潜入捜査
大きな石で作られた壁に囲まれた国。
その関所。
「……兄弟か」
似てないな。
門番の声にトールは困ったように苦笑いをしつつ。
「兄弟と言っても複雑でね」
そこまで説明しないといけないのか。
苦笑いの中に一瞬だけ辛そうに表情を浮かべるのがコツだと事前に説明していてくれたが、実際にそれが出来るかと言われたら難しい。と言うか無理だなと諦めた。
………ちなみにマーカスはそっと一瞬だけ視線を落とす。
『それだけで誤解をされるんだ………』
と首を傾げていたのだが、それは所謂美形だから許されるという行為だろうとの事だった。
そんなこんなで無事に関所を通過できたが、
「変な感じですね……」
トールもマーカスも聖騎士の正装ではなく、どこにでもある旅装束だ。
ちなみに俺の格好は先日仕立ててもらったものであったが、星武器は腰に下げていない。
任務に就く前に渡すのを忘れていたとリジエルから手袋を渡されて、その手袋の甲の部分に大きな宝石がはめ込まれていて、その中に星武器が収まっているのだ。
「我慢しろ」
マーカスが視線をある方向に向けて告げる。
カアカア
建物の屋根には多くのカラスが止まっている。
建物の壁には多くの服がぼろぼろで汚れ、疲れたように下を向いている浮浪者が座っている。
「…………」
戦争によって住んでいた国を滅ぼされた人々が流れ流れてこの国に来ているのだ。
彼らはこの国が人を集めているからと集ってきたのだ。
そう。俺達がこの国に来た理由はその集めている人々の事で気になる事があるから。
「………先任者との連絡は?」
先に潜入して、浮浪者に成りすましていた聖騎士との連絡が取れなくなった。
「今だにない」
「………おそらく、もう」
潜入していた事がばれて捕まったのだろう。
「で、でも……俺からすればなんでこの地を調べるのか分からないんですけど……」
任務も急だった。
変装をしてこの国を調べろと。魔物や魔人がいるとは思えないのだが………。
「この国はノーザンクロスを滅ぼした」
「ノーザンクロス……?」
国の名前を言われても……。
「ノーザンクロス。先代聖女と時の英雄であった王によって建国された聖なる地」
「聖騎士の出身はその国からが多い。………国が滅んでからもな」
えっと、つまり……。
「神殿からすれば、恩が大きすぎる国だったんだ」
そんな国が滅ぼされたのだ。時代の流れだと判断も出来るが、魔人の被害も多くなってきた、英雄も同時期に現れて、魔王が現れる時のみ選ばれるはずの勇者、聖女も現れた。
偶然とか時代の流れでは片付けられない”何か”があると思ってもいいだろう。
「とりあえず、先任者を探す事と同時に魔人の動きが無いか調べるか」
三人だけで行うにはいささか大変だが、頑張ろうとトールが告げる。
「分かった」
「分かりました!!」
マーカスと共に返事をする。
「「………」」
じぃぃぃぃぃぃ
トールとマーカスがじっとこちらを見詰めてくる。
「あっ、あの……?」
なんでそんなに見てくるんですかと戸惑うと。
「つい俺が言っちまったけど……」
ポリポリと頭を掻きながら。
「これ。シエルのする事だろう」
「えッ!?」
そうだったのか。
「お、俺に、これは………」
無理です。
考えてみる。二人にするべき事を指示するのを。
「俺に向いていません!!」
年上の方に指示なんて………。
「まあ、そうだろうけど……」
「慣れろ」
「が、頑張りましゅ……」
あっ、噛んだ。
「うん……」
「はは……」
どう反応すればいいのか戸惑わないでください。いろいろとすみません。
「………そう言えば」
トールが思い出したように。
「兄弟設定にしたけどいいアイディアだったな」
誰も疑わなかったな。
「………………トールが考えたんじゃないのか」
目を開いて尋ねるマーカスに。
「えっと……ノヴァが」
『嘘ついたら絶対ばれるだろうし、兄弟にしておけ。兄弟弟子だから間違ってねえだろう』
「……と」
「「なるほど」」
それを採用させてもらったと告げると納得された。
まあ、自分もこの設定は気に入っている。
「お二人の兄弟だと言われると嬉しいですね」
にこっ
微笑んで告げると。
((勇者様の判断正解だったな))
と二人同時に思ったそうだ。
嘘が付けない主人公




