第二話
新情報、新情報ですよ!
私、どうやら貴族の6男のようです。
「アルはこの本が好きねぇ」
「坊ちゃま、他にも此方はどうですか?」
母様に抱きかかえられて、只今本を読んでおります。甘やかされております。
かぁちゃん胸デカいね!(爆)
今、俺が読んでいる本は、文字や言い回しの教材として一般的な騎士の立身物語である。
これが結構面白い。ストーリーも面白いが、主人公がドン・キホーテみたいなやつで愛嬌がある。特に中盤の、盗賊のアジトに突入する際に、仕掛けられた罠を男解除する辺り。
作者は分かっているね。
・・・あとそこの専属メイド。自分の趣味を進めるな。
それ、貴族の当主とメイドの恋愛もので、しかも最後バットエンドだろう。
ただ、貴族的な物語はいくつか見て勉強している。
つい先日、母様に直接父親の事を尋ねたんだ。
そしたら、
「あなたのお父様は〇〇なの。貴族の中でも偉いのよ~」
という答えを頂いた。
貴族なのはわかったが、爵位はよう分からん。調べてどの位置にいるか確認しないとなぁ。
しっかし辺りは領地なんだろうが、建物がデカいだけで周りに建物は見えない。背の高い林もあるので、その先もよく見えない。金は持ってそうだけどなぁ、そっちもおいおい調べていくか。
貴族として礼儀作法は大事らしいが、何やらそこまで重要視はされていないらしい。
話の流れで6番目の男子だということは判ったので、あんま気にされてないんだろう、と納得しておく。
それでもマナーって大事ジャン?
前世は名刺の受け渡しから取り扱い方まで、よう覚えたなぁ・・・
身に付けばそんな難しいものではないけど、信頼は細部に宿るっていうしね。
ふと顔を上げると、専属メイドのカリナがティーポットにお湯を注いでいるところだった。
「坊ちゃまも飲まれますか?」
紅茶だろう、頷いて答えると、カリナはにっこりと笑って追加のカップを手に取る。
カリナ。
たぶん名前だろう。家名は聞いてない。
前に母様の姉の娘だというのは聞いているので、俺とは従妹の間柄になるのか。
年齢はコーカソイド系の成長速度を加味しても18はいってないと思う。所作からしてまだ幼さが残るしな。
縁故採用で貴族のメイドになるってぇのも大変だろうに、臆して無いのは凄い。が、カリナの一番気になるところは・・・
カップに紅茶を注ぐカリナを見る。
姿勢に優雅さはあんまりない。背筋も伸びていないし、お湯を注ぐことに意識が行き過ぎて全体の姿勢が崩れている。見た目だけ見れば、見習い侍女、ってとこなんだろうが。
俺は前世でもいろいろ自分で経験して、見て、教えてきた経験からして、
彼女、かなり強い。
まず、上半身のブレが無い。体感の筋肉が発達している証拠だ。
下半身もしっかりしているから、動作のおつりをもらうこともない。
何気ない仕草をして二の足を踏んだ時、今もお茶を運ぶとき、咄嗟に呼ばれて振り向くとき。
意識の薄くなる際にも、足音が殆どしない。
体感バランスが極めて優れている証拠だ。
足を踏み下ろすとき、適切な重心移動ができていれば足音は限りなく小さい。理屈ではわからんでもないけど、それができる人間なんて早々居ない、・・・ハズなんだが。
体軸のブレも、少ない武術家なら割と居るが、全く無いのは常在戦場なんて思想を持ってる裏家の類だ。
前世の世界ではほとんど絶滅危惧種の、何でもありの掛け試合を好むイカレた連中。
そんな連中とカリナを頭の中で比較してみる。まぁ纏ってる空気が全然違うのでわかり切ったことなんだけど。
それが彼女のにじみ出る強者感とのミスマッチを生んでいるんだよな。
カリナの生まれ故郷が暗殺者の里とか?
いや、母様はそこまで動作に違和感が無いのよ。まぁ女性にしては鍛えられてるなぁ、という感じなんだけど。
マジで暗殺者の里微レ存?
カリナから紅茶を受け取る母様は、やっぱり普通に見えた。
果物を剥いているカリナから視線を母様に合わせる。
首をかしげて視線を合わせてくる母様がなんとも可愛らしい。
母様の名はクリスティーというらしい。
カリナからはクリス様と呼ばれている。そこは奥様では?あぁ、でも奥様いっぱい居るか。
フルネームで『クリスティー・ハワード・アスター』
ここで俺のフルネームもわかったよ。
俺は今世で『アルバート・ハワード・アスター』という。中々かっこいい名前だな。
ハワードが家名で、アスターが納めている地域、アスター地方の事を指すらしい。アスター州とも言う。
すっごいデカいらしい。なんでこんなバカみたいな感想になっているかと言うと、いろいろ話してもらった語彙の半分以上が判らなかったの。バカでごめんなさい。まだまだ要勉強やな。
と言ってもこの身体、信じられないくらいにハイスペックで、一回聞いたり見たりしたら覚えちゃうんです。
なのになんで騎士物語を繰り返し読むのかって?面白いからいいんだよ、あれは。
カリナが剥いた果物を俺に渡してくれる。
この濃い甘さがいいね!子供の舌には最高だよ。
見た目はやや紫に近い赤と過激な彩色をしてるけど、味はメロンのような甘さの柿っぽい感じ。止まらなくなるよ。
カリナがニコニコ笑いながら「坊ちゃま、クナの果実大好きですねぇ」と言うので、名前を学びつつ頷く。
ほら、はよ次寄越せ。
「あ、ただ坊ちゃま、他のメイド、特にシャーリーン辺りがねだってもあげないで下さいね?」
「?・・・ん」
カリナが少し呆れたように俺に言った。俺も取り合えず頷いとく。
シャーリーンは確か俺の年齢に近い見習い侍女で、俺や母様が餌付けしとる子やね。
あのお菓子をもらった時の娘感が半端ない癒しオーラを放つので、俺と母様がほだされた形になってるのかもしれんが。
そろそろ太るかもな。確かに抑えとこう、此れカロリー髙そうだし。
「ニンゲンには取りすぎると毒ですので」
・・・
「ファ!?」
ファ!?