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実に支配される者

もう手遅れ

「どうぞ。いくらでもお食べください」

 教会で用意された食事。


「…………」

 やはりというべきか。なんと言うか……。


「やはり、この町に来たのですからコカの実の料理を食べてもらおうと思ったので」

 出される食事。一品一品に見慣れない食材が使われていると思ったらコカの実を使用したものだと告げられる。


 …………うん。やっぱり手遅れだな。


(シエルがいなくてよかった)

 シエルなら危険だと知っていても口にしただろう。さて、どうやって切り抜けるか。


「リジィ……」

 食べちゃ駄目だよと目で訴えてくるステラに大丈夫だよと頭を撫でる。


「特産品とは聞いていましたが、どこで育てているんですか?」

 それらしい樹林を見かけなかったのですけど。

 まずは情報集だ。


「領主さまのお屋敷の裏に専用の樹林があるのですよ。そこで専門家と研究してから本格的に育成するとか」

「……なるほど」

 領主のお屋敷か。


「もっと出回ればあちらこちらで食べられるようになりますよ」

 その時が楽しみですねと勧められる。


「あいにくですが……」

 この場合言い訳にさせてもらっているのは。


「僕は決められた食事しかとれない体質なので見慣れない食事を食べる事が出来ないので」

 なので食べれません。

 

 実際に食事アレルギー人もいるし、国の風習で食べてはいけないという食事もあるのだ。だからそれで食べずに済むだろうと思ったのだ。


 だが、

「それはそれは。………勿体ないですよ」

「ッ!?」

 まさかの切り返しだった。


「一度食べてみてください。病みつきになりますよ」

 告げてくる神父の声が不気味に響く。


 常識的に相手が食べられないと告げたものを無理に勧めるものではない。どうしてもの非常事態なら仕方ないかもしれないが……。


 仕方ない。

 それをするのは非常に自分の倫理観とか環境からするとやりたくないのだが、背に腹は代えられない。


 コカの実の盛られた皿を手にして、

 つるっ


 ばりんっ


 手が滑って床に皿ごと落ちてしまう。


「す、すみません!!」

 びくびくっ

 怯えながら割れてしまった皿を手で拾おうと手を伸ばす。


 わざとやったのだが、昔の記憶に引き摺られてびくびくしてしまう。


『なんてことをしたんだいっ!!』 

 お皿洗いの仕事をしていたらお皿を割ってしまって、その罰だと言われて箒で叩かれた。


 女将さんの機嫌が悪い時は縄で縛られて一晩中木に吊るされていた。

 食事を与えられなかったので、ひもじかった。


 師範の元に行くまでそれが当たり前だった。


 だからこそ、そんなトラウマを刺激する事をわざとやるのが怖かった。


「せっかく作ってくれたのに申し訳ありません」

「お気になさらず、代わりの物を今……」

 持ってこようとするのを手で制し、

「食事を無駄にした者に余分に食べさせる余裕などありません。そうでしょう」

 首を振って、席を立つ。


「無駄にした者は口にする必要がない。そう教えられたので」

 と席に立つ。


 今度は止められない。


 ステラもこれ幸いにと後に続いてくる。


 ほっ

 用意された一室に辿り着くとほっと息をつく。


 いや、床に座り込んで身体を丸める。


『ごめんなさい!! ごめんなさい!! 許してっ!! 許してください!!』

『寒い……痛い……寒い……寒いよぉ……』

『……………』 

 どれだけ悲鳴を上げても助けは無かった。


 どれだけ寒くても解放されなかった。


 やがて、声を出す気力も失われて、ただぶら下がるだけだった。


 意識を失った矢先に冷水をぶっかけられて朝だと教えられる。


 汚れた格好で食事を貰えないまま仕事を言い渡される。


 そんな毎日だった。


 何かを壊すという行為はそれだけしてはいけない事だと身体で叩き込まれた。お前は替えが利くがこれらは替えが利かないのだからと。


「リジィ」

 そっと抱きしめられる。


「寒い? 怖い? 辛い? 大丈夫。ステラが守ってあげるよ」

 優しく包むぬくもり。


「………………」

 しばらくそうしていた。


「ありがとう」

 もう震えが止まる。


「さて。調べに行こうか?」

「調べ?」

 きょとん

 首を傾げるステラに。


「うん。コカの実が育てられているという場所を実際に見に行かないとね」

 場合によってはすぐに壊さないといけない。戦闘になるかもしれないが。早く動かないといけない場合もある。


「ステラちゃんの力が必要になる」

 頼める?

 確認するとステラは頷く。


「じゃあ、外に行こうか?」

 ひらりっ

 と窓から外に出た。






この場にいたのがシエルだったら。


(口にしてはいけないのだけど、断るのも悪いよな……)

 ぱくっ


 という感じになっていた。

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