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「何してるんだ?」
「……この子が、倒れちゃって、それでこの子が迷子で……」
後ろの方を向きながらこの子が、なんて言うから何かと思って、少年の後ろを見ると、子供が倒れていた。
女の子だ。
男の子の方はオレと同い年くらい、女の子の方はかなり年下に思える。
「……ふーん……」
少年が抱える竜を見る。
こっちも子供だ。緑色の体表。とても小さな翼。怯えるような目。
怪我をしているようだ。
この辺に竜がいるなんて情報は入ってないから、移動中になんかあったんだろう。
それをこいつは抱えて逃げてしまったわけだ。
少年の腕もよく見れば傷がある。
誰かに襲われたか……まぁいい。
「そこにいられると、迷惑なんだよな」
「どうしたらいいか、わからなくて」
「……そいつの生死を、見届ける気はあるか?」
これが、ウルとの出会いだった
樹から少し離れた場所に移動する。
少女の方は、どこで貰ってきたのか呪いがかけられていた為解呪した。そして街まで送り届けた。
もう会うこともないだろう。
「どうするの?」
「……まぁとりあえず」
竜を抱えた少年、ウルにかかった呪いを解く。
……誰が呪いを悪用してるんだか。
傷も一緒に治っていく。呪術で受けた傷だったようだ。
ということは竜を狙ったのは呪いが扱える奴、と。これでだいぶ絞れるな。その辺はニコルに任せるか。
「さーてー」
隣にいるシナを見る。少女を街に送り届けた後合流したのだ。
「泣きやめよ、シナ」
普段感情をあまり表にださないシナが何故か今、泣いている。
言葉に頷きながらも涙は止まらない。
手には紫の石を持っている。呪石だ。これが原因なのか?
「……もう少し、離れようか……行くよ」
2人が頷いて、樹に向かって礼をして、歩き出す。
何十分と歩く。
「これだけ離れれば大丈夫かな」
まだ樹は見える位置だが、そこまで離れる必要もないと見る。
多少は影響があった方がいいわけだし。
「そうだね……」
シナが呟き、紫の石を地面に落とした。
「流石ね」
紫の呪石が落ちた場所から土地が広がり、小さな町が出来た。申し訳程度だが壁もある。
四角い小さな町だ。でもとりあえずはこれで充分だろう。
「お母さん、見つかるといいね」
ウルが竜に話しかけた。
バァウ、と竜が鳴く。
それからは出来た街を中心に、オレらは活動した。
国内のやつらに、ここに国が出来そうなことは知られてはならない。
いつかは島として、隔離する必要があるかもしれない。一応、その準備も進めている。
でもまぁ、周りは森だし、ここに入ってくる人も少ない。妙な噂が国内に流れているからだ。だからしばらくは大丈夫だと見る。
それでも、ドラゴンやら竜やらは森の中で迷子になってて、ウルがそれを見つけてくるのだけれども、街のなかに招いていた。
どこからこいつらは湧いて出てくるんだ……。
その中に、あの竜の親は、いなかったのだけど。
時々、人も迷い込んだ。
好奇心旺盛というのか、興味本位で森に足を踏み入れたのか、馬鹿なのか。
竜などが見つかってしまった場合は一大体がウルがドラゴンたちを救っている時なのだが一壁の中に招き、その他の場合は森の外、街へ帰した。
その間に、ウルは剣の技術を磨き、オレらも呪術や呪鎖、魔法なんかも少しずつ、習得していった。
町を住みやすいように整備したり、ドラゴンや人が増えてきたから、少し大きくして、城っぽいものも作ってみたり。ウルの案だ。こんなもの作ったら目立つというのに。
……ウルのことを完全に信用した訳では無い。橘に話をしたら、別に切るほどでもないと言われたから、橘も一応、ウルの存在を知っていて、認めたことになる。だから、切らないだけ。
この町を作れと言ったのはウルだし、任せてておえばいいだろう。
正直オレは、この町がどうなろうとどうでもいい。
ウルの故郷の人間は嫌いだ……。
オレらの故郷は、こいつらに潰されたのだから。
町はいつしか、国と呼べるくらい、大きくなっていた。
あの樹すら巻き込むほど……。
今は結界を張っていて、樹の存在を住民は知らない。
ウルの国から勢力グループの1つをこの国に招き入れ、何故かドラゴンらと話せるウルがドラゴンを招き入れ、いつしか国と呼べるほど大きくなっていた。
上空から国の様子を見る。
至って平和だった。争いなんて小さなもので、その日のうちに本人達で解決できる程度。
食料やなんかはウルが信用しているというどこかの国の商人を雇った。いつやったんだかは知らないし興味もない。
しかし、気になる人が1人いた。
ウルが雇った商人の娘だ。どこかで見たことある娘。
手伝いで一緒に来たらしい。
……話を聞いてみるか。
そう思って屋台に近づくと、向こうからこちらに気づいたらしい。
「あ!あの時の!」
なんて指を差しながら言われてしまった。
「どうも」
「あの時は助けてくれてありがと。あたしはアンジェ、あなたは?」
「オレはルイ。商人の娘だったんだな」
「いつかこの街に来ることが夢だったの。あの時助けてくれた人に会えるかもって、付いてきたのよ」
「その節は、娘がお世話になりました」
「いいえ」
「お礼と言ってはなんですが、これをどうぞ」
商人が差し出したのは小さな石。
オレンジ色だ。呪いの気配は感じない、が。
「あなたなら、使えるのではと思いまして」
受け取ると、薄ら何かを感じる。
呪鎖式のような、なにか。調べてみる必要があるな。
「ありがたく頂いておくよ」
「あ!ね、ルイはここに住んでいるの?」
「ずっとではないが、たまにはここにいるよ」
主に、ウルの見張りのためだが。
「あたし、ここに住もうかと思ってて」
「……それはおすすめしないな。やめといた方がいい」
「えーなんで」
「商人の娘なら、父親にちゃんとついて行って、世界を知ってから、どこに住むか決めるんだな。この国からは何も輸出出来ないから。まぁたまに遊びに来るくらいならいいだろうけど」
アンジェは頬膨らませる。
「オレは許可しない。許可がなければここには住めない。家族がいるやつはそもそもお断りしてるんだ。遊びに来るなら会うくらいはいい」
「わかったわよ……。じゃあこれが終わったら遊びましょう?」
「んー……そうだな。終わる頃にまた来るよ」
「待ってるから!絶対よ?」
それに手を挙げ答え、そこをあとにする。
また魔法で飛んで、街の様子を見る。
しかしもの好きが居たもんだ。
家族と離れて住むような場所ではないだろうに。
この国は裕福ではない。
国として他国から認められてもいない。王もいない。国として足りないものだらけだ。
あるのは呪術と魔法くらい。
それと身寄りのない人達と、どこからか迷い込んだドラゴンたち。
まぁウルがなんか考えているみたいだし、そのうちちゃんと国になるんだろう。