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第2部_1章_0150話_皇位継承順位審議会 3

ドラッケリュッヘンの異世界召喚勇者たちはとある会議室に集められているらしいんだけど、ここはそことは別のこぢんまりした客室。


8人は座れる大きめのテーブルセットあるくらいで、質実剛健といった部屋模様。


「あれ、異世界じんたちと会うんじゃなかったの?」

「キリハラ殿が、先に合わせたい者がいるらしい」


すぐに部屋に現れたのは3人と衛兵。

帝国で召喚され現在はアンデッド討伐隊の部隊長、キリハラ・ノブユキ。

そして同じく文官のミト・アリヒロ。

最後は……情報表示インフォメーション・オープンでモヤッとした証明写真っぽい画像でしか知らなかったけど、おそらくシマタニ・ミズキだ。

俺の記憶の中のイメージよりも険がとれて健康的に見える。


「ラウプフォーゲル公爵閣下、ならびに御子息のケイトリヒ殿下にアリヒロ・ミトがご挨拶申し上げます。お久しぶりでございます」


アリヒロがお手本のご挨拶をすると、ノブユキとミズキがそれに続く。


「こちらのケイトリヒ殿下は共和国の異世界人、ミヤモト・レオくんを取り立てた我々の命の恩人といってもいい」


ノブユキが言うと、ミズキが瞠目する。

「ああ、料理人の! 確かに、間接的な命の恩人ですね! 私はこの世界で味噌汁を口にしたとき、どれだけ泣けたことか。ケイトリヒ殿下に多大なる感謝の気持ちをお伝えできて光栄です!」


ミズキ、さすがドラッケリュッヘンの異世界召喚勇者グループのリーダー。

コミュ力っていうか社会性たっかー。


「んーん、レオはひとがらも料理も僕が気に入ったから取り立てただけだもん。かんしゃの気持ちは、レオの料理を帝都に送ってくれてるひとに……」


そういえば誰が送ってるんだろう?

一応、物品の転送は帝国法で結構厳しく監視されてるんだよね。帝国の異世界召喚勇者3人分の食事ということであれば量はさほどでもないんだろうけど、法的に面倒らしい。


チラッとペシュティーノのほうを振り返ると「シャルルです」と答えてくれた。

俺、サトラれてる。


「あ、やっぱりいいや。僕がもらっときます」


ミズキはキョトンと目を丸くしていたけど、ノブユキとアリヒロは喉を鳴らして笑った。

内輪ネタでごめんね。


「さて、立ち話もなんだ、座ろうか」


父上が仕切ってくれて、お茶も出てきて、一呼吸。ちなみに俺は父上の膝の上。

もう洗礼年齢なんですけどー? 

いつまで続くんだろうこの子ども扱い。いや子どもですけれどね。


「この度、ドラッケリュッヘン大陸の聖教法国から逃れた異世界召喚勇者との会談の前にお呼びだてしたのは情報開示の枠を広げたいというお願いでございます」


アリヒロが前置きもそこそこにズバッと用件を言う。

父上はそういう話し方が好きだから、きっと合わせてるんだろう。


「ふむ。そちらのミズキ殿にか」

「左様にございます。このシマタニ・ミズキは11人の異世界召喚勇者を率いたグループのリーダー格。さらに異世界での立ち回りに長けており、年齢が高いこともあって政治的にも分別がございます」


アリヒロと父上が話し込んでいる中、ミズキはジッと俺を見つめている。

俺が子どもっぽく首を傾げてみても困惑するだけで、あやすような様子もない。

普通、俺くらいの子どもと目が合うとちょっと笑ったりしない? 睨んでると思われちゃったら不敬だよ?


「どうだ、ケイトリヒ」

「んあ。僕はいいとおもうけど、どう……どうだろう、ウィオラ」

「我々の見立てでは問題ないかと存じます」

「うむ。ケイトリヒが良いのであれば私も問題ない」


「ようございました。実は、ドラッケリュッヘンから来た彼らをまとめるミズキにだけは事情を知っておいてもらいたかったのです。彼らをまとめるうえで、私とこう……高いレベルで意思疎通ができるものが、あまり、その、いなくてですね」


「悪かったな脳筋で」

ノブユキが口を挟んだ。


「アリヒロどの、苦労してるんだねー」


父上を含めたその場がドッと笑った。

だがミズキだけは、場の雰囲気に合わせているという笑い方だ。どうやら俺のことが妙に気になっているみたいだけど……。


「では早速共有させていただきますが、ミズキ。あなた達を帝国へ導いたヒルコというのは、こちらのケイトリヒ殿下です。そして、彼は我々と同じ地球の日本からの転生者。体ごとこの世界にやってきた我々とはすこし事情がちがう、同志です」


ミズキはさほど驚かず、ホッとしたように「やっぱりそうでしたか」と漏らした。


え、やっぱりってなに!?


「え、やっぱりってなに!?」


考えたことがすぐ口に出るタイプです。


「私の能力は『探知』なのですが、ケイトリヒ殿下からはお会いした瞬間から不思議な気配を感じていたのです。子どもの見た目なのに、どこか大人っぽいというか……魂そのものが異質、というか……転生するまえは、成人だったのではないですか?」


「そんなことまでわかるの!?」


「いえ、成人だったかどうかは単に予測でしかないのですが、とにかく今まで見たことのない……うーん、説明しづらいですけど、ヒトじゃないような……その、上位存在のような気配を感じます」


あ、それ神の権能のせいだとおもう。

しかしそこまで言っていいんかい。さすがに俺でも口ごもった。


「公爵閣下と殿下の背後におわす御二方は、精霊なのですよ」

「ええっ!? そ、そうなんですか!? 全くわかりませんでした……精霊ってこんなに大きいのもいるんですね!? あっ、失礼しました。しかし……聖教法国でその存在が知れたら教団は解体ですよ!」


俺が転生者だってことよりめっちゃ驚いてる。

ミズキの探知は精霊には効かないのかな。


「……何故、精霊の存在が教団の解体につながるのだ」


「それはもちろん、精霊教という名のもとにあらゆる悪事を働いている人間があの国を動かしているからです。我々が逃げてきたのも、理由はそれですよ」


ミズキはやや興奮気味に父上の問に答えたが、意識は完全に俺の方に向いている。


「精霊を従える、転生者……つまり、殿下がアリヒロさんの説明してくれた、『次世代の神』となる御方ということですね?」


「それはちょっとまったー! 僕、神になる気なんてないから!」


まだ代理を探すという案がね! 残ってますからね!


「しかし、神になれるのは異世界人だけなのでしょう? そして今、神に一番近いのは小さくも神々しいケイトリヒ殿下のみ……殿下、私の探知で受けた認識では、殿下はもうヒトとは違う存在です」


「まだヒトのつもりだけど!」


ちょっといろいろ飛躍しがちなミズキを、アリヒロと俺と、ときどき父上がなだめているとようやく落ち着いた。

父上からの話は主に「この世界での社会事情」だ。

いくら分別のある大人でも、社会情勢を知らなければ分別のつけようがない。


「なるほど……確かに、『神』という単語すら口にすることがはばかられるような今の情勢では、突然ケイトリヒ殿下が神であると言われても誰も受け入れない。そういうことですね?」


「そうです。神がこの世界で力を振るうには、神の力を信じる者が必要なのです。もちろん、世界を崩壊から救うには相当数の」


「だが、敬遠されている『神』という存在をわざわざ引っ張り出して信じさせずとも、ケイトリヒが個として崇められる方法はある。皇帝になることだ」


父上がぶっこんできた。まあわかるけども。

たしかに皇帝になれば認知度も扱いも単なるヒトとはちょっと格が違う。

神と同等……とまではいわないけど、ヒトの地位としては一番近いんじゃないだろうか。


「神と名乗らずとも神と同等の立場に立つ。なるほど、そういうことでしたらなおさらケイトリヒ殿下以外の異世界人では不可能でしょうね」


「だっだからーアリヒロとかが皇位継承順位もらえば……」


「残念ながら異世界人は対象外ですよ」


「んああ! じゃあ、じゃあ……帝国じゃなくて、聖教法国の悪人たちをやっつけて国をのっとる! そしてそこの国民をみんなアリヒロの信者にする!」


「聖教法国の人口はだいぶ盛っても1000万いないと思いますよ。帝都だけでそれくらいいる帝国とは比べ物になりません」


八方塞がりである!


「……それに聖教法国の悪人をやっつけられるのは、おそらくラウプフォーゲルを動かせる殿下のみです」


それもあったー!


「つまりケイトリヒ殿下……もとい、異世界から転生した貴方は、神になるためにこの世界に遣わされた完璧な神候補ということですね。ところで、前世のお名前はなんというのですか?」


退路が、退路がどんどん絶たれていく……ん?


「ぜんせのなまえ?」


なんだっけ?


小学校の友達からつけられたあだ名も、縁の薄かった親から呼ばれた名も、大人になって会社で呼ばれていた言葉も、何も思い出せない。

その場面は鮮明に思い出せるのに、自分の名前だけが影も形もわからない。


「なんだろ、忘れちゃった」


「そうなんですか。転生ってそういうものなんですね」


その場ではサラリと流されたけど、俺の中には妙にしこりののこる質問だ。



さて、ミズキには事情を全て明かし、俺がヒルコであることはしばらく隠すことに同意してもらったので残りの異世界人に会いに行こう。


ミズキとしても、「自分以外にこの事実を隠したのは懸命な判断だ」と言っていた。

ドラッケリュッヘンからやってきた異世界人たちはあまり社会性がなく、言ってはいけないことや守るべきことについてあまり頓着がないらしい。

まあ、そういうメンバーだからアリヒロもミズキだけに限定したんだろうな。


ここで父上とはいったんお別れ。

これから皇帝陛下とチェッタンガするんだって。

ま、そういいつつ色々話すこともあるんでしょ。


ペシュティーノに抱っこされて部屋に入ると、みんなにこやかに俺を迎え入れてくれた。


「ケイトリヒ殿下、初めまして! 異世界料理人のレオ殿からの差し入れ、大変ありがたくいただいています!」


俺は知らなかったけど、インド人であるイシャン・プージャリに韓国人であるクォン・ミョンジェの2人に合わせてインド料理と韓国料理も提供していたらしい。

残念ながらオビ・エビンガのガーナ料理はレオもレパートリーに無かったようで、わざわざ情報表示インフォメーション・オープンで詫びを入れてきたそうな。

オビはそのことに感動して、「レオは俺の心の友(テ・モン・サン)|(T’es mon sang)だ!」と言ってたらしい。まだ会ったことないのに。


オビはフランス語圏なんだ。

ポカンとしてるレオが目に浮かぶよ。


といってもオビは小学生の頃に日本にやってきた日本人とのハーフなので、味噌汁が大好き。ガーナ料理は逆にあまり覚えてないそうなので、喜んでもらえてよかったよかった。


ガーナ人で日本在住だったときくと、やっぱりこの世界の異世界召喚は転移の()()が日本という国土周辺に固定されているのかもしれない。

と考えたけど、残り2人の外国人でその仮説は否定された。

ミョンジェは日本人の友人がいてカタコトの日本語を喋れるけれど転移したのは韓国内のテグという街だったそうだし、インド人のイシャンも英語は喋れるインド人、転移もインドのコルカタという街でストリートチルドレン出身だし。


まあこの世界に来たらお決まりの謎の翻訳機能が働いて、ミョンジェもイシャンも流暢に日本語を話しているし、日本語を理解している。あ、この世界では「共通語」か。

そしてやっぱり文字では苦労している。

母国語が日本語ならまだこの世界の文字と関連性があるんだけど、英語圏のひとは難しいだろうなー。韓国語は……どうなんだろう? 漢字を習った世代ならある程度通じるかもしれない。


「オオモリ……タイセイです」


自己紹介の順番が回ってきたタイセイはものすごく間を置いてポツリと名乗った。


「タイセイは、内気な性格ですので……どうか、許してあげてください」


すでに自己紹介を終えているミョンジェが穏やかにフォローする。

この2人はニコイチというか、完全にタイセイがミョンジェに依存していると報告をもらっている。ミョンジェはとても世話焼きのようで、後ろに隠れようとするタイセイに「大丈夫だよ、ちゃんとご挨拶しないと」と言いながら優しく背中を撫でてなだめている。


タイセイは脱出劇の前からずっと不安定だったようなので、ミョンジェのような兄貴分がいてくれてミズキも助かっただろう。


「こんにちわ! 僕、ケイトリヒっていいます。よろしくね!」


側近と衛兵の存在に怯えていたタイセイだけれど、俺がとびきりのスマイルで懐っこく近づくと少し落ち着いたみたいだ。


「わあ……かわいい。天使みたい」

「テンシってなあに?」


わざと子どもっぽく聞いてみると、タイセイは嬉しそうに説明してくれる。やっぱり自分よりも小さい子には警戒心みたいなものはさすがに抱けないんだろう。


「ね、ミョンジェ。みて、王子のふわふわの巻き毛。天使みたいだよね」

「そうだね、ウィリアム・アドルフ・ブグローの絵画に出てきそうだね」


ミョンジェとタイセイは本当に兄弟みたいだ。小柄なタイセイと、ヒョロリと背の高いミョンジェ。どちらも絵画に興味があるのか、ブグローの名前をここで聞くとは思わなかった。


「ミョンジェとタイセイはきょうだいなの?」

「うーん、実際には血はつながってないけど、僕は弟みたいに思ってるよ」

「ぼ、僕も……ミョンジェは、頼りになるお兄ちゃんってかんじにおもってる」


タイセイは実年齢よりもだいぶ幼い喋り方をする。

あまり精神が年齢に見合ってないのかもしれない。


彼については仕事などはあまり考えず、とりあえず幸せになれる方法を考えてほしい……けど、ミョンジェがつきっきりで彼の人生を犠牲にするのもよくない。

なんとか落ち着いてくれればいいんだけど……こういうケアは日本でもセンシティブな問題だから、専門家がいてくれたらなあ。


「こんど異世界のお話、いっぱいきかせてね!」


「異世界……」


タイセイの顔が曇る。しまった、もしかして地雷?


「よかったら僕が話しますよ。僕は帝国の異世界召喚勇者とは別の国の出身ですから、また違った話ができるでしょう。彼らの国と僕の国は近いけど、文化的な違いも多いんですよ」


ミョンジェが話題をさらう。すごくスマートで気の利いたフォローだけど、これに慣れてしまうとたしかにタイセイが離れがたくなるのもわかる気がする。


「楽しみにしてる!」


俺は子どもなので。あまり2人の共依存関係には触れず、次。


「あー、コウジマ・アオイ。今年でたしか20……いや19? わかんね、忘れた」


お、戦闘職を希望しているアオイくんか。

魔力適性に加え、ちょっとだけ【闇】属性への適性があるそうだけど、わかる〜。ってかんじの見た目だ。日本だったら絶対トゲトゲのついたバングルとかつけてレザーのジャケット着てそー。


「ねんれい、忘れたの?」

「興味ないから」


「へー! おもしろーい」


子どもらしく無邪気に、無邪気に……。俺も苦労するぜ。次。

部屋に入ったときから気になってた、ツインテ&ミニスカ男子。まあ体つきは華奢だけどしっかり喉仏ある。


「こんにちわー! 僕は、オダ・アランっていうの! ケイトリヒ殿下、かーわいいーねえー、将来はすっごい美少年になりそうー!」


「えと、アランはおんなのこ?」

「やっだー★ そう見えたのなら嬉しい〜! あのね、僕ってー、女の子の格好するのが好きなの! あ、べつに恋愛対象は男じゃないよ? 今はね? 多分! 帝国ってぇ、男が女性の格好するの……やっぱり変かなあ?」


「僕は変じゃないとおもうよ! ね、ペシュ」

「そうですね。一定数いらっしゃいます。ただ、帝国では女性が少ないですので本当の女性と勘違いして口説かれてしまうこともあるかもしれませんから、それだけはご注意を」


「えー! 逆に嬉しいー! あ、でも本当に関係するのはちょっと勘弁」


そう、女性の少ない帝国。

売春は違法だけど、男同士のあれこれには前世では考えられないほど寛容なのだ。

そして女性の行動を止められない帝国男子。女性同士のあれやこれも誰も責められない。

つまりとってもLGBTフレンドリー。


肉体と精神の性の不一致みたいな概念はあまり一般的ではないみたいだけど、同性愛には寛容……というか、あまり感心がないみたい。誰が誰と関係していようが、基本的に外野はあれこれ言わないというのが帝国の一般論。


そりゃ、男女比率が偏ってるせいで子ども成すことも結婚もまあまあ一般的じゃない夢って世界じゃ、そうなるのかもしれないな。


「アランはかわいい服が着たいんだね。僕はもっとかっこいい服がいいなあ」

「えー! 王子の服すっごくかわいい! さすが公爵令息って感じー! 帝都で見たどの貴族よりもおしゃれでかわいいし、すっごく上品で手が込んだお洋服だわ! 一体どこのお店で買えるの!?」


「あのね、ディアナのてづくり」

「手作り〜! すっごーい! ……え、ディアナ、ってもしかして……公共放送(エフ)で見た、あの『レーヴ・ド・ディアナ』のメインデザイナー……?」


え、そうなの? ペシュティーノをソロリと見ると、ゆっくり頷いた。

……ディアナ、甲冑ブランド立ち上げたりフォーゲル商会めっちゃ利用してんね?

まあいいけど。


「そうみたい」

「ええー! すっご! さすが公爵令息ッ! そんなトップデザイナーがお抱えなの! それに料理人は異世界人って話だし、さすが権力と美貌を兼ね備えた王子のところにはいろんな優秀なヒトがあつまってくるのねっ!」


ちょっと視点は違うけど、ミズキ以外ではアランが一番俺を見抜いた気がする。


「ウフフ、アラン、喋りかたもおんなのこみたいね。かわいい」

「やだっ……マジ天使〜!!」


さて、これくらいにしておこう。

最後は……。ちらりと最後のメンバーに目を向けると、目があった少年が恥ずかしそうにはにかんだ。


「あ……えーっと、マツコウジ・キミタカ……です。俺は、その……め、目立ったりみんなと協力したり、みたいなことが苦手で……その、ミズキさんには迷惑かけました」


突然独白タイムになってしまったけど、彼なりの自己紹介なんだろう。


「キミタカ! よろしくね。この中では、けっこう若いのかな」

「あー、そうですね、一応、最年少……かな? タイセイとタメです」


たしか情報表示インフォメーション・オープンでの情報は2人とも今年で17歳。

去年召喚されてすぐ脱出劇があったので、彼の異世界生活は帝国へ向かう約7ヶ月の旅がメインだ。


「この世界にきて、なにか困ったことはある?」

「メシが……あ、ご、ご飯に困ったんですけど、今はすごく、良くなりました。レオさんからの出前、すごく助かってます」


タイセイほど不安定ではないけど、ちょっと内向的なタイプ。

彼は戦闘職には絶対つきたくないと宣言していた。まあ、俺がパッと見ても向いてない。

脱出劇のときも、率先して動くタイプではなく全員が動き始めて波にノリはじめたらようやく動き出したくらいだ。誰かについて回るのが性分なんだろう。ミズキやシロウのように率先して動くことができず、意気消沈してしまう気持ちもわかる。


「キミタカは不思議なチカラをもってるんでしょ? くわしくは知らないけど、キミタカにしか使えないチカラだから研究所で研究させてもらえるとうれしいなあ」

「えっ……それキリハラさんにも言われましたけど、どういうことするんですか?」


「え、わかんない。どういうことするの?」


振り向くと、ペシュティーノがずい、と歩み出た。


「基本的には管理された場所で能力を使ってもらうだけかと。あとの詳しい解析は研究員がやりますので、呼ばれたら能力を使う。指示があればそのとおりに。それくらいです」

「そ、それだけですか? その、何か注射されたり、へんなヘッドギアつけたりとかは」


「チュウシャ?」

「ちゅうしゃってなあに?」


俺がわざとらしく聞くと、ミズキが少し笑いながら「この世界には注射器なんてないよ」といさめた。ミズキが笑ったのは俺の聞き方がわざとらしかったから?


「じゃあ血を取ったりとかは」

「異世界では術者の血をとると発動された術式が解析できるのですか」

「ペシュ、異世界には魔法のじゅちゅしきなんてないんだよ、魔法がないんだから」


噛んだのはわざとです。わざとですったらわざとです。


「なんだ、それくらいなら……」

「フォーゲル商会の研究所できょうりょくしてくれたら毎日レオのごはん出すよ!!」


「やります!!」

「やったー」


レオの料理は異世界人への最強カードだな!



継承順位発表まで待つなんてメンドーと思ってたけど、異世界召喚勇者たちと話していたらあっという間に時間が過ぎて1刻(2時間)も経っていた。


部屋に近衛兵がやってきて「継承順位が決定しましたのでへお越しください」と告げられた。行かなきゃなんだ。全員待ってるのかな?


ミズキたちと別れを惜しみつつサヨナラして、審議会の会場へ再び戻る。

俺と同じように発表を待っていたのは、俺を含めて4組だけだ。


パッツィーク領主令息のドミニクに、ビブリオテーク領のエンドミット商会カスパー。


「カスパー!」

「王子殿下! お、お声がけ賜り光栄に存じます」

「お、王子殿下!?」


カスパーの後ろには2人の大人。


「カスパーのおとうさん?」

「は、はい! こちらは父のユゲール・バルヒェット、こちらは兄のジェモン・バルヒェットにございます」

「ら、ラウプフォーゲル公爵令息ケイトリヒ殿下にご挨拶申し上げます! エンドミット商会頭目、ユゲールと申します」

「ラウプフォーゲル公爵令息ケイトリヒ殿下にお目通り叶いまして光栄に存じます! 同じくエンドミット商会所属、ユゲールの息子ジェモンと申します」


「本をあつかう商会なんだよね!」

「はは、左様にございます!」


なんか時代劇みたいになってきたぞ。


「写本のプロをさがしてるんだけど、ちからになってもらえるかな? 紙はこちらでてはいするから……ガノ!」


呼ばなくても後ろにピッタリ控えていたガノが、にっこり営業スマイル。


「今年ラウプフォーゲル公爵閣下より子爵位を賜りましたケイトリヒ殿下の出納係ガノ・バルフォアと申します。ケイトリヒ様、あとは私が」

「でもカスパーともっとお話ししたい」


「ウチの愚息をご所望とあらば、いつまででもどうぞ!」


そういう言い方どうかと思うぞ。


「殿下を無視して平民の子どもに話しかけるなんて……」


キャッキャしている俺たちの声の合間に届いてきた言葉は、棘があるせいか思いのほか響いて聞こえてきた。


「よさないか。殿下が誰と話すかは、殿下ご自身がお決めになることだ」


パッツィーク領主令息、ドミニクは側近の軽口を諌めた。質疑応答のときの言葉も立派だと思ったけど、性根までまっすぐとはなかなか得難い優秀さですね。


俺はカスパーの手をキュッと握って、ドミニクの方へ駆け寄る。


「ねえねえ、ドミニク、ちょーこん使うの!? すごいね、大人でも扱いがむずかしいだよね? それに、アンデッドには刃物より打撃が効くって、魔導騎士隊(ミセリコルディア)の隊員が言ってた。すごいね!!」


俺が目をキラキラさせて近づくと、ドミニクは面食らったようだ。


「ら、ラウプフォーゲル公爵令息ケイトリヒ殿下にお声がけ賜りましたこと、光栄の極みにございます……!」

「うん、こちらこそ! で、ドミニクはもう騎士学校通ってるの? 騎士学校ってどんなことするの? 訓練は厳しい?」


ドミニクは突然の質問攻めにへどもどしていたけど、頬を紅潮させてたのでそれなりに嬉しかったんだと思う。


「カスパーのおうちね、本を作る商会なんだって! 僕、本が大好きなの! ドミニクも戦術の本、読んだりするでしょ? もっとかんたんに手に入るといいと思うよね?」


「そ、そうですね……」

「戦術書は写本が制限されているので紙の値段が下がってもなかなか流通は増えないと思いますよ」


「えーそうなの!?」


領主令息2人に囲まれても落ち着いたカスパーと、俺に話しかけられてへどもどするドミニクの対比はちょっとおもしろかった。

3人でぺちゃくちゃ喋っていると、父上と皇帝陛下が現れたのでお開き。


「これより、帝暦514年度の皇位継承順位の決定を皇帝陛下より賜ります」


仕切りのおじさんが言うと、壇上に立った皇帝陛下の前にバスケットボール大の球体を両手に抱えた兵士が現れた。……もしかして、これって市販されてる「エフ機」?

つまり、公共放送(エフ)用のカメラ? でっか!


「皇位継承順位20位以下は後ほど告知表でご確認ください。20位以上を発表します」


アロイジウスあにうえは去年27位だっけ。

いや、順位を聞いたのはもっと前だったかな? 毎年変動するものなのかな。


とりあえずどうか、10位以下でありますよーに!!

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