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ラッセルの作文

「『――君がいるだけで、僕は世界一幸せでいられる。君の笑顔は僕の頑なな部分まで溶かしてしまう。春が訪れたように暖かくなる。君と出会って初めて僕は、「しあわせ」の本当の意味を知った。だから君にも知ってほしい、僕と共にある「しあわせ」を。君がくれる幸せを、今度は僕が君にあげたい。』……以上です」


 ラッセルは手の中の原稿用紙を丁寧にたたみ、真剣な顔のまま着席する。

 教室内は、困惑の空気に包まれていた。沈黙、小さなざわめき、呆れ顔といった反応をそれぞれが示すなか、教師が重い口を開いた。


「えー……ラッセル君。私は『動物園を見学した感想を書いて発表してほしい』と言ったはずだが……?」

「今、しましたよ」

 当然のようにそう答えるラッセルに、教師の方はさらに戸惑いを深めた。

「え、いや。動物について一言も触れていなかったように思うが?」

「そんなものは目に入りませんでした。動物よりも珍しいものがずっと俺の隣にあったというのに……先生は目を離せとおっしゃるのですか!?」

 顔を真っ赤にしたラッセルが、ちらりと隣のシャーロットに視線をやる。彼女は自分のことを言われていると気づいていないようで、頭に大きな疑問符を浮かべていた。

「えーっと、そんなにずっと見ている必要もなかったでしょう? 少しは動物も見ないと勉強にならないよ」

 呆れたような教師の言葉に、ラッセルは机にバンッと両手をついて立ち上がる。そして、演説でもするかのように力を込めて語った。


「俺はちゃんと勉強していました! 俺にとって何より大事なことを! それは今発表したでしょう。それに先生、ちょっと目を離した隙に子供がいなくなるなんてよくある話です。まして俺の隣にいたのは……クソッ! 何度考えても結論は同じだ。一瞬でも隣を見ないなんて不用心なこと、俺には出来ませんでした!!」


 その時、教室中が悟った。「コイツ、何言っても無駄だ」と。

「……分かった。もういいよ……」




「書き直しました」

 先日、周囲を唖然とさせる作文を読み上げたラッセル。教師も呆れて、最後には何も言えず提出を認めたのだが、本人には何か思う所があったらしい。書き直したという作文を、真剣な顔で差し出してきた。

「どれどれ」




 君が立ち止まってくれるなら、僕はクマになりたい。

 君が見つめてくれるなら、僕はキリンになりたい。

 君が微笑みかけてくれるなら、僕はゾウになりたい。

 君が喜んでくれるなら、僕はサルになりたい。

 君が抱きしめてくれるなら、僕はウサギになりたい。


 君の関心を引けるなら、僕はどんな動物にだってなる。どんな芸だってしてみせる。

 君が好きだと言ってくれるなら、僕は人間を止めたっていい。




「なんだこりゃ」

 教師は思わず正直な感想を漏らした。書いた本人が目の前に居ることも忘れて。

「分かりませんか」

 ラッセルは真剣な表情を崩さない。冗談ではないようだ。

「……分かった。ホント、もういいよ……」

 教師は悟った。この少年には二度と、作文の宿題は出すまい、と。

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