壊れる日(前)
微妙だったから分ける。
たったったっ
街にある郵便組合の建物に向かって走っていく。
「おや、シエル?」
「何か買いに来たのかい?」
顔なじみの店の人が気さくに声を掛けてくれる。
「郵便組合に用があるんだ。後で店に寄らせてもらうから」
手紙を預かっているから。
手紙を見えるように掲げると。
「ああ。じゃあ、後で来るのを待っているからね」
「そうするね~」
振り返って告げると。
どんっ
「危ないぞ」
人にぶつかる。
「す、すみません……」
慌てて謝る。
「いや、怪我はないな」
ぶつかったのは錆色の髪の男性。だが、怪我の有無を確認したのは青銅色の髪の男性。
どちらも同じ格好……いや、鎧を身にまとっている。
「悪かったな。前を見ていなくて。ほら、マーカスも謝れ」
「…………すまない」
錆色の髪の男性が青銅色の髪の青年に促されてぼそぼそと謝る。
「い、いえ…こちらもよく見ていなかったので」
慌てて謝ると。
「じゃあ、おあいこだな。お互い気を付けような」
にかっ
そう見ているだけで元気なりそうな笑顔で告げると彼らは去っていく。
「やっぱ、聖騎士さまって素敵だわ~」
「ほんとほんと」
きゃっきゃっ
黄色い声を上げてその二人を目で追っている女性達がいる。
同じように目で追ってしまうとその二人は別の同じような鎧を着た集団に入っていく。
何だろう。見た事ない。
後ろ髪が曳かれつつ、郵便組合に向かう。
「シエル君。いらっしゃい」
「こんにちは」
顔なじみの受付嬢に声を掛ける。
「ここまで来るの大変だったでしょう。聖騎士さまが来ているから」
もう聖騎士を見たくて道に人が溢れているのよ。お陰で閑古鳥が鳴いていてね~。
「その、聖騎士って何ですか?」
そう言えばそんな事を言っていたけど。
「シエル君知らないのね。まあ、この街に聖騎士が来る事自体珍しいからね」
いいわ教えてあげる。
胸を張って、任せなさいとばかりに説明をしてくれる。
曰く。
神に仕える神殿所属の騎士の事を聖騎士と言い。普段は神殿の守護をしているが、魔獣など危険な生物が出現したらその討伐に派遣される騎士。
聖騎士は特殊な訓練を積んだ者のみ成れるものであり、その聖騎士から英雄。または勇者が現れると言われる。
そして、魔王とその部下が目撃されたら英雄、または勇者の指揮の元、討伐に向かう。
「じゃあ、聖騎士ってすごいんですね」
「そうね。でも、魔獣などの報告は聞いていないからもしかしたら英雄の指揮下に入っているのかもしれないわね」
魔獣と呼ばれる存在が現れたら音魔法で緊急連絡がここ一帯に入るようになっている。村も例外ではない。
それが入ったら悠長に買い物などできない。
「英雄って、鎌の英雄ですか?」
噂で聞いた英雄を上げると。
「どうかしら。楽器の英雄も現役だからね」
楽器の英雄というのもいるんだ。
「でも、魔王なんておとぎ話だからきっと聖騎士数人で対応しないといけない大型の魔獣が出たくらいよね」
心配いらないわよ。
そんな話をしていた。
(そうか。聖騎士か)
お土産話に良いな。聖騎士なんて知らなかったし、教えてあげたら喜ぶだろうな。用事も終わったしお土産に何を買おうかな。日持ちするお菓子とかいいかもな。
そんな事を考えつつ、先ほど声を掛けてくれた店のおばさんのところによって子供達にお土産を買って村に戻る事にした。
村の入り口がその聖騎士数人によって封鎖されていなければ順調に入れるはずだった。
近付いた矢先、騎士の一人が通さないように前に立つ。
「あのっ!! 村に入りたいんですけど!!」
入れてください。
嫌な予感がした。
不気味な感じだ。
どうして村に入れないのだ。
どうして道が封鎖されているのか。
『聖騎士数人で対応しないといけない魔獣が』
郵便組合で聞いた話を思い出す。
「坊主。村の子供か?」
「はい!! 中に」
入れてください。
焦って無理に行こうとするが聖騎士はびくともしない。
「坊主。今は入れないんだ」
「ですがっ!!」
村には家が。家族が。
「誰か手が空いている者。この子を街の教会に!!」
「はいっ!!」
駄目だ。
ここで捕まったら。
もう二度と村に入れない。
そう思ったら身体が動いた。
聖騎士を振り切って、逃げる。
「おいっ!!」
呼び止める声がするが止まれない。
確かに道は封鎖されているが、村には他に入れる方法があるのだ。そちらに行けば……。
(父さん。母さん)
みんな。
どうか無事で……。
不安で不安で、その不安を振り切るように道なき道を通って村に入ったのだった。
「何、これ……」
そこには地獄図が広がっていた。
坊主と言われているがそんなに幼くない。