知らなかった事実
情報を収集するのに英雄を使わないよね。普通
もぐもぐもぐ
「美味しいね♡」
ステラが頬にイチゴのクリームを付けて歓声を上げる。
「ステラちゃん頬にクリームが付いてるよ」
エルが布巾を取り出してステラの顔を拭く。
「ありがとっ♪」
ぱくぱく
再びケーキを口に頬張る。
「なんだこんなちんくしゃの子供は? いや、なんだ? なんかおかしいな」
じっとステラを見ていたラシャが呆れたようにそれでいてどこか見通すように告げてくる。
「………正解。相変わらず勘が鋭いね」
「はッ。それがなきゃ生きていけなかったからな」
エルの言葉にラシャが鼻で笑う。
「で、コカの実を教えてくれないか」
知っているんだろう。
「いや、コカの実だけではない。カーバンクルの事も含めた町の事を」
部外者だから踏み込めない事もあるだろう。でも、町の住民なら。
「根拠は?」
「ない」
あっさりとした言葉だ。
「魔物が出るのなら情報が多い方がいい。そういう観察眼はラシャは優れていたし、聖騎士候補だからこそ見える物もあるだろう」
だから教えて欲しい。
「聖騎士候補……元だろう」
そこを間違えるな。
「ラシャ。師範は」
「師範の話は聞きたかねえな」
それ以上言うのなら去るぞ。
「……………」
脅しのような言葉にエルが黙る。
「はっ」
愉しげに笑う。
「面白いなリジエル様が俺の言葉に一喜一憂しているなんて」
もっと面白がらせてくださいよ。
馬鹿にしている口調。我慢しているが文句を言いたかった。でも、
がしっ
エルが止めるのだ。手を出すなと。
「で、わざわざ調べるなんてお忙しいですね」
どこか揶揄う様な口調。いや馬鹿にしているんだ。
「そんな事もお仕事なんですねぇ~忙しい事で」
「っ!!」
「……人手が足りないからな。命令系統もしっかりしていないし」
困ったものだと愚痴るように真実を告げる。
「はっ。それで俺みたいな落ちこぼれに聞かないといけないんだ。大変だなぁ。鎌のゆ・う・しゃ・さ・ま」
嘲笑う口調。
「あんた何をっ!!」
いくらなんでもこれ以上黙っていられなかった。知っているのになんでそんな態度なんだと文句を言おうと立ち上がるのをエルが封じる。
「教えて欲しい。それに何とかしてもらいたいから漏らしたんだろう。コカの実だと」
だからこそ詳しい話を聞きたいんだ。
頼み込むエルに。
「鎌の英雄にお願いしますと土下座して靴でも舐めたら教えてやってもいいぜ」
にやぁ
どこか面白がっているように出来ないと思われるような事を言い出す。
「分かった。――今すぐやればいいのか」
すぐに土下座をしようとエルが動き出す。
「エルっ!!」
「おいっ!? 何を考えている!?」
エルがラシャの足元にしゃがみこんで舌を出す。
それに慌てるのはシエルと何故か言い出したラシャ。ちなみにステラは全く気にせずにパクパクとパンケーキを食べている。
「僕に屈辱的な事をさせたいのかもしれないけど。言っとくけど、目的のためにそんな小さな事を気にしてどうするの?」
第一僕にそんなものないしね。
「ちっ!!」
苛立った声で足を上げる。
「もういい。辞めろ」
呆れたように告げる声。
呆れている。いや、何でだろう。
(泣きそうな顔に見える……)
気のせい?
「………………はっ。馬鹿か!!」
絞り出すような悪態。
「英雄様がする事じゃねえだろう!!」
プライドがとかねえのかよ。
どこか縋るような響きだと思えるのは気のせいだろうか。
「………あいにく」
だけど、エルは気付いていない。
「プライドだけあっても大事なものを守れない。それに」
じっと視線を上げる。
「止めてくれただろう」
外套越しで顔が見えないが。どこか嬉しそうだ。
「………はっ。気持ち悪いな」
苛立った声。
「そんな馬鹿な事までして聞かないといけないのか。勇者様は大変だな」
「させたくせに何を……!!」
なんてことを言うんだと文句を言い掛けるのをエルが止める。
なんで止めるんだ。だって、さっきからエルを怒らせるかのような事をしているじゃないか。エルは鎌の英雄として必要だからしているのにこいつは……。
(んっ? 怒らせようとしている……?)
何だろう。何か引っ掛かる。
「気持ち悪いって、ひどいな」
苦笑する声。
「調子狂うな。馬鹿だなほんと」
不快だと舌打ちをする。
「その態度がこっちを馬鹿にしていると思わねえのかよ!! その態度がイラつく」
ばんっ
席を立つ。
「ラシャ!!」
「お前を見ると吐き気がする」
吐き捨てるように告げて、自分の分のお金をきっちり置いて出て行ってしまう。
「待ってください!!」
「シエル。いいんだ」
文句を言おうと引き留めようとしたのをエルが止める。
「なんでだ!?」
なんであそこまでされたのに怒らないんだ。
同門だからか?
だとしても……。
「無視されなかっただけましだから」
寂しげに告げる。
「無視って………」
「そのままの意味。ラシャは僕の……弟弟子だから」
弟弟子……。
「えッ!?」
今何かおかしかった気が……。
「弟!?」
「そう。僕の方が先に弟子入りして、ラシャが弟子入りした時はすでに鎌の星武器に選ばれていたからね」
手袋を見せる。
手袋の中に今は鎌を入れているのだ。
「彼にとっては僕は目の上のたん瘤なんだ。………昔も今も」
外套があるから顔は見えないが辛そうな響きに聞こえた。
「分からない」
「シエル?」
「だって、エルのような兄弟子がいるのなら誇ればいいだろう!! 俺だって、マーカスさんもトールさんもキャルさんも誇っている!!」
素晴らしい先輩たちだ。
「兄弟子……いや、違うんだけど……」
「なのに靴を舐めろとか……話さないとか……」
酷いじゃないか!!
なんでそこまでするんだよっ。
エルが何か小声でつぶやいていたのは聞こえなかった。それほどまで憤慨していたのだ。
「ラシャは……」」
じっと見つめて呟く声がする。
「ラシャは認めてもらいただけなんだ。師範に」
「エル……」
「師範は僕ばかり気にしているように見えるから、それが腹立たしいんだ」
ぼそっ
反感を買っても仕方ないという感じで肩をすくめるが、違和感を覚える。
「師範に助けられたからこそ師範に認めてもらいたい。それが空回っているんだ」
だからこそ、僕が気に入らない。
悟ったように告げるが。
……………そうなんだろうか。
それが間違っている気がするのだ。
「リジィ?」
ステラも何か違うというかのようにパンケーキを食べる手を止めてじっと見る。
「お兄ちゃん」
お兄ちゃんは分かる?
疑問を感じているがもやもやとして表現できない感じでステラが助けを求めるようにこちらを見ている。
「今度はうまくいくと思ったのにな」
自嘲するように告げるので。
「うまくいく……? その方法は?」
いったい何があって揉めているのか知らないけど話せば解決するかもしれない。第一、エルが誤解をしていると思えたのだ。
そうと思ったらいてもたってもいられなくなった。
ぱくぱく
「ごちそうさまでした!!」
運ばれた食事を完食して立ち上がる。
「シエルッ!?」
「ラシャさんのところに行く!!」
決めたらすぐに動く。
「俺がラシャさんと話して知っている事を教えてもらう!!」
後で合流しよう。
叫ぶように告げるとすぐに走り出す。
「店を走らないでください!!」
「すみません!!」
店員さんが叫んでいたので大きな声で謝って店を出る。
町に出て、ラシャさんがどちらに行ったのか分からないがとりあえず探してみようと走り出した。
だって、エルの勘違いしたままでは解決しない。あの人は……ラシャさんはもしかしたら……。
いや、もしかしてじゃない。絶対そうだ!!
だからこそ、言わないといけないと思って走り出したのだ。
ちなみにお金を払うのを忘れていて、あとでエルに払う事になるのだが。
エルの言葉の真相は次に触れます




