表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/66

あったかもしれない道

どうして、ラシャを見て反応したか

 再会してすぐに舌打ちされたが、気にならなかった。


 ラシャの態度が悪いとシエルは怒っていたが、客観的に……自分が当事者であるのに他所ごとのように感じたのはその再会を想像していなかったから。


(そうか。この町にいたんだ……)

 ラシャは()()は兄弟子だった。


 聖騎士候補として修業していたが、聖騎士に成るには足りないものがあると師範に言われて試験に受ける事が出来なかった。


『なんでこいつが行けるのに俺を行かせねえんだ!!』

 最後に告げたのはリジエルが試験を受けるのが決まった時だった。


 兄弟子であったラシャは傲慢だった。だが、それは自信の表れであり、強さを誇っていた。

 だからこそ、同じ弟子であったリジエルをよく思っていなかった。


 当然だろう。僕だって僕が嫌いだ。

『お前みたいによく泣く奴がどうして!!』

 修行中よく泣いていた。ぼこぼこにされて、兄弟子には勝てなかった。


 リジエルはもともとストリートチルドレンだった。


 親がおらず、道端でずっと暮らしていた子供。近隣の店に手伝いをして食べる物を得ていたがその暮らしは悲惨なもので、病気になって打ち捨てられていた。そんな姿に同情したのか、利用価値があるからという理由だったからか、師範が拾い看病してくれた。


 そのまま弟子になって、育てられた。

 それは不快だったのだろう。


 どうしてそんなリジエルと自分が同じ事を学ぶのだ。どうして。


 そんなラシャもまた師範に救われて弟子になった。

 聖騎士候補の子供は大概そんなものだ。よほどの目的が無ければ、捨てられた子供を拾って育てるのだ。


 師範と弟子という関係をビジネスライクにするか家族というのを知らないからこそ疑似親子という関係になるかという違いがあるだけ。


 ラシャはそのどちらにもなれなかった。


 甘えるのが苦手だったのだ。親子のような関係になるには素直になれない。かといってビジネスライクになるには不器用だった。


 泣いて甘えていたリジエルはだからこそ不快な存在だったのだろう。


 不満をいつもいつも抱えて荒れていた。そして、それがとうとう爆発したのが聖騎士試験に行かせないという師範の決断だった。


『リジエル。本気で戦ってみろ』

 本気? 何を言っているのだろうか。だって、いつも訓練で負けているのに――。

 当時、師範のいう意味が分からなかった。


『そうだな……。ラシャが実は魔人で本物のラシャはどこかで幽閉されていて、このままでは魔物にされてしまう。と思い込め』

 暗示のような課題。


 それでスイッチが切り替わった。


『はッ!? なんだそりゃ?』

『ラシャもだ。リジエルが偽物で魔人が化けていると思って戦え』

 師範が同じ事をラシャに告げる。意味が分かんねえと文句を言うラシャだったが、いつもでも始めれるように構える。


 だが、遅い。


 ラシャが構えるよりも先に身体が動いた。


 鎌を振りかざして、ラシャの首元に鎌の先を充てる。


『――兄弟子をどこにやった?』

 自分の喉からここまで冷たい声が出せるなんて知らなかった。


 たらぁ


 ラシャの表情が強張っている。


『止めい!!』

 師範の声に我に返った。


『リジエルは気持ちの幅で能力が変化するのをなんとかしないといけない。それにラシャ』

 真っ直ぐ見つめる。


『お前は本質を見る目が弱い』

 それではいざという時に大事なものを見落とす。


『本質だぁ!?』

『ある国では心技体という言葉がある。その三つが揃っていないと真の強さを持っているとも言えないとな』

 お前は心が足りない。


『聖騎士は誰かを守る者であり、助ける者だ。倒すだけでは駄目だ』

 それが理解できなうちには聖騎士にはなれない。


『少しは頭を冷やせ』

『うっせぇぇぇぇ!! 俺の面倒を見切れなくなったと素直に言えばいいだろう!!』

 怒鳴っていたラシャの顔が忘れられない。


 泣くのを堪えるように。信じていたものが壊れる寸前のように。


 ばんっ


「ラ……」

 呼び掛ける声に応えずにラシャは出ていく。


 その後ろ姿がラシャを見た最後。


 その後彼がどうなったかは分からなかった。


『馬鹿者が………』

 師範の悲しげな声も忘れられない。


 僕は気付いていた。

 兄弟子は……ラシャは師範を崇拝していた。その期待に応えようと必死だった。その必死さが努力が強さとして結果としていて出ていた。だからこその自信。傲慢さ。


 もしかしたら褒めてもらいたかったのかもしれない。だが、師範は後から入ってきたリジエルの指導をしていて自主練習で強くなっていく自分を見てくれない。その寂しさがあったからこその不満だったのだ。


 認めてもらいたい人に認めてもらえない気持ちが限界に差し掛かってきた時のトドメだった。


 気付いていたのに言えなかったのは僕の愚かな罪。


 僕はそうやって気付いた事を実行できなくて大事なものをその手から零してしまう。だからこそ、前回いろんな悲しみを止めれなかった。


 そして、最悪な終焉になってしまった――。



 今度は間違えない。



 今回の三件連続の任務。


 一件目は任務自体連絡が無かった。前回は情報が届かず後手に回っていたので知った時にはすでに魔物によって滅ぼされていた。よって、魔物の情報自体無かった。


 二件目は前回自分が最初にした任務だったのですぐに終わらせられた。前回の知識もあり、移動時間も前回よりも掛からなかったので被害を減らす事が出来た。


 そして、この任務。

(確か、この任務は………)

 シエルの最初の任務で、シエルは移動手段が無かったので徒歩で向かったと言っていた。


 もしかしたら、前回もこの町にいたのなら魔物の被害に巻き込まれていたのかもしれない。口が悪くて素行に問題はあるが、ラシャは。


――魔物を倒す事それをやり遂げようとする誇りを持っていたから。


 



前回はただの町の中の犠牲の人数という一行で終わってしまったかもしれない人。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ