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「ふーん……君は、恩人をここで殺すのかい?」
『恩人はアンジェのほうじゃからのぉ。お主は恩人ではない』
「へぇ。森の主だって言っておきながら、あんなに傷だらけだったのに」
『我が何故、あそこで倒れていたか、お主らは知らんからのぉ……さて、お喋りはここまでにしようぞ』
1度吠える。
カティは怯まない。
「なにか秘密があるとでも?なら吐かせないとねぇ」
カティは剣を構えている。後にいる兵士はなにか呪文を唱えているようで、他の兵士は弓を構えた。
我は空へ飛ぶ。
合成獣にされた所為で弱点だった腹は、硬い鱗で覆われていて下からの弓なんて痛くない。
我は元々竜だった。アルケアのやつらに、子供も庇って捕まるまでは。
アルケアに、カティに捕まって、その国のキーとかいうのと合成された。他にも蜥蜴とか蛙とか蛇とかが近くにいたようだったが、合成されたのかはわからない。
彼女らのおかげで呪いが解けた今、姿は竜のような人。
人の体を持ちながらも竜の力や翼を持つ者。
……このような男に負けてたまるか。
とりあえず、呪術師らしきやつを潰すか。
まずは力試しだ。
人の口から炎が出るなんて見た目不思議な感じだが、我は元々竜であるから、力の使い方に違和感はない。
人から貰ったのはこの体と、言葉と知識。
こいつらのことも、戦い方も良くわかる。
それほどこのキーとやらは重要な人物だったのだろうな。
貴様の力、借りるぞ。
体は人型だから、前のように足で潰したりは出来ない。
ただし、腕の力なんかは人とは比べ物にならないから、殴ったりすれば、そのまま地面にでも倒せば、頭くらい潰せるかもしれない。
炎を吐きながら思考する。
鱗で覆われているので、奴らからの攻撃は通らないし、カティはここまでこれない。
呪術師を隔離する。
一気に距離を詰めて、首を跳ねた。
爪は少し短くなっていたが、鋭さは健在らしい。これはありがたい。潰した時の感触は好きじゃないからの。爪に付いた血を落とす。
それと同時に術式が展開する。
なるほど。しかし遅いな。
すぐに空に逃げる。彼の周囲が凹む。
ふむふむ。そういうのもあるのだな。
こいつら全員にそんなのがかけられているとは思えないが。
後から気配がする。
カティだ。木から飛び、背中を斬ろうとしたらしい。
翼でも落とそうとしたのか?甘いのぉ……。
身を翻し、力を加減して、首を締め木に押し付ける。
『お前は最後かと思ったのじゃが』
「そんなことも言ってられなくてな」
『ほかの兵たちは逃げていくのぉ』
応援を呼んでも無駄だと、わかっているだろうに。
「お前を殺せれば、それでいいと思ってな」
なにかの式が展開する。これは魔法か。めんどくさいのぉ。
しかし、体に埋め込む式の術は発動が遅いのだろうか。
一瞬で、首を潰す。
爆破系のなにかでも埋め込んでいたのかもしれない。
……一応、心臓も潰しておくか?
心臓と脳を潰しておけば、蘇生も不可能だろう。
致し方あるまい。
ぐちゃぐちゃにとは言わないが、潰しておいた。
遺体は木の根元に埋める。
掘り起こされた時のために罠も張っておく。
人から貰った知識の方だ。多少の魔法は使えるらしい。
さて、さっきのヤツらは追いかけた方がいいかの……。
兵はそんなに遠くまで行っていなかった。
彼らはなにがしたいのかのぉ……?
聞いてみるとするか。答えるかはわからんが。
兵達の前へ降り立つ。
『お主ら、何を考えている……?』
「……カティ様の、指示ですから……」
国に帰ったら何かあるというのか?
兵達は国へ帰ろうとする。
……。
その兵達を全員残さず切り裂いた。
……我は国に帰るべきではないだろうな……。
元々我はこの森で生きていた。
アンジェ達もこれで無事だろう……アルケアからなにかがやって来ても、我が倒せばいい。
この森は元々、我の森。
そう言えば、ルイとか言うやつが、彼らの基地の近くに家を作ってくれたとか言っていたような。
とりあえずそこを目指すとするか。
一応、人の形をしているのだが鱗で覆われているため、国には戻れないだろう。あの国に受け入れてもらえるとは思えないしのぉ。
頼らせてもらうとするか。
その隠れ家は、予想以上に立派だった。
……キーの記憶が、知識が、それぞれの設備がどんなものかを教えてくれる。
ふむふむ……一応、獲物をこの森で捕まえても、人の体を持つから調理なんかはした方がいいと……
コンコンっと扉がノックされた。
『誰じゃ?』
扉が開く。そこには可憐な少女。
「はじめまして。あなたがキメラ?」
こいつ、我ことを知っているのか……
少し警戒する。
「あ、ごめんなさい。私ルイの知り合いで。名前がわからなかったから、そう呼んでしまったのだけれども」
『ほう、ルイの。そなたの名はなんという』
「私はアナリアです。ルイからあなたのお世話を頼まれてて。人型はまだ不慣れだろうし食事とか大変かなって」
『そうか……恩に着る』
人間に、助けられる日が来るとはのぉ……
何があるかわかったもんじゃないな。
暫くは甘えさせてもらうとしよう。
その代わりに、この森は、我が守る。
守護神の名にかけて。
アンジェが初めに立ち寄ったアルケアヘレナのその後。
合成獣×カティでした。
あっさり殺しちゃってごめんね!!!