41話「こう見えても勇者なのです!」
「南門が破られたそうです!」
「北東の壁の地下を掘って魔獣が街の中へ!」
「西門付近の水路から水生魔獣が!」
王宮の会議室では、モードンが次々と舞い込んでくる問題の数々に頭を抱えていた。
「一体、何がおきているのだ…」
首都の各地で、魔獣が侵入しているとの情報が入ってくる。しかし、その場へ兵を向かわせても、魔獣どころか侵入の痕跡すらないのだ。
「どうやら、魔獣に囲まれた際に反逆者の侵入を許したようだな。外で待機していた兵を無闇に首都へ入れるべきではなかったのだろう」
ザミド王子の冷静な分析に、モードンは首を振る。
「しかし、それでは待機兵を見殺しにする事になっただろう。それはできない。過ぎたことよりも、今後の対策を講じるべきだ」
クーデターを起こしながらも兵を思いやるモードンの発言に、ザミド王子は怪訝な表情を浮かべる。だが、過ぎたことを言っても仕方がないのは事実だ。モードンが信頼する部下の数名も交えつつ、今の状況の対策について思案する。
「まずは情報網の整備が必要かと。そうすれば、偽りの情報を流している反逆者を見つけることにも繋がります」
「まて、まずは侵入してきた魔獣の対処が先決だろう」
「だがそれは誤情報の可能性が高い」
「本当だとしたらどうするのだ!」
良策が一向に見出されない中、騎士の一人が手を上げ、モードンへと疑問を投げかける。
「ちょっと話は変わるのですが。三銃士のアラミスは何処にいるのです?その人に意見を聞くのはどうなのです?」
「アラミスは地下牢に捕らえているはずだが、我々に協力などせんだろう」
モードンは即座に答えた。
その直後、別の騎士から疑問の声が上がる。
「獣王を操ってるその王冠使えば良いんじゃないのか?」
「それは無理だ。その魔道具はそれ1つしか無く、使用後は取り外すことができない」
次の騎士の疑問には、王冠の所有者であったザミド王子が答えた。そして、2人は気づくーーー
「「貴様ら、何者だ!?」」
「き、気づかれたのです!」
「見事にハモったな」
ーーー会議室の席に堂々と、見知らぬ来客が腰掛けていることに。
◇
首都へ潜入するにあたって知った事実だが、エマも『暗殺者』のスキルを保有しており、俺よりも熟練度が高いらしい。そのため、このスキルの使用方法を教えて貰ったのだ。
このスキルは隠れるだけでなく、相手の意識の外を見極められるらしい。つまり、完全に見える位置に居るにも関わらず、相手はそのことを気にも留めないのだ。
目の前に居るのに気されないとか、実は超絶恐ろしいスキルだった。
しかし、エマと2人で調子に乗り過ぎた。さすがに、話しかけたらバレるわな。もう少し会議に混じって情報を得るつもりだったが、バレてしまっては仕方ない。
「お前がモードンだな、ついでにザミド」
「貴様!呼び捨てなうえについでとは無礼な!」
「お主は何者だ?」
「あー、フレイア王国の使者だ」
怒り狂うザミドを他所に、モードンへ返答する。
「なるほど、ザミド王子を追ってきたというわけか。その不届き者を捕らえよ!」
共に会議を行なっていた5人の騎士へと、モードンは命令を下した。
不届き者って…それはお前だろ。まぁいいか、あれを試す絶好の機会だ。
「対人制圧用魔術、『気絶弾』」
「無詠唱だと!?モードン様を守…ぐあっ!」
「がはっ!」
先の戦いでは、獣人ズのプランシェとフェルトンを捕らえようとした際に加減を誤って骨を折ってしまった。その反省を活かし、ここ2日で作り上げたのがこの『気絶弾』だ。
『雷弾』の電流・電圧をミリ単位で調整できるようにした魔術で、昨晩、やんちゃな魔獣を100匹ほど気絶させて作り上げた力作である。
相手の服の厚さや表面の濡れ具合等を瞬時に見極め、的確だと思われる威力に調整し、放つ。9割以上の確率で気絶させられる安心安全な制圧魔術なのだ。
「俺の後ろに…」
モードンとザミドを守る騎士のうち2人は仕留めたが、重戦士らしきガタイの良い獣人騎士に阻まれ、残りは仕留め損なった。
十分気絶する威力の筈なんだが、何発打ち込んでもビクともしない。そういえば、獣人は自身の魔力を使って無意識に身体を強化していると聞いたな。だから耐えられているのか、強化による耐久力も考慮して撃つ必要があるな。
「ユージさん!」
「ん?うおっ!」
重戦士に気を取られ過ぎて、背後からの攻撃に気づかなかった。あぶねぇ、ギリだった。エマに感謝だ。
「…」
「あれが獣王か」
「そうなのです。あれが獣国ガルドの獣王、テュマ・アレクサンドルなのです」
窓を突き破り侵入してきた獣人女性は、俺たちとモードンの間に立ち、戦闘態勢を取っている。
あの王冠が洗脳魔道具か。さて、まずは…。
『スゥ、聞こえるか?』
『主様、聞こえてますよ。たったいま王宮へ侵入しました。白王が頑張ってくれてます』
別働隊は順調のようだな。
彼らの主な目的は誤情報の発信であり、その情報で王宮の警備が手薄になったところで攻め込んできてもらう手はずとなっていたのだ。
『アラミスは地下に捕らえられているらしい、たぶん、他の人質もそこだろう。獣人ズとポルトスはそっちへ向かわせてやってくれ』
『了解しました、伝えておきます』
『スゥと白王、アトス、その他騎士達で一階の制圧を頼む。地下へ誰も向かわせるな』
『かしこまりました』
よし、これで一安心だ。
念話で話している間に、騎士を連れてモードンは逃げたらしい。
「エマ、モードンとザミドを頼めるか?」
「任せてほしいのです。こう見えても勇者なのです!」
自分で「こう見えても」って言ってるからこそ不安なんだが…ま、先ほどの騎士達の実力は、せいぜい30レベルと言ったところだろう。油断しなければ、エマなら問題ないはずだ。
「よし、俺は獣王のお相手をする。そっちは任せた」
ガルド王宮内で、それぞれの戦いが始まろうとしていた。




