6話「全然弱いじゃねーか」
「振り切るのがあんなに大変だとは…」
「ふふっ、寂しがってましたね」
廃都市から旅立とうとしたところ、ゴブとヘビ吉とフーの三匹がついて来ようとしたのだ。
縄張りの仲間がいるんだから着いてくるなと言ったのだが、仲間ごと引き連れて来ようとしたので大変だった。
結局、「また戻ってくるから、それまでここら辺を守っていてくれ」という命令を残して無理矢理振り切ってきたのである。
「次会うときまで絶滅してなきゃいいけどな」
「ふふっ、大丈夫ですよ。主様の眷属なのですから」
契約の後、スゥは先輩眷属としてあの三匹と仲良くなっていた。
昔の王だったスゥに対して畏れ多いと思ったのか三匹の態度は固かったが、最後は無事に打ち解けたらしい。
「ところで、本当にこっちで合ってるのか?」
「はい、昔旅した時はこちらの方角にあったはずです」
今はスゥの記憶に従って、一番近い都市である『カンナビ』というところへ向かっている。
一番近いと言っても、馬車で何日もかかる距離らしいけどな。
道中は暇だったので、スゥ先生が廃都市について色々と教えてくれた。
廃都市は3つの大国に囲まれる位置に存在しており、交易の盛んな小国『ロード』の首都として栄えていたらしい。だが、いつの間にか国ごと滅び、そこへ魔物や魔獣が住み着き、あのような廃都市となってしまったのだという。
「起きた頃には国ごと滅びていました。いやぁ、驚きましたよ」
スゥが居眠りしている最中に国が滅びたらしく、理由はよく分からないとのことだった。
「そういえば、魔獣と魔物ってどうやって区分してるんだ?」
今まで何気なく魔獣だの魔物だのと言っていたが、よく分からないので聞いてみた。
「比較的高い魔力や戦闘力を持つ生き物を魔獣や魔物と言いまして、その中でも知能の低い個体が『魔獣』、知能の高い個体が『魔物』ですね。なので、眷属の三匹の分類は『魔物』に当たります」
なるほど、俺からすると話が通じるか通じないかって感じか。
「なら、あれは『魔獣』だな」
「はい?」
前方を指差すとスゥも気づいたらしい。
数キロ先に人型の黒い戦士が居るのだ。
だが、「コロス、コロス…」と口ずさむだけで知性を感じない。
ちなみに、集中すれば数キロ先の雑音も問題なく聞き分けられる。便利な体だ。
「あれは、相当上位のアンデットですね。亡くなった戦士が魔獣として蘇った姿です」
「なるほど、ひとまず助けるか」
「え?」
スゥはまだ気づいてないようだが、説明する時間も無いので勢いよく駆け出す。
面倒だが、知った上で見捨てるのも寝覚めが悪い。
「あ、めっちゃ強かったらどうしよ」
まぁ、不死身だからなんとかなるか。
そう思いながら森の中を駆けるのだった。
◇
嵌められた。
『ロード大森林』を通るように仕組まれた時点で疑うべきだった。
もしかすると、大使を派遣すると決まった時点でこの計画が進められていたのかもしれない。
でも、今となってはもう遅い。
「勇者よ、すまんな。こんな事になるまで気づかなかったとは、余は愚かだった」
「姫様、何を言ってるんですか…まだ諦めるのは早いですよ。こういう時の私なんですから、任せてください。はぁ、はぁ…」
息をあげながらも勇者であるサチが元気付けてくれる。だが状況は絶望的だ。
目の前の黒い騎士アンデットは、おそらく上級クラス。災害に例えられるレベルの化け物だ。
溢れ出る瘴気の濃さがアンデットの格だと聞くが、濃密な瘴気でこれほど黒いアンデットは聞いたこともない。
「はぁ…はぁ…」
対峙しているだけでも溢れ出る瘴気がこちらの体力を減らしてくる。
サチは確かに強い。勇者としての恩恵のお陰もあるが、国の騎士達よりも高い実力を持つ。
だが、1人で対峙できるのはせいぜい中級クラスの魔獣や魔物のみ、このアンデットには敵わないだろう。
「私が時間を稼ぎます、その間に…」
「ダメじゃ、最後まで余に付き従ってくれたお主をおいては行けん。余も微力ながら、共に戦うぞ!」
下級ではあるが、魔術は使える。効きはしないだろうがないよりはマシだろう。
「ふふっ、バカなお姫様ですね」
「こんなバカに付き従うお主も、相当な大バカ者じゃな」
サチは姫という立場に気を使い、余はこちらの都合で召喚したという負い目を感じ、お互い腹を割って言葉を交わしたことはなかった。
だがこの瞬間、初めて分かり合えた気がした。
「サチよ、余と友になってはくれぬか?」
「…こんな時にですか?」
「こんな時だからこそじゃ」
「…ふふっ、わかりました。よろしくね、ミーナ」
まだまだやり残した事はある、果たしたかった夢もある。
だが、死ぬ前に信頼できる友人ができた。悔いは無い。
「ゆくぞ!」
「うん!」
すかさず詠唱を始める。それを見た黒騎士が駆けてきたが、サチが余をかばうように前へと躍り出た。
すると、黒騎士が突然あらぬ方向を向き、左手に持っていた大楯を構えて静止した。
「一体何を…」
その呟きを言い終わる寸前、黒騎士の上半身が、消し飛んだ。
「何、が…」
状況の整理が追いつかない。
死を覚悟するほどの強敵が、木っ端微塵に消し飛んだのだ。黒騎士の残った下半身はその場に力なく倒れ、残骸と化している。
そしてーーーー
「ありゃ?全然弱いじゃねーか、心配して損した」
黒騎士の残骸の横には、右手をヒラヒラと振る黒髪の青年が立っていた。