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みっつめの偶然◆みっつめの後

 そのまま体育座りした膝に顔を隠した。稲葉主任が隣に座る気配がして、頭をぽんぽんと手で叩かれた。

「急に現れて妙なこと言い出したからどうしたのかと思ったけど、事情はなんとなく分かった。あいつは人のものが欲しくなるんだ。ちょっと病的に」

 Takaさんが?

「サイトはずっと前に閉めさせたんだけど、まだどっかに残ってたんだな」

「はい。昔あったページを保存してるところがあるんです」

「なんでTakaが俺だと思ったの?」

「稲葉主任のお家に同じ絵があったから」

「……やっぱり迷惑かけちゃったな」

「あの絵を描いたのは?」

「俺」

 おそるおそる顔を上げて、横に座る主任の顔を見た。主任が真っ直ぐ私を見返した。

「主任?」

「俺」

 頭の中でまた洗濯物のように色々な考えぐるぐる回る。

「じゃあ、メールの返事も」

「いや、それはあいつ」

 ぐるぐる。

「あいつは俺の絵でサイトを作って、メールくれる人に返事出してたの」

 私は悲鳴のような声を上げた。

「なんで?」

「あいつは人のものが欲しくなるんだ」

 主任は溜息をついて目を水面に向けた。

「同じ色は再現できないし、絵はやっぱり直接見ないと駄目だと思うから、俺はインターネットで絵を公開するつもりなかったんだ。でもあいつがそれじゃもったいないってサイトを作ったとこまではまあ許したんだけど、Takaを名乗ってメールの返事まで出すようになって、やめさせたの」

「彼女、なんですか?」

「昔付き合ってた。この間、久しぶりに連絡があって絵を見せろって言われたから断ったんだけど、断って正解だったな。たぶん昨日会いに来たのは優子ちゃんと昼飯食ったって聞いてまた俺が惜しくなったから」

「まだ主任のこと好きなんじゃないですか?」

「あいつもう結婚してるよ。友達の婚約者取って。それで別れたの」

 なんか無理の多い人生だと思った。それで幸せなんだろうか。あの饒舌だったメールも、彼女が書いていたと知った今では痛々しい。他人の描いた絵にもらった感想にどういう気持ちで長々と返事を書いていたんだろう。


 主任と私は水面を見つめたまま、しばらく沈黙を共有した。その沈黙を主任が破った。

「なんで優子ちゃんはここに来たの?」

「最初にTakaさんの絵を見た時、この池の色だと思ったんです。ほら、あの辺のグラデーションが似てません?」

 私はそう言って水面を指したが、主任は私が指した先ではなく、私を見た。

「あいつがそう言ってた?」

「いえ、私の思い込みです」

 主任が真っ赤になって口元を覆い、目をそらして言った。

「同じ色は再現できないだろ、モニターじゃ」

「そうかもしれません。でもなんで主任はここに来たんですか?」


 主任は返事をしなかった。私と主任は黙って見つめあった。


 偶然見つけた絵を追いかけて、描いたのが自分の上司だと知って、その絵に描かれた場所でこうして会って。――みっつめの偶然は運命だと、誰かが言わなかっただろうか。


 そしてたぶん。ここから、何かが始まる。


end.

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