。しかしマンティコラは人喰い種ではあるものの群れた例を見たのは初めてです。なんらか、集落に誘発するようなものはなかったですか?」


ミェスも穏やかな口調でしっかり追求している。

若い男たちは、ミェスがS級冒険者だと知ると敵意や警戒心をあっさりひっこめた。

代わりに、どこか悪ガキがいたずらを隠すような不審な動きに。


これは……。


「僕は冒険者として、今回のマンティコラの行動を組合(ギルド)に報告しなきゃいけない。ここで何かをかくしてしまうと、組合(ギルド)の職員からおって追求されることになるかもしれないよ?」


俺の言葉に、3人のうち若い男がビクリと身を震わせた。……もう一押しかな。


「キミたちの境遇は大変なものだったとおもう。でも、もしもなにか不手際でマンティコラを刺激してしまったというなら、しょうじきに言わないと。ウソや隠蔽、そういう小さなことの積み重ねで、差別っていうのはどんどん悪くなっていっちゃうんだよ」


「はぐれ獣人」というのは、いわゆる家族や部族から追い出された者のこと。

目立った耳や尻尾、爪などの獣人の特性のないヒトに近い獣人は、たとえ獣人のコミュニティから追い出されてもヒトに紛れて生きていけるという理由でささいな悪事でもカンタンに追い出されやすいんだそうだ。


食べ物を盗んだ、子どもをいじめた、村のルールを破った……そんな小さめの理由で集落から追い出された人々が集まった村。それがこのアラクーダという村に集まっている。


「スグト、何か知ってるのか?」


俺の視線が若い男性に注がれているのを察した年嵩の男性が、彼を見て言う。不安げだった女性の視線も集めて、やりきれなくなったスグトと呼ばれた若者が口を開いた。


「たまたまだったんだ……村の狩人の斥候部隊が、マンティコラの巣をみつけて」


いつもより遠くまで狩りに出ていた狩人が、たまたまマンティコラの巣をみつけた。

砂だらけの砂漠のなか、岩のくぼみにできた広い洞窟の中は生まれたばかりの目も開いていないマンティコラの幼体が、植物で編んだような柔らかな巣の中に10匹ほど集められていた。


「10匹も!?」

「……もしかすると、共同で子育てをする種なのかもしれません。1体あたりが産む数としては、あの大きさの魔獣では多すぎる」


ミェスの見立てだが、俺もそう思う。


斥候の青年たちは、マンティコラの恐ろしさを知っていた。

たまたま見つけたその巣穴に、成体のマンティコラは1匹もいなかった。


千載一遇のチャンスだと思ったんだろう。実際そうだと思う。


なので、彼らはその10匹のマンティコラの幼体を袋に詰め、連れ去り……水に沈めて、殺したのだそうだ。


その説明を聞いた瞬間、俺はクラリとめまいを覚えた。


「マンティコラは凶暴で何人も俺たちの仲間を殺して、食った! あれが大きくなったら村も危険だと思ったんだ! ニオイ消しも入念にしたし、殺したのは集落から離れた別のオアシスだ! なのに、なのに!」


「子を殺した狩人を何らかの形で特定して、襲った……? ありえるのかあ?」

「ニオイ? 魔力? わからないな、そういう特別な能力があるのかも」

「単純に子を探していただけかもしれません」

「それなら執拗に集落を狙うようなことはしないと思いますが……ここで話し合ったとしても全て仮定の話になりますので、この件は後回しにしましょう」


すぐそばの側近たちの会話が遠く聞こえる。

自分たちの子どもを探して、あるいは殺した犯人を見つけて、マンティコラは必死に赤い森の樹をかきわけて集落に入ろうとしていた。

あのマンティコラが、もしも子どもを探していただけだったとしたら、俺が殺したのは。


「……ケイトリヒ様ッ」


ペシュティーノがギュッと俺を抱きしめてはじめて、地面が細かく振動していることに気づいた。


「落ち着いて下さい。たとえケイトリヒ様が手を下さずとも、理由が何であれ集落を襲う魔獣は駆除されます。我々が駆けつけなかったとしたら、村は壊滅していたでしょう。村には、女子供もいるのでしょう?」


「あっ……ああ、もちろんいるさ……俺たち狩人だけがマンティコラに恨まれるなら、仕方ない。けど、村を襲われるのは……」


「でも、マンティコラだって子どもをころされたんだよ! 探して、さまよって、見つけたときにそんな……」


「ケイトリヒ様、落ち着いて下さい。大丈夫ですよ。これはレオやルキアのいう、『自然の摂理』というものです。弱い子どもが天敵から狙われるのは当然のこと。そして子どもを守れなかった親もまた自然界にはたくさん存在するのです」


ペシュティーノが大きな手で俺の背中を撫でながら何度も何度も同じ言葉を繰り返す。


……俺が迷子になったとき、ペシュティーノのやせ細って泣き崩れた姿を、マンティコラの親に重ね合わせていた。

人喰いと言われたワイバーンも、言葉を紡げる魔法を与えたら知的だった。

同族の未来を憂い、在り方を悩む、ヒトとかわらない存在だった。


マンティコアが我が子を探していただけで、それを俺が殺してしまったんだと思うと心が苦しくて耐えられない。


「……ッ、き、君たちのせいで、僕は……」


「主、いけません」


突然やってきたシャルルが、俺の口元にそっと指先を沿えてきた。


「主は大きな力を持つ御方……このまま思いの丈を口にしてしまえば後悔してしまうかもしれないと思い、助言させていただきますのでしかとお聞き下さい」


いつになく真剣なシャルルに、思わず呆気にとられた。

シャルルがなにか合図するとガノとパトリックが近くにいた住民たちを引き離す。

あまり広くはないオアシスのほとりには、ほぼ側近と魔導騎士隊(ミセリコルディア)だけが残っている。


人払いが済んだことを確認して、シャルルが重苦しい表情で話し始めた。


「今、主はあのはぐれ獣人たちの狩人の行動で起こったこの事件を、主の御力で解決してしまったことを後悔なさってますね?」


……改めて言語化されると、今のは完全に八つ当たりだったな……なんか急に恥ずかしくなってきた。


「冷静になられたようで一安心です。先程まで主は、おそらく我を忘れていらっしゃいましたね。神の権能である『破壊』を無意識にふるい、『言霊』のちからで彼らに呪いを与えようとしていた」


「えっ!?」


「主、ご覧下さい」


シャルルがスッと横にずれて手をかざす。

赤い砂漠の風景と、その向こうに城馬車(ホッホブルク)のある丘陵が見えるが……。

さっきまでなんの変哲もなかった赤い砂漠は、俺たちのいる地点を中心として5つの谷が放射状に広がっている。

今も砂が流れ込んでいるその谷は、砂の下の地盤がバックリ割れてできたものだろうか?


「え、あ……もしかして」

「……この御力は、主のものです。この土地は地脈が乱れ、精霊の力も不安定。先程の火の矢の魔導は精霊が力を貸しただけでなく、地脈の乱れた土地が主の力を必要以上に受け入れてしまった。それが原因です」


よくわかんない。よくわかんないけど、俺、なんかすごいことをしてしまいそうになったみたいだ。またじわりと涙が浮かんでくる。


「主。子を殺された魔獣に心を寄せるのは主の優しい心です。失ってもらいたくないと思っておりますが、動揺するのは困ります。心を寄せた魔獣も、それを殺した者も、そしてなんの関係もない無辜(むこ)の者をも巻き込む大きな力を、主は既に持っています」


俺を抱っこしているペシュティーノの手がギュッと俺の手を握る。

見上げると、ペシュティーノが心配そうに俺を見つめていた。

俺と目があって、覗き込むような瞳でおでこにキスしてくる。


ふう、と息を吐く。

……ようやく、落ち着いた……っぽい。


「呪いって、なに……?」


「おそらく先程までは、はぐれ獣人の……生まれたばかりの魔獣の子を殺す、という行動について強い(いきどお)りを覚えていたかと存じます。残酷に思えるでしょうが、これは弱いヒトであれば当然の行動。彼らに(とが)はありません。それは、今はおわかりですね?」


「……うん」


確かに、ちょっと冷静じゃなかった。

このはぐれ獣人は社会から切り離された、孤立した集落に暮らす人々。

帝国のように騎士が住民を守ることはないし、ラウプフォーゲル人のように魔獣と対等に戦えるわけでもない。

砂漠において圧倒的弱者である彼らが生き残るには、天敵の排除は逃れられない(ごう)のようなものだ。


「しかし、主は彼らに『怒り』を覚えた。以前、ワイバーンがかつての神を裏切った種族の末裔であることを話しましたね?」


「うん」

「当時の神は、ワイバーンの裏切りに対したいそうお怒りになった。そのため、ワイバーンは呪われたのです。その結果、知恵を失い獣に成り下がった。知恵を求めてヒトを食らうようになった。ヒトから害獣として恐れられ、討伐の対象となった。それが神の呪いです。同じことを、主は彼らにしようとしていたのですよ」


神の呪い。

その種族、あるいは土地に刻まれ、子々孫々にまで影響を与え未来永劫にいたるまで苦しめ続けるもの。ワイバーンは永い時間を呪われたまま過ごしたため、人喰いが種の特性であるとまで信じられていた。


「……でも、僕まだ神じゃないよ」

「主がそう考える限り、御身に宿る神の御力は主の想定外のところで動いてしまうことでしょう。主、もう観念して神であることを受け入れて下さい」


「ええっ! それはヤダー!!」

「事実上、もう半神なのですよ。力だけは神なのですよ。それなのに受け入れないからこういうことになるんですよ!? では神になることではなく、自らが神の力をもっていることを受け入れて下さい! それならできますね!?」


急にシャルルがお説教モード!

泣きそうなくらい重い気分だったのに、神の話がでてくるとどうしても拒否反応がっ!


ペシュティーノの大きな手が俺のこめかみからほっぺを撫で回す。

見上げると、少し微笑んでた。


「……主。主は、我が子孫でもあるペシュティーノをこの上なく信頼していらっしゃいますがね。よくお考え下さい。その者は主以外の存在の悲しみにも苦悩にも、あるいは死にさえ何ら頓着しませんよ。慈悲深さでいうと私のほうが大局を見ているとも言えます」


「……え? それは……」


もう一度ペシュティーノを見上げると、ふふ、と笑って俺の頬を撫でて、キュッと抱きしめてきた。俺もそれに応えるように首筋に抱きつく。


「……私は、ケイトリヒ様が大事だと思うものは大事にしますよ」

「そこが問題なんですよ。そうでないものには頓着しないでしょう? 例えば今回の件だって、村が壊滅しようがマンティコアが絶滅しようが、ペシュティーノはそこに関心を持っていません」


「当然でしょう。この土地ではいち冒険者であるケイトリヒ様が、見知らぬ集落や魔獣の存続に責任を追う必要はありません。帝国とはわけが違うのです」

「ほら! 主、ペシュティーノはこういうヤツなんですよ!!」


シャルルはようやく本性見たり! みたいなドヤ顔してるけど、俺はペシュティーノに育てられた子なんで。

ペシュティーノから言われると、「え、そういうもの?」という気持ちになっちゃう。


「そっか……僕、冒険者だもんね?」

「そうです。この土地では今は為政者ではなく、ただの異邦人です」

「ま、待って下さい、主! 主はやがてこの大陸を手中に収めるのですよ! いえ、この世界をも! 先程のように過剰に動揺するのはお控え頂きたいところですが、気にかけないというのはまた違います」


「愚かですね、シャルル。ケイトリヒ様は根っから他者を気に掛ける性質なのですよ。たしかにシャルルの言うこともわかりますが、ケイトリヒ様の御心を守るためには、ときに流民を手に掛けるほどの非情さも必要となるでしょう。『気にかけない』のではなく『切り替える』のです。考え方をね。いかがです、ケイトリヒ様?」


うーん、なんかよくわかんなくなってきちゃった。

どっちでもよくない?


それと根っから他者を気に掛ける性質なのは、たぶん異世界人……というか日本人のサガみたいなもんだと思う。


「もうどっちでもいいや。とりあえずはぐれ獣人がやったことに対する怒りは、おさまった。マンティコラのことも可哀想ではあるけど、仕方ない。これでいいでしょ?」


シャルルは不満げに、ペシュティーノはニッコリと頷く。


「あと、神になる件はもーちょっとおいといて」


「そこは保留にしないでいただきたいっ」

「シャルル、後にしましょう。10年程度待てると言っていたでしょう?」


俺とペシュティーノの一致した見解に、シャルルは不満げに「一番説得すべきは主ではなくペシュティーノのような気がしてきた……」と呟いていた。


それはまあそう。


俺たちがコソコソ話している間に、村のほうでも今回の襲撃がマンティコラの子殺しの報復ではないかという話でもちきりのようだ。

再び代表者の3人と話そうと近づくと、なんかちょっとエキサイティングな話し合いになっていた。


「どうしてそんな危険を!」

「まて、報復と決まったわけではないだろう! それにどうやって追跡したのかまだ判明してない!」

「追跡ではなく、手当たり次第に人間を襲った可能性もある」

「たとえ報復の襲撃だったとしても、あの凶悪なマンティコラを10匹も倒せたとなると我々の未来のために仕方ないことだった。今回は運よく助けてもらえて、幸運だったと思うべきだ!」

「そうなると、冒険者への依頼として報酬を……」


エキサイティングしてるねー。


「はいはい」


俺がペチペチと小さな手を鳴らしても、誰も気に留めない。むうう。

代わりにジュンがパン!と手を鳴らすとエキサイティングしていた住民たちはビクリと身を震わせてこちらを向いた。


「王子殿下がお声をかけていらっしゃる。傾聴せよ」


あっ、またジュンが威圧してる! ちょっとやめたげて!


「今回は、こちらは事情をしらずにクビを突っ込んだからね。この一件については任意の参加ということで報酬は必要ない、ってことにして。その代わり組合(ギルド)からの調査依頼に対応してもらいたいんだけど、どうだろ?」


俺が言うと、話し合っていた人々は顔を見合わせてホッとしたようだ。

複数体のマンティコラの討伐依頼なんて、正式に組合(ギルド)に依頼すればA級からS級がつけられる高額依頼。もちろん報酬もとんでもない額になるはずだ。

小さな村ではとても払えない額になる。と、ジュンが言っていた。


「そ、それでよろしいのですか。我々としては助かりますが……」

「さっき代表のかたには話したけど、僕は帝国の公爵家子息で、報酬はさほどもとめてないんです。修行みたいなものなので……ただ、一応たちばとしては冒険者なので、体裁は組合(ギルド)を立てるひつようがあってですねー」


「わかりました……我々としても、マンティコラがなぜ襲撃したのか理由がわからない限りまた同じようなことがあった場合の対処のしようがありません。組合(ギルド)の調査を受け入れますが、調査結果を共有していただけるのでしょうか?」


「まあ、そう伝えておくよ」


ミェスがふわっと答えておいた。


「でもさ、王子。ワイバーンのこともある程度わかったんだし、ちょっとギンコ様に聞いてみたらどうかな?」


「あ、それもそうね。ギンコー」


俺が呼ぶと、パトリックが開いたスクロールからにょき、とギンコが出てきた。

その瞬間、村の住民たちがヒュッと声にならない悲鳴みたいなものをあげた気がした。


振り向くと、みんな目を丸くして硬直してる。


……あ、ギンコって獣人にも威光が効くんだっけ?


「……ほう、『隔世』が集まった村ですか」


ギンコが口を開いた瞬間、住民たちは誰ともなくザザザッと跪いて時代劇の御殿様にするみたいに三指をついて頭を下げた。


なん!?


「主、何故ギンコばかり呼ぶのじゃ! この大陸はかつて我が支配しておった地ぞ!」

コガネがぷりぷりしながら柴犬の状態でにょき、と出てきた。


「妾はついでじゃ」

黒ポメのクロルも来た。そうね、ついでだろうね。


「おっおっ恐れながらっ! ゲーレ様が主と仰ぐ御方だとは知らず、大変な無礼をいたしましたことどうかお許しください!!」


なんかこのフレーズちょっと前にも聞いたな。

……俺の威光が強化されたって、こういうこと? なんか違うよね?

てか一発でゲーレってバレちゃった。獣人には犬化しても無駄ってこと?


「べつにきにしてないよ……ねえギンコ……あ、コガネのほうがいいのかな。マンティコラって、自分の子を殺した人間を追跡するのうりょくみたいなものがあるの?」


「マンティコラか! あれは執念深い、一度恨まれたら厄介なヤツじゃ。子殺しなど最たるものであろう! なんと、マンティコラの子を殺したのか、カッカッカ、阿呆じゃの」

「こ、コガネ……」


「まあしかし、主が討ったのであろ?」

「2体ほど残ったんだけど、大丈夫かなあ?」


「主の御力を前にして、恨みを募らせるのは得策でないと切り替えたのやもしれんな。あれはたしかに厄介なヤツではあるが、その程度の切り替えができんほど無能でもない。何体討ったのじゃ?」

「えっと、4体……?」


「カッカッカ! 愉快! あれは我が去って増長しておったのだろう! 放っておけば手当たり次第にヒトを襲ったに違いない。しかしヒトに手を出したらどうなるか、主が知らしめたのじゃ。まっこと正しい判断よ! 安心せよ、自ら去ったというならば残った2体が再びこの集落を襲うことはあるまいて!」


柴犬が丸いシッポをぷりぷり振りながらエラソーに喋るのを見て、俺と側近たちは唖然としてたけど「はぐれ獣人」の村の住民たちは神かなにか見たかのように感激していた。


「ゲーレ様のお言葉を聞けるとは……!」

「我々は、ゲーレ様の主から恩寵を頂いたのだ! 皆、感謝せよ!」

「うっうっ、俺、生きててよかった……!」


……なんか、村救済クエストは思わぬ方向でいい感じにまとまってしまった。


はあ。

今後は助けを求められたからってカンタンに首突っ込むの、やめよ……。

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