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日々一献  作者: カモメ
1/1

酒に纏わる人間模様

酒と一言に言うは容易いが、酒と一括りにするには

あまりにも、多種多様な種類と銘柄がある。

例えば、日本酒を一つ取り上げても上撰、佳撰、特撰にわかれる。

以前は特級、一級、二級、と、わかれていたが

いつの間にかアルコールの度数により呼び名を変えて今に至る。


実は酒税法の改正に伴い、一級と二級は中身が同じである事が殆どで、只…税率の違いで値段が異なるだけのことだった。

財務省は落ち込む日本酒からの税収増を目論んだのか?

上撰と佳撰の間に明らかなアルコール度数の違いをつけて、せめて消費量の増加が望めないならば…

税収減を抑える苦肉の索を取ったのであろう。


そんな財務省の陰謀と戦いつつも、組し抱かれる酒屋の番頭を僕はしていた。

量販店の台頭、コンビニの普及により主力である家庭への配達は日に日に減っていった。

それは、それは、目を覆わんばかりの惨状だった。

それに追い打ちをかけるような家呑みの普及。

望みをかけるとするならば、角打ち!

これは、名目上は酒の量り売り!

検定コップ(200mlと100mlがある)に並々と焼酎や日本酒を注ぎ表面張力を出さなければいけない。

こぼしてもダメ

表面張力を出さなくてもダメ結構難しいのだ。

そんな角打ちには様々な人間模様がある。


ここは一つ様々な人々と僕の関わりを少しお話ししたい。


角打ちに訪れる人々は朝早くから訪れる。

角打ちには手作りのツマミは出せない様になっている。

あくまでも、アルコールの量り売りはなので酒税法や保健所の縛りがキツく缶詰めやあたりめ等のかわきものがメインだ。

だけど、それではお客さんは満足しないし

訪れる客の殆どがグイッと引っ掛けるただアルコールの摂取を目的とする半分アル中ばかりになってしまう。

何がしかの会話が欲しいものなのだ。

だから、おでんや何がしかのツマミをだす為に市場に行く。

軽トラのエンジンをかけている時間にもまだ開きもしてないシャッターの前に人が立つ。

その人は三宅のおじいちゃん

毎朝一番に裏の病院に通う前に一杯引っ掛けようというのだ。

何も病院の受診前に五尺(100ml)の甲類焼酎を呑まなくても。とは、思うのだが?

帰りにも五尺の焼酎を呑むのだから。

ツマミは決まって角天。(さつま揚げの味がないヤツ福岡ではこんなものを天ぷらというのだ。)

ぼくが市場から帰ってくるとチビリチビリと五尺の焼酎の舐める様に呑む。


要は僕に家まで送って欲しくて時間調整している。


本当は営業ナンバーでない車で業務上の送迎は行えない。

そこは少しお上には目を瞑って貰って三宅のおじいちゃんを送ってあげる。


そんな三宅のおじいちゃんにも、誰にも死は訪れる。

ある年の正月、三宅のおじいちゃんは、餅を喉に詰まらせ呆気なくしんでしまった。


もう、おじいちゃんを軽トラに乗せて帰る事も無くなった。

それでも、おじいちゃんの家への配達は終わらない。

おじいちゃんの仏壇にお供えする焼酎の一升瓶を持って行く。

毎朝コップに一杯の焼酎を仏壇にお供えする。

毎日一合のお供えだから、10日に一本のペースで配達していた。


それが?いつの頃からか?

10日のペースが9日になり8日になり終いには3日と空けずに配達する様になった。


おばあちゃんは、お酒を呑まないと聞いていたのだが?

おばあちゃんも、おじいちゃんが、亡くなって寂しくて、おじいちゃんの仏壇の前で一杯ひっかけて仏壇のおじいちゃんに話し掛けているんだろうと


タカをくくっていた。


すると、或る日いつものように、一升瓶を持っていった。


「お兄ちゃん…不思議な事って本当にあるもんやねぇ?」

僕は少し興味を覚えおばあちゃんの話に耳を傾けた。

「あのねぇ?お兄ちゃん…毎日おじいちゃんの仏壇に焼酎を一合お供えするんだけど、その焼酎がいつの間にか空になってしまうんだよ。

本当に不思議な事ってあるんだねぇ?」

そんな…馬鹿な?

オカルトじゃあるまいし、もしも有ったとしても物理的な変化は考えられない。

「おばあちゃん?蒸発したんじゃない?」

「いいや!蒸発したんじゃない!

毎日おじいちゃんの仏壇に焼酎を一合お供えするんだから!」

そうだよね…だから3日と空けずに配達しているんだけど。

しかし…何か一つシックリこない。

「おばあちゃん?こぼしたの忘れてない?」

「あのねぇ…私は、まだ耄碌してない!」

と、強い口調でたしなめられた。


僕は少し、納得はいかなかったが?

それ以上否定も続けても、おばあちゃんも機嫌を損ねるだけなので…仕方なく店へかえった。


それでも3日と空けずに配達は続く。

もう、別に不思議でも何でもない。

只の日常の一部になっていた。


もう…3日と空けずに配達する事が日常となってから暫く経った頃

「お兄ちゃん。ヤッパリお兄ちゃんが言う通り…

この世に不思議な事って無いんだね。」

最初は何について話しているのかは解らなかった。

「ほら…おじいちゃんの仏壇に焼酎を一合お供えするけど、いつの間にか空になってしまうって話したじゃない?」

ああ…その話か…

僕は軽く頷き相槌をうった。

「あれねぇ…この間の日曜日、朝一番におじいちゃんの仏壇に焼酎を一合お供えしたのね。」

ふんふん…それは聞いてる。

「そしたらね、朝の内に焼酎が空になっていたの

だから、また焼酎を一合お供えし直したのよ。

そしたらね、今度はお昼に又、焼酎が空になっていたの。

じいちゃん。今日はよく呑むわねぇ?

あちらの世界で何か良い事でもあったのかしら?って

また焼酎を一合お供えしたの。」

ふうん…あちらは酒が旨くて姉ちゃんが綺麗だから

皆んな此方の世界には帰って来ないときいてるけど

一体どんな楽しい事があったんだろうか?


おばあちゃんは言う。

「夕方に気になって仏間に行ったのね。

そしたら、仏壇の前に孫が顔を真っ赤なしてぶっ倒れていたの。」

僕は笑いながら

「おばあちゃんの孫って、一緒には住んでないし、しかも、まだ小学生一年生だよね。」

すると、おばあちゃん…


「一体、誰の血を引いたんだか?

1キロ以上も離れた所から毎日コッソリ焼酎を呑みに足を運ぶなんて…将来が思いやられるわ。」


いやいや…おばあちゃん…問題はソコじゃ無いでしょ?

先が思いやられる以前に

小学一年生がお酒を呑むって事が問題だよ。

急性アルコール中毒ても起こしたら大変な事になるから。


全くもって人騒がせな小学生が居たもんだ。


酒屋には色んな人模様がある。

それに、纏わる物語もある。


人の世には酒というものとの縁は中々切れる事は無い。

お酒は色んな人間模様を醸し出す。


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