39話「普通の旅人だよ」
「ゆ、ユージ、様」
「様はやめてくれ、いつも通りユージでいいよ」
「じゃあいつも通りにするのニャ。ユージは、本当に何者なのニャ?」
今、俺たちの馬車はガルドの首都へ向けて爆走中だ。すぐ後ろを、他の馬車に乗った騎士達が付き従う形となっている。
念話の後に俺の目的を話すと、「獣人達よ!ユージ様に協力し、ザミドとやらを捕らえるのだ!」と白王が叫び、このような状況となった。
「普通の旅人だよ」
「絶対嘘ニャ!」
嘘をついているつもりは無いんだが、今の所は旅人ってのが一番しっくりくる肩書きだとほんとに思ってるんだけどなぁ。
先程までの厚い信頼は何処へやら。
ダルタニャン始め、アトスやポルトスにも白王との関係を問い詰められたが、「白王の親の知り合い」という事にした。嘘ではないしな。
白王もうんうんと頷き、俺が白王の親=神獣と知り合いであるという事実に、全員土下座する勢いで無礼な発言を謝罪してきた。
その後は白王が馬車を引くと言い出し、1人で乗るのも寂しいから遠慮している獣人ズとアトスとポルトスも巻き込み、俺と白王の誘いを皆断れず、全員で白王の馬車に乗ることとなった。
そのため、馬車の中には獣人ズに加えてアトスとポルトスもいるのだが、ダルタニャン以外は萎縮して誰も話しかけてくれない。
「ユージ様、どうかなされましたか?」
「ふニャッ!」
「いや、何でもない大丈夫だ」
白王が心配してくれたお陰で、獣人の中で唯一の話し相手だったダルタニャンも萎縮してしまった…。
わざわざ白王に引いてもらわなくても良かったのだが、頭を地面に擦り付ける勢いで頼みこまれたので、断りきれなかったのだ。そこらへんはやっぱりコゥに似ているな。
馬車のメンバーはそのお陰でますます萎縮している。というか、自主的に正座している。俺やエマは無理やり椅子に座らされているので、罪悪感で気も休まらない。
「みんなも、椅子に座った方がいいんじゃないか?」
「いえ、白王様が馬車を引いてくださっているのに、我々だけが楽をするなどあってはならない事です」
「そうでさぁ。大将達は別ですんで、気にせずお休みください」
いやいや、気にしないとか無理だろ。
ちなみに、ポルトスからは大将と呼ばれている。むしろ、お前の方が大将キャラだと言いたい。
「ユージ様、首都へ向かう前にどこかでお時間をいただけないでしょうか?」
「ん?どうしてだ?」
アトスが急に話しかけてきてくれた。嬉しい。
「我々の知る限りの情報と、今後の対策についてお話ししたいのです」
そういえば、なんで国境閉鎖してるのかもザミドが何しでかしたのかも聞いてなかったな。
時間もちょうどいいし、後続がやばそうだし。野営がてら話を聞いて、現状の整理をするか。
「白王、そろそろ日が暮れる。適当な更地があればそこで休もう」
「まだ私は走れますよ?一晩中でもかまいません」
「いや、かまいます。というより、お前じゃなくて後続の狼牙や馬がやばそうなんだ」
昼頃に出発し、かれこれ6時間はぶっ通しで爆走している。2時間おきのトイレ休憩はあるが、狼牙や馬にとっては何とか息を整えられる程度の短い時間だ。白王はこれでも加減して走っているらしいが、相当速い。辛うじて付いてきている狼牙の中には、すでに白目を剥きながら走っているやつもいる。
「とにかく休憩しよう。このまま進んでも首都に到着するのは夜になるし、そうでなくても休んだ方がいい」
「了解しました。あと1キロほどの地点に開けたら大地があるようです。そこに馬車を停めるとしましょう」
「ユージさん、ナイスなのです」
ふぅ、エマも息の詰まる馬車内の空気に限界を感じていたらしい。俺も疲れた。これから話し合いか、まだまだ疲れそうだな。
◇
時は数日ほど遡り、ガルドの首都が混乱に陥る直前まで戻る。
「獣王陛下!目をお覚ましください!」
「…」
ガルドの首都にそびえ建つ王宮の広間に、獣人騎士の声が響く。
彼女の名はアラミス。白がわずかに混じる金色の頭髪と、同じ色合いの大きな尻尾をもつ狐の特徴を宿した獣人だ。
騎士団長として王宮と獣王の守護を任されていた彼女は、本来守るべき筈の獣王へと剣を向けていた。
アラミスは射殺さんばかりの殺気を放ちながら、獣王の背後に立つ男。宰相であるモードンを睨みつける。
「モードン、貴様。このような事をして、許されると思っているのか!」
「がははは!許される必要などない。もうすでに、儂を止められるものなど居ないのだからな。獣王、その女を黙らせろ」
モードンの言葉に反応し、獣王は再び戦闘体勢をとる。
「くっ!」
極限まで強化が施され、鋼を超える硬度にまで研ぎ澄まされた拳がアラミスを襲う。
素の戦闘力の時点で、アラミスは獣王に敵わない。そのうえ、操られている獣王へ反撃を仕掛けられないアラミスには、勝ち目など一筋も存在しなかった。
「これで邪魔者は1人消える。おい、残りの騎士団長も早急に捕らえよ、儂に刃向かう勢力を立て直させるな。それと、各地から兵力を集めるのだ。戦争の準備を行う」
「はっ!」
モードンは近くに控えていた騎士の1人へ命令を下す。
この時から僅か数日後、ガルドの首都はモードンの手に堕ちたのだった。
◇
「よし、こいつも大丈夫だ」
「ありがとうございます!」
今俺は、狼牙や馬達の治療を行なっている。白王の地獄の行軍によって、野営地点に到着すると同時に殆どが倒れてしまったのだ。冗談抜きに瀕死のやつまでいた。
「凄い、瀕死の狼牙が一瞬で完治したぞ」
「それに、回復術って言ってなかった?どう見ても回復術の回復量じゃないわよね」
「さすがは白王様の認めるお方だ」
魔術の訓練になるので1人で回復魔術を連発していたのだが、周囲の驚きようが凄い。逆に、その驚きぶりに俺が驚いている。もしかして…いや、もしかしなくても俺の回復魔術って相当凄いんじゃね?
「…どうしてですかね?スゥ先生」
「主様、今更気付いたんですか…」
えっ、だってスゥも同じくらいの回復魔術使ってただろ。だからこそ普通だと思ってたんだが…。
「万全でないとはいえ、私は神獣です。そのうえ、再生を司る神獣です。それと同等の回復魔術を使えるという事は、おそらく人類トップクラスでしょうね」
「マジで?」
気付かぬうちに人類トップクラスになっていたとは…。
「でもどうしてだ?やっぱりレベルの補正とかなのか?」
「それもありますが、私を眷属にしている事で何かしらの加護が得られているのかもしれません」
「加護?」
「はい。私達(神獣)には自覚がないのですが、気に入った相手や仲間に何らかのステータス補正が与えられることがあるんです。それが加護ですね。主様の回避力や敏捷性が高いのも、速さを司るコゥの加護によるものかもしれません」
「ほうほう」
ミーナとサチとの特訓では、自分でも驚くほど攻撃を躱せた。一昨日のクソガキ戦でもそうだ。つまり俺は、回復と回避特化型ということか。
攻撃くらっても回復するのに回避力も高いって…バランス悪っ。
「回復と回避力特化といいつつも、主様の技はほとんどが一撃必殺なので、相手からすると化け物ですね」
「たしかに、RPGゲームでそんな敵出てきたら逃げるわ。ある意味バランスいいのかもしれないな」
そんな談笑をしながら狼牙たちの治療をしていると、ポルトスが駆け足でこちらへ向かってきた。
「大将!ちょっと来てくれやせんか?アトスが呼んでるんすわ」
「あぁ、今行くわ」
話し合いの時間だ。
治療もちょうど終えたところなので、ポルトスの後に付いてひときわ大きな野営用テントへと足を踏み入れる。
「ユージ様、どうぞこちらへ」
中央には大きな机が設置されており、アトスが地図が広げて待っていた。地図の上にはチェスの駒のようなものが配置されている。戦略とかを練る道具か、戦映画とかで見たことあるやつだ。
机の横には豪華な装飾の施されたソファーが置いてあり、白王が座っている。部屋には他に、アトスとポルトス直属の騎士達やエマと獣人ズもいた。
「まずは、我々の知るクーデターの情報についてご説明させていただきます」
アトスの説明では、首都の警備にあたっていた際に突然、仲間であるはずの騎士達に襲われたらしい。そのため、信頼できる部下だけを連れて首都の外へと脱出し、周辺の森で2日ほど潜伏しながらクーデターに関する情報収集をしていたのだそうだ。
同じく脱出してきた部下たちの中に王とザミドの謁見に立ち会っていた者が居たらしく、その騎士の話では、ザミドが持ってきた王冠型の魔道具を獣王がつけた途端、目から意思が消え、獣王が洗脳されたそうだ。
脱出してきた他の部下たちの話では、洗脳を受けた獣王にモードンが命令している姿を見たらしい。
これらの情報から、モードンとザミドが精神操作系の魔道具で獣王を操り、クーデターをおこした首謀者であるという結論になったという。
モードンとやらが誰かは知らないが、ザミドが犯人なのは間違いないな。
その後はポルトスと合流し、地方の騎士達とも合流しつつ、フレイア王国からザミドの仲間が来ないように国境を見張りながら体制を立て直していたそうだ。
そこへ俺が現れたわけか、そりゃ警戒するわな。
「失礼します」
突然、1人の獣人騎士がテントへ入ってきた。
「先ほど、首都へ潜入させていた仲間から情報が届きました」
俺の知らぬ間に首都へ仲間を潜入させていたようだ。アトスは見た目通り優秀な獣人らしいな。
「大変まずい状況となっております」
「まずい状況?」
現在、首都にはガルド各地から騎士や兵士が集められ、強固な防衛線が張られているそうだ。
操っている獣王を使い、王の勅命だと言って有無を言わさず召集をかけている為、日を追う毎に人数は増えているらしい。
「僕たちにも獣王陛下の王印が押された召集命令が届いたのニャ。召集の理由が書かれていなかったのはそういう事だったのニャ…」
「大使館にいるダルタニャン副団長まで呼び寄せるという事は、もしかすると、フレイア王国へ戦争を仕掛けるつもりかも知れません」
戦力増強と共に、人質に取られる大使館職員を少しでも減らすという目的でダルタニャン達を召集したとするならば、辻褄は合う。さらに、アトスやポルトスを捕らえる目的にしては明らかに過剰な戦力を集めている事から、モードンの目的はフレイアへ攻め込む事ではないかとアトスは予想した。
「本当にそんな事あんのか?自分の国攻めさせるなんて事に、ザミド王子が協力するのはおかしくねぇかと思うんだが」
ポルトスの疑問は当然だが、おそらく、アトスの予想が当たっている。その考えを補足する為、俺も口を開く。
「ザミドは妹のミーナを暗殺しようとしたんだ。同じ王族でも、王族の殺害未遂は重罪。死刑はないかも知れないが、少なくともザミドの王位継承権は剥奪される予定だ」
「なるほどなぁ。大将の言う通りだとすれば、ザミド王子は王位継承を諦めてねぇのかも知れねぇ。自国を戦争で混乱に陥れて、その隙に王族全員殺して強引に王様になる気なのかもな」
ポルトスは意外と頭が回るな。脳筋かと思っていたが、人は見かけによらないものだ。
「モードンにも多大なメリットがありますね。フレイア王国を侵略できたとしても、獣人が支配するとなれば混乱は避けられないはずです。それならば、自分と協力関係にある王族を王にする方が効率がいい。戦争を起こす事で相手側の王族を殺害すると同時に、獣王陛下を殺害してガルドの王になる事も考えていそうですね」
アトスが考えをさらに補足する。いつのまにか、相当大きな話になってきたな。
「相手とこっちの戦力はどんな感じなんだ?」
「今の所、首都に集まっている兵士は五万、騎士は五千といったところです。こちらは騎士が20人と兵士が30人ほどです。明け方までにはもう少し増える予定ですが、それは首都も同じでしょう」
この休憩地点へ来る途中に伝令兵を向かわせ、辺境の村や町にいる騎士や兵士達へ事情を説明し、協力を仰いでいたらしい。
それでも、王の召集命令には遠く及ばない。千倍の兵力差は変わらないだろう。それどころか、もっと差が開く恐れがある。
だが、こちらには最強のカードがあるのだ。
「白王がひと吠えして解決できないのか?白王に、モードンとザミド出てこい!って吠えてもらうとか」
獣人達に神と崇められている白王のいう事なら無視できないはずだ。
お、やっと我の出番か!といった表情で白王はこちらを見てくる。
「お、おそれながら。白王様のご威光が届く可能性は低いかと思われます」
「なぜだ?」
アトスの言葉を、白王が不機嫌そうに聞き返す。
「びゃ、白王様をお呼びする許可を得ているのは、我々三銃士と獣王陛下の4名のみです」
少し怯みながらも、アトスは白王に説明する。
「今回はスゥ様が聖獣様であるかのご確認のためにお呼びさせていただきましたが、王位継承の儀や白王様との契約の儀以外では会うことができません。ですので、白王様のお姿を知るもの自体少ないのです」
その後の説明を要約すると、国境にある城壁都市では騎士達が敬う姿を見て市民も白王だと確信したが、首都ではそうはいかないだろうという事だった。
モードンが気付いたとしても、「それは偽物だ!」と叫ばれれば、信じてもらえない可能性が高い。白王を召喚できる獣王が操られているうえに、三銃士はこちらに居るので、本物か確かめるすべもない。
「そういえば、もう1人の三銃士はどうしたんだ?」
三銃士にはもう1人、アラミスがいたはずだ。ダルタニャンは「アラミス騎士団」と名乗っていたので、ダルタニャンの上司だろう。ここまでの間、誰からも話を聞いてない。
「アラミス様は、捕まったらしいのニャ…」
ダルタニャンがうつむきながら答える。
「大将、これは俺の失態だ。こっからは俺が話すぜ」
アラミスの行方について、ポルトスが話し始めた。




