表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

みっつめの偶然◆みっつめ

 翌日は土曜日だった。寝坊してもいい貴重な日なのに明け方目が覚めてしまった。

 そうだ。あの池に行こう。失恋といえば定番は海だけど海まではここから遠いし、なによりもあの池の色から始まった恋だから、あの池に捨てに行こう。


 学生の頃と同じ道を同じ自転車で走り、途中の自販機でお茶を買って池に着いた。一部はコンクリートで護岸工事がしてあるが、奥の方は自然のままだから早朝から釣り人達が糸を垂れていた。私は道端に自転車を止め、コンクリートの護岸を途中まで降りて、座りやすい場所に体育座りをしてお茶を開けた。


 ごめんね、Takaさん。きっとTakaさんは稲葉主任の恋人なんだよね。だから主任の家に絵があったんだよね。私が変なメール送ったからびっくりしてわざわざ会社まで来たんでしょう? あの出来事はそういうことなんだよね?

 はははっ、と力のない笑い声が漏れた。なんだか泣きたいのにおかしくてたまらなかった。Takaさん、私のメールまだ読んでくれるかなぁ。今の気持ち、汚いところをアライグマみたいに洗って綺麗になったら、メールで送ってもいいかなぁ。


 ――それとも全部全部ぜーんぶ私の思い込みで、Takaさんと主任とあの女の人は全く関係なくて、Takaさんは私からきた変なメールの意味がわからなくて困惑してて、稲葉主任は私と同じようにあの絵を偶然みつけて模写しただけで、あの女の人はたまたま稲葉主任に用があって来ただけとか?

  どこまでが現実で、どこからが私の想像なのか分からない。起こったと思っていた出来事ぜんぶ私の思い込みかもしれない。


「優子ちゃん?」

 心臓が止まるかと思った。すぐ後ろに稲葉主任がいた。

「稲葉主任っ、何やってるんですかこんなとこで?」

「優子ちゃんこそ何やってるの、こんな朝早く」

「アライグマになろうと」

「アライグマが出るの、ここ?」

「えっ、知りませんよ」

 私が慌てているせいか、話がうまくかみ合わない。

「優子ちゃんに訊きたいことがあるんだけど」

「はいっ」

「なんであいつが優子ちゃんと昼飯食べたこと知ってるの? 何か迷惑かけられてない?」

 この時までまだ私は少しの希望を残していたらしい。昼ごはんのことを知っているなら、彼女がTakaさんだ。確定。なんでこんなにがっかりするんだろう。答えは私が稲葉主任を好きになったから。

「迷惑なんて、そんな全然。――私、Takaさんとメールで文通してたんです」

 稲葉主任が顔色を変えた。

「前に画像検索で見つけて、アーカイブサイトで元のページ開いてそこに書いてあったメルアドにメール送ったんです。それで、ずっと稲葉主任のつもりでメールで感想を送ってたんです。それでTakaさんは稲葉主任なんですかってメール送ってしまって」

 言いながら何故か涙が出てきた。

「ごめんなさい。割り込んだりするつもりじゃなかったんです。迷惑かけてたらごめんなさい。ただTakaさんの絵が大好きなだけだったんです」

 そしてTakaさんだと思い込んで稲葉主任を好きになっただけなんです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
web拍手 by FC2
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ