夢 2
前回も短いのに今回も短い。
覗き込んでくる気配がする。
――見事にやられたな。
あの男の声。
煩い。
悪趣味だぞ。
――まあ、武器をきちんと選んだだけ上々という事にしておく。甘い採点だけどな。
そんな感じがしない馬鹿にしているように思えるのは心が狭いからだろうか。
――それにしても驚いたな。
何がだよ。
人の頭の上で独り言を言っているんじゃない。
――アルルカンの人形師の元に盾を持っている人はいなかった。
盾……? キャルと名乗った女性の事か。
――それにアリア様って……まさか……。
何一人で納得しているんだ。
――そうか。これも変化しているのか。
悲しいのか辛いのか切ないのか……そして、どこか泣きそうな声だった。
――ならば、こっちも動かないとな。
べしっ
額を叩かれる。
夢なのに痛い。
――寝かせてやろうと思ったが気が変わった。
さっさと起きろ。
その言葉通り叩き起こされた。
――さて、起きたか。じゃあ、強くなるために力を貸してやる。
目の前に男がいるはずだが、見えない。
黒いもやもやとした輪郭があるだけ。
ちりんっ
首に何か音がするものを下げているのが聞こえるだけ。
――武器が手にあると思って念じろ。
そうすれば形になるから。
『えッ? こ、こうッ!?』
念じるとすっと手の中に剣が現れてそれを握っている。
――出来たようだな。なら。
がんっ
いきなり攻撃をされる。
――そんな腰が引けていたら戦いどころじゃないだろう。
もっと真剣にやれ。
そんな事を言われて、攻撃をされる。いや、攻撃をしているのではないわざと握っている剣に攻撃を当てているのだ。
剣の重さ、攻撃の当たり方をスパルタで叩き込んでいる。
こっちは耐えるのがいっぱいいっぱいなのに。
というか顔が見えないのに攻撃をしてくるなんて卑怯じゃないか。
――卑怯?
にやり
――奴らはもっと狡猾で卑怯で、人の心を抉ってくる。
攻撃力が強まる。
――大事な人の姿を取って、油断させて甚振って。甚振って。苦しんでのたうち回るのを嘲笑ってわざと急所を外してとどめを刺さないで弄ぶ。そういう輩だ。お前のこれから戦う相手は。
一撃一撃が重い。
耐えられなくなり、剣が弾き飛ばされる。
――拾え。
命じる声。
――奴らは待たない。
さっさと取りに行け。
その言葉にすぐに動いて剣を拾う。
――俺の攻撃は重さを重視するものが多い。だが、それ以外の攻撃をして来る者もいる。
攻撃が再開される。
――機動性のある攻撃もある。攻撃の読めないトリッキーな動きをする者もいる。
吹っ飛ばされる。
――その者達にどう反応すればいいのか。感じろ。
目で見ろ。
音で聞け。
空気の流れを感じろ。
――勘を研ぎ澄まして、先読みをしろ。
そう叫ぶように告げてくるのを必死に付いていく。
はぁはぁはぁ
夢なのに息切れをする。
立っているのがやっとだ。
――これでは何も取り戻せない。
何も。
『兄ちゃん』
『シエル!!』
思い出すのは村のみんなの顔。
そうだ。俺は……。
『負けられない!!』
力一杯振りかざす。
――今日はこれくらいか。
力一杯の攻撃をあっさり避けられる。
――単調な攻撃だ。次回はもっとうまくやれ。
そう告げられると彼は後ろに回って剣の柄で殴ってくる。
ちりんっ
首元で揺れるペンダント。
ああ。俺の持っているお守りだ。
「なあ、あんた……」
何者なんだ?
――そのうち分かるさ。
だが、願わくば。
――分からないで時が過ぎればいいのだけどな。
懇願の響き。
それはまさに祈りのこもった声だった。
本当は夢の中の彼は機動力がすごい存在やトリッキーな動きを再現したかったがそんな器用ではないので無理でした。