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8章_0111話_叙勲式典 3

「ケイトリヒ様、お父上がおいでです」


肩から垂直に生えた羽かざりのついた正装を全部ディアナたちに脱がせてもらって、いつもの部屋着に着替えたところでペシュティーノがやってきた。


「御館様とご面会であれば、もう少し華やかな装いにしましょう」

「え〜、いいよこのままで。ディアナたち、もう帰るんでしょ。そういえばアパレル事業の計画はどお?」


「そんなに追い返すようなコト仰らないでくださいよ〜! 私たちの事業も、商館(モール)の目玉企画の一環としてトビアス卿とオリバー卿と一緒に相談中です!」

アンが力こぶを作るように元気に応える。

確かに、今やこと事業に関しては俺よりもずっと力強いアドバイザーがいる。


「それにしても、この館は白の館よりも広くて美しくて過ごしやすいですわ。4人全員とはいわないまでも、交代でケイトリヒ様の身の回りのお世話のためにお針子たちを常駐させてはどうかと考えているのですけれど」


手際よく俺を着替えさせながらディアナが言うと、パトリックが身を乗り出してきた。


「確かに、お針子の方がお一人いらしてくれれば相談もしやすくなります! 今年は社交に注力なさるというケイトリヒ様の計画をかんがみれば、校内でも衣装は重要になりますから!」

「ええ、そう思います。それに私たちお針子が1人いれば、お茶会の『お持たせ』に小物を追加することも可能ですわ。販路を拡大したい布や糸などを用いて学生用の小物を作ってケイトリヒ様が宣伝してくだされば、人気も出ましょう」


ファブリックなお持たせって……なんだか女子っぽくない? 大丈夫?

騎士様に贈るハンカチ……とかそういうイメージがあるんだけど。

そう考えて返事に戸惑っていると、ペシュティーノが割り込んできた。


「そのお話は後ほど改めて。お着替えが済んだのならお連れしたいのですが」


「あっ、失礼しました!」

「失礼しました。リボンを結べば完成です、しばしお待ちを」


首元にふわふわのドレープたっぷりのリボンをつけて完成。ブローチは琅玕翡翠に白鷲のマークがついた、ユヴァフローテツ工房のオリジナルデザイン。

なんか背中から肩にかけて白いぴらぴらがついてる?


「なんかついてる」

「あっ、あまりいじらないでくださいまし、繊細な飾りにございますから」


「これは……良いデザインですね。まさに魔導騎士隊(ミセリコルディア)白き鳥商団(ヴァイスフォーゲル)の象徴たる白鷲を体現したかのような」


ペシュティーノもガノもパトリックもその他の側近たちも、俺を見て感心したように頷いている。そんなに?

あまり褒めるもんだから姿見を見て回ってみると、肩口から背中に向けてV字にリボンが渡してあり、その下に長くて大きな白い鳥の羽がフリンジのようにひらめいている。

……皇帝陛下ほどゴージャスじゃないけど、羽飾りって権力者の必須デザインなの?


ペシュティーノに連れられて食堂に行くと、父上はすでに兄上たちに囲まれていた。


「あっ、ケイトリヒ!」

「来たね」

「おお……なんかシャツが豪華になってるじゃねえか」

「よう、投影機(ヴァイツフィルム)の映像見たぜ! 歌、うまかったじゃないか!」

「ケイトリヒ様、おかえりなさい! すっごく素敵な衣装でしたね!」


父上に群がるようにエーヴィッツとアロイジウスとクラレンツ。

すこし離れたところにジリアンとアーサー。


「全員揃ったか。さて、夕食にしようではないか」


父上の号令で、食堂には一気に料理が運び込まれる。


「レオの料理はいつもいい匂いだけど、今日はことさら食欲をそそる香りがするね」

アロイジウスが鼻をヒクつかせる。


「シャッツラーガー領の郷土料理に使われるニンニク(ノブリーキ)を使った料理ですよ。この世界では口内を洗浄する魔法もありますので、ニオイは気にしなくていいと聞いてたっぷり使ってます!」


レオがウキウキした様子で大きなクローシェをぱかりと開けると、ぶあついステーキにみじん切りのニンニクとソースがかかっている。他にもアヒージョにペペロンチーノパスタにギョーザと、にんにく料理が並ぶ。

せ、精力がつきそうですね……子どもの俺は眠れなくなっちゃいそうだ。

どうせなら式典の前に食べればよかったよ。


「なんとも腹の減る香りだ。どれ、食べようではないか」


「ん、このステーキソースはピリッとくる。なのに舌に残る辛さはないね」

「香ばしい香りだけが鼻に抜ける感じですね! この薄いモモみたいな料理はすごくジューシーだ、何個でも食べられそうですよ!」

「うっめ、ん、これもウメェ!」

「あふっ、んん、んー! ん、んん……うめえ!」

「ああ、これは……王国ではガーリックと呼ばれるものです。こんなにたくさんの料理法があるなんて、全然知らなかったです」


「ところで、食堂はもともと2階だったか? 前に来たときは1階だったと思うのだが」


「あ、1階は……」

「威嚇用の謁見室にしました」

「共和国のあの女みてーなやつ、ビビってたな」


父上は兄たちから説明を聞くと、満足そうに笑った。


「そうかそうか、魔導学院にも聖教の者が入学したとは聞いていたがそんな事があったのか。しかし良い対応であった。聖教の者は世俗に疎いが、それらに合わせてはならん」


兄上たちは褒められて嬉しそう。

俺はそれよりも……。


「ちちうえ、『魔導学院に()』って……」

「うむ、ケイトリヒに話した、叙勲式典に強引に出席してきた例のマグノリエル筆頭司教だが、案の定、式典のあとにケイトリヒへの接見要請を出してきおった。おそらく精霊様の御力を感じ取ったのであろうが、油断ならん女だ」


「共和国、というか聖教がしきりにケイトリヒに接触を試みてくるのは、精霊様のせいでしたか。道理で……あのファリエルとかいう少年も無礼で強引でしたね」

「王国のように友好の歴史があるのならばいざ知らず、今まで散々帝国と敵対しておいていざ精霊様の力を持つ少年が現れたとなれば掌をかえしたようにすり寄る……聖教は信用なりません」

「おいこのパスタ食べたか? でけえ肉が入ってるわけでもないのにスゲエ美味いぞ」

「俺は断然、このギョーザだな! これ100個でも食えそうだ」

「しかし、精霊様はともかく王子殿下の魔導騎士隊(ミセリコルディア)の御力があれば王国はもとより、共和国へ進出することもお考えなのでは? 敵対した歴史は無視できませんが、いつかは手を取り合う必要があるかとおもいます」


アーサーの発言に、兄上たちはハッっとして考え込んだ。父上はニヤリと笑って満足そうにしている。


「し、失礼しました、差し出がましい口を……」


「そんなことないよ、アーサー。キミの言う通りだ。ケイトリヒがどう考えているのか知らないけど、いつまでも毛嫌いするばかりでは良くない。それは間違いないことだ」

「今は歩み寄りの模索中ということですか……たしかに将来を考えれば、敵対するばかりでは共和国は疲弊してしまうでしょうね。友好への道を探り合うのであれば、僕たちも協力できることもあるかもしれません」


アロイジウスとエーヴィッツが神妙に言うのを見て、父上も満足そうだ。


「うむ。やはりアーサーをこの寮にいれたのは正解だった。領主だけでなく、全てにおいて長たるものは広い視野を持たねばならぬ。自分のためではなく、周囲のため。自分の周囲だけのためではなく、領民たちのため。そして自領のためだけでなく、自国のため。さらにいえば他国の利が自国の利になる場合は、手を貸すこともやぶさかではない」


ラウプフォーゲルの武力があれば他領を、他国を蹂躙することは面倒で大変だが不可能ではない。それに俺の精霊の力や経済力が加われば、王国も共和国も屈服させることは面倒だけど現実的に可能だろう。

だが、一方的な支配がどれだけ手のかかる危険を背負い込むことなのか、ちょっと勉強した者ならば知っている。


「共和国とはなかよくしますよ。でも聖教とは、なかよくできるかわかんないです」


俺がぼやくと、父上はわははと笑った。


「確かに、手を組む相手は見定めねばならん。信用ならんという点では、エーヴィッツの言うとおりかもしれんな。だが、掌を返した理由がそれなりにケイトリヒにあるのならば思う以上の味方となるやもしれんぞ?」


確かに、聖教は精霊を崇める以上、精霊神たちの存在がバレたら、おそらく完全に俺の支配下といってもいい。……だから関わりたくないんだよなあ。


「……教義はともかくそのなかのヒトに不安があります。年端もいかない少年が盲目的に信仰にすべてをあずけるなんて、ちょっと僕からすると不気味ですから」


子どもだけではないが、ヒトから視野も思考も奪い去って教義こそが正義だと教え込むような宗教なんて、宗教とは呼べない。洗脳だ。

ちょーっと聖教からは、そういう気配を感じるんだよな〜……。


「ふ……む。それは、確かにそうだな」


「なるほど。ケイトリヒは僕たちよりも先を考えているんだね……さすがだ」

「そうか、聖教と共和国は分けて考える必要があるのか。たしかにダニエル卿の対応を考えると、一枚岩というわけではないね」

「ジリアン、そっちの肉とって」

「うい。あ、俺もそっちのソースとって」


会話に全く参加せずに黙々と食べるクラレンツとジリアンのことを、アーサーがチラチラ気にしている。気にしなくていいよ、これいつものことだから。

慌てて後ろの給仕が肉をとったりソースを寄せたりしてる。それも気にしなくていいよ、彼らは手持ち無沙汰でお互い話したいだけだから。


「とはいえ、僕はまだ共和国のことも聖教のことも、あまりしりませんから。いまは謎がおおいので要注意ってだけです。それより王国についてもっと知りたいですね!」


「うむ。公平で、偏りのない良い判断だ。安心したぞ」

「ケイトリヒ様……!」


父上は感心してくれたみたいだし、アーサーは嬉しそう。

将来の話は大事だけど、まだ起こってもいない話に時間を割くよりは今ある関係について深めていくほうが意義がある。今はそういう時だろう。父上がこの場にいる時間は貴重なんだから!


「考え方に安心できたからこそ……ケイトリヒ、其方に話しておくことがある」


父上が改まって俺を見据えて、低い声で言ってくる。……な、なんだろう。

何故か今まで我関せずをつらぬいていたクラレンツがビクッと肩を震わせた。


「年齢と体格的にしばらく後になるであろうから、しばらく黙っておけと兄たちには言い含めておったのだがな……今や、もうここ数年しかチャンスがないと思うのだ」


クラレンツのカトラリーが止まる。

……はやく、父上、はやく! 俄然興味がわいてきました!


「ハービヒトとヴァイスヒルシュはどうか知らぬがな。ファッシュ直系の息子たちには、洗礼年齢から成人までの6年間のあいだ、最低でも1年程度となるが……冒険者として活動するという慣例があるのだ。剣が得意であれば、騎士隊でもよい。アロイジウスは騎士隊に2年間……だったか」


「はい、父上。あのときの経験は忘れもしません……毎日吐いてましたから……」

「あ、ヴァイスヒルシュでもその慣例を取り入れようかと検討中だそうですよ。ただ、危ないので成人後にしてはどうかという話になってます。まだ決まっておりませんが」

「い、1年〜!? 本家ではたった1年なのか!? ハロルド兄上は最低3年っていわれて5年やったらしいぞ! 俺は魔導学院に入ることで勘弁してもらったけどよぉ」

「へ、ええ……帝国では、それが慣例なのですか……! た、たくましいですね……」


ぼ、冒険者に!!


「ち、ちちうえも冒険者、やったのですか!?」

「ああ、私は父上から旧ラウプフォーゲル領以外で、と条件をつけられたので、騎士学校時代の親友がいたゼーネフェルダー領を拠点としていたのだ。思いのほか冒険者生活が気に入ってな、3年ほどやったか」


「僕も、僕も冒険者になっていいんですか!!」


椅子の上でぼいんぼいん縦揺れしていたら、父上の目がスッと困ったように細められた。

なるほど、ゼーネフェルダー領! アデーレ夫人とはそこで出会ったんでしょうか!

でも今はそれどうでもいいや!


「……こうなるような気がして、口止めしておいたのだ。ケイトリヒ、冒険者になりたいのか? 危険だぞ?」


「へふっ、そりゃ、そりゃあもう、危険でしょうねえ! わかってますけども!」


兄上たちがクスクス笑っている。興奮しすぎてすまん!

1人だけ笑っていないクラレンツを、父上がチラリと見る。


「……クラレンツはどうだ?」


苦い顔をしていたクラレンツが、止めていた息を思いっきり吐いた。


「……ずっと逃げ回ってた件ですけど……弟がこんなにノリノリなんです、もういいかげん観念しなければならない時が来た……というわけですね」


「まだ怖いか?」


「いえ。あ、もちろん不安はありますが……昔ほど怖いというほどでは」


アロイジウスが驚いたようにクラレンツを見て、顔をほころばせる。


「そうか……! そうだね、クラレンツ。もう昔のように階段で息切れするような体ではないし、剣戟も日に日に重くなっている。騎士隊では間違いなく重戦士型と言われるだろうね! あっ、騎士隊でなく冒険者という選択もあるが、とにかく応援するよ!」


目を輝かせるアロイジウスを見て、クラレンツはちょっと嫌そうに目をそらした。


「クラレンツあにうえ、まだなんだ。冒険者、いっしょにやる!?」

「それはならん。時期は被っても構わんが、活動範囲は分ける」


父上がピシャリと言ってきた。そうなのか。


「アロイジウス兄上はラウプフォーゲル騎士隊だったの?」

「いや、グランツオイレだ。昔はフランツィスカ嬢は私と結婚したいと言ってくれたんだがな……はは、まあそれはいい。ケイトリヒはどこになるかなあ?」


「どうだ、ケイトリヒ。騎士隊と冒険者、どちらがいい?」

「ぼうけんしゃー!!」


「即答か」

「なんでだよ……意味わかんねえ」

「自由度でいえばまあ、冒険者だろうよ。騎士隊は接近戦の戦技と連携力は磨けるけど活動内容はガッチガチだからなー。でも……ケイトリヒみたいな小さい体じゃ、心配だな」


「……うむ。目下の心配はそれだ」


そう言うと、父上はチラリとペシュティーノを見る。

ペシュティーノはすごく心配そうに俺をチラチラ見ている……と思ったら、俺の皿でフォークが刺さったままになっているお肉を見ている! 落ちそうで心配だったのね。

フォークを抜いてテーブルに置くと、ホッとしたように落ち着いた。


「それに、ケイトリヒには既に次期領主候補に白き鳥商団(ヴァイスフォーゲル)の頭目と、身分だけでなく実務的な責任も集まりつつある。期間は一応。慣例に倣って1年とし、それ以上伸びないようにしたい」


うんうん、1年もやれば十分じゃないかな!


「それと、時期はケイトリヒもクラレンツも、魔導学院卒業後だ。ケイトリヒは今の学習速度を見る限り、早期卒業は間違いない。……来年の皇位継承順位によっては、面倒なことになるかもしれん。……が、ひとまず何位であっても、敢行する」


ぶんぶんと俺が頷き、クラレンツが胸をなでおろす。

クラレンツはけっこう猶予があるな。それまで鍛えてれば、騎士隊でも冒険者でもさほど問題ないだろう。


「地域については、卒業が決まったら考える。クラレンツはおそらく私と同じゼーネフェルダー近辺を考えている。ケイトリヒは……完全に白紙だな。皇位継承順位によっては中央とも相談する必要がある」


「そっかあ」


俺は納得して皿の上のお肉をパクリと食べる。ムーム肉は前世のビーフステーキとほぼ同じ。中はすこし赤みが残るのに、イヤな臭みはまったくない。脂っぽさも控えめで美味しい赤身肉だ。


「ケイトリヒ、同行者のことは心配してないのか?」

「えっ!? どうこうしゃ、つけるんですか? ひとりじゃなくて!?」


その場にいた全員が「は!?」とでも言うような視線を俺に向けてきた。

ペシュティーノはちょっと声に出てたよ。


「はっはっは! そんなわけがなかろう! いや、ここまで大胆だと逆に心配になってきたぞ。其方、自分でトイレもできぬというのにまったく、どうしてここまで自信家なのか……ふっふっふ」


「と、トイレはできないのではなく! トイレが大きいからペシュがひとりでさせてくれないだけです! トイレじゃなければ逆にできますからー!」


「ほう、では着替えは?」

「こんな羽衣みたいな衣装じゃなければ、ひとりでもできます……」


飾りは繊細だし、ボタンはちっちゃくてつるつるしててやたらパーツが多い。

城下町では貫頭衣みたいな簡単なつくりの服が売ってたもん!

平民はそういう服なの、知ってるんだからね!


「ふっふ、いや、笑って悪かった。だが先程言ったが、其方にはもう少なくない責任が小さな肩に乗っておる。いくら冒険者として活動するとはいえ、万にひとつにも命の危険があってはならん。側近は全員、魔導騎士隊(ミセリコルディア)も同行させることになる」


「え……」


それ冒険者じゃなくて……隊列! めっちゃぞろぞろしてる!!


「ケイトリヒ、僕にも側近はついたんだ。ケイトリヒならそれくらいの人数で当然だよ」

「ハロルド兄上は1人だったけどな……父上いわく、『もし死んでも6人も弟がいるのだから後顧の憂いはないだろう』って言われたんだとよ。マジ鬼じゃねえか……?」


「……そ、それは確かに言いすぎだ。ゲイリー兄上は側近1人だけで、5年間も冒険者を続け、戻ってこいと言ってもなかなか戻ってこなかったからな……まったく、変わっていないな。だが、ハロルドの功績はウンディーネ領では英雄的に語られていると聞いたぞ」


ファッシュ本家が10歳から16歳まで外に出ることは、世間を学ぶことの他に人脈を広げる意味合いもあるみたいだ。


「僕、どこになるかなー。側近と魔導騎士隊(ミセリコルディア)つれていくなら、どこでもよさそう。帝国じゃなくて、外国にでてもいいかもしれない」


俺がひとりごちると、父上がギョッとした。


「……やはり其方もそう思うか?」

「ふぇ? やはり? ……もしかして、そういうはなしになってるんですか?」


「まだ皇帝陛下と話しただけだがな。ケイトリヒは帝国内のどこに行っても、影響力が大きすぎる。人脈を求める者が群がるだろう。で、あれば……という話になったのだが……まさか精霊に探らせたわけではないだろうな?」

「精霊はさいきん僕が知りたいとおもってないことは報告してこないんです」


「そうか……まあ、国外といっても王国も共和国、どちらを選んでも互いに不平等感が増すだろうから、選択肢に入れてない。むしろ修行と称して内情を探れる好機であるとしてアイスラー公国かドラッケリュッヘン大陸を考えていたのだ」

「みちのたいりく!」


なんとも、いいように使うつもりじゃありませんかね!?

ちなみにスタンリーは家族の食事会ということで同席を遠慮したため、ここにはいない。


「ドラッケリュッヘン大陸は未知というほどではない。未熟ながらも国家らしきものがあることは分かっているし、少ないながら情報も入ってきている。だが、いかんせん遠い。しかしトリューがあればそこは問題ないであろう? それに側近と魔導騎士隊(ミセリコルディア)も連れて行くのだ、武力に不安もない」


ドラッケリュッヘン大陸の実情調査か。

魔導騎士隊(ミセリコルディア)白き鳥商団(ヴァイスフォーゲル)を他国にまで拡大させようという戦略を考えれば、分母は大きくなればなるほどいい。

交易ができるような国が存在するならば、俺を派遣させれば強力な橋渡し役を担える。

これ、修行じゃなくない? 派兵じゃない? 敵とは言い難いけど、敵情視察じゃない?


「アイスラー公国なら……制圧部隊の先遣隊ってかんじになりますよね」

「まったく、勘の良い子だ」


アイスラー公国の存在は、聞けば聞くほど邪魔だ。

恒例行事のように実現しない宣戦布告してくる件は放っておいても構わないが、交易船に海賊行為をする件についてはイタダケナイ。商船とはいえ帝国の武力にかなうわけないのだが、対策費用は馬鹿にならないし、10回に1回くらいの頻度で略奪行為が成功してしまうらしい。当然、抗議しても無駄。

帝国としては事情が許せばさっさと制圧してしまいたい国ナンバー1だろう。

ちなみにナンバー2は共和国だと思う。これは想像。


「卒業がたのしみになってきたなー!」


「ケイトリヒ様、ご機嫌が上向いているところに水を差すようで恐縮ですが」


急にペシュティーノが割り込んできた。……また、テンション下げるようなこと言うつもりだな! 今のアゲアゲな俺には効かないぞ、たぶん!


「冒険者になるには試験があります。その場の全てを破壊し尽くすような魔導だけでは、おそらく……活動制限付きの『Nランク』扱いになってしまいますよ」


「え……えぬらんく?」


そんなランク聞いたことないぞ? とポカンとしていると、ブッ、とアロイジウスとエーヴィッツ、そして父上が吹き出した。多分、そうとう間抜けな顔してたと思う。わかる。


「Nランク」の冒険者とは、特殊な能力者が属するランク帯らしい。

Nは、古代語(ドイツ語)でいうところの「Nicht identifizierbar」=「識別不能」の頭文字。当然、昇格はなく完全に別扱い。どういう特殊さかは定かでないが、いわゆる取り扱い注意みたいな感じらしく、とりあえず俺が該当するらしい。

ジュンも後ろで頷いてる。


「け、ケイトリヒの魔導は……すべてを破壊しつくすのかい……それは……強力だけど、確かに使いどころというか、制限がかかるのも……く、くく……」

「冒険者への戦闘依頼は、たしかに狩猟と討伐が多いよね……狩猟は死体が残らないと意味ないし、討伐には証明部位が必要だし……こ、粉々にしてしまっては、たしかに……まずいかもしれない、ね……ふふっ」

「まあアンデッドを相手にするなら無敵だろうけど……アンデッド専門の冒険者……まあ、需要はありそうじゃねえか? 帝国以外であれば。でも、周囲を更地にするのは勘弁してもらいたいって言われるかもな……」


ジリアンまでイジりに加わってきた。むぬう!

なんでところかまわず更地にするって知ってるの! さてはジュンが喋ったな!


でも、帝国以外ならアンデッド専門冒険者ってアリじゃない!?


「アンデッド専門、いいかも! 帝国にはいないけど、他国では多いんでしょ?」


「そうなると魔導騎士隊(ミセリコルディア)と競合してしまいませんか?」

「ほら、僕はとおりすがりの冒険者でしょ? 僕が去ったあとも、アンデッドの恐怖におびえたくないなら魔導騎士隊(ミセリコルディア)をよろしくー! っていえるじゃない?」


「……ケイトリヒ様、魔導を制御するおつもりは……もしや、ないのですか?」

「あ、あるよ!!」


「では、目下の目標は魔導制御を身につけることですね。少なくとも、卒業までには」

「ぐぎぎ」


暗に……いや明らかに叱咤激励された!


兄たちも父上も相変わらず笑ってるけど、まあいい!

神になること以外に当面の目標ができたし!


このままぼんやりしてたらいつの間にか預かり知らぬ謎のチカラで神にさせられちゃうんじゃないかと不安だったけど。とりあえず来年は洗礼年齢になって。卒業したら冒険者になって! しばらく外国を回って見て、成人したらラウプフォーゲル領主か皇帝になるまでは、白き鳥商団(ヴァイスフォーゲル)で頭目としてまた社長業に勤しむ。

楽しみね!


夕食会を終え、父上はラウプフォーゲルへ帰っていった。

使用人たちは客間の宿泊準備をしていたみたいだけど、明日が早いんだって。残念。


さて、式典も終わったことだし!


魔導学院では引き続き、社交だ。


ルキアとのお茶会の前に、ダニエルとのお茶会について考えないとね。


ダニエルとのお茶会は何者かが妨害している。

招待状を送ったにも関わらず本人が知らなかったからね。


まあ、精霊のおかげでその正体は判明してるんだけど。

どうお仕置きしようかな?


俺が知ってるのは不自然だから、ダニエルに気づかせて手を打ってもらうか……。

いや、ダニエルはもう気づいてるだろう。


今回の式典を見て、俺の帝国での地位はダニエルも妨害者も嫌でも理解したはずだ。

俺からのお茶会招待を断るなんて類を見ないほどの愚策。


ダニエルの状況をまた覗いてみようかな……。

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