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日向薫の選択肢

作者: 雨雲

文章力が拙いかと思いますが、もしよかったら読んでいただけると幸いです。

day1 私、未来からきた木下明里なの・・・


――ピピピピッ、ピピピピッ

毎朝聞き慣れた、目覚まし時計の音がする。

目覚まし時計の音と共に元気一杯な蝉の鳴き声なども聞こえてくる。

重たいまぶたを開き目の前にある目覚まし時計に視線を飛ばすと、時刻はデジタルの表記で7:00を示していた。カーテン越しに差し込む日光で今日も、真夏日だということが予想できた。

「ウーン。そろそろ、起きないと・・・」

頭では分かっていても、まだ眠気が残っていてついつい二度寝の体勢に入ってしまう。

「カオルー、朝よ。いい加減起きなさい」

下から聞き慣れた母の声が聞こえ、日向薫ひなた かおるは、体を起こしハンガーに掛けてあった制服に着替え、1階のリビングへと向かった。


―――――――――――――

「おはよう。母さん、父さん」

「おはよう、カオル」

「おう、おはよう。」


リビングに入り、朝食の目玉焼きを作っている母さんとコーヒーを飲みながら新聞を読んでいる父さんに挨拶をした。僕は父さんの向かい側の椅子に座り、こんがりと焼けたトーストにジャムを塗って食べた。

朝食を食べ、支度をしているうちに時計の針は時刻7:30分を表していて、僕は急いで鞄を持ち彼女の待つ通学路へと向かった。

「いってきます」


―――家を出て、しばらく歩くといつも通り見慣れた明里の姿がカーブミラーの下に見えた。

晴天の空にに白くて巨大な入道雲が浮かんでいて、その下で、明里は建物の日陰に立っていた。


明里もこっちに気づいたらしく、ニコっと微笑みこっちを見て白くて細い手を振っている。

夏の暑さの影響だろうか、明里の髪はロングからミディアムぐらいに短くなっていた。


「おはよう、明里。もしかして髪少し切った?」


「おはよう、薫くん。そうなんだ、ついこの前美容院で

切ってきたの。に、似合うかな?」


明里は、どうかな?と後ろで腕を組みながら僕に顔を近づけてくる。照りつける太陽のせいか、明里の頬は少しだけ赤く染まって見えた。


「うん。涼しそうでいいね。似合ってるよ」


「ほんと?あ、ありがとう」


明里は、うれしそうにニヤニヤしながら手をぱたぱたさせていた。


「そういえば、幼稚園の頃は赤路の髪はもっと短かったよね」


僕と明里が、初めて出会ったのは、幼稚園の頃だ。家が近く、同年代の少なかった町内だったので、僕と明里は必然的に仲良くなった。

初対面の時の明里は、母親にぴったりとくっついている、人見知りの女の子。と言った印象だった。しかし、仲良くなり明里も僕になれてくると、そこそこ活発な女の子になっていた。


「薫くん、よく覚えてるね。あの頃は楽しかったなぁー。私たち、汚れることなんて気にせず泥団子を投げあっこしてたこともあったよね。そのあとお母さん達にすごく叱られちゃって・・」


明里は、思い出し笑いをしたのか、お腹を抱えてケタケタ笑っている。


「そんなこともあったな。他にも二人の間だけで先生に付けたあだ名なんかもあったよな。なんだっけ」


「あ、確か何かアダ名つけた先生いたよね。変な名前の先生。」


必死に思い出そうとしているけど思い出せない。明里も心当たりがあるようだが、思い出せないような様子だ。名前を聞いたら億も出せるのに・・・。


思い出せそうになかったので俺は、話題を変えた。


「そういえば、明里。今日転校生が来るって知ってるか?」


「うん、知ってるよ。たしか、薫くんのクラスに転校してくるんだよね」


そうだったのか、転校生が来ることは知っていたが自分のクラスに来るとは知らなかった。


「あと、私のクラスにも1人来るの、留学生が」


「え、そうなの?それは全く知らなかった」


転校生と留学生の2人が同時に来るのか。

珍しいこともあるものだ。

「・・・2人とも可愛い女の子らしいよ」

チラっと横目で明里は、何かを試すような口ぶりで言った。それにしても詳しく知ってるんだな。


「そうなんだ、2人とも噂通り可愛いといいね」

明里が可愛いというのだから、おそらく可愛いのだろう。

「・・・そーですね」

目が据わり、むすっとした表情で、明里はすねた子供みたいに顔だけを逸らし、口をとがらせた。しかし、すねた表情が可愛く、僕は思わずクスッと笑ってしまう。

僕は、話題を変えて明里の機嫌を直そうと努力してみる。このとき横断歩道の信号が赤になり、二人の足が止まった。


「そういえば、後1ヶ月で夏休みに入るよな・・・」

「―――――」

一瞬会話が止まり、周囲には必死に泣き叫ぶ蝉の残響音、アスファルトを走る車の音、そして、街を歩く周囲の人々の足音しか聞こえない。

目の前の高く並ぶビルの隙間からは、青々とした空が広がっていた。


「薫くんは夏休みとかは予定とかあったりする?」

明里の表情は、いつも通りに戻っていた。どうやらあまり根には持たれていなかったらしい。


「ん?夏休みは今の所大きな予定とかは無いけど・・・。明里はどこか行く予定はあるのか?」


明里は毎年の夏に家族旅行などに行ったりしている。明里の父親は旅行好きらしく、偶に明里は僕にお土産を持ってきてくれたりする。今年はどこに行くんだろうな。


「ううん、今年は残念だけど家族旅行行かないの」


「え、そうなのか。残念だな・・・」


「まぁ、そんなことより、薫くんは夏休みの予定はないってことでいいんだね」


「ああ」


気のせいか、明里の呼吸がやや荒い、何か緊張してるのだろうか。気温が高いせいなのか頬が朝の時よりも赤く見えた。気づけば僕の心臓もドクドクと頭の中に響くほど脈打っていることに気づいた。


「も、もし良かったらなんだけど。」


「わ、私と来月のはな―――――」


「あっかりー!」


遠くから、活気のある女子の声が飛んできた。この暑さだというのに、蝉の大合唱を吹き飛ばすほどの有り余るエネルギーを感じる。


向こう側を見ると、明里の親友である夏端蜜柑なつはた みかんが満面の笑みで手をぶんぶん振っていた。

手を振る度に彼女の象徴とも言えるポニーテールが共に左右に揺れている。


「あ、蜜柑だ。そ、それじゃあわたし、先に行くね」


「うん、それじゃあまた。放課後に」


信号は青になり、明里は夏端の元へ走って行った。

背中を見送っていくと、なにやら夏端に怒り顔の明里が見える。その表情に対し、夏端は手を口に当ててニヤニヤ笑っていた。


「・・・いったいなんだったんだ」


はーっと、大きく息をつきその場でしゃがみ込んでしまう。心臓の音がうるさく、未だにバクバクと音を立てている。明里は一体、僕に何を聞こうとしていたんだろう。興奮した感情を落ち着かせつつ、僕は高校へと向かっていった。


キーンコーンカーンコーン


朝の予鈴のチャイムが校内に鳴り響く。僕は、朝礼ギリギリのタイミングで教室に入り、後ろ側にある机へと腰掛けた。


廊下を歩いている途中、学校内は今日来る転校生と留学生の話題で持ちきりだった。

この前までは、留学生の話なんて誰もしていなかったのに。噂とは早いものだ。


そんなことを考えていると、担任の先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まった。


「知っている者もいるとはと思うが、このクラスに新しい仲間が増える。不安なこともあると思うので仲良くしてやってほしい」


そう言って、はいりなさい。と先生は扉を開け転校生を招き入れる。


先生の後ろについてきた子は、明里から聞いたとおり女の子だった。長い黒髪を後ろでポニーテールでまとめている。色白で顔立ちは整っており、まるで作り物みたいだ。

女子にしては背が高く、スカートからは細く艶がある綺麗な足がすらっと伸びている。


要するに彼女は超が付くほどの美人だった。


彼女は、チョークを手に取り黒板に自分の名前を書いた。書き終えるとくるっと振り返った。


「初めまして、橘夏希たちばな なつきです。お父さんの仕事の都合で転校してきました。短い間ですが皆さんよろしくお願いします」


そう言って彼女は、ニコッと微笑み、綺麗にお辞儀をした。クラス中の男子も女子も予想以上のハイスペックな彼女にざわつきが止まらない。騒ぎ出したところを、先生が「静かにっ!」と諫める。


先生は、ゴホンッと1度咳払いをしてから彼女の紹介の続きを言い始めた。


彼女は、先ほど言ったとおり父親の都合で引っ越してきた。しかし、この学校にいるのも夏の間だけらしく、その後はまた、父親の都合で転校してしまう。

と言うことらしい。本当に短い間なんだな・・・。


たった3ヶ月ほど、いや夏休みなんかも含めたらもっと少ないかもしれない。


「橘の席はあそこだ。分からないことがあったら隣の人に聞きなさい」

そう言って、先生は教室を出て行った。彼女は、スタスタと鞄をぶら下げ自分の席へと向かい、そして僕の前で立ち止まった。


「こんにちわ、色々と聞くかもしれないけど、よろしくね」


周りにギリギリ聞こえないほどの小声で挨拶をして彼女は、僕の隣に座った。


彼女の席は、なんと僕の隣の席になった。


「日向薫です。よろしく、橘さん」

「畏まらなくていいよ。気軽に夏希って呼んで、薫君」

橘さんは、微笑みつつそう言って隣に座った。


その後の橘さんは、もう大人気だった。授業が終わったとたん彼女の周りには人だかりができ、質問攻めに遭っていた。

「橘さんはここに来る前にはどこにいたの?」

「部活とかはしてた?」

「ねー橘さん、今度遊ぼうよ!」


橘さんはどんな質問にも紳士に答えていた。だけど、質問の答えは最終的にどの内容もうまいこと、のらりくらりとかわしていた。


「好きな人は?」

とある一人の女子生徒が質問をした。

この質問の時だけ、一瞬別人のような顔をしているように見えた。

この表情に気づいていたのは僕だけだったかもしれない。

この表情を見た後からの彼女の微笑みはどこか、全く別の世界を見ているようで、酷く大人びて見えた。僕は、そんな彼女に少しだけ興味を持った。


そして、本日最後の授業。筆箱に1枚の折曲がった小さな紙が入っていることに気づいた。紙には、綺麗な文字でこう書かれていた。


『日向薫君へ、今日の放課後屋上に来てください。木下明里さんについて大事な話があります。絶対に来てください  橘 夏希』


僕は、紙を手に持ちながら隣にいる彼女を見た。

橘さんは、こっちの様子には気づいているようではあったが、小声で何を言っても「屋上で話します」の一点張りだった。


授業が終わると、橘さんはぱっぱと帰る支度をして教室を出て行った。

周りには橘さんと一緒に帰ろうとしていた女子生徒がいたが、彼女のあまりの帰る早さに誰もついて行けず、あきらめて帰ってしまった。


僕は、周りに怪しまれないため橘さんが出てから10分ほど経ってから教室を出た。


屋上に向かう前に、僕は明里に1通のLIMEのメッセージを送っておいた。


『ごめん、委員会があること忘れてたからさきにかえってて。』と言った内容だ。


数分後に、返事が来て

『うん、分かったよ。委員会頑張ってね。じゃあ、今日は蜜柑達と帰ることにするね。』と言った内容だった。


スマホをポケットに入れ、僕は橘さんが待っているであろう屋上へと向かった。


屋上の扉を開けると、空はもう既に真っ赤に染まり、屋上から見える街の景色は夕日であかね色に染まっていた。そこで橘さんは、なにやらスマホをいじっていた。彼女はこちらに気づくと、スマホをスカートのポケットにしまった。

「お、来たね。待ってたよ薫君」

「ほんと、ずっと待ってたんだから・・・」



彼女は、得意げに鼻を鳴らしながら僕に歩み寄ってくる。ひとまず、僕も彼女に聞きたいことがある。

何故彼女は、明里を知っているんだ。知り合いだったとしたら明里は朝に何か言っているはずだ。


「大丈夫、君の思っている疑問はちゃんと答えるからね!この夏希お姉さんに任せて!」


「いや、同い年じゃん。僕たち・・・」


しかし彼女は、まるで僕の考えていることを分かっていて、その疑問に全て答えてくれるような、妙な期待感があった。

表情が教室にいた時と全然違う。

今の話し方が素なのだろうか。でも、話を聞くところから始めないと何も始まらない。


「まぁわかったよ。橘さんの話を聞くよ。」


「夏希でいいって言ったのにな・・・。」

彼女は、変なところでむくれた表情を見せた。なぜか、今朝の明里の表情とダブって見えた。


「まぁ、いっか。いい?落ち着いて聞いてね。」


彼女は、スタスタと僕の目の前へと急接近し、耳元に唇を近づけた。

いきなりの美少女の急接近に反射的にドキドキしてしまう・・・。

そして彼女は小声で囁いた。

「私、”未来から来た木下明里”なの・・・」


え?今彼女はなんて言った?

彼女が未来の明里だって?


「橘さん、僕をからかってる?」


「からかってなんか無いよ、全部本当のことだよ」

刹那、彼女は喰い気味で僕の主張を否定した。


彼女は、少なくとも他人をからかうような人ではない。それは何故か確信できた。

でも、さすがにこんな非科学的なことを言われて信じろと言われる方が無理な話だ。


そう考えていると彼女はすがるように1つの単語を口からこぼした

「”ぬらりひょん”」

「は?」

「そうだ!薫君。覚えてる?今日の朝私と話したじゃない。幼稚園の頃に2人だけの間であだ名を付けたっていう先生の話。その先生のあだ名が”ぬらりひょん”」


僕は、それを聞いて思い出した。

そうだ、確かに明里と2人である先生にあだ名を付けた。”ぬらりひょん”その先生は頭がつるっぱげのおじちゃんの先生だった。


工作なんかをしているときも、気づけば後ろにいたりしたので、僕と明里は妖怪図鑑からその特徴を取った”ぬらりひょん”と言うあだ名を付けたんだった・・・。


彼女の言葉に信憑性が浮上してくる。本当に彼女はあの木下明里なのか・・・。

彼女は追い打ちを掛けるように言葉をつなげる。


「薫君、覚えてる?私たち、汚れることなんて気にせず泥団子を投げあっこしてたこともあったよね。そのあとお母さん達にすごく叱られちゃって・・」


―――ッ!

この内容は、朝に僕が明里と話していた内容とほぼ同じじゃないか。文字通り、開いた口が塞がらず、僕は池にいる鯉みたいに口をぱくぱくしていた。


「ほ、本当に、明里なのか」


「うん、混乱させちゃってごめんね。信じられないかもしれないけども、目の前にいる私は薫君の幼なじみの”木下明里”だよ。」


彼女はおそらく本物の明里だ。それも未来からやってきた明里だ。それなら、妙に大人っぽかった表情にも説明が付く。にわかには信じられないが彼女は時を超えて僕に会いに来たのだ。


「でも、未来の明里にしては、顔に面影がないね」


「ああ、それはこの体が私自身ではないからだよ」


彼女の話によると、タイムトラベルの方法は言えないが、過去に飛ぶことによるいくつかのルールがあるらしい。

彼女が教えてくれたルールは3つ


1 過去にいる自分自身に干渉してはならない


2 過去にいることができる猶予は夏の終わりまで


3 過去にいる間は未来の情報を漏洩してはいけない


そしてこの3つが彼女に課せられたルールだった。

未来の明里が容姿を変えているのも、そもそも同じ時代に2人の同一人物が存在することができないからであり、万が一、木下明里と接触したとしても影響を与えないためのセーフティーの役割を果たしているらしい。そういうことなので、今こうして話していることを明里に話すこと自体もNGになるので、話さないようにと何度も釘を刺された。


「で、未来の明里は一体何の話があって来たんだ?」

「薫君、ややこしくなるから、夏希って呼んで。というか、さっきも橘さんって呼んでたよね?」

「あ、ごっ、ごめん」


口角の部分は笑顔をキープしつつも、目が完全に笑っていなかった。この先成長すると明里はこんな表情をするようになるのか・・・。

人は、逆に過度の恐怖に直面すると帰って冷静になることを、僕はこの時初めて知った。これからはちゃんと夏希と呼ぼう。


「なんなら、精神年齢的には、年上だから夏希お姉さんでもいいんだよ!」

小悪魔みたいに微笑んで、お姉さん呼びを提案してくる夏希。もちろん答えは。


「それは遠慮しとく。夏希にしとく。」


「もぉー素直じゃないなぁー」

ただでさえ、ややこしいのにお姉さん呼びなどまっぴらごめんだ。成長すると明里は少しはっちゃけたような性格になるのだろうか。

さっきから、お姉さんであることを主張してくる。


「まぁ、冗談はさておき。私は、薫君にまず、一つ問います。薫君は、明里のことが好きだよね?もちろん、異性として・・・」


「―――ッ!い、いきなり何言うんだよ!」

いきなりの問い掛けに思わずにむせてしまう。

た、確かに僕は明里のことは親しい人物であると思っている。何しろ、幼稚園からの付き合いだ。何も思わない方がおかしい。でも・・・。


「あ、明里は単に仲のいい友だちってやつで」


「そんなに顔を真っ赤にして何言ってるの・・・」

夏希は顔に手を当て軽くため息をついた


「自分に嘘をつくの?」


夏希は、凜とした涼しげな目で僕の目を真っ直ぐと見ていった。彼女の一言は重みがあり、僕の心のどこかが震えているように感じた。気づけば、僕の顔は汗だくで心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。


「ちなみにこの頃の私はもう既に薫君のことが好きだったよ。もちろん異性としてね」


さらなる夏希の不意打ちに僕の顔は更に赤くなる。

血が沸騰しているかのように熱い。

え、明里も僕のことが好きだったの?!


「そんなに顔を真っ赤にして何が友だちなの?」


夏希は、ビシッと僕に指を指し断言した。


「その思い込みで薫君は失敗したんだよ。この夏、薫君が自分の気持ちに気づかないままだと、絶対に後悔することになる。この時代にいる明里もね。」


「い、一体明里に何が起こるっていうんだよ。教えてくれよ、夏希」


自分の心境に矛盾を感じつつも僕は明里がどうなってしまうのかが気になった。


「・・・それは言えない。言いたくない」


「・・・そうか」


夏希は、言いたくないと言った。言えないのではなく言いたくないとはっきりと拒絶したのだ。よほどのことなのだろう。


「ともかく、薫君はもう既に木下明里のことが好きなんだよ。わかりやすく顔に出るくらいにね」


「そっか、ずっと僕は・・・」


そうか、そうだったのか。

僕は、ずっと木下明里が好きだったのだ。

その上、僕たちは両想いだった。そう考えると明里の全てがいとおしく思えてくる。


笑っている明里も、怒った明里も、泣いている明里も愛しい。そう自覚し始めたとたん、体の芯からじわぁっと熱が漏れてくるような感じがした。


「うんうん、自覚し始めてくれたようで、夏希お姉さんはうれしいよ。」


夏希は、うれしそうにはにかむと再び僕のことを指さし、言った。私は、この時代のわたしと接触することはできない。だからこれは薫君にしかできないことだと。


「明日の朝、明里を来月行われる花火大会に誘って」


これが、夏希のお願いだった。

何かあった場合でも夏希が僕をサポートをしてくれるらしい。むしろ、夏希にはそれくらいしかできることがないそうだ。


このお願いに、僕はもちろん首を縦に振ったのだった。


読んでいただきありがとうございます。

続きが読みたいなどの意見があれば、続きを執筆します。

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