今日の天気は快晴、所により〇〇が降るでしょう
本日二回目の投稿です。
三角貿易という定期収入が得られるようになったとはいえ、本当に食っちゃ寝しているわけにもいかないのです。
私はダンジョンを飛び出し、方々に出向いては、言葉巧みに人間をダンジョンまで誘い込み、ちょくちょく摘まみ食いしていきます。
うんうん、私って働き者ですね! 偉いぞ!
ある時は、テッド氏に頼んで、紳士然とした男性を用意してもらい、私はめかしこんで、二人して孤児院を訪れました。
聖光祭に、恵まれないみなし子らをパーティに誘いたいと連れ出し、馬車に乗せました。
ある時は、学者の卵を装い冒険者ギルドに依頼を出しました。
ローゼン領の辺境にある山林でフィールドワークをしたいので、護衛に何人かの冒険者たちを雇いたい、と。
そしてある時は、ある時は、ある時は、ある時は……。
今日も今日とて、元気にダンジョンから外出中ですよー。
また一人、騙しているところなのです。
「お嬢さん、それは本当かい?」
褐色肌の男性が身を乗り出してきます。
「トラストミー」
私はにっこりと微笑みました。
「よし! 乗ったぞ! 早速契約書を……」
ガタン! と椅子を倒しながら、私は立ち上がりました。
呆然と、ある方角を見詰めます。私のダンジョンの方角を。
「ど、どうしたね?」
「まさか、侵入者……?」
「はあ?」
頭の中にけたたましい警鐘が鳴り響いています。
これは、ダンジョンに何者かが侵入したことを告げるアラームです。
「リターン!」
スキルを発動します。
ぐにゃり、と風景が歪む。目をつむり、暫くして開くとそこは、私のダンジョンの地下二階層、ダンジョンコアを安置する部屋です。
侵入者、一体何者が? どうして……?
私は焦燥に駆られながら、大農場のある地下一階層に上ります。そこで目に飛び込んできたのは――。
ちょっと数え切ることが出来ない、人、人、人……。
更に、あまり広いとは言えない入り口から今も、次から次に新手が吐き出されるように、湧いて来ています。
男たちは、金属製の全身鎧、甲冑というのでしたか。それを纏っています。
これが、騎士と呼ばれる者たちでしょうか?
初めて見ましたが、彼らの特徴からそう判断します。
騎士たちは、剣でも槍でもなく、メイスを、柄の長いロングメイスを握っています。
あるいは、メイスの代わりに松明を握っています。
彼らはそれらを以て、ゴーレムたちを次から次に破壊しています。
大麻農園に片っ端から火を点けて回っています。
――目の前が真っ赤に染まったような錯覚を覚えた。
「クリエイト――水晶龍」
迷うことなく、798万DPを消費して、水晶龍をクリエイトする。
「鏖殺しなさい」
疑似太陽の光にその身を煌めかせながら、水晶龍が飛び掛かる。
突然現れたドラゴンに、人は混乱をきたす。
慌てて応戦するが、まるで勝負になっていない。命令通り、水晶龍は人たちを殺して回る。
すると、『撤退! 一時撤退!』、そんな声が響き、人が引き潮のように退いていく。
その背を水晶龍が追いかける。
私も、水晶龍が露払いした道を通り、ダンジョンの入り口まで歩む。
外に出て、また驚いた。
ダンジョンの入口は山間部の中腹にある。
そこから見下ろした山の麓には、大小いくつものテントが設営され、先程多いと感じた人すら少ないと思わせるだけの人間たちが群がっていた。
沸々と怒りが湧いて来る。
「わらわらと、虫か何かか、お前らは……。群れれば、私を滅ぼせるとでも?」
不意に、アルファルド老の言葉が思い出される。
『古より、化物を屠ってきたのは、常に無力な人間たちだ』
ふざ…けるな!
「クリエイト――地下三階層、地下四階層、地下五階層…………地下十階層」
ダンジョンコアを安置する部屋は、自然とダンジョンの最奥に設置される。
これで、ダンジョンコアは地下十階層に移動されたことだろう。
準備が終わったことで、私は再び麓を睨み付ける。
人間風情が、人間風情が、人間風情が……私の糧の分際で!
ぎりっ、と歯噛みする。
「愚かしさのツケを払うといい。いざ、仰げ! お前たちの死を! メテオ!!」
3000万PものDPを消費したことで得た、『石』『宇宙』複合属性スキル。
私が取得可能な攻撃系スキルの中で、最上のそれ。神罰にも等しい、宙から降り落ちる絶望。
星落とし――メテオ。
スキルを使用する度に――隕石群をクリエイトするため――200万Pを消費するという頭のおかしいDP浪費スキルだが……しかしそれに見合った規格外スキルだ。
身の程を弁えず、私を狩ろうとしてきた愚か者どもは、揃いも揃って阿呆な面構えを晒して空を仰ぎ見るばかり。
私も空を見上げ、その暴虐なる星々を認めると、酷薄な笑みを浮かべながら『リターン』のスキルを発動する。
瞬時に、地下十階層に安置されたダンジョンコアの前へと転移した。
その数秒後、地下十階層にあって尚、地響きと振動が伝わるほどの衝撃が、大地を襲った。
※※※※
「ハハハハハ! 石ころちゃん、君は本当に最高だよ!」
全てを盗み見ていた『降臨せし異邦の軍勢』が高笑いする。
「それにしても思い通りに全てが運んだ。ボクが石ころちゃんを眷属にすれば、大連合の連中、この悪手を打つに違いないと思ったよ! 本当に馬鹿だなあ」
今度は馬鹿にしたように嗤う。
「さて、意外と気位の高い石ころちゃんは、この屈辱は我慢なるまい。人間に初めてダンジョンを土足で踏みにじられ、荒らすに荒らされたとあっては。さて? この突然すぎる騎士団の侵攻を、影で糸引いたのが、大連合と知ればどうなる? ふふふ……」
笑い収まらぬ『降臨せし異邦の軍勢』は立ち上がるや、役者のように両腕を広げてみせる。
「はは、見える様じゃないか、今にも燃え上がらんとする大炎が! ……さあ、あの懐かしの日々が戻って来るぞ! あの心躍る闘いの日々が! 大戦が! ああ、楽しもうではないか、ねえ、石ころちゃん」
そんな身勝手な叫びが、彼のダンジョンに響き渡ったのだった。
これにて一章完結です。
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