壊れる日(後)
後半。
『シエル。お帰り』
『兄ちゃんおかえり~。お土産は~?』
そんな声が出迎えてくれると思っていた。
そのはずだった。
「こちら、三班。5人確保」
「眠り薬が聞いているとはいえ油断はするな」
ばたばたばた
同じ鎧を着た者達――聖騎士達が村人を縄で縛りつけている。
皆眠っている様だが、それは異常な光景。
「狂暴化した村人発見!! 救援を求む」
「分かったすぐに向かう!!」
狂暴化?
なんでみんなが縛られているのだ。
「くそっ!! 薬を使いたくても距離がありすぎる!!」
「気を付けろ。一歩間違えたら処分する事になる」
「分かってますよ!!」
何人かの聖騎士が取り囲んでいるのは朝絵本を読んでとせがんできた女の子。
ぐるるっ
その女の子の口から長い牙が生え。四つん這いになって、唸り声をあげている。
「ミーシャ!!」
どうしたんだ。何があったんだ。
「坊主。どこから!!」
「さっさと避難させろ!!」
聖騎士の一人が無理やりどこかに連れて行こうとする。
「離してください!! ミーシャがッ!?」
なんで、どうして。
「ミーシャ。ミーシャ!!」
必死に呼び掛けるが、ミーシャは答えない。
聖騎士が俺に意識を向けた一瞬で動いて、聖騎士を襲い掛かる。
「血の味を覚えさせるな!!」
「っんな事言われてもこっちはもう……」
ミーシャの攻撃を必死に盾で防いでいるが力負けしているのだ。聖騎士が幼い女の子に。
「駄目だ。もたない!!」
悲鳴が上がった。
ざわっ
と、同時に風が吹いたと思った。
「――よく耐えた」
最初に声がした。
次に倒れるミーシャの姿が見えた。
最後に黒い外套で身を包んだ小柄な人。
手には身体よりも大きな鎌。
聖騎士の同じ格好ばかり見ていたからか違い過ぎる格好に違和感を感じるほどだった。
「拘束しろ」
「はっ」
縄で縛り上げて、運ばれていくミーシャ。
「エル様」
「――何かあった?」
フードで顔が見えない。
「それが……」
聖騎士が言い淀んでこちらに視線を送る。
「おそらく、この村の住人で何らかの理由で被害を逃れたのだろう」
声変わりをしていない子供の声。
外套で判断しにくいがもしかしたら俺と同じくらいではないだろうか。
「ミーシャを……みんなをどうするんだ!?」
「……………」
「答えろ!!」
聖騎士を振りほどいてその外套の人物を殴ろうとするが。
「事情を聞かないで手を出す短慮な性格では大事な時に判断を間違える結果になる」
やめた方がいいな。
あっさりと逃げられて、膝蹴りを受ける。
「エル様ッ!?」
「軽く蹴っただけだ。早くこいつを」
ばりんっ
連れて行けと言おうとした言葉が途切れる。
窓ガラスが割れる音がして、一人の少女がまるで俺を庇うように立っているのだ。
「う…ううぅ……」
唸り声を上げる。
「おいいいん。いいえうあ!!」
叫ぶと同時に外套を着た人物に攻撃を始める。
その少女は……。
「す…ステラ……」
幼馴染の少女。その姿は変わり果てて化け物じみた動きで外套を着た人物を攻撃する。
「エル様っ!!」
「………大丈夫だ」
激しい動きをしてたからかひらりとフードが落ちる。
鬱陶しかったから切ったと言わんばかリに短く、長さもばらばらでいい加減さが出ている夜とも闇とも思わされる黒髪。
冷たい印象を感じられる銀色というか灰色のような瞳。
成長が遅れていると思われる子供だった。
同じくらいというのは間違っていない。いや、もしかしたら自分よりも年下かもしれない。
そんな子供が自分の身体よりも大きな鎌を動かす。
「駄目だ!!」
このままだとステラが殺される。
そう思ったから蹴られたダメージがあるが立ち上がり間に入って、庇う。
「――そうなると思った」
鎌の柄で叩きのめされる。
「ぐっ……」
「勇気と無謀は違う。それにさっきも告げただろう。冷静に状況を見て動かないと大事な事を間違えると」
叩きのめした俺に向かってる告げる。
「だめだ……」
死神。
そんな印象だった。
すべてを奪っていく死神。
「皆を……ステラを……」
助けないと。俺が。
みんなを守らないと……。
この死神から。
必死に手を伸ばす。足を掴んで逃がさないというかのように強く握る。
「みんなに……手を出すな……」
殺させない。
りぃぃぃぃぃぃん
鎌から不思議な音がする。
「――そういう性格だったな」
呆れたような……どこか泣きそうな声だった。
「………お前の大事な人は帰ってくる」
誰一人喪わないから。
そっと足を掴んでいた手をいとも簡単に離す。
「まっ、待って……」
行かせない。
だって、みんなが連れ去らわれているのだ。
俺が助けないと。
「だから、この村で待っていろ」
それが最後に聞こえて。
――意識を失った。
まだこの段階で触りなんだよね