2-3
警戒していたドラゴンも人も、お互いが被害を与えないからと信用してきたらしい。
仲良くしてる。言葉は通じてないはずだが、なにか伝わるものがあるのだろうか。
……そんな、平和な日々か続いていた、ある日だった。
それは突然だった。ウルにも予想はついてなかった。
……ドラゴンが、国を荒らし始めた。
そのドラゴンはこの国で1番の力を持つ、黒いドラゴンだった。
ドラゴンの上には人が乗っている。
……操っているのだ、人が、ドラゴンを。
「くそが。上に乗ってんのは誰だ?」
住民全員を把握していた訳では無い。
事前に魔法や呪術が使えないことも確認している。
商人たちも逐一チェックしていたはず……何故だ……。
「ルイ!」
シナに呼ばれる。ウルもいた。何故かアンジェもいる。今日はこっちに来る日だったか。
「城へ急ぐぞ!」
ウルが言うので城へ向かう。
その頃にはウルが、どこからか王となる人を連れてきていた。親戚かなんかと言ってた気がするがよくわからない。呪いは使えないからと放置していた。あいつが原因の場合もあるのか……?
王との初めての謁見日、ウルを跡継ぎにしたいから、その妻にどうか、なんて話しかけられた。
勿論、ウルの妻になる気なんてない。この国は殆どがウルの故郷の人間。オレらの故郷を潰した人間。そんな地位いらない。その話のあとから、オレはあまりこの国に寄らないように、ウルに近寄らないようにしていた。だからこの国の状態がよくわからない。
……この国は嫌いだ。こうなると薄々わかっていた気がする。どのような形であれ、この国は滅ぶべきなのでは……。
なんて思い返していたら、いつの間にか城に着いていた。
こんな国、ドラゴンに潰されてしまえばいい。
そう思っている、が、まぁ今回だけは協力してやるか……。
「アルトラッシュ!」
「準備は概ね、出来ているぞ」
王の部屋へ入ると、そこには魔法陣が出来ていた。
「……これじゃないよ!これじゃ出来ない!1人足りない!」
「なんだって?お前が連れてくると言ったんではないか!」
「3人ね!これじゃあ上手くいかないよ!」
魔法陣の外側には4つの丸。王の足元にあるのと同じものだ。
魔法が扱えなければ、ここには立てない……。
「あたし、力になれない?」
「……どうなるか、わからない」
「この国を、守りたいの」
「……致し方ないだろう。その者、こちらへ」
王がアンジェを呼ぶ。
「……絶対成功しないよ……絶対……」
ウルが呟いている。
王はアンジェの額に手を当て、なにかの呪文を唱えている。
「一時的に、一部の力を譲渡した。これで上手くいくといいが……」
「やってみなきゃわからない」
「失敗したら……」
アンジェの方を見る。
「あたしはどうなってもいい、この国を守ることがとりあえずの最優先よ……誰も恨んだりしないわ」
笑顔でアンジェは言う。
「覚悟、出来てんだな」
「勿論」
「時間がない。やろう」
ウルの言葉に頷き、それぞれが円の中に立つ。
術式を構築する。
目を閉じて、そしてーー。
目を開けると、それまで聞こえていた音は、聞こえなくなっていた。
外の様子を見る。
……建物はボロボロだか、とりあえずは落ち着いたらしい。
黒いドラゴンは消えていた。
そして国の真ん中に、大きな壁が出来た。
「アンジェ!」
シナが叫ぶ。
アンジェは横たわっていた。
「アンジェ」
アンジェに近づく。
それはもう、多分、目を覚まさないもの。
「アンジェー!」
これでも一応、彼女のことは大事だったらしい。
「ごめんね。アンジェ」
ウルが小さく呟いた。
その場には3人の子どもたちが、涙を流しながら、1人の勇者を見つめていた。
オレンジ色の石が、小さく光っていた。
アンジェの家族に、このことを報告し、アンジェは棺桶に入れられ、眠りについた。
かに思えた。
「君はこんなところで、眠っていていい人ではないよ。今までの記憶の一部をボクが貰い受け、君は新しい未来を進むんだ」
どこかの魔法使いによって、アンジェは記憶を失ったまま、それに気づくこともないまま、ログリール孤児院に拾われた。
結局王は、オレに話を蹴られたあと、自分の息子を跡継ぎとしていたらしい。
あと日以来、王の姿は見ていない。
いつの間にか、その息子が王になっていた。
この息子が、また癖のあるやつで。
……まぁ、オレには関係ないか。
王が変わってから……内戦が増えた。
竜と人が、争うようになった。
壁は強固なものに何度か作り直しているのに、それを突破してくるものもいる。
……そして、竜と人の間に、子供が産まれた……
「僕が竜とドラゴンを分けて呼ぶのはさ、人と子供を作れるかどうか、なんだ」
ウルがいつか教えてくれた。
ドラゴンより竜を大事にしていたのはそういうこと。でも、子供を作らせてどうする……。
争いは何日も続き、あの日より激しいものとなった。
……オレとシナは、それを上から見ていた。
そしてウルは、竜と人の間に出来た子供たちを壁のそばに集め、コロニーを作った。
壁をさらに強固なものに作り替えた。
そして人は壁のそばに寄らないようになった。
人と竜が、ドラゴンが共存していたこの国は、あっけなく分離した。
この頃には橘はいなくなっていて、彼女の代わりにアルカリアという人形が樹を守っている。
あとから聞いたことだが、ウルは半竜人らしい。
あの時かかえていた竜は、ウルの妹だったと。
どこか別に竜と人が住む国があるのかもしれない。
ウルの故郷にもなにかあるのかもしれない。
だけどオレは、こいつらを許せなくて。
今後大きなことには関わらないと決め、国を離れた。
シナも一緒だ。
それからは暫くは、ニコルも一緒に仕事をしていた。
ニコルがリーダーを降りて、どこかの国に勉強しに行くとか言って、オレがリーダーになって。
暫くしたら法術とかいうので帰ってきて、それを教えてまた国に戻って、とか色々あるのだが、とりあえずそれは別の話。
再び、"アンジェ"が、その国に訪ねるまでは、平和な時間が、流れることとなった。
これにて1度過去編完結です。
このあとはぞれぞれのキャラにスポットを当て、4人が出会うまでを書こうかなと思ってます。
初めはルイ。その次にシナ、次にウル、最後にアンジェかな……
ニコルに関してはルイ編で恐らく出ます。