知恵
公園のベンチに座り、一人の少年が知恵の輪を解いている。かれこれ数十分程知恵の輪と格闘しているが、一向に解ける気配がない。
そこへ、たまたま通りかかり、少年の様子を伺っていた老人が、たまらずに声を掛けた。
「ああ、ダメダメ。そのやり方では、いくらやっても解けないよ」
突然の口出しに、少年はムッとしながらも言う。
「そんな事言うけど、これは凄く難しいんだよ。お爺さんだって解けないさ」
「どうかな、私なら簡単だよ」
「なら解いて見せてよ」
「いいとも」
老人は少年から知恵の輪を受けとると、ものの数秒で輪を解いて見せた。まさかの結果に、少年は驚きつつも老人に尊敬の眼差しを向ける。
「お爺さん凄いや!!」
「なあに、長く生きていると、知恵がつくからな」
老人は得意気に言うと、少年に知恵の輪を返し、その場を後にした。
時代遅れと誰かが言おうが、いつまでも知恵の輪は遊ばれ続ける物なのだと、自社の商品で遊ぶ少年を見て、老人は確信していた。