当たり前の日
メインが二人しか出ていませんが、もう二人加わります。というかもう一人主人公がいると思ってください。
「昔々。この世界にすべての災厄である魔王がいました」
一人の少年が絵本を多くの子供たちに読み聞かせている。
ここはとある山奥にある小さな村。
山羊と羊を育て、生計を立てているそんな貧しい村であったが、村にある教会が子供達の教育のためにと本を貸し出してくれているのでそれを皆で大事に読んでいるのだ。
「魔王とその部下は人間の中に魔物の種を植え付けて人間を魔物に変えてしまいます。人間はその種に操られて、家族であっても友人であっても殺し合うようになってしまいました」
内容が怖かったのか少年の傍に居た村で一番小さな女の子が少年にくっついて震えている。
そっと少年はその女の子の頭を撫でる。大丈夫だよと教えるように。
「人々は魔物になってしまった友人を助けてほしいと神様に祈りました。すると神様は聖なる光を二つ。星々の光をいくつか地上に落とされました」
絵本には太陽を思わせる光が二つと流れ星が落ちてくる絵が描かれている。
「聖なる光は勇者と聖女という神の御使いのための武器になり、星は英雄と呼ばれる存在の武器に宿りました」
ぱらりっ
絵本を捲る。
剣、槍、弓、楽器、扇、鎌。他にもいろんな武器をもっと戦士たちが魔物を倒している絵。
「魔王と魔物を封じて、世界は平和になりましたが、いつか再び魔王が復活する恐れがあるので聖なる武器は大神殿で眠りにつき、星の武器は時の中で英雄と呼ばれるに相応しい人に受け継がれて続いています。めでたしめでたし」
ぱちぱちぱち
拍手が起きる。
「お兄ちゃん。勇者様ってすごいね~!!」
興奮したように声を上げる少女に。
「そんなのいるわけね~だろっ!!」
と子供だましだと言い出す男の子。
「え~。でも~。ピーター小父さんが街に下りた時に鎌の英雄が選ばれたという話を聞いたと教えてくれたよ~」
別の子供が思い出したように子供だましだと告げた子に向かって告げると。
「英雄はいるけど、勇者なんていねえよ」
子供だましの物語だけなんだぜと言い切る子供に少年は苦笑する。
「そうだね。魔王がいたら困るよな。でも、いないのはきっと勇者様たちが封じてくれたからかもしれないな」
喧嘩になりそうだなと間に入って告げると。
「……お兄ちゃんも魔王は怖いの?」
不安げに尋ねる女の子に。
「そうだね。怖いな」
復活したら大変だ。
「大丈夫だよ!! 復活してもおいらが兄ちゃんも村のみんなも守ってやるからな!!」
勇ましい事を告げて胸を叩く子供に。
「頼もしいな」
その時は頼むな。
少年は告げる。
「じゃあ、聖女様はあたしがなる~!!」
話を聞いていた女の子一人が手を挙げる。
「聖女様……。う~ん。ステラ姉ちゃんがぴったりだと思うから無理だと思うよ~」
別の女の子が口を開く。
「あっ、そうだよね……」
「ステラ姉ちゃんは教会のお手伝いをしているし、綺麗だし、料理もお裁縫も得意だし」
「姉ちゃん以外考えられないよね……」
みんなの中では幼馴染のステラが聖女になるのは決定事項のようだな。
(まあ、ステラなら納得か)
それにしても聖女と勇者か………。
あこがれる人が多いけど不思議と憧れないなと思っていると。
「シエル~!!」
と少年――シエルを呼ぶ声が届く。
「ごめんね。呼ばれたから」
「「「ええぇぇぇぇぇ!!」」」
不満げに声を上げる子供たちにごめんねと告げて、呼ばれた方に向かっていく。
ちゃりんっ
走る際に首に下げているお守りが揺れる。
赤い不思議な長方形の色ガラス。そこには大きく鳥の絵が書かれている。だが、半分に割れているように絵が不自然に切れている。
いつから持っていたか覚えていないが、物心つく頃にはすでに握っていた。父さんや母さんもこの色ガラスが何なのか分からないと言っていたが俺が大事にしているからと紐を通して肌身離さずに持っていられるようにしてくれたのだ。
それを揺らしながらその声の主のもとに辿り着く。
「ヨハン小父さん。どうしたの?」
「いやな。街に手紙を出しに行こうと思ったんだけどな。腰を痛めちまって行けそうにないから頼めないかと思ってな」
痛た。
腰を摩りながらヨハン小父さんが頼んでくる。
「いいですよ」
街までなら今日中に行って帰ってこれる。
「頼むな。これ郵便代。おつりは貰っていいぞ!!」
郵便代よりも多いお金と手紙を受け取る。
受け取るとすぐに街に下りる準備をする。
「お兄ちゃん。街に行くの?」
二つの三つ編みに縛っている少女が声を掛ける。
「ステラ」
「気を付けてね。神父様が雲行きが怪しいと言っているから」
私には分からないけど。
ステラは空を見上げる。
それにつられるように同じく空を見る。
雲行きが怪しいと言われたが、空は晴天。雲一つない。
確かに意味は分からないが。
「神父様が言うのなら間違いないだろうな。あっ、借りていた絵本」
返さないといけないと思ったが子供たちのところに置きっぱなしだと思い出す。
「いいよ。今日一日くらい。明日返してくれれば」
「じゃあ、そうするな」
行ってきます。
手を振って街に下りたのは午前中。
――その時は知らなかった。
当たり前のように来ると思っていた明日が、来ない日があるという事を………。
ステラはヒロインじゃないです。