………いっそ嫌いだと言い切れたら楽だっただろう
ラシャは天邪鬼と言えばいいのだろうか。
『どうして聖騎士に成りたいと思ったんですか?』
細切れにされたと思えた。
初めてリジエルに会った時。
リジエルと対戦した時。
ただ正面で向かい合っただけなのに、その気迫に押された。
絶対的な敗北。
「信念がない」
その言葉に感じたのは屈辱だった。
でも、それと同時に。
その顔を歪めてみたいと思った。
淡々としていて、冷たい印象を受けたそいつの顔が作り物だと感じた。
いや、作り物だと気付かされたのだ。
その日の夜だった。
カーマイン大道芸人一座のテントで師範とリジエルが模擬戦をしていた。
師範は前線を退いて教育の方に回っていたから腕が衰えていると勝手に思い込んでいた。
いくらガキでも英雄だと言われているのだムカつくが強いだろうとは思っていたから師範が負けると思っていた。
その両者の模擬戦は接戦だった。
機動力で相手を翻弄しようとしているリジエルに持っている杖で防衛をしている師範。
ただの防衛ではない。いつでも攻撃に移れたのだろう。それをしなかっただけだと見ていて気付いた。
戦闘を知らない者からすれば目で追えない速度。
自分が強いと勘違いしている者が見たら反撃しない師範の実力に気付かずに終わる。
真の実力者はその先頭に身震いする。そんな戦闘。
どう考えても模擬戦というレベルを軽く凌駕している。
――両者の戦いは自分の遥か上のものであった。
だからこそ憎んだ。
悔しかったのだ。
『くそっ!!』
強いとか技も素晴らしいと言われていたが全然じゃねえか。
あの二人に敵わない。
本気を出してもらえない。
二人は俺を馬鹿にしているのだろう。
ただがこの程度で聖騎士に成りたいとほざいているのだから。
許せない。
許せない。
憎い。
(どうして……)
根本にあるのは認めてほしいという感情。
そうだ。自分は認めてほしい相手だ思ったのだ。
二人とも。
師範に会ったのは偶然。
自分が強いのだと己惚れて、ケンカに明け暮れていたが痛い目に合った時に助けらた。
大道芸人などという見世物屋だと馬鹿にしていたのにそれが仮の姿だったのだ。だからこそ、弟子入りをした。
憧れたのだ。あの誰かを守る姿に。
そして――。
リジエルは外套を外していた。
身軽な格好で動き回っていた。
『いい装備を手に入れたのに使わないのか』
師範の声が届いた。
『………まだ、装備を使い慣れていないので』
それに応えるリジエルの声も届く。
『そうじゃな。あの装備を使用するにはまだお前自身が弱い』
ずっと防御をし続けていた師範が動く。
一瞬だった。
リジエルの腹に杖の先が当てられて、リジエルが地面に叩きつけられる。
『まだ理想ばかり追い掛けるのか?』
冷たい眼光だった。それが自分に向けられていなくてよかったと思えるほど………恐怖で鳥肌が立った。
『誰も死なせない。誰も大きな怪我をさせない。誰も泣かないで犠牲も出さずに魔王を倒す。そんな馬鹿げた考えをしているのか』
聞いていて呆れた。
そんな事出来っこない。
『――追い掛けます』
土で汚れながらも立ち上がる。
『甘い考え。理想通りなんていくわけない。――わかってます!! 分かっていてもそれは譲れない』
汚れた顔を拭う。
『それ以外僕の求める勝利はない!!』
そう言い切る表情はさっきまでの作り物めいたものではなかった。
『――一人でか』
師範の声。
『…………』
返事はなかった。
そんな態度に苛立った。
腹が立った。
馬鹿馬鹿しい理想論。
甘い考えだ。
一人では為せるはずないそんな不可能に近いものをだれにも頼らずにやろうなんて馬鹿な事を考えているのだ。
それが許せなかった。
頼ればいいのに頼らない態度が許せなかった。
そうだ。俺は……。
(頼ってもらえない事がムカついたのだ)
本気を出してもらえなかった事が苛ついた。
ムカついた。
だが、その本音は――。
リジエルの姿もまた憧れになったのだ。
だからこそそれを認めれなくて逃げたのだ。
憎んだのだ。
複雑な想い。




