闇を消し去るために集う星
星の武器は何個あるんでしょうね……。
気が緩んだ隙こそ狙い目であり、希望が見えた瞬間にそれを壊す時ほど人は絶望する。
そう告げて、すべてを絶望に追いやった。
多くの犠牲を出した。
生き残っている数よりも喪われた数の方が圧倒的に多かった。
その多くの犠牲を出して手に入れた勝利だと思ったのだ。誰もが。
魔人は狡猾で巧妙で不愉快な存在だ。
だからこそ警戒していた。
僕は臆病で気弱で誰よりも英雄という言葉が合わない存在だからこそ慎重に慎重に動いた。
石橋を叩いて、叩いて、そこまで慎重にならなくてもいいと言われてももしもの時があったら大変だからと備えていた。
そこまで警戒していたのに。
まさか、二重に罠を仕掛けていたとは思わなかった。
「くそっ!!」
舌打ち。
そんなはずじゃなかった。
こんな事になるとは思わなかった。
「えっと……大丈夫か?」
僕に襲い掛かってきた魔物の攻撃を彼が防いでいる。
りぃぃぃぃいん
その手にはさっきまでなかったはずの武器を手にして、余裕などないのにこちらを気にして。
(馬鹿なのか……)
どうして。
どうして大人しく村にいなかったのか。
その手にある剣が普通の武器で無いのをよく知っていた。
星を宿す。魔物を倒す武器――星武器。
英雄しか持てない武器。
「――平気だ」
答えると同時に鎌を振りかざす。
一閃。
力がない代わりに速さに特化している技で攻撃をして滅ぼす。
はぁはぁはぁ
流石に息が切れる。
魔物を三体も倒したら当然か。
しかも最後の魔物は言葉を紡げた。進化する寸前だった。
(まだ弱い……)
鎌を持つ手に視線をやる。
記憶にある全盛期よりも小さな手。
あの頃よりも手の皮が厚くなって、武器を持つ者として鍛えられてはいるが、成長期というものがその最後の一歩を遅らせている。
「すごいな!! 攻撃を抑えるのが精いっぱいだったのに一撃で倒せるなんて」
目をキラキラと輝かせてくる。
「………攻撃を抑えてくれたから倒せた」
声が強張る。
どくんどくんどくん
緊張で喉が渇く。
「そうなのかっ!!」
ああ。変わっていない。
涙が出そうになるのを堪えて、外套を深く被る。
「って、そうじゃなかった!!」
思い出したように声を張り上げて。
「ステラはっ!! 村のみんなはッ!?」
あんたが連れて行ったんだよな。無事なのかッ!?
怒りとか必死さを宿して問い掛けてくる。
「あ……」
ああ。変わっていない。
いつだって、誰かのために……。
自分を大事にしないで誰かの事しか考えていない。
「――無事だ。一応」
声が硬くなる。
「そうなのか………よかった!!」
それを聞いてほっと安堵したように顔を歪める。
「…………村人が気になってここまで来たのか?」
村で待っていろと告げたのに。
「ああ。だって」
真っ直ぐに向けられる翡翠のような目。
「一人で待つわけにはいかないだろう」
そうやって、運命に挑むのか。
「………僕の言葉を信じていいのか」
嘘を言っていると思わないのか。
本当に無事だと言い切れるのか。
「………………」
流石に黙り込んでしまった。
「信じる!!」
真っ直ぐな眼差しを向けてくる。
「信じなきゃ進めないからな」
なんだそれは。そう突っ込んでもおかしくなかった。
でも。
(お前らしいな)
悲しいくらい真っ直ぐだ。
………………その真っ直ぐさでたくさん傷ついて、苦しんでそれでも進んでいった。
「で、英雄になったのか」
愚かだな。
いや、愚かなのは僕か。
星が英雄を逃がすわけないか。
(じゃなかったらステラちゃんに聖武器を託せるように変則的な事を行わないだろう)
僕が鎌を手にしたと同時に聖女の力が鎌に入り込んでくるなんてありえない事が起きたしな。
僕を通して武器たちもその最悪な結末を知ったのだから警戒もするだろうし。
「えッ? そうだっ!! あの時何か武器が欲しいと思ったら急に!!」
今更気づいたとばかりに言い出すさまを見てどういえばいいのか分からなくなる。
「エルだっけ? 俺は」
「シェルだ。で、俺はノヴァだ」
話に割り込んでくるのは綺麗な顔立ちの少年。
「知っているはずだよな。リジエル」
ぼそっ
僕にしか聞こえないように小声で告げる。
それを聞いて信じられないと目を見開く。
外套があってよかった。
………………無かったら動揺を隠せなかった。
(もしかしたらとは思ったけど……)
やっぱり。
記憶持ちか。
後で話をしないといけないと思ったが、今が無理だと判断して。そっと視線を向ける。
それで伝わると信じて――。
村人の事で怒っていたが、助けられたし、無事だと知ったら怒りを忘れる男シエル。




