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第2部_2章_167話_国GET、そして大陸へ 2

「このへん?」


トリューから下を覗くと、眼下の景色は緑や黄色が消え、真っ青な水面が広がる場所。


アイスラー公国・改めガードナー自治区のほぼ中央あたりに位置する湿原。

さらにその真ん中にある湖に出たようだ。周囲が全部水なので、どこまでが湖でどこまでが湿原なのかはわからん。


「うん、ここみたい! まってね、ボクらでちょっと呼び出してみるから……」


おにぎりサイズのジオールが俺の頭の上でポンポン跳ねている。

ウィオラは俺の肩の上。せっまい肩によく乗れるね?


「ん〜、あっ、ええ〜? あーっと、どうしようかな……」


ジオールが謎の独り言。


「主、どうやらこの土地の精霊は、主ではなくヒトの存在に怯えているようです。魔導騎士隊(ミセリコルディア)を少し遠くに待機させて欲しいと申しております。罰しましょうか?」


「いややめたげて。ていうか、ヒトが怖いの? ウィオラたちじゃなくて?」


「なんでボクらが怖いのさ!」

「いうなれば同族ですよ」


だってすぐ罰しましょうとかいうし。キャラ濃いし、圧つよめだし、ビビられる要素はいろいろあるでしょ……といいたいところだけどまあさらりと流して。


「ペシュはいていいよね、というかさすがに外せないんで」

「いんじゃない? そこまで言う事聞く筋合いないしー」

「主との栄えある謁見に条件をつけるなど言語道断……ですが、主がお望みですので仕方なく受け入れましょう。ラーヴァナのようにそばに置くということもないでしょうから」


やっぱ圧つよい。


側近だけを残し、魔導騎士隊(ミセリコルディア)を少し遠くで待機するように命じる。


やがて、鏡のような湖面が信じられないくらい広範囲でモコッ、と盛り上がり、小さな島かと思えるほどのなにかが浮上してきた。島はヌメヌメしたまだら模様で、生き物っぽいけど全貌が見えないのでなにかわからない。

表面だけ見たらエイとかジンベエザメの背中みたいなもの?


「……あれが、大精霊?」


「いえ」


天蓋(キャノピー)にぺったりほっぺをくっつけて下を覗いていると、小さな島の端っこからなにやらワカメをまとったようなヌメヌメしたヒトくらいのサイズのものが這い上がってきた。


……アイスラーの大精霊は……ワカメ?


ペシュティーノがトリューを操作して少し高度を下げると、ヌメヌメはそれにビビったように逃げる。……ヒトが怖いとは聞いたけど、そんなに?

会話できるのかな……?


「ペシュ、天蓋(キャノピー)あけて」

「しかし……」


「危険はないよ」

「万一なにか攻撃しようものなら、我ら精霊神の全ての力をもって消し飛ばします」


ジオールとウィオラのお墨付きをもらって、渋々ペシュティーノが天蓋(キャノピー)を開ける。トリューの()()にキュッとしがみついて覗き込むと、すぐ下にワカメがいる。


「おお……我らが(こいねが)う主が、ここに……なんという……ウッウッ、長かった……お目見えできて、嬉しい限りにございます」


ワカメから男の声がした。ワカメって男なんだ……? え、ワカメくん……?


「ええっと、アイスラーの精霊……って呼べばいいかなあ。あーでもアイスラーの名は消えてガードナー自治区になるし……なんて呼ぼう」


俺が言うと、ワカメがビクンと波打った。


「な、名を戴けるのですか!」


「主、名を与えるということは支配下に置くということと同義にございます」

「えー、主、ボクたちいるんだからもう別にいいじゃん! 主が神になったら、ボクらの中から誰かをこの土地に宿らせればいいんだよ」


なんかウィオラとジオールが微妙に反抗的。


「そんなっ! 主、主、どうかこの土地を消極的ながらも守り続けた私にどうぞ名をくださいませ! 私は消えたくありません、まだ守りたい愛し子がおりますゆえ、どうか、どうか!」


ワカメがめっちゃ懇願してくる。ワカメとはいえかわいそう。


「ウィオラもジオールも、ラーヴァナのときは割とかしこまってたのに彼に対してはなんかキビシイね? キライなの?」


「主を前にしても真の姿を見せぬのは無礼千万。信用に値せぬ無礼者にございます」

「礼儀だもん。コミュ障とか引っ込み思案とかそういう言葉で済ませちゃダメだよね〜」


まさかの! 後輩精霊イビリ!?

いやまだ契約してないから後輩っていえるかどうかわかんないけど!


「も、申し訳ありません! ヒトと接点を絶っておりましたゆえ、礼儀のなんたるかを忘れてしまい……あ、改めてご挨拶申し上げたく、お願いしますお願いします!」


ワカメがパーカーのフードみたいにガバッと後ろに跳ね上げられると、青白い肌が肩まで露出したヴィンもびっくりの美青年が現れた。ワカメには中身があった!!


「わあ、びせいねん」

「これは……確かに、目を見張るほどの美貌ですね」


ワカメの美青年は俺ばかり見ていて、ペシュティーノの存在に気づいてなかったらしい。

声を聞いてハッとなり、硬直してしまった。


「ひ、ヒトが、ヒトが……あれ? いえ、エルフ? いや、ちがう? なんだろう、ヒトではないですよね?」


「えっ、ペシュってヒトじゃないの!?」

「いえいくらハイエルフの血筋とはいえ、エルフと間違えられるような要素はないはずですよ。見分けがつかなくなるほど、接点を絶っていたのではないですか」


ワカメ美青年はペシュティーノの言葉を聞いて、考え込んで「そうかもしれない……」と呟いた。なんかこの大精霊、ヒト嫌いのわりに性質がすごくヒトっぽいな?

ラーヴァナはなんというか、明らかにヒトじゃない感があったのにこのワカメは小心者のただの青年。とんでもなく美形ってことを除いては、ただのヒトに見える。


「ええと、名付けのことは置いといて。キミのことをおしえてくれる?」


「ああ、なんという光栄! 私自身に興味を持って戴けるなど、嬉しくて涙が出ます」


ワカメ男はそういうと本当にポロポロと涙を流しはじめた。

じょうちょ大丈夫?


俺の呆れを感知したのか、髪からぽよよんとキュアが現れた。


「主の御前ですよ。わきまえなさい」

「ああっ! 同属の神よ、顕現いただきありがとうございますありがとうございます!」


ワカメ男がキュアを見てまた感激しはじめた。

どうしよう全然話が進まない。


「主、このモノには我が眷属として名を賜りたく存じます。水は高きから低きに落つるもの。横に並んでは水は混ざり、同化します。小生、すなわち不肖キュアノエイデスを主とした属神の眷属となれば、この湿原は小生が掌握し、つまりは主のものとなります」


見ればわかるけど、このワカメ男はキュアの眷属……つまり【水】属性を強く持つ大精霊なんだね。キュアあずかりとしてくれるなら俺も助かる。

あんまり話が通じない部下は欲しくないし……いや精霊は部下じゃないのかな?

ラーヴァナとかは義母だし? でも俺のこと主って呼ぶから一応、眷属?


「わかった……じゃあ、僕の精霊神キュアノエイデスのもとに、名前をあげる」


ええっと、ワカメ男はさすがに可哀想だから……。


「……カメオ」


「カメオ! 私の名はカメオ! 新たなる世界の主の属神、キュアノエイデス様の眷属カメオ!! うッ……嬉しいです、感激です、生きててよかった」


カメオがフラつきながらまだら模様の小島にドムンと膝をつくと、そこから小さな波紋がザザザッと広がり、少し緑がかっていた水が澄んで、輝くような水色に変わる。

葦のような背の高い草からポワポワと光が飛び散り、ところどころ見たこともない花が咲きはじめた。葦って花が咲くの?


「精霊も生きててよかったとか言うんだ」

「生きてるの定義から我々は少し外れる気がしますが、本人がそう思うのならそうなんでしょう」


俺の疑問に答えてくれたのはウィオラ。


「このあたりの湿原は水が淀み、一部では腐った堆積物が集まって底なし沼のようなものが形成されています。小生の眷属となったことで水は動き、緩やかに湿地を栄養で満たしていくことでしょう。主、水稲を始めるのならば湿原の南部がよろしいかと」


「アッ! すいとう! キュア、そんなじょげんまでくれるなんてデキる精霊!」


水でできた金魚のような姿のキュアをムギュッと両手で掴んで、ブチュッとキスする。

喜んでくれたのか、周囲の水が細かい振動を与えたかのようにビリビリと波打って小さな水玉がパッと空中に跳ねた。キラキラしてすごくキレイ。


「……お褒めに預かり光栄ですが、1点、難がございまして」


「なに?」


「生物が住みやすくなるということは、アンデッドが活性化いたします」


「おあ」


そうだった。アンデッドは生命体の生まれるところに生まれる。

今まで腐った湿原だったところには菌や虫や魚など、小さな生物が多かったのでアンデッドが発生することはほとんどなかったそうだけど。

水が動き、流れが生まれるとそれらの魚を食べる小動物……いや、小魔獣が集まり、そしてさらにそれらを狩る大魔獣が現れるはずだ。


「それと、今まで水に足を取られ沈んでいたアンデッドもまた活性化することでしょう」


「エ゛ッ」


「この辺りだけでなく、多くの湿原の水底には相当数のアンデッドが沈んでおりますよ」


「エ゛ッッッ!!」


「主、よかったね! アンデッド魔晶石とりほーだいじゃん☆」


ぜんぜんよくないですが!!

相当数のアンデッドを俺が駆除して回らないといけないの!?

さすがに魔導騎士隊(ミセリコルディア)を湿地に釘付けにするのはイヤだな!


「ケイトリヒ様、水中に例の……アンデッド、ホイホイ、でしたか? アレを試験的に設置してみてはいかがです? 水中となればヒトの目に触れることなく秘密裏に実験できると思いませんか」


「アッそれいい!!」


ないすペシュティーノ! それだ!


「じゃあもう今せっちしちゃお! またここまで来るの面倒だし!」


「この周囲にはヒトの集落もなく、フラッとヒトが訪れることもほとんどないそうです。ここはひとつ、巨大なものをビシッと」


キュアがなんか焚き付けてくる。


「アンデッド魔晶石の転移魔法陣は調整済みなんだよね」

「はい。今回の議会提出のための要件のひとつでございましたので、すでに完成しております。ホイホイ設置場所の座標を登録するだけで発動可能です」


なんかペシュがホイホイって言うのちょっとウケる。


「魔晶石はどこに集まるの? たぶん、ここに沈めたらすごい量になるとおもうけど」

「あっそれは大丈夫だヨー! 城馬車(ホッホブルク)とつながってる魔導学院の地下倉庫に転送して、常に主と接続しておくから! 主のそばにペシュティーノがいれば毎日50トンのペースで転送されてもすーぐ消費できちゃうよ!」


「とん」


ジオールの言葉に俺も呆然。50トンて。すごすぎん?

アンデッド魔晶石は比重がかなり重いので重さほど体積はあまりないんだけどね。

最近ペシュティーノとはずっと一緒にねんねしてるので問題ないか。


「じゃいっか。バジラット、おねがいできる?」

「おう、まかせとけ!」


「ひいあああ! 主の、主の御慈悲が私の湖に! なんと身に余る光栄、なんと測り知れぬ恩寵!! ああ、こんな日がやってくるとは! 感謝申し上げます!」


なんか残念な美青年の精霊カメオは空中でメリメリと作られていく巨大な白い楔を見ると、膝をついて涙を本当に滝のように流して喜んでいる。


「精霊にとってアンデッドってやっぱり面倒なものなの?」

「あれは……この世界の『(おり)』のようなもの、ですからね。その性質からしても御理解いただける……と思いますが、本来は存在するべきではないもの。精霊は基本的には感情が薄いので、アンデッドに対しては面倒というより、どうにかしなければならない……という焦燥感のようなものがございます」


ウィオラが微妙に歯切れ悪く説明してくれる。

精霊にとってもアンデッドって好ましくない存在なんだ。

アンデッドが世界の「(おり)」ということは、俺はそれを浄化する存在ってわけか。


でもどうしてそんな存在が、この世界では生まれてしまったんだろう?

まあ何かの拍子である一種の生物が爆発的に増殖しちゃうってのは地球でもあったことだし、自然現象なのかもしれないけど。原因はあるんだろーか、って気になっちゃった。


まったり雑談なんかしてたらアンデッドホイホイとなる巨大な石の楔ができあがり。

俺が雑に手で合図すると、その楔はドパーンと湖の中へ。


「水の中でも、アンデッド魔晶石だけが転送されるよね?」

「はい、それは検証済みです。濡れて転送されるということもありません」


安心した。


「じゃーかえろ」

「そうですね」


「主ッ、ああ主、幾千年の時を待ち続け、ようやくお目にかかれたというのにもうお帰りにございますかッ! カメオは、カメオは悲しゅうございます」


ワカメに包まれた美青年がヨヨヨと泣きながら崩れ落ちた。


うん、帰ろう。


「どうか繁くおはこび下さいますようお願い申し上げますー!」と叫ぶカメオを置いて、俺達はスタンリーの居城にも寄らずヨゼフィーネロミルダ号へ直帰。


精霊に挨拶にいっただけのはずだったんだけど、精霊は眷属になっちゃったしキャラは予想外だったし、なんとなく疲れた。


ガードナー自治区であったことはシャルルを通して父上と皇帝陛下に報告。


「皇帝陛下とお父上からご伝言にございます。『よくやった』と」


お留守番だったシャルルがにっこにこでお部屋にやってきた。

おそらくスタンリーからも直接報告が入ったのだろう、エスラシャでのできごとを父上と皇帝陛下どちらも事細かに知っているようで、平伏する民に一瞥もくれてやらなかったことや城を与えたこと、2日かかることをなんか胡散臭いセリフ回しでもったいぶって言ったことなどめっちゃ褒めてくれた。という話をシャルルが嬉しそうに語る。

いや、胡散臭いセリフ回しはジオールの提案なんですけどね……。

それにしても細かに報告されすぎ……というか、もしかして?


「もしかして、映像でおくった?」

「はい! 我が主が直接的に民草に威厳を示す機会でございましたゆえ、しっかりと映像記録に残してございます。威厳に満ちた堂々たるお姿には、私をはじめ魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員も惚れ惚れしておりましたよ!」


……え。

ジオールの助言以外は基本的にナチュラル俺だったんですけど。威厳……?

そういう能力かな……?


報告のために映像を使ったのはよかったかもね。父上も皇帝陛下も俺のことは10歳としては信じられないほど信頼してくれてるけど、やっぱり心配みたいだし。


とりあえずアイスラー平定は平穏無事に完遂。


スタンリーは1週間ほどエスラシャに留まり、城馬車(ホッホブルク)と帝国からの無条件偏方向転移魔法陣を設置したら再び俺と合流するという手筈になった。


無条件偏方向転移魔法陣というのは、要は帝国から訪れる分には人数や魔力、人物などに条件をつけないという設計の魔法陣。ただしアイスラー……じゃなくガードナーから転送されるものについては、帝国側から許可が必要というやや一方的な転移魔法陣のこと。

今回のように敵性地域を平定した場合に設置される転移魔法陣だ。


ラウプフォーゲル城の東側、下には街が広がる崖の上にはいくつか塔があって、そういう偏方向転移魔法陣が厳重に管理されてるんだ。


帝都への転移魔法陣と違って比較的安全じゃないところとつながってるので、利用はものすごく厳しく制限されている。


ペシュティーノがラウプフォーゲルに来るまでは維持にものすごく費用がかかっていて、帝都からの派遣魔術師に頼っていたそうなんだけど。ペシュティーノは魔力供給だけじゃなく魔法陣設計の手直しまでできる超優秀な人材。わざわざ中央に頼み込んで魔術師を派遣してもらわずに済むようになった。


そしてトリュー魔石が生産されるようになると、転移魔法陣は年に1回程度のメンテナンスで十分運用できるようになったし、さらにディングフェルガー先生と描画装置(ツァイヒマシー)の登場で細かなバージョンアップも簡単。


魔法関連で遅れを取っていたはずのラウプフォーゲルは、ここ近年でいっきに転移魔法陣中継地点になりつつある。


それもこれも全部ペシュティーノの功績なので、叙爵には異議が上がらなかったそうだ。


船室のハンモックに転がされてぼんやりそんなことを考えながらペシュティーノをチラリと見ると、視線に気づいた彼が背後に何かを隠している。

ジッと見ていると、後ろからサッと取り出した手元にあるのは。


「あっ! おにぎりー!!」

「レオからの差し入れです。こちらはツナ? と申しておりました。こちらはかまぼこ、そしてコンブだそうです」


「わあい! いただきます!」


昆布はユヴァフローテツにも似たようなものがあったけど、おにぎりにはやっぱり海苔だよ。海苔うまい。味のついていない焼き海苔に、ちょっとしょっぱみのある米が最高。

やっぱおにぎり最高。米最高。かまぼこ至高。海苔のおかげで完璧。


「うまし!」

「……ケイトリヒ様は本当に、米はよく召し上がりますね」


ペシュティーノが目を細めて嬉しそうに言う。俺がよく食べるとすごい嬉しそうにするとこがちょっとおじいちゃんっぽい。


「ニッポンジンはおコメだで!」

「たしか、異世界人たちのほとんどの出身国でしたか」


「ミョンジェとオビとイシャンは違うよ。あ、でも韓国とインドならお米も食べられてたんじゃないかな……ガーナはわかんないけどオビは在日ガーナ人らしいし」

「レオのパンも衝撃的な美味しさでしたが、ケイトリヒ様はそれよりも米なのですか」


「お米7、パン1、麺2ってかんじ」

「それは好きの度合いですか?」


「そ」

「帝都の異世界人も米を食して泣いたと聞いています……そんなに思い入れのある食材なのですね」


レオのパンはいつも焼きたてで美味しいのでお米を6にしてパンを2にしてもいいかもしれない。なんて話をしながら、再開された船旅の夜がふける。



そして、3日後。


「ケイトリヒ様、ドラッケリュッヘン大陸のオルビ港が見えてきましたよ」


スタンリーからの報告書、父上と皇帝陛下からの親書、フォーゲル商会からの人事報告書などを見て、ガノと一緒にガリガリと指示書を作成していたとき。

ペシュティーノがおにぎりをおやつとして差し入れしつつ、そう教えてくれた。


海苔がつくようになって俺のおにぎりへの食いつきが半端ないことに感動したペシュティーノが、食事量をふやしたいときにおにぎりを持ってくるようになった。

俺、まんまとひっかかってます。


「みたい!」

「あ、ケイトリヒ様お待ちを。人事認定書だけフォーゲル商会に先に送りたいので、こちらの2点だけハンコをお願いします」


ガノが差し出してきた履歴書と推薦状に、俺がバンバンとハンコを押す。

チラリと見えた履歴書の写真は、これまでモノクロだったはずがカラーになってた。


俺専用の船室の窓からは方向的に大陸が見えないので、船首へ向かう。


「……なんか、うっすら……(けぶ)ってない?」

「ええ、船乗りの間では有名な光景のようですね。ですが上陸したらそれらしい気配はないと聞いていますよ」


遠くに見える陸地には、灰色のような黒いような煙がたちのぼっているようにも見える。

野焼きかな、と思うくらいには(けぶ)ってるんだけど、煙っぽいニオイはしない。

俺にだけ見えるものなのかも、と恐る恐る聞いてみてちょっと拍子抜けしたわ。


「ふうん? なんだろうね?」


「あー、あれはねー、地帯属性偏向の気配だネー」


俺とペシュティーノの横でジオールがサラリと解説。


「……ちたいぞくせいへんこう?」


なんか、ジオールがノリ気で説明してくるときはヤバい気がする。

たぶんこの煙、研究してるヒトがいるかいないか知らないけど、きっと原因なんて解明されてない。そして精霊だけが真実を知っていたパターンじゃね?

だいたい、この世界のナゾみたいな疑問を抱いてそれがサラリと精霊たちに解説された場合、世の中的には爆弾発言であることが多いんだ。


俺、魔導学院でちょっと賢くなった。


前世の現代日本で解明されていたこと。

理科や物理といったものごとの原理や仕組み、たとえば普通の雲と積乱雲の違いや海流発生のメカニズムや地殻変動……。

この世界では全て「精霊様のはたらきによるもの」で雑にまとめられている。

そしてそれを疑うヒトがいないから、解明も何も無い。


ドラッケリュッヘン大陸の黒いモヤも、「精霊様が黒いモヤを出したがってるんだろ」くらいのノリでしか解決してないに違いない。


これ、俺が魔導学院で学んだこの世界の常識。


魔導と魔法については厳格に決めるくせに、水の温度が下がったら氷になるっていう原理すら「精霊様のせい」で片付けてるのおかしくない? と思いつつ。


「なんかイヤな予感がするんだけど、ちたいぞくせいへんこう、ってどういうこと」


「んー、属性が偏るってね、正常な自然ではありえないんだよね。でも、ドラッケリュッヘン大陸はちょっと大陸全体の属性が偏りかけてて、ちょっと危険」


ジオールの言う「ちょっと危険」ってだいぶヤバい。


「もしかしなくても、かたよってるのは……アンデッドの【命】属性?」


「そう。主が手を出さなければ、まあ50……いや、2、30年後にはアンデッドの支配する大陸になりそうだね」


んのおおおお!!!!


「おそらく暗黒大陸なる極東の地域の崩壊が、ドラッケリュッヘン大陸を飲み込もうとしております」


ウィオラも現れて言うけど、どゆこと!?


「どゆこと!!??」


「……ドラッケリュッヘンの平定がおわったら、皇帝になる前に暗黒大陸も調査したほうがいいかも?」

「いえ、皇帝になってからでも遅くないと思いますよ。ドラッケリュッヘンを完全に平定すれば、おそらく神の権能ももう1、2ほど解放されるでしょう」


だからさあ!

おつかい行ってなんか買ってくるくらいのノリで神の権能のこと言わないで!?


食品買いにスーパーまで行けばたぶんトイレットペーパーもあるっしょ、みたいなノリでさあ! ドラッケリュッヘン平定したらもっと神になるっしょ、ってさあ!!


「……ケイトリヒ様、暗黒大陸の件は今は……」

「かんがえてないよ!!」


ペシュティーノが不安そう。

俺も不安だよ!


もー、なんでドラッケリュッヘン着いてそうそう、新しいタスクふえてんの!?

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― 新着の感想 ―
ペシュはおじいちゃんというよりママだよね
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