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北条戦記  作者: ゆいぐ
北条家登用試験編
3/43

3 栗原与一郎成利 面接教示

四月に入って間もないある日の夕方、早川(はやかわ)村に一人の男がやって来た。

栗原与一郎成利(くりはらよいちろうなりとし)。治郎兵衛の家とは祖父の代からの付き合いであり、治郎兵衛の兄貴分として幼少の頃からその面倒をよく見てきた。北条氏に仕えている彼は現在、小田原の町の足軽長屋の管理や、足軽数調整の任に当たっている。


「治郎っ、いるか!?」

一兄(いちにい)……! 久し振りだね」

「おお。それより聞いたぞっ。ようやく仕官する気になったんだって?」


ずかずかと入ってきた与一郎は治郎兵衛に縄で結った黒っぽい肉の塊を渡した。


「……これは」

(くじら)だ、鯨の塩付け。昼間、城で貰ったから切り分けて持ってきた」

「へ~。どうも有り難う。悪いね、いつも」


治郎兵衛がそれを土間の梁に吊るす間に与一郎はもう居間の板敷(いたじき)に座ってる。


「気にするな、偶にだ偶に。ちゃんと食ってるのか? お袋も気にしてたぞ」

「うん、お陰様で何とか。

それにしても相変わらず耳が早いな、一兄は」

「まあな。どこでどんな話が聞けるか分からないから普段からあちこちと仲良くしてんだよ」

「へえ」

「何だ、どうでも良さそうな返事だな」

「んなこともないけど」

「お前な、もうちょっとあれだ。面接の時はきびきび答えるようにしろよ。頭が足りてないと思われてすぐ減点だぞ」

「ああ、そうか。面接もあるよね、確かに」

「お前なぁ……ホントに大丈夫か?」


与一郎は咳払いをして正座すると床をばんばんと叩く。正座しろということらしい。


「貴殿は何故(なにゆえ)当家に仕官しようと思われた」

「え、ええと……。北条の御家(おいえ)なればこの乱世を終わらせ、民の為の政治を行って下さるものと考え、その、えーと……」

「貴殿はこの北条家の中でどの様な活躍が出来るとお考えか」

「え? そんなことも聞いてくるの!?」

「お、考、え、かっ」

「……。えーっと……。あ、ああ、力仕事です! 畑を耕したり、堀を掘ったり、あとそれから戦でも精一杯頑張ります!」

「……ふむ。では最後に問う。今後我等北条家はどの様な戦略を取っていくべきとお考えか」

「はっ!? そんなの御殿様に聞け、聞かれるがよろしいかと存じます」

「あ、そこは御殿様じゃない、御本城様(ごほんじょうさま)だ」

「御本城様?」

「北条家の御殿様は代々そう呼ぶものなんだよ」

「ふうん。と、とにかく私めの様な若輩者にその様な御家の大事、とても手に負えるものではござりませぬ。ははーっ」


大きい体を丸めて辞儀をする治郎兵衛を与一郎は大きなため息をして見やる。


「色々言うことがあるが……、まあ三十点てとこか」

「さ、三十点……!?」

「落第だよ。仕官理由はどこでも聞きそうなありふれたやつだし、力仕事ができるって、お前ね、馬鹿正直過ぎるよ?」

「ありふれた……馬鹿正直」

「そうだよ、特に堀を掘ったり、戦で戦えるなんて……、考えてもみろよ、正規の北条家家臣として雇うかどうかって話をしてんだぞ? お前の言うことは傭兵稼業やってる連中が手空きの時に日雇いするのと何も変わらねえじゃねーか」

「う……。だ、だけどそういう仕事を宛がわれてる御家来衆だっているでしょ?」

「そりゃ全くいないわけじゃないがな。けどわざわざ登用試験までやって、傭兵と同じ程度の事をやっていきますって言ってる奴を何十人といる仕官者の中から選ぶか? 俺なら選ばねえよ」

「……なるほど。

え、でも一兄がやってる足軽長屋の管理人だって似たようなもんじゃ」


すかさず治郎兵衛の頭に手刀が落ちる。


「いでっ」

「長屋の管理はおまけみたいなもんだって言ってんだろ。戦の気配を早いうちから察知し、少し遅れて出される御本城様からの指示に沿うよう、上役と計って必要になりそうな人数を多過ぎもせず少な過ぎもせず丁度良いだけ集める手筈を整える。それは稲作の片手間に戦に駆り出される百姓より一段上の技術を持った戦闘専門の連中だ。結構重要な役回りだぞ、足軽備(あしがるそな)え奉行」

「……の下で働いてる足軽備え(かた)

「まあ、な……。しかも自分の家来集めるわけじゃねーから、そこが今一つ身が入らないとこなんだが」

「どっちなのさ」

「要するに、今にもっと良い仕事貰って出世してやるって話だよ。その為にもお前みたいな腕の立つ家臣が一人でも多く欲しいんだよ、俺は」

「え!? だからこうやって面接の手ほどきをしてくれてんの!? ていうか仕官できたとしても一兄の下に回されるの?」

「露骨に嫌そうな顔になったな。その反応は少し傷付くぞ」

「! ……ごめん、うっかりしてた」

「うっかりなのかよ」

「ははは」

「ったく。

まあ、とにかく腕の立つ家臣が欲しいってのは本心だぜ。俺だって仲間内じゃ出来る方だけど、お前の場合はそもそもそういう比較すること自体が、って強さだからな。ここは一つ俺の頭とお前の腕で城持ち、果ては国持ちを目指そうじゃねーか」


途方もない夢を描いて盛り上がる与一郎に治郎兵衛は仕方なく笑っている。

やがて二人は話を戻し再び面接対策を練り始めた。というか与一郎の一方的、独断的なダメ出しが続いた。


時代劇ぽい感じの言葉に統一して書いていこうとしましたが語彙力が足りず、無理なようです。

その他、時代考証等の穴も含めてご容赦頂けますと有難いです。

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