ラッセルのホワイトデー
ラッセルのバレンタイン
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の続きのようなものです。
先日の「恋人たちの日」にシャーロットからお菓子を貰った。貰ったからには「お返しの日」にお礼をするのが作法だ。
シャーロットに最高の逸品を、と意気込んで贈り物カタログを取り寄せてみたが、選ぶのが難しい。
「シャーロットは何でもそれなりに喜ぶんじゃない」
カタログに埋もれ唸る俺に、姉が何の助言にもならない一言をくれた。
「何でも喜ぶからこそ、心から大喜びされたい。変な気遣い無しに感謝されたい」
「なら、何が欲しいか聞いてみるのが一番じゃない? 好みに合わせるのって意外と難しいのよ」
ふむ。なるほど?
「シャーロット。『恋人たちの日』のお菓子のお返し、何がいい?」
「え? いいよ、お返しなんて」
「そうはいかない。俺はお前の『恋人』の分を貰ったんだからな。お前が食べたい菓子なら、何でも用意してやれるぞ。ケーキでも、チョコレートでも、クッキーでも、キャンディでも」
「ラッセルがくれるものなら、何だっていいよ。でも、できれば」
頬を染め、上目遣いで俺を見るシャーロット。かすかに潤んだ瞳が躊躇うように一瞬揺れた。
「お菓子より甘い、物じゃないモノが欲しいな……」
「シャーロット!」
すっと彼女が目を閉じた。抱き寄せて、優しく唇を重ねる。
ゴン。
シャーロットの唇を深くむさぼろうとしていた俺の額に、突然衝撃があった。
床にティッシュ箱が転がっていた。こんな軽い箱が「ゴン」て、一体どんな投げ方したんだ?
投げた本人――姉貴は、すました顔で茶を飲んでいた。
「とりあえずそれで鼻拭きなさい。妄想するのは勝手だけど、ダダ漏れ状態は勘弁して」
鼻を拭ってみると血がついていた。妄想ですら俺に鼻血を出させるシャーロットは、やはり魔性の女である。
さて、そんなことがあった翌日。俺は妄想ではない本物のシャーロットに、お返しについて訊いてみた。
「シャーロット、『恋人たちの日』のお菓子のお返し、何がいい?」
「お返し?」
「ああ。貰った男が、今度は女性にお菓子やプレゼントを贈るんだ」
「へえー。でも私、いらないよ? お返しなんて……お返しが欲しくてケーキを作ったわけじゃないし」
「そうはいかない」
シャーロットが「うーん」と眉を下げ、たっぷり時間をかけて悩んだ末に答える。
「じゃあ、ケーキワンホール」
「お前、それまた家族の分も入ってるだろう」
「だって、みんなで食べた方が美味しいじゃない。あ、でもラッセルに私の家族の分まで用意させるなんて変だよね……ごめん」
「そのくらい、俺に用意できないと思っているのか?」
「え、でも悪いよ。いいよ」
「悪いと思うなら当日、俺の家へ来い」
「うん? 分かった。でもなんで?」
それはもちろん、シャーロットとラブラブいちゃいちゃ過ごすため――などと、言えるわけがない。
「いいから来い。絶・対・に! だぞ! 分かったな」
「おい聞いたか。ラッセルがシャーロットをおうちデートに誘ったぞ!」
「いよいよくっつくかな?」
「いや、シャーロットはもう何度もラッセルの家に行ってる。今さら変わらんだろ」
「そーそー。ストレートに告白できるラッセルなら、あそこまでシャーロットにスルーされてないって」
「どうせ今回も、ラッセルが鼻血噴いてシャーロットドン引きだろ。賭けてもいい」
「なら俺は『興奮するラッセルがお姉さんにド突かれる』に一票」
「『ラッセルにしては思い切ったこと言ったけど、シャーロットはスルー』に弁当賭ける」
後日、全員の予想が当たったことを聞いた彼らは、「この場合あの賭けはどうなるんだ?」と揃って首を傾げたという。




