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赤ずきんパロ

 シャーロットには、森に一人で暮らして修行をしているお兄さんがいます。そのお兄さんが風邪をひいたため、シャーロットは特製のおかゆを持ってお見舞いに行くことにしました。お気に入りの赤い頭巾をかぶって出かけます。


 森の中を一人で歩く赤い頭巾の少女を、獲物を探していた狼のラッセルが見つけました。

「あんな真っ赤な頭巾をかぶって――見つけてくれと言っているようなものだな」

 獰猛な気持ちで近づくラッセルでしたが、角度が変わり少女の顔が見えた途端、息をのみました。

「か、可愛い……」

 そのままポケーッと、ラッセルは少女を見つめていました。けれど突然、

「近づきたい……あの愛らしい瞳に俺を映してほしい――!」

 うわごとのように呟くと、彼はフラフラと少女の方へと向かって行きました。


「お、おい! そこの、赤い頭巾が素晴らしく似合いすぎて罪作りな女!!」

 珍妙な呼びかけにシャーロットが思わず振り向くと、真っ赤な顔の狼がこちらを睨んでいました。

 シャーロットは、誰が呼ばれたのだろうと辺りをキョロキョロ。

(赤い頭巾、は私だけど。…………罪作り?)

 何度周りを見ても、シャーロット以外に人はいません。シャーロットが自分を指差して首を傾げると、狼は首が外れそうになるくらい激しく頷きました。

「お、お前、ど、どこへ行く気だ?」

「兄さんが風邪をひいたから、お見舞いに行くの」

「ふ、ふん。見舞いか」

 声まで愛らしい。そう思いながら、シャーロットの姿を上から下までチェックするラッセル。そこでふと思いつきます。

「……花。見舞いのくせに、花も持っていかないのか?」

「あ!」

 言われてみればそうだと、シャーロットは思いました。

「あっちの方に、綺麗な花が咲いているのを見た。摘んでいけばいい。お、お前には、野の花がお似合いだからな!!」

「? うん、ありがとう……?」


 素直に示された方へ向かうシャーロット。その後を、ラッセルもこっそり尾けます。

 小さな野の花に囲まれ、楽しそうにそれを摘むシャーロット。ラッセルはその姿を木の陰から、瞬きもせず血走った目で見つめていました。

「か、可愛い……お花の妖精さんだ……! 妖精さんがいる!」

 目を見開いたまま寝言を言っていたラッセルは、ハッと何かに気づきました。

「く……っ、名残惜しいが、そろそろ先回りしないと」

 断腸の思いで赤ずきんから離れます。向かった先は、森の中の少し開けた場所に立つ小屋。それが、シャーロットの兄の家です。

(あの子は兄の見舞いのために来る。だがその兄を食ってしまえば――代わりに俺がそこにいれば、あの子は俺に会うために来てくれる、ってことになるよな)

 都合のいい理屈を頭の中で作り上げると、ラッセルはその家の扉を開きました。

「……誰だ? ――あ、狼だ」

 シャーロットのお兄さんは、ベッドの上でゆっくりと起き上がりました。ラッセルの姿を見ても、少しも怖がる様子はありません。


「お前! 赤ずきんが恐ろしく似合い似合いすぎて他の女性に頭巾をかぶることを許さないカリスマ性を有し太陽のように輝く瞳と温かな微笑みが全世界の男を虜にしその上狼の俺まで骨抜きにした挙句目が離せなくなって今も離れていることが落ち着かない誰か別の男に口説かれているのではないかと心配だがちゃんとここまで辿り着けるのだろうか早く来てくれと思ってしまうほどの魅力を備えたとんでもなく可愛らしい人類最高の女の子の、兄だな!」


 狼は一気に叫びました。それも、鼻血を流しながら。

「俺はこれから、お前を食う。そして、赤ずきんの可愛らしいあの子と、ラヴラヴいちゃいちゃ幸せ新婚生活を送るのだ!!」


 ラッセルの宣言に、お兄さんはあくびをしながら言いました。

「それは無理だよー。君が僕を食べてしまったら、シャーロットは一生君を許さないだろうね~。ラヴラヴいちゃいちゃ、なんてきっと出来ないねえ」

 ラッセルは、ハッとしました。

(そうか……お兄さんは、あの子にとって大切な存在……。優しいあの子は、お兄さんが傷つくときっと悲しむ。それにしても、あの子の名前はシャーロットというのか。何と愛らしい響きだ! まさにあの子にふさわしい……っ! ああ、シャーロット!! シャーロット!!)

「――その顔を見れば君が何を考えているかは分かるんだけど。その妄想、もとい理想を実現するためには、君は僕を味方にしておくべきではないかな」

「ふむ。そうだな」

「なら、何か言うべきことがあるんじゃない?」

 ラッセルは床に正座しました。手をついて、深々と頭を下げます。

「今からここに来る赤い頭巾の可愛らしくて素敵で花の妖精さんみたいな可愛らしい女の子を、俺の妻にください」

『可愛らしい』と二度言いましたね。ラッセルにとっては大事なのでしょう。

「そうだなあ。シャーロットの気持ち次第だね」


 床についたままのラッセルの頭を、お兄さんが清々しい笑顔で踏みつけている最中に、シャーロットが到着しました。

「兄さん、お邪魔しま……って、え?」

 シャーロットの声に反応し、ラッセルはぴょんと跳ね起きました。両目にしっかりと赤ずきんの姿を捕えると、ラッセルの顔はみるみる赤くなっていきます。

「あら、さっきの狼さん?」

「俺、君に、二人きりで話したいことが!」

「話?」

 首を傾げたシャーロットの顔は、ラッセルとは対照的にみるみる真っ青になっていきます。おそるおそる、

「……私を食べるの?」

「食べない!!」

 怯えるシャーロットの問いに、ラッセルは即答します。

「そんなこと言って、油断したところをパクっと」

「しない! 大体、食うつもりならとっくに襲っている!」

 なおも疑うシャーロットに、ラッセルは必死で否定しました。その言葉に、シャーロットも納得し、ほんの少し心を許したようで、

「じゃあ、帰り道、送ってくれる?」

 ラッセルは、目を輝かせながら何度も首を縦に振りました。


 そんな二人のやり取りを、お兄さんはシャーロットお手製のおかゆを啜りながら、生温かい目で見ていました。

 と、何かに反応したラッセルがお兄さんの方を向きます。

「……それ、何を食っている」

「おかゆだよ。シャーロットの手作りの」

 ね、とお兄さんがシャーロットに言うと、彼女は恥ずかしそうに頷きました。途端に、ラッセルは目をカッと見開き、ぶるぶると体を震わせ始めました。

「しゃ、シャーロット、俺――!」

「はいはい。その話は帰り道にしてね~」

 狼と赤ずきんは、仲良くお兄さんの家から追い出されたのでした。



 後日、この森では、

「デート♪ デート♪ シャーロットとデート♪ シャーロットの手作りお弁当持ってデート♪」

と口ずさみながらスキップする、気色悪い狼の目撃談が相次いだそうです。

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