同胞殺しの眷属はロックオンされました
宇宙属性、降臨パイセンの眷属になったことにより、この属性にも目覚めたわけですが……。
どうやら、宇宙属性単体でのスキルの取得、宝物・魔物のクリエイトはできないようです。
例えば、パイセンが使っていた、離れた相手と話したりできるスキルなんかは見当たりませんし。
新しく開放されたものを見ていっても、石属性と絡めたものばかりです。
例えば、これ。
隕鉄の剣 12,000DP
……はて? 普通の鉄の剣と何か違うんですかね?
まあ、別にいらない子ですね。この宝物は。
んー、何か有用なスキルや宝物はないものでしょうか……。片っ端から、新たに開放されたものを確認していきます。
……いらない子、いらない子、いらない子。――? ええと、訳の分からない子。
予備知識くーん! これなあに? ……ほうほう。なるほど、いらない子ですね。
いらない子、いらない子、これは保留。いらない子。また保留。……むむ!?
あるスキルに目が留まります。
それは、取得に3000万DP、更にスキルを使用する度に200万DPを消費するという、頭のおかしい浪費スキルでした。
ですがこれは……予備知識を起動。スキル内容精査開始。確認中。確認中。確認中。詳細把握完了。
ははあ! 何とも浪漫溢れるスキルではないですか!
取っちゃおうかなあ……いやいや、でも3000万DPは痛すぎる出費です。その上、スキルを使用する度に200万DP とか、本当に頭おかしいです。
そもそも使いどころあるです、これ? これを使うような状況になんて、早々ならないでしょう。
うんうん。だから、浪漫溢れるスキルですけどね。まあ、そんなホイホイ取得するわけには、ねえ?
ホント魅力的なんだけどなあ。ほら私、商人たちと取引なんかしてるので、こう経済観念がしっかりしているというか。
締める所は締める女ですし。そう簡単に欲望に負けたりなんか……。
37位 名前:石ころダンジョンマスター@ひゃっはー!!
DP:61,017,220P 稼働日数:2年7ヵ月
おおう! 知らない内にDPが大量に失われているぞ。
どうしたことだ、これはー。
※※※※
部屋の中央に円卓が設えられている。席は五つ。そこに座るのは、人ではなかった。
彼らはダンジョンマスターと呼ばれる魔物。それも、全員が序列一桁台の最高位のマスターたちだ。
「皆、呼び出してすまなかったな」
「構いません、盟主殿。事が事です。このような会合を持つのは、当然のこと」
「うむ。そう言ってもらえると有難い」
彼らそれぞれが、派閥を率いる長であるが、更にこの場にいる五体は盟約を交わし、他に比類なき大連合を形成していた。
盟主と呼ばれた男が、この大連合の代表者である。
名を『龍王の巣穴』、序列第一位のマスターである。
その他、大連合に参加する派閥長たちは下記の通り。
序列第4位『蝕む黒き病魔』
序列第6位『巨人の食卓』
序列第8位『悪食なる魔の樹海』
序列第9位『狂乱の呪歌』
盟主たる『龍王の巣穴』が話を進めていく。
「さて、既に皆も知っているだろうが。長らく沈黙を保っていた、あの『同胞殺し』が再び動き出した」
同胞殺し、その忌み名で呼ばれるのは、彼らと同じ最高位のダンジョンマスターの一体であった。
その呼び名が生まれたのは、今から100年ほど前のことである。
当時、ダンジョンマスターの序列第2位であったマスターが、突如自らの眷属を率いて、他の派閥との抗争に乗り出したのだ。
それまで、ダンジョン間の抗争など皆無であった。
ダンジョン奥深くに引き籠り、侵入してくる冒険者らを受動的に喰らう彼らは、外に働きかけることがほぼない。
故に、同じ派閥でもない限り、マスターたちが交流を持つことすら稀であった。
にもかかわらず、序列2位のマスターが、急に全方面に喧嘩を売り、次から次にマスターたちを殺して回ったのである。
全てのマスターは衝撃と共に、駆け回る『同胞殺し』の名を耳にしたものだ。
実は、『龍王の巣穴』を筆頭とする大連合が組まれたのは、この時『同胞殺し』に対抗する為であった。
余りに大規模かつ激しい闘いの日々――後にマスターたちから『大戦』と呼ばれることになる抗争は、最終的に大連合が『同胞殺し』を追い込んだ。
が、自らのダンジョンに籠城の構えを見せた『同胞殺し』に、大連合もおいそれと手を出せない。
第2位が籠城するダンジョンの攻略など、いかな大連合といえども容易いものではない。
いや、『大戦』終盤では、抗争での疲弊から第3位にランキングを落としていたが、それでも同じことである。
とはいえ、恐らく不可能ではなかったろう。そう、甚大なる犠牲を顧みなければ。
……結局、大連合はその被害を恐れ、『同胞殺し』と和睦した。
いくつかの条件を突きつけることで。
例えば、その一つが、全ての眷属との主従関係の解消であった。なのに……。
「彼奴め、百年ぶりに新たに眷属を持ちおった」
「盟主殿、協定違反……そういうわけですな」
「いや、樹海の、全ての眷属を手放すようには言ったが、新たに眷属を持ってはならん。とは言ってなかった筈だ」
「……巨人殿、そんなことはわざわざ言うまでもないことでしょう」
「まあ、そうさな」
「それで、こちらはどう対応するのだ?」
最後の言葉に、マスターたちは盟主の顔を見る。
「……協定違反と責め立て、今度こそ滅ぼす。などというわけにもいかぬ。それができるなら、100年前にそうしていた」
「なれば……?」
「彼奴には抗議だけをしておこう。彼奴には、な。……マップ」
それは、一桁台のマスターのみが使用可能なスキルの一つであった。
世界地図が展開される。
その中に、87の光点が灯っている。この点は、ダンジョンマスターが構えるダンジョンの位置を示していた。
もっとも、どれがどのマスターのものか、識別する機能までは備わっていない。
が、今回に限っては、それで問題なかった。
記憶と照らし合わせ、3年前にはなかった新たな点がどれであるのか、それを探すのは容易いことであった。
「同胞殺しが唾を付けたマスターには、悪いが消えてもらおう」
「……しかし盟主殿、同胞殺しの眷属を滅ぼしては、そのまま大規模な抗争に繋がりかねない懸念が……」
盟主『龍王の巣穴』は頷く。
「分かっておるよ。我々が直接手を下さねば良いのだ」
「と、いいますと?」
「ダンジョンを攻略するのは、人であるべきだ。そうは思わんかね?」
盟主の言葉に、他のマスターたちは納得顔で頷いたのだった。