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石ころダンジョンマスターの邪悪なる日々  作者: 入月英一@書籍化
二章

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20/22

八位陥落

「盟主殿!」

「呪歌の。どうしたというのだ、そのように血相を変えて?」

「どうしたもこうしたもありません! あの、マスター殺しの眷属の件です!」

「何か問題が?」


 序列第9位『狂乱の呪歌』、彼の眷属の一体が、偶々マスター殺しの眷属がダンジョンを構えるヴァンダル王国の近くにダンジョンを構えていた。

 そのこともあって、マスター殺しの眷属を人間に攻め滅ぼさせるという工作の一切は、『狂乱の呪歌』の派閥に任されていた。


 その『狂乱の呪歌』が血相を変えて飛び込んでくる。

 何か計画に支障を来した、そう考えるのが自然であった。


「トラブルかね?」

「トラブル? いいえ、盟主殿。トラブルなどという範疇をとうに超えています。何せ、計画は根底から覆され、粉々に砕かれたのですから」

「……何があった?」


 狂乱の呪歌は語る。

 人間に色々と吹き込み、計画通り討伐の軍勢を派遣させたこと。

 しかし、宙から星を降らせるという、規格外の攻撃スキルにより、派遣された騎士団が瞬く間に全滅させられたことを。


「……不味いな」

「ええ。不味いですな。まさか、稼働年数たかが数年のマスターがあれほどの力を有するとは。脅威度を大幅に見直さねば……『そうではない』……盟主殿?」


 狂乱の呪歌は、自らの言葉にかぶせる様に否定の言葉を吐いた盟主を訝しげに見やる。


「ダンジョンのほとんどは、地底に形成される。が、中には、地上にダンジョンを形成するマスターも何体かいる」

「はあ。確かにそうですが、それが?」

「宙から無数に星を落とされては、対処のしようもあるまい。一方的に狩られてしまう」

「確かに……。地上にダンジョンを形成しているマスターといえば……ッ!」


 狂乱の呪歌の頭に、真っ先にあるマスターの名が思い浮かぶ。


「樹海殿が危うい! 盟主殿! 直ちに樹海殿に警告を……!」

「……いや、もう遅かったようだ」

「――なッ!? まさか……」


 狂乱の呪歌は脳裏にダンジョンマスターランキングを映し出す。そうして呻き声を上げた。


「そんな。ああ、樹海殿……」


 マスターランキングの序列第八位に座していたマスターの名を、ランキング表から見つけることは出来なかった。



※※※※



 ――盟主と狂乱の呪歌の会話から遡ること半日。



 今、私はお空にいます。アイ キャン フライ!

 いや、自力で飛んでいるのではなく、水晶龍の背に乗っているわけですが。


 以前、お空を飛ぶのは良い移動手段! なんて思ったこともありました。

 が、快適とは程遠いですね。


 風がびゅー、びゅーと厳しいですし。

 何より、今は高高度を飛んでいるので、空気が薄くてしんどいです。


 なら、もっと低く飛べ。そのように思われるかもしれません。


 ですが、そうもいかない。できる限り、“あれ”とは距離を取りたいのです。

 他ならぬ安全のために。


 眼下を見下ろします。


 木、木、木、正に樹海と呼ぶに相応しい光景が広がっています。

 大都市シュシュリが丸々一つと言わず、複数個軽々と収まるような樹海。


 しかも、唯の樹海ではありません。その一本一本が、蠢いているのがここからでも見て取れます。


 ――序列第八位『悪食なる魔の樹海』の威容でした。


 何故、私があんな化け物ダンジョンの上空を飛んでいるかというと、それは降臨パイセンの差し金です。

 パイセンとの遣り取りは、ざっくりと次の通り。



『石ころちゃん、メテオが周知される前に、地上にダンジョン構える阿呆を一掃しようぜ!』

『えー、めんどいです』

『そう言わず。ほら、まずは電撃的に八位を潰しに行こう!』

『やですよー、何でそんな格上の相手なんか……』

『いやいや、相性が良すぎだから、いけるいける!』

『……仮にそうだとしても、メリットは? メテオ使うのめっさDP使うんですけどー』

『あれ知らないのかい? ダンジョンマスターがダンジョンマスターを滅ぼせば、滅ぼされたマスターのDPは、滅ぼしたマスターの物になるんだよ』

『マジで!?』

『マジる、マジる』

『行く! 行く! え、八位のDPごっそり奪ったら、私一桁ランクじゃないですかー!』

『あ、それはない』

『へ?』

『八位から奪ったDPの半分は、ボクに上納だから』

『それはないぜよー』



 ……多少の脚色があったかもしれません。


 とまれ、八位強襲任務を受諾した私のことを、パイセンはパイセンの宝物? たぶん宝物で、かの樹海の傍まで運んだのでした。まる。


 というわけで、もう一度、水晶龍の背から下を見下ろします。蠢く樹海を。


 あそこに生える樹木の一本一本、あるいは、草花の類まで一本の例外なく、食虫植物ならぬ、食人植物であるとか。


 おお、怖い怖い。怖いので、この石ころちゃんは、心を込めた贈り物をすることで延命を図りましょう。

 目上の人には贈り物。これ、処世術の基本です。では……。


「めてお(はぁと)」


 スキルが発動されました。宙から無数の隕石が降り注ぎます。


 星々がプレゼントとは、ロマンチックで良くないですか?

 悪食なる魔の樹海さんもきっと、私の想いの重さに、とーっても衝撃を受けてくれるでしょう。


 水晶龍が落ちてくる隕石と隕石の間を縫うように飛びます。

 かと思うと、もう全ての隕石が私の眼下にあります。速い、速い! 樹海さんに届くまで、後数秒。3、2、1――うなー!!!!


 世界が崩壊したのでは? そう思わせるほどの破壊音が轟きます。耳がー、耳がー!

 立ち上った砂塵で、眼下の様子は窺い知れません。樹海さんはきちんとプレゼントを受け取ってくれたのでしょうか?


 待ちます、待ちます、待ちます……。砂塵が晴れました。にんまりと笑みを浮かべます。

 青々とした樹海の所々にクレーターができています。どうやらきちんと受け取ってくれたよう。


 私のプレゼント、クリーンヒット、です! まあ、外す方がおかしいですけど。


 残っている木々が一層激しく、ざわざわと、うねうねと、しきりに蠢いています。うわ、気色悪い。

 すると、樹海さんの方から空に向かって何かが放たれました。


 あれは花粉? ……ですね。ハッキリと視認できるほどに密集した大量の花粉。濃密ですねえ。他にも綿毛のようなものも飛んでいます。


 やぶれかぶれ。精一杯の対空攻撃。と、油断するわけにもいきません。

 多分、あれを少しでも吸い込めば、そこで試合終了な気がします。


 さて、どうしましょう? あれらから逃げるように、水晶龍に更に高高度へと退避させましょうか?

 いやいや、これ以上高度を上げるのは、ちょっと厳しいです。ふむん。どうしましょう?


「マスター」


 今回の強襲任務に付いてきてくれたザベスちゃんが話しかけてきます。


「む? どうしました、ザベスちゃん?」

「ここは風の精霊たる私にお任せを」


 なるほど。ザベスちゃんなら、あれらの花粉を風で吹き飛ばすこともできるでしょう。


「お願いします」

「お願いされました。では、風王けっ…『それはいけない!』」


 私が必死に声を張り上げた直後、強烈な風が吹き起こります。いとも簡単に、樹海さんの対空攻撃は流されていきます。

 しかし、ここで余裕を見せるわけにもいきません。


 樹海さんがまた別の手を講じないとも限りませんし。それを防ぐことができる保証もありません。なので……。


「メテオ、メテオ、メテオ、メテオ、メテオ!」


 メテオ五連打です。1000万DPものPを一気に消費します。


「ひゃっはー!?」


 あばば……。あぶ、危ない、宙から降り注ぐ弾幕に、危うく撃墜されるところでした。石ころちゃん、ちょっと調子に乗り過ぎました。反省。

 なんとか避けきってくれた水晶龍に感謝感激雨あられです。


 私が山よりも深く、海よりも高く、水晶龍への恩を感じている内に、再度暴虐なる星々が樹海さんに降り注ぎます。


 ――――!!!!


 耳が馬鹿になりました。

 ちょっと何も聞こえません。地上への視界も閉ざされています。


 ですが、私はそれを知りました。樹海さんが滅びたのを。

 何故なら――未だかつて覚えたことのない感覚を、余りに膨大なDPが私に流れ込んできた感覚を覚えたからです。

 脳裏にランキングを表示します。


 13位 石ころダンジョンマスター@樹海食ったどー

 DP:3,013,070,112 稼働日数:2年11ヶ月



 えっ、13位? …………降臨パイセン、搾取するの早すぎない?

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