誰かの叫び
ヒロイン
絶望だった。
誰もが死を覚悟してその戦いに挑んだ。
誰もが誰かを救いたくてその戦いから逃げなかった。
勇者が。
聖女が。
英雄が。
他にも多くの者がその戦いに向かい。
誰もが多くの犠牲を出してもこの悲しみが終わったと思ったのだ。
――それは間違いだった。
それこそ奴らの計略だったのだ。
奴らの方が一枚上手で、すべて狙いつくされて絶望を与えられたのだ。
「ごめん……」
彼は謝っていた。
彼の足元には多くの生き残っていたはずの仲間の死骸。
そこには彼の幼馴染も含まれていた。
――彼が殺したのだ。仲間であったはずの彼が。
裏切ったのならまだ心が楽だっただろう。
狂っていたのなら救いがあっただろう。
だが、そうじゃなかった。
彼は自我を持ったまますべての仲間を殺すように操られていたのだ。
魔王の意思のままに――。
「もう…抑えられない……だから……」
俺を殺して。
その腕は殺した仲間の血で汚れていた。その顔は涙と返り血でぐしゃぐしゃだった。かつて希望を持たせてくれた優しい笑みは消えていた。
絶望しきった声だった。
そんな声は彼に相応しくない。
彼は英雄だった。
多くの人に希望を与えて、荒んだ心を癒していくそんな光のようなものだった。
その彼から放たれるのはすべてを破壊する巨大な力。
魔王の力。
「どうしてだよっ!!」
勇者は叫んだ。
「どうしてこうなったんだよ!!」
こんな終わりを誰も望んでいなかった。
終わったと思ったのだ。
魔王も倒した。
これで終わると――。
だが……。
「こんな事ってないだろう……」
涙を流していた。
おかしいな………。いつも泣いているのは私で。三人は私が泣いても気にせずに魔物を倒してきたのに。
どうして。
彼が絶望して。
あの子が死んでいて。
お前が泣いているの。
どうして………。
「どうして、………こうなったの?」
こんなのおかしいでしょう。
誰よりも優しくて強くてみんなに信頼されていたのに。どうして………。
「なんでここまで踏み潰されないといけないの……」
もう幸せになっていいはずでしょう。みんなの悲しい事が終わったのはずなのに。
まだ。終わらない。
終わっていないのだ。
魔王の遊戯のままに――。
「……………」
終わらせないといけないのだ……。
「分かった……」
「おいっ!! リジィ!!」
止めようとする勇者の手を振り払う。
「私が終わらせるよ」
それが私の出来る事だから。
そう。
魔王を滅ぼす。
もう、誰も死なせない。
殺させない。
「気を付けてくれ……殺し方を間違えたら俺の二の舞になるから……」
彼が告げる。
「分かってる」
用意するのは特殊な油。
神の炎を灯せるとある植物からしか取れない油。
とぽとぽとぽ
油を彼に掛ける。
――ヤメロ!! ヤメルンダっ!!
彼の内側を巣食っていた魔王の意思はそれに気づいて逃げ出そうとするが彼が抑え込む。
次に用意するのは死んだ仲間たちの武器。
ぐしゃっ
ぶさっ
だっ
次々に突き刺していく。
彼が苦痛で顔を歪める。
抵抗しようとする存在の意思を抑え込んでされるがままになる。
そして――。
「燃えろ!! その魂すら残さず!!」
地獄の業火よ!!
炎が彼を包む。
神の炎。
地獄にて罪人を焼き尽くすと言われる断罪の炎。
「あり…がと……」
彼の声がした。
どうしてこうなったんだろう。
どうして……。
「大好きだよ。ずっと……」
愛してる。
「……リジィに俺の故郷を見せてあげたかったな……」
「うん……私も見たいよ……」
炎のぱちぱちという音に交じって聞こえる優しい声。
苦しいはずなのにもう解放されるからか穏やかだ。
「幸せになれ」
聞こえた声。
「無理だよ……」
私の好きな人は大事な人はみんな死んでしまった。
死んでしまうのだ。私が守れなくて。
「リジィ……」
後顧の憂いなく逝かせてあげないといけないのにそれは出来ない。
「私の心を一緒に持っていくくせに」
死出の旅に。
「そうだな……」
ああ。そうだ。
「やり直せたら……すべて無かったら良かったのにな」
「うん……」
「魔物も魔王もいない世界で出会っていれば……良かったのに」
そうだったら……。
「手放さなかったのに……」
戻れたら……。
それが最後の言葉だった。
「……………」
涙は流れなかった。
流せなかった。
泣いても何も変わらない。
「………よくやったな」
あいつが肩に手を置いて告げるが。本当はそんな事言いたくなかっただろう。
「一人でさせて……」
謝ろうと思ったようだが途中で止める。
謝って楽になるのは自分の心で何の足しにもならないのを知っていたから。
何も残らなかった。残さなかった炎が消えるのをただじっと見ていた。
そして――。
きらっ
「…………残らないはずなのに」
何かが残っているのに気づいて手を伸ばす。
「な、何で……」
それは紅い色ガラスでできたペンダントトップ。
『これ。給料で買ったんだ。あげる!!』
『綺麗だな。だけど高かっただろう。無駄遣いは』
『私の貰ったお金で買ってんだから文句言わないでよ。だって、似合うと思ったんだし』
『………ずるいぞ』
俺だって何か買いたいのに。そう不貞腐れた彼に珍しい顔をしているなと思った記憶がある。そう、これは私があげたものだ。
それが半分だけ残されていた。
「…………返して」
戻れたらいいのに。
こんな結末が起こらない世界に。
「戻してよっ!!」
こんな間違った世界を!!
泣く事を忘れてただ叫び声をあげる。
そして――。
「あれ……?」
急に目の前の光景が変わった。
ばしゃっ
「何をぐずぐずしているんだうすのろ!!」
掃除で使って汚れたバケツの水を頭から掛けられる。
よく知っている。
孤児で食べるために働いて、そこでよく嫌がらせをされていた。
(さっきまでのは夢……?)
あんな悲しいのは。
ちりんっ
ふと手の中を見た。
そこにはあの色ガラスのペンダントとトップの半分。
「夢じゃない……」
ならば、すべて変えて見せる。
あんな絶望を防いでみせる。
「何ぐずぐずして……」
使えないのに使ってやっているのだからありがたく思えとストレス発散に甚振っていた女将は箒を手にして殴ろうと思う構えたが。
そこにはすでに彼女の姿はなかった。
メインキャラ三人目